第三話
健が目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋だった。部屋にはベットと小机があり、健が見た限りでは清潔に保たれていた。その時、アノ光景が頭の中を駆け巡った。いくら後悔しても仕切れないそんな思いが健の頭の中をよぎった時、扉が開いた。
「お目覚めになりましたか 。私はこのナウエル村の村長をしております、エトヴィン=ヘルマンと申します。アリアナを助けていただきありがとうございました 」
と健からみて60歳くらいの老人が立っていた。が、健はその老人は中々のやり手ではないのかということを雰囲気で感じていた。
「俺は……礼を言われる資格はない 。俺はあの母親を守れなかった。あの女の子を一人にしてしまった 」
俯きながら健は言った。
「確かに貴方はあの母親は守りきれませんでした。しかし、アリアナという一人の命は貴方のおかげで助かったのです。私達は本当に感謝しています」
そう言ってエトヴィンは頭を下げた。
「なあ、なぜヴァンパイアはこの村にいたんだ? もっと大きい街がいくらでもあるのに 」
と聞くとエトヴィンは逡巡しながらも健に
「この話はご内密にお願いします。他の者に知られてはいけない話です。あなたはアリアナの恩人ですから話さなければならないでしょう 」
そしてエトヴィンは昔を思い出すように語り始めた。
「昔、ここから西方の彼方、海を渡ったところにインルーンという国があり、ある時王家の血脈が絶えたのです。その時、ヘンリー=コンクェストという人物がインルーンに侵入し、王座を乗っ取ったのです。その後、コンクェスト王朝は滅亡し、コンクェスト一族はそのほとんどが死に絶えてしまいました。その一族の末裔がアリアナとエマ様という訳です 」
「もしかしてあの親子は暗殺されるところだったのか? 」
「はい、おそらくそうでしょう。コンクェスト王朝はヴァンパイアを憎み、徹底したヴァンパイアの排除をしましたので。ヴァンパイアは今でもその恨みを募らせているとのことです。私はカウンシルが手勢を送り込んできたのではないかと思っています 。ですので知り合いの魔族ハンターに応援を頼んでいたのですが、ここナウエルはプロキオン王国の中でも北東に位置しております。そのため間に合わなかったのです 」
とエトヴィンは悔しそうな表情をしていた。が、健はこのままでは再びヴァンパイアが襲ってくるのではないかと思った。
「なあ、じゃあなんでそのカウンシルとかいうのを潰さないんだ? 」
「カウンシルを潰す、ですか…… それは恐らく不可能でしょう。カウンシルはヴァンパイアのサークルやサロンのようなものでヴァンパイアはその中で地位を築くことに躍起になるそうです。そのため彼らは強力な魔力と魔法を使い、姿を変えて人間社会にとけこんでいます。私の経験上、貴族にもヴァンパイアと繋がっている者やヴァンパイアの者がいると思っております。カウンシルには千年生きているヴァンパイアもいると聞きます。魔族ハンターたちと国を挙げて壊滅させなければ無理でしょうな 」
とエトヴィンは言うが、健は魔族ハンターという言葉に聞き覚えが無かった。なんとなく危ない仕事のような気がしたがとにかく今のこの状況だと情報収集が第一だと思い、エトヴィンの話を頭の中で整理していると、エトヴィンが
「失礼ですが、タケル様はこの後どうするつもりなのですか? 」
「実はその……この国に来たばかりでまだ何も決めていないんだ 」
健がそう言うとエトヴィンは顔に喜色を浮かべて
「ならば私の方から魔族ハンターの職を斡旋させていただきたいのですがよろしいですか?」
魔族ハンターって危ない仕事だったよなと思ったが健は、女神から言われたことを思い出しその提案に乗ってみる事にした。