離れていく
「行かないで」
少女は震える声で呼び止めるが、彼は聞く耳さえ持ってくれなかった。
「ねえ、お願い」
少女は力の入らない手で相手の腕を掴むが、ためらいもなく彼に振り払われた。
少女の視界がぼやけていく。彼の姿が見えなくなる。追いかけたくても動くだけの気力が、もうない。俯いた彼女の目から、涙がポロポロと溢れる。
聞こえてくる彼の足音が小さくなる。それは自分の泣く声にかき消されたのか、それともそれだけ彼が離れていったことを意味するのか。
しばらく泣き続け、ようやく涙がとまった。まぶたをこすりつつ顔をあげる。
視界には何の問題もないはずなのに、彼の姿はどこにもみえなかった。
そしてまた、視界が滲む。