ある愛の詩〜化け猫〜
麻理「チビ、ごはんだよ〜」
「なぁ〜」
その家の庭には小学生になったばかりの女の子とやっと親離れをしたかどうかくらいの子猫がいた。
母親「なに〜?また連れてきちゃったの?ダメじゃない。野良なのよね?」
麻理「うん、ダンボールばこで寝てるからノラちゃんじゃないかな?こねこでかわいい!」
母親「もう、しょうがないわね、本当はエサやらない方が良いのよ」
麻理「でも・・・だって。」
拗ねたように言う。
母親「まぁ〜。これで何回目?1匹だけで来たこともないし貴女の言うことしっかり聞く良い子みたいだけど・・・名前まで付けちゃって。」
麻理「!!ねぇねぇ!!じゃあじゃぁ!!かっていい?いいよね?いいでしょう?」
母親「今日はいつものように家の中に入れずにちゃんと放して来なさい?夜にお父さんに聞いてみましょう?」
麻理「うん!わかった!チビ、うちの子になろうね!」
「にゃぁ」
・・・
こんな風にして翌日からこの顔の右側と両前足の先だけが茶色いという変わった色をした雌の子猫はチビと名付けられ飼われるようになった。
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そして10年の歳月が流れる。
このチビ。野良生活をしていたからか寝床とした場所からほぼ毎日のように移動していたから時々家を抜け出して外で遊ぶ習慣がついてしまっていた。
朝早く出てしまってもトイレや昼飯時には帰るし日暮れ前にはしっかりと自分で帰ってくるような感じではあったが。
さすがに歳を取り始めて外出する頻度は少なくなっていたがその日はまずかった。
「「「チビ〜?おいで〜、どこ行ったの〜?」」」
母親「もう!今日は逃さないように言ってあったのに!」
父親「すまんすまん、油断した」
母親「もう。あまり遅くなるのもマズイわよね」
父親「そうだな。すまん、あと少しが限界だな」
母親「もう〜」
麻理「だめ。近所中探したけど居ないの。どこ行っちゃったんだろう」
母親「大人しいから早目にケージに入れておけば良かったわね」
麻理「うぅ〜父さんが出しちゃうから」
父親「すまん、本当にすまん」
母親「もう出なきゃいけないしチビの事は知られてるからご近所さんに頼んでおきましょ。見に来られない距離じゃないし時々見にも来れば良いわ」
麻理「うぅぅ〜チビぃ〜」
泣いてしまっている麻理。
この日は引っ越しの日であった。
父親の仕事の都合で山を2つ越えた先、隣の隣の市へ引っ越すのである。
バタバタ人や物が出入りしてる内に隙を見たチビが出てしまい、なかなか帰って来ないため家を出る時間ギリギリまで一家総出で探しているのであった。
麻理「うっ、うっ。。。良子さん、正美ちゃん。チビが帰って来てたらよろしくね。」
良子さん正美ちゃん「「うん。任せておいて」」
麻理の肩に手をやりながら2年上の良子さんが言う。
良子さん「大丈夫。チビのことだから夕方には帰って来るはずだから。ウチの門が邪魔で見えにくいけどちゃんと観てるから安心して?」
同級生で幼馴染の正美が泣きながら言う。
正美「また会おうね?チビちゃんウチで飼っててもいいし。また会えるよね?そんな離れてないもんね?」
麻理「うん。メールは今迄通りしょっちゅうするし。とりあえずまた今度の土曜にも来るから。」
正美「うん。チビちゃんのことは任せて。」
麻理「ありがとう。よろしくね。」
正美「またね」
麻理「またね」
そしてこの地を去る一家。
正美「ごめん!ごめんね!」
麻理「ううん。仕方ないよ。また戻って来た時、見かけた時にお願い、ね」
正美「うん、もちろん、それは。」
正美が言うにはその日の夕方にチビはやはり戻って来たらしいのだが、おいで、と言って捕まえようとしたところ一声鳴いてまたフラッとどこかへ行ってしまったのだ、と。
結局その後チビの姿を見た人は居なくなる。
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・・・そして6年の月日が流れる・・・
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高校卒業後そのまま地元の会社に就職し事務員として働く彼女は生まれ育った町に帰りアパートで一人暮らしをしている。
麻理「改めて見て回ると本当、野良猫・・地域猫になってるんだろうけど多い町ね」
彼女は休日や仕事帰りに猫が居そうな場所・・・橋の下や空き地、町の狭い路地や路地裏などを見て回ることが習慣になっていた。
今日も仕事が終わり帰宅してから後、アパートからほど近くにある細い路地に入っていた。
そこで見てしまった。
4人の若者達「「はっ害獣がっ!」」
若者「おりゃっ」
麻理「な!何をやってるのあんたたち!」
1番若そうな高校生くらいの若者「ああん?害獣駆除だよ、害獣駆除」
麻理「猫は犬と一緒で害にも益にもなる生き物よ?!勝手な理屈で生き物をあんたたちのストレス発散の道具にしないで!警察呼ぶわ!」
スマホを取り出す麻理。
1番年上そうな若者「おお〜い、それはいかんぜ〜」
麻理「きゃ」
足で麻理の手を蹴り上げスマホを飛ばしてしまう。
奥にいて執拗にネコを蹴っていた若者2人「おい、人間はやめとこうぜ?」「さすがにそこまで俺らは悪党には」
年上そうな若者「黙りな」
若者達「「「う」」」
年上そうな若者「どっちにしろ黙っていて貰わなきゃならないんだぞ?脅す為にそれなりのことはしないと、なぁ?」
左手で麻理の右腕を掴み言う。
麻理「離してよ!誰か!誰か助けて下さい!」
叫ぶ麻理
年上そうな若者「はんっ、どういうわけだかな?このくらいの時間誰もこの辺通らないのよ。おかげで結構騒いでも誰も覗こうともしないし人自体が見当たらないのさ。無駄だと思うぜ?」
麻理「そんな。こんなコンビニだってそんな遠くにあるわけじゃないのに」
1番若そうな若者「だから気兼ねなくストレス発散出来る場所なんだよ。邪魔しないでくれるかな」
後ろから抱きつきながら言う。
年上そうな若者「野良猫も集まってくる場所みたいだからな、駆除しないと、だろ?・・・まぁ良い思いさせてもらう前にあんたにも蹴らしてやるよ」
そう言ってすでにボロボロで、でもかろうじて足を動かしている猫の側に連れて行かれる。
若者の1人が麻理の足を掴む。
麻理「!?」
麻理「や、やめなさいよ!なにするつもり?」
「だから蹴らしてやるんだって」
そのタイミングで。
猫「ニャーッ!!」
猫「シャーッッ!!」
猫「ニャー!」
猫「フシャーッ!」
猫「ニャァーオ!」
猫「ンギャァーォオ!」
猫「ナァーオ!」
路地全体に猫の声が響き渡る。
若者達&麻理「なに?」
執拗にネコを蹴っていた若者「う、うわぁ!やめてくれよぉ〜!?」
麻理には手を出さず少し離れていたその彼は身体中に猫を生やしていた。
その猫?達に噛まれたり引っかかれたり自分で身体をひっかいたりしている。
麻理「・・・え?」
年上そうな若者「な、なんだありゃ?なんなんだ?」
そう。文字通り‘身体中から猫が生えている’。
麻理に抱きついていた1番若そうな若者「うっわ!や、やばいって!これ!なにこれ!かべっ!カベ?」
麻理の腕と足を前からそれぞれ掴んでいた若者達が自分達の後ろを見る。
若者達「う、うわぁっ」
麻理「きっ、きゃぁあああっ」
その壁一面に。
猫。猫。猫?
猫が。猫の顔だけがビッシリと生えていた。
その猫達は麻理を見ずに若者達だけを睨んでいる。
猫達「ニャァーアアオォ!」
若者達「「うっっうわぁぁああああああ」」
麻理を放り出し身体から生えた猫と格闘していた若者を無視して逆方向、大きな通りがある方へ逃げていく。
猫を生やした若者「まっ待って!待ってくれよぉ〜!」
「ニャァーオ」
「ナァアーオォ」
猫の声だけが響く。
・・・・
麻理「なん。なんなの?なんなのよ、もう〜」
地べたにペタンと腰を下ろし呟く麻理。
腰が。
完全に腰が抜けていた。
どれくらい猫の合唱を聞いていただろうか?
路地の奥から猫が歩いてきていた。
麻理の目の前まで来て座り顔を洗い始める。
麻理「・・・もう、なんなのよぅ」
未だ立てずに居る麻理は泣く事しか出来なかった。
目の前の猫「にゃー」
麻理の顔を見て一声鳴く。
そして麻理の側まで来ると地面についた麻理の手に自分の手、靴を履いたような前足を乗せて少し寄せるようにして麻理の手を舐める。
「ナーォ」
それだけで一声鳴いて振り返り歩いて行ってしまう。
麻理「・・・え?・・・まさか・・・?」
路地の奥を曲がり見えなくなったその姿を慌てて追いかける麻理は
「チビっ?チビっ!チビなの?チビなんでしょっ?」
呼びかけるがすでにその姿は無かった。
麻理「・・・チビ?・・チビぃ〜」
泣き崩れる。
そして歩けるようになった麻理はすでに暗くなってしまった路地裏を少し散策してから自分のアパートに帰った。
麻理「あれ、絶対チビだった!チビだったんだよぅ〜!チビに助けられちゃった!多分この辺で飼われているか仲間と一緒に暮らしてるんだと思う!!」
正美「・・・・・そう・・・麻理は大丈夫?」
帰宅して部屋の鍵を閉めて落ち着いた麻理は幼馴染に電話をしていた。
麻理「うん?・・・うん、わたしは大丈夫。平気。それよりもね」
正美「麻理!ごめん!」
麻理「チビなんだけど・・・え?何?突然?」
正美「その猫はチビに間違い無いかもしれない?けど。。。会おうとはしない方が良いと思う」
麻理「え?・・・うん、そうよね。」
正美「ううん?違うの。チビにも新しい生活が、とか家族が、とかいうんじゃなくて!違うの!」
麻理「うう〜ん?どういうこと!」
正美「チビはともかく壁から猫が出てきたり人の身体から出たりっておかしいでしょ?!完全怪奇現象だよ?!それって!」
麻理「・・・う。うん。そ、れはそうなんだ、けど。怖かったし。怖かったよ?でも」
正美「・・・だから。ごめんなさい、麻理。」
麻理「うん?だからどういうこと?」
手に付いた土を洗い落としながら聞く。
正美「何年か前なんだけど。。。麻理の御家族には連絡したんだけど、ね?」
麻理「う、うん。」
嫌な予感がする。
あまり聞きたくない。
正美「実は・・・・」
・・・・この町と隣町では3、4年ほど前から野良猫や外に出て遊ばせていた飼い猫の行方不明が相次いでいるのだが。
正美「ゴミ袋に入れられたバラバラにされた猫の死体が見つかった事があって。。。」
その中に。
前足の先だけ茶色くまるで手袋をしているような感じの猫が混ざっていて。
正美「バラバラだったんだけど。。。ごめんね。麻理本人には言えなくて。。。グスッ」
麻理「・・・・・」
正美「・・・麻理?・・・」
麻理「・・・そう。そうだったんだ。そうだったんだ?」
正美「・・・うん。そうなの。ほんと。ごめんね。」
麻理「ううん。やっぱりチビだったんだ。チビが助けてくれたんだね」
正美「・・・うん。さっきの話だと多分。それは・・・そう。間違いないと思う・・・うぅ」
泣きっぱなしの正美。
麻理「そっか。。。そっか。」
正美「うん。うん。」
ふと気になり
正美「麻理?猫飼ってないよね?」
麻理「うん?・・・うん飼ってないよ?・・・ねぇ?正美、次の休みに会える?」
正美「そうだよね?なんか鳴き声したような気がしたけど。次の休み?うんと、うん、大丈夫。会えるよ」
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・・・そして4日後の次の休み。
正美「麻理っ」
麻理「正美っ!ごめん、待った?」
正美「うん?その花束どうしたの?」
麻理「うん。今日の用事。1人だと行きづらくて。」
麻理の靴は新しい物に代わっていた。
正美「・・・うん、わかった。」
正美「ニュースみた?」
麻理「見た。1人だけ成人で顔写真と名前出てたけど間違いない、と思う」
正美「そうなんだ」
麻理「うん。アパートの部屋に昨日警察の人が来てこの人知らないかって。」
正美「それで?どうしたの?」
麻理「うん。何人かで猫をいじめてるのを見ました、ってだけ答えといた。」
正美「そうなんだ」
麻理「うん。」
正美「ま、下手に関係してると思われたら嫌だしね」
麻理「うん。それにあの時の事ってなんて言ったら良いかわからないもん」
正美「そうだよね、ま。良いんじゃないの?」
「行方不明の若者4人地元の山で遊び中に滑落か?全員発見されるも遺体の一部に獣に食べられたような痕があり」
こんな町に人間の体を食べるような動物が居るのか、「若者達の謎の失踪と死」等とそんなニュースが地元を騒がしていた。
そしてその後。
その時期になると山とは全然関係ない路地裏の一角では立派な花束が供えられている。
「ニャァーオォン」
夜耳を澄ますとどこからともなく猫の鳴き声が聞こえてくるかもしれない。
読んでいただいありがとうございます。
読んでいただいた方の何か心に残るものがあれば良いな、と思います☆
1:00最後の文章『その花どうしたの』→その花束、に修正しました。
長編ファンタジー書きたくてあぁだこうだやってたのですが結局プロット上手くいかず(−_−;)
短編短編はもう少し早いペースで書ければな、と思っていますm(._.)m
最後まで読んで「あれ?え?」と思った方は正解☆
実は続きの話を考えてあります。