2.邂逅⑵
更新が遅れました。すみません。
乱文ですが読んで感想アドバイス等を下さると嬉しいです。
III
「でも、あなたが魔法師だと知って良かったです。」
「どういうことだ?」
「それは……その、なんと言ったらいいでしょう。」
真板は何か言いたげではあったが、なかなか切り出せずにいた。
「タメ口でええよ。そっちの方が話しやすいだろ?……今更だけど。」
と俺が言うと重たい口をやっと開けて言った。
「私も実は……魔法師なの!」
「……フハハハハ、笑えるぜ!」
「えっ?なんで笑えるの?」
真板は意表を突かれたような表情で固まっていた。
「だからな、笑えてくるんだよ。しょうもなさすぎて。魔法が使えるからなんだよ。ここで虐められるってか?しょーもねぇな!そんなん魔法で吹っ飛ばしときゃええだろ。お前にとって魔法は自分の首を絞めるようなものだったか?違うだろ?」
「いや、そういうことじゃなくて……」
「じゃなくて何だ?」
ここまで強気な俺も珍しい。雨でも降らなきゃいいが。
「その……法律違反……じゃない?」
「誰が決めた、その法律?そんなんここら辺の輩がほざいたデマでしかない。」
「そもそも、あなたのその論理自体が間違ってるのよ、東堂梁也くん!」
俺は真板とは今まで接点が無いにもかかわらず、俺の名前を知っているのが不思議だった。
「魔法で吹っ飛ばすのは余計に大多数の魔術側との対立を深めて余計自分の首を絞めることになりかねない。あなた言ったよね、魔法は自分の首を絞めるようなものじゃないと。私だってそれは知ってる。ただ時と場合を考えないと意味ないの。いつかは魔法側と魔術側で折り合いがつく。それまでの辛抱じゃない?」
「そうかもしれないな。俺の名前をどこで覚えたかはともかく、少数派は少数派らしく前に出るべきだと俺は思う。魔術が正しく、魔法が間違ってるなんて世界は間違ってる。俺はそれを信じて戦うさ。お前に何て言われたって引かない。それに、お前の論理こそ間違ってる。魔術側が『魔法=悪』だと思っているからお前もそれに合わせて自己を曲げてる。つまり、お前は心のどこかで魔法を悪と思い込んでる。それが間違ってる。
当然魔術側と折り合いをつけることは大事だ。ただ自分の持ってる魔法が正しいものだという認識がない限り折り合いなんか付かない。魔術側の圧勝で終わり、サタンポリスの街から魔法が否定された状態のままだ。ただ我慢したって何が変わるものか!自分の正義を確信して主張すればきっと何かが変わる。違うか?」
ここまで手放しで語る俺はいつ振りだろうか、下手したら生まれて初めてかもしれない。
「私だって!前はそうだった。でも私の魔法は周囲に迷惑ばかりかけるから認めてもらえない。私の能力は『波動改変』。」
と言うと、突然黒板を爪で引っ掻いたようなとてつもなく不快な音が細長い路地裏でこだましていた。更に閃光弾のような光が周囲を包み込み、あまつさえ船酔いのような感覚にも晒され遂には倒れ込んでしまった。ぼやけた頭を何とか覚まして真板に訊く。
「これがお前の能力なのか?」
「そう。音や光は波の一種で、私はこれに力を加えて波形を変形させることができる。この能力に目覚めたときはかなり苦労した。無意識のうちに周囲の波動の情報を書き換えてしまい、さっきのようなことを日常的に起こしていた。周囲の人たちからは悪魔の子とか邪神の使いとか言われ放題だったの。今では大分制御が効くようになってきたけど。」
「そうだったのか。でも、その能力もいつかは使えるようになる日が来るさ。」
「いつかっていつ?」
「それはわからない。でもそんなに先のことじゃない。それだけは言える。」
IV
俺は真板と別れた後昼飯を食べようとしたが、財布の中が6円しかない以上は何も買えないので、そのまま帰途につこうとしていた。路地の近くに置いた自転車は鍵を抜かずにそのまま放置していたが、真昼のテロの影響で人通りが疎らになっていたため、盗られずに済んだ。
普段は昼夜を問わず賑わう駅前も学校周辺も活気を失い、それは突然俄雨にあったのと同じような雰囲気だった。
昼下がりの酷暑の中、延々と自転車を漕ぎ進める俺の喉は渇ききり、例えるならば大昔のアラブ商人が砂漠を水なしで只管歩き続けたようなものだ。そんな中俺は公園の水飲み場という名のオアシスを見つけた。
蛇口を捻れば止まることなく出てくる命の泉を俺はかぶり付くようにして飲んだ。西日本魔術学校生のプライドを捨ててまで泉にかぶり付き、テロが起きたことも知らないくらいに元気に傍で遊んでいたガキ共には笑われた。
水で喉を潤しついでに腹も満たした俺は自転車を再び漕ぎ進めようと公園を出て車道を渡ろうとしたときだった。左側から何かが迫ってくる感覚を覚えた。そう、それは猛スピードで走る高級外車だった。
その正体に気付く時にはもはや手遅れで急に俺の短いながらも波乱な過去が走馬灯のように思い出された。なぜだろう。涙が出そうだ。
あれ、涙が出ない。体が思うように動かない。こっちにぶつかってくるはずの高級外車が何故かスローモーションのように遅くなり、やがて俺の目の前で止まった。止まり方がどこか不自然でブレーキ音もない。
なぜだ。どうしてだ。神からの救済なのか。
「神よ、俺は恵まれてないんだ。『圧力調節』とかいう能力なんて使い物にならない。周囲に迷惑かけるだけだ。俺の人生、拙いながらも悔いはないさ。」
と小声で言った。
車は再び動き出し、俺は死ぬ覚悟を決め車にぶっかった。車は急ブレーキがかかり、甲高い音とタイヤとアスファルトが擦れ合う音が周囲に反響して、10メートルほど進んだ所で止まった。
しかしなぜだろう、あの速度でだったら俺は十数メートル撥ね飛ばされてもおかしくはない。それに痛みや流血もなく、思考や計算、文字を読むことだってできる。これまでとできることは変わらない。
「おい!危ねぇじゃねぇか!……あれ……?どこ行ったんだ?ったく、なんだったんだよあれは。」
運転手はドアを開け怒声を発し後方を確認したが、俺の存在に気付かず何事もなかったかのように走り去っていった。
俺は今置かれている状況が全く把握できずに固まっていた。すると、車道のやや中央にいたはずの俺がなぜか元いた公園の入り口で自転車に跨っていた。
公園を囲う壁の裏から出てきたのは、何処かで見覚えがある顔だった。
「私のことわかる?」
何処かで見たのは間違いない。しかし思い出せない。
「ええと……どこで見たんだっけ……あ、駅前の!」
「アメくれたよね?」
俺は首を縦に振る。そういえば、そうだった。忘れても良いはずのアメの記憶を今になっても覚えていた。しかしそれとどう関係があるのだろうか。
「あの時はありがとう。感謝の言葉言いたかったの。そしたら事故に遭いそうになってるあなたを見つけて助けたの。」
「ええよええよ。あんなの感謝されることじゃないから。それに事故に遭うところを助けたんだ。感謝の言葉言うのはこっちだよ。ありがとう。」
何かがおかしい。何かが引っかかる。
「いいや、あれが無かったらあたしは死んでたの。」
「そんな大袈裟な。人間3週間飯食わずとも死なないって。」
「あたしは糖分をいつも摂らないと死んじゃうの。」
「急に甘党宣言かよ。」
この時は知らなかった。この子は糖分を摂取しないととあることが起こるとは。
「あ、そういえば俺を事故から助けたと言ったよな?それってどういうことだ?」
「……」
その子は黙りこくった。それほど言えないものなのか。もしかしたら魔法を使ったのだろうか。
「ん?何だ?」
「あたし、禁忌魔術であなたを助けたの。」
一瞬凍りついた。噂には聞いていたが禁忌魔術の使い手を生で見たのは初めてだ。
禁忌魔術、すなわち文字通り忌み禁じられている魔術のことである。使用者は秘密警察から例外なく国際指名手配を受け捕まった場合は能力を強制的に消去され、すぐに低次元化空間に追放される。
禁忌魔術は概ね次元空間に干渉できる能力のことを指す。例を挙げるならば、高次元時空間跳躍、時間強制停止、無抵抗化座標移転、n+定数次元化、変数次元化などがこれに含まれる。
「本当にそれは禁忌魔術なのか?」
「そう。さっきのは時間強制停止からの変数次元化、無抵抗化座標移転を使用した。車に撥ねられる直前に時間強制停止、あなたの身体と自転車と荷物を変数次元化する。
その後時間の流動性を停止前と均一にして再開、身体と付属物は変数次元化していて現実空間次元のグラフと変数次元化のグラフとの共有点を持たないように変数を設定しているため車との衝突時に衝撃を無効化し外部から不可視化できる。」
急にこの少女はそれまでの普通の女の子らしい喋り方から一転し、大人の女性のような口調で淡々と意味不明な単語を羅列し始めた。少女は止めることなく話を続けて、
「運転手側から見ればあなたの存在は衝突直前まで確認できた。しかし、ブレーキのタイミングは昼下がりで注意力が散漫気味であったため少し遅かった。
通過時に急ブレーキを踏み運転手はあなたを撥ねたと思い込むが、人を撥ねた感触はないため後方にいるあなたの安否を確認するも存在自体が確認できない。そのため実際事故は起きてないものと思いそのまま通り過ぎた。」
まだその少女は続ける。
「運転手があなたを撥ねた感触がないのと存在に気付かないのは変数次元化のため。その後は安全のためあなたを安全な場所に避難させるため無抵抗化座標移転を使用した。」
ようやく単語の羅列は終わったようだ。
「すまん、全くわからん。」
「それでもいい。あなたならきっとワタシをすぐに理解してくれるだろうと思った。」
「何を根拠にだ?」
「知らない。ただ……」
もう何が何だかわからないので強引に話の腰を折り話題を無理矢理変えた。
「あ、そうだ。君さ、最近まともにご飯食べてないなら俺ん家来たらどうだ?」
「いいの?」
これまた急に普通の無邪気そうな女の子の喋り方に戻った。
「もちろんさ!」
あ、しまった。俺は最近バイトに行ってないから金がないことを忘れていた。俺が食えない分には良いが、この子とさらには妹の飯も作れない気がした。
妹?そういえばそんなのもいたな。学校の夏季合宿うんぬんとか嘘抜かして雑誌の撮影で常夏の島にケガ人放ったらかしで行ってて今日帰って来るんだった。最悪金はあいつから巻き上げればいいか。治療費の後払いもついでにして貰おう。
そうこう考えていると黒のサングラスをかけ上下黒のスーツを着た長身の白人男性と黒のサングラスをかけ上下黒のスーツを着て外からでも判るくらいに筋肉隆々な黒人男性が高級外車から降りて俺らの所に歩み寄って来た。サタンポリスは国際指定魔術都市のため外国人は割といるが、何しろ灼熱たる真夏の昼下がりに上下黒スーツの暑苦しい格好が怪しさをいやがうえにも醸し出している。
などと考える隙も与えず少女は俺を引っ張り走って逃げる。それを見てか、2人の外国人は追いかける。
暑苦しい格好をしているにも関わらず俊足で追いかけて来る。だが、それを物ともせず少女は俺を引っ張りながら追っ手を振り切ろうとする。やはり禁忌魔術の使い手は神経伝達速度が常人の数千倍と言われているだけあって、足の速さもさることながら筋力も並ではないのかと関心していた。
俺にはこの状況を把握することが困難を極めた。
「おい、これどうなってるんだ?」
「そのことは後で説明する。」
とまるで命を狙われているかの如く逃げ続けると、
「○¥÷%^・〒<×##♨︎∽※⇔£」
と訳の分からない言語で呪文のようなものを唱えた。
すると、激しい衝撃波が俺の脳内に響き渡り気を失った。
次回も乞うご期待!
とテンプレな文章ですが、本当に次回話を楽しみに待って下さると本当に嬉しいです。