【 フィギュアライズ ヒーローズ! 】
ここまで読んでくれてホントにありがとう!!!!
評価くれってうるさく言ってきたけど、そんなのなくたっていいんです!!!! たくさんの人が読んでくれてるんだなぁというのがあるだけでうれしいです!!!!
さぁ見届けてくれ、少年たちとおもちゃたちの熱き夢と魂を!!!!
前回のあらすじ!
敵が超つよい!
巨神像が踏み潰した地面から光が爆発し、ラグナイトを転倒させた。突き刺すような閃光がビカビカと輝きながら宙に浮かぶ。光の正体はフィギュアライズしたナックル。
「そんなに大きな声を出さなくても聞こえらぁ! 美々! 燦!」
ナックルは振り返り、美々と燦に笑顔を向けてサムズアップをして見せた。
「ナックル……じゃない! ヒナ!」
ナックルは陽太だった。全身がナックルの姿をしているが、顔だけが陽太だ。顔の右側から右上半身、右腕にかけて炎の刺青が走っている。
「違うなぁ。オレは陽太だし、ナックルだ。これは融合だ! ヒナックルとでも言うべきか? いやいくらなんでもこれはダセぇだろ。ははは!」
そう言って陽太ナックルは地上に降りた。美々と燦がすぐに抱きついてきた。
「よかった! よかったよおおおおおおおおおおお!」
「兄ちゃん死んじゃったかと思ったああああああああああああ!」
「よしよし。悪かった。ごめんな」
二人を抱きしめ、頭をなでてやった。
周囲の子供たちも、陽太とナックルの復活に狂喜乱舞した。そして、そのパワーに驚いた。五万! とてつもないパワーアップに、勝利の兆しを感じ取った。
周辺の建造物を壊しながら、ラグナイトが立ち上がる。
「なぁにが融合だぁ! おもちゃで遊ぶとか、融合するとか、何度幼稚だと言えばわかるんだあ! 格好悪いんだよ! みっともないと思え! 恥じろ! いつまでも子供でいられると思うな! 大人になれええええええええええええええ!」
陽太は美々と燦をうしろに遠ざけた。宙に浮かんでラグナイトの前に進み、その邪悪な顔をにらみつける。
「オレは大人になったッ! これがオレの大人のあり方だッ!」
「ならば、その間違った大人! 私 が 正 す ! 」
「ならば、オレはオレの大人を つ ら ぬ く ッ ! 」
両者は雄叫びを上げて激突した。拳と拳、蹴りと蹴りのぶつかりあい。ドォンッ! ガァンッ! ドカァンッ! 重厚音が大気と大地を鳴動させる。陽太ナックルはパワー五万と二〇万の差にも負けなかった。子供たちのすさまじい応援の声が、五万という数字以上に強くした。
しかし決して優勢ではない。ラグナイトにはグレートグレアという無尽蔵のエネルギーがある。このまま格闘を続けていても勝ち目はないと思った。だから必殺技を打つ。
「パワーブースターオンッ!」
陽太ナックルのパワーを計測するフォトングレアカウンターのサークルゲージがギュインギュインッと勢いよく回転する。そのパワー、五万の三倍の一五万!
体がオレンジのシャイニングオーラとスパークに包まれる。炎の刺青から真紅の炎が燃え上がる。拳の甲に光る太陽のエンブレムを勇ましく見せつけた。超速回転し、炎に燃える拳をラグナイトに打つ!
「大人になれええええええええええええええええええええええ!」
「オレは立派に大人だアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
拳と拳の衝突は大爆発を起こした。純粋な、エネルギーとエネルギーのぶつかりあい。その場の誰もが吹っ飛んだ。校舎のもろくなった外壁が崩れ落ちる。危険だった。子供たちは全員、フィギュアに守られた。みんなが無事であることをすぐに確認して、陽太を探した。いない。空を飛んで戦っていたのに、空にはいない。しかし、ラグナイトは健在していた。ちっともダメージを受けている様子はない。
「ヒナッ!」
「兄ちゃん!」
最初に見つけたのは美々と燦。地面に仰向けに倒れる陽太ナックルに駆け寄る。
「クッソぉぉぉぉぉ……これでもダメかよぉぉぉぉぉ……」
血を流し、力なく倒れるその姿を見て、美々も燦も涙した。
「もうやめようっ! もうやめようよっ! あんなの勝てっこないよ! 大人しくしようよ! おもちゃでもなんでも、壊しちゃえばいいじゃん! おもちゃより、ヒナが死んじゃうのが一番っ、一番っ、イヤだよぉぉぉ」
「そうだよ兄ちゃん! おもちゃは、また作ればいいんだよ! 夢も思い出も、おもちゃでなきゃダメってことないんだから!」
陽太は力ない声で答えた。
「おまえたちの言うとおりだ……オレも、美々や燦とおもちゃを並べて、どっちかが死ななきゃならないってことになったら、おもちゃに死んでくれ、壊れてくれって言う……きっとおもちゃも、それを納得してくれる……でもなぁ……オレはイヤだぜ……おもちゃがあるから、父ちゃんと母ちゃんと楽しくすごしたことを覚えていられるんだ……おもちゃがあるから、オレは大人になれたんだ……おもちゃがなかったら、きっと父ちゃんと母ちゃんが死んだことを悲しんでた……きっとオレは大人にはなれなかった……きっとこんなにたくさんの友達はいなかった……」
陽太の周囲には、たくさんの子供たちがいた。みんな心配そうに見つめている。
「おもちゃがあると楽しいんだ。だから、オレたちのために壊れてくれとは言えねェな……イヤだ、オレはイヤだぜ……おもちゃのいない毎日なんてよォ……ッ!」
「アタシもそうだよ……ッ。ビビがいないなんてイヤだよッ! でもッ! でもッ!」
陽太は立ち上がった。よろめく。倒れた。立ち上がる。また倒れた。今度は美々が支えた。美々をうしろにやって、また歩いた。前に向かって歩いた。だがダメ。前のめりに倒れた。立ち上がろうとしても、立てない。体がほとんど動かない。フォトングレアカウンターが示す陽太ナックルのパワーは、五しかない。
「もうやめてぇッ! ヒナぁッ!」
「オレはぁ……明日も、おもちゃと……遊びたいんだ……ッ!」
動かない体を無理矢理動かして、吐息のごとく弱い声で、力強く願った。
ラグナイトは、櫻井は、そんな陽太をじっと見ていた。
「これだけやってもまだ懲りない……バカは死ななければ直らないのかああああああ!」
無慈悲な一撃が陽太に迫る。
しかし、その一撃は止まった。止められた。多くのフィギュアたちの手によって。おもちゃたちは次々と口を開いて、言葉を放った。
「やらせるかァ! おれたちおもちゃのために、こんなにもがんばってくれる兄ちゃんを、これ以上傷つけさせるわけにはいかねぇ!」
「ぼくたちも、いつまでも子供といっしょに遊んで生きていたいんだ! 子供といっしょの未来を守ること、兄ちゃんだけにやらせるわけにはいかない!」
「わたくしは美々のために壊されるのなら本望です。しかし、なにもせずただ黙って壊されるのはごめんですわね。美々との未来を守るために戦ってからでないと、悔いが残りますわ!」
「わたしだって、あかりちゃんともっと遊びたいんです! せっかく空を飛べるようになったんだから! もっと空を飛びたいんです! 今度は、あかりちゃんといっしょに!」
だ か ら 戦 う ! 明 日 も 子 供 と 遊 ぶ た め に ッ !
おもちゃたちは、決意一心にラグナイトに立ち向かった。別段パワーが高まったわけではない。だから鎧袖一触。次々と簡単に打ち負けていった。しかし先刻とは気迫が違った。どれだけ倒れても、どれだけ傷ついても、決して立ち向かうことをやめなかった。ここで戦うことをやめたら、子供との未来を捨てたことになる。そんなことは死んでも、プラスチックが砕け散ってもやりたくない。だから壊れても壊れても挑み続けた。
壊れる。壊れる。壊れていく。おもちゃが、次々と、どんどん、壊れていく。地獄の光景だ。それを見た陽太は、傷の痛みよりはるかにつらい思いをした。ボロボロと涙をこぼした。
「やめろ……やめろっ、やめろっ! やめてくれえええええええええええええええ!」
ラグナイトの攻撃はやんだ。陽太がやめろと叫んだからではない。立ち向かってくるおもちゃがいなくなったからだ。死屍累々と積み重なる、おもちゃの残骸。
「なんで!? どうしてこんなにおもちゃを壊すんだ!?」
「言っただろう! おもちゃが人を不幸にするッ!」
「なにが不幸なんだよ!? おもちゃで遊んだら楽しいじゃないか! 幸せだよ!」
「私は不幸だ!!!」
「センセイだけだろ!?」
「違う! おもちゃは人を惑わす! 勉強をおろそかにする! すべきことから目をそらさせる! こんなものがあったから、私は勉強をおこたったのだ! だからいい仕事に就けなかった! だから親孝行できなかったッ! 親孝行できずに、両親が死んだッ! 七年前の、破滅の流れ星でッ! 遊んでさえいなければ、遊んでさえいなければあああああああああ! 私はもっと親孝行できたんだあああああああああああ! 両親を不幸にしたまま死なせてしまったッ! おまえたちはまだ子供だから、この悲しみがわからないのだッ! 親がいつか死ぬものだと考えたことがないッ! だからわからないッ! 私もわからなかったッ! こんなに早く死ぬとは思わなかったッ! 親に報いたかったッ! 両親を笑顔にしたかった! でもそれはもうできないんだッ! だがおまえたちの多くはできるッ! 親がいるならできるッ! 親が死んだ時に、なにもできなかったと後悔させたくないんだッ! こんなつらい思いをさせたくないんだッ!」
「センセイよぉ、それならなおさら、おもちゃを壊さねぇでくれよぉ……オレのナックルはさぁ、母ちゃんに誕生日プレゼントに買ってもらったんだ。父ちゃんといっしょに改造したんだ。オレがナックルで遊ぶのを、父ちゃんと母ちゃんはいつも笑って見ていてくれた。オレも父ちゃんと母ちゃんが死んじまって悲しいよ。でもナックルと遊んでると、笑ってる父ちゃんと母ちゃんを思い出せるんだ……思い出が詰まってンだよぉ……!」
「お父さんと、お母さんが……笑ってる……?」
陽太の言葉で、櫻井の激流のごとき憎しみが一瞬止まった。脳裏に両親の笑顔が浮かんだ。おもちゃがあった時、両親は笑顔だった。おもちゃをプレゼントしてくれた時、両親は笑っていた。おもちゃで楽しく遊んでいる時、両親は笑っていた。ずっと忘れていた。両親の笑顔。思い出した。自分が楽しくしている時、両親はいつも笑顔だった。自分が親孝行できないせいで、両親は不幸だったのだと思っていた。しかし、違うのかもしれない。
「お父さんとお母さんは、幸せだった……?」
「オレには夢がある。ナックルみたいなヒーローになるって夢がある! 大切なものを守れる大人になりたいって夢がある! ナックルがいたから夢を持てた! こんな大人になりたいって夢に向かっていけたんだ! ナックルがいなかったら、きっと夢なんて持ってなかった!」
――ぼく、おっきくなったらブレイブデッカーみたいな、人々を守る大人になる!
子供の頃の自分を思い出した。そういえば、そんな大人になりたいと思っていた。それを見ていた両親は、よろこんでくれていた。応援してくれていた。やっぱり笑っていた。
「おもちゃがあったから、私が……ぼくがよろこんで、それを見て……お父さんとお母さんは、笑っていたのか……?」
「ここにあるのは、手垢がつくまで遊んで、誰かの想いがこめられてて、思い出が詰まってて、大きな夢がこめられたものなンだ! 大量生産されたものであっても、宇宙でたった一つしかないおもちゃなンだ! だからみんな、おもちゃで遊ぶと笑顔になれるンだ!」
おもちゃは、親からのプレゼント、大切な思い出、子供の夢、みんなの笑顔を作るもの。そうした言葉の数々に、櫻井は胸を打たれた。自分が間違っていたことに気づいた。両親は、お父さんとお母さんは、おもちゃで遊んでいたぼくを見て、確かに笑っていた。親孝行しようと思わなくても、ただぼくがよろこんで楽しんで笑顔でいれば、お父さんもお母さんも笑顔でいられたんだ。それは充分に幸せだと言えた。
だが積年の怨念はそう簡単には消えない。おもちゃはあるべきなのか、壊すべきなのか、二つの気持ちに挟まれ、櫻井は迷って、悩んだ。
「おもちゃを壊さないでくれッ! おねがいしますッ!」
陽太は力をふりしぼって立ち上がり、泣いて頭を下げた。これに、燦、美々が続いた。
「兄ちゃんにだけ頭を下げてもらうわけにはいかないよ」
「そうだ。自分のおもちゃを壊さないでってお願いは、自分でしなきゃいけないワケよ」
二人はおねがいしますッと明瞭に放ち、深々と頭を下げた。それに続いて、子供たちは次々と前に出て、同じように深く頭を下げた。
おねがいします! おねがいします! おねがいします! おねがいします!
おもちゃを愛する子供たちは、みな一様に、そろって、同じ想いで、お願いした。
おもちゃたちはそれを見つめた。自分のために、自分の持ち主が頭を下げる姿を。申し訳なく思った。でもたまらなくうれしかった。こんなにも大切に想ってもらえている!
「おねがいします! おもちゃを、壊さないで! これからも、思い出を胸に、夢を持って生きていきたい! おねがいします! おもちゃをっ、壊さないでッ!」
みんなで言った。訴えた。懇願した。この必死のお願いが、櫻井の胸を貫き、心を打った。
「私は、ぼくはっ、間違っていたのかっ!? おもちゃは悪くなかったのかっ!? おもちゃがあるから、ぼくが笑顔になれて、それを見てお父さんとお母さんが笑ってくれていたのかっ!? おもちゃがっ、親子の幸せを作っていたのか!? じゃあ、じゃあ! ぼくは、ぼくは、いったいなにをやっているんだ!? なにをやっているんだあああああああああッ!」
櫻井の腕から刃のエンブレムが消える。ラグナイトのパワーが急激に低下した。ギュンギュンとカウンターのサークルゲージが逆回転して数値が減っていく。二〇万を下回り、一〇万を切った。櫻井は迷いを抱えた。戦意を保てるほどの信念を失った。ゆえに、ラグナイトのパワーは低下した。ベガにとって、今の櫻井は価値をなくした。それどころか、パワーダウンを招く不純物であり、害悪でしかない。グレートグレアがある。櫻井のことはもう要らなかった。
ラグナイトが櫻井を吐き出した。不純物を取り除いたことで、ふたたびパワーを取り戻す。
「フンッ! 役立たずのクズめ! まぁいい。ワガハイにはグレートグレアとラグナイトがある。これがあれば、ほかになにも要らない! 全宇宙はワガハイのものだ! グワーーーーーカカカカカカカカカカカカカカカカカカカ!」
櫻井は立ち上がり、ラグナイトに向かい合った。ベガの侵略を止めるのだ。
「やめろ、ベガ! ぼくはグレートグレアの入手に協力した! 約束を果たしたぞ! 乱暴なはもうやめろ!」
「やめろだとォ? キサマ、誰に向かってものを言っておるのだ? んん!? ワガハイは全宇宙を統べるグレートエンペラー、超次元大帝ラグナイト・ベガさまだぞ! これからキサマら人類は、奴隷となって死ぬまでこき使われるのだ! それがイヤなら、死、あるのみ!」
ラグナイトが右腕をカノンに変形させ、櫻井に照準する。少しの感慨もない、無情の一撃が放たれた。爆音と黒の発光。しかし、櫻井は死なない。
「センセイ、下がっててくれや……ヤツは、オレが倒す……ッ」
櫻井は陽太が守った。左腕からラミネートレイヤーを展開し、光弾を防いだ。パワーは三万まで復活している。それでも勝ち目はない。しかし戦うことはできる。櫻井を美々たちに預け、陽太は飛び上がり、ラグナイトに立ち向かう。拳を何度も打ちこむが、どれ一つとして効いている様子はない。
「ブンブンとうっとうしい! キサマはハエか!」
バチンッとデコピン一発、腹に直撃した。陽太はぶっ飛ばされ、校舎の壁にめりこんだ。大打撃だった。しかし、不屈。陽太の意志は折れない。
「負けるかよォ……負けるかよォ!」
すぐにまたラグナイトへ飛びかかる。
「わたくしも、戦いますっ! たとえこの身が滅びようとも、美々を守るのです!」
「たとえプラスチックのひとかけらになろうとも、あかりちゃんを守る!」
ひび割れ、砕け、まともに遊べそうにもないほど傷ついたおもちゃたち。それでも立ち向かった。おもちゃは、ただひたすら、子供のためだけに生きている。子供と遊ぶために生まれてきた。子供を笑顔にするために生まれてきた。子供のため。子供のためだけに。命、魂のすべてが失われ、その身朽ち果てるまで、絶対にその気持ちを止めない。それがおもちゃ。
死闘。滅びの運命を背負った戦いだった。子供たちはもうなにもできなかった。ただ叫び、シャイニングオーラを放つことしかできなかった。力と想いの限りを尽くして、自分のおもちゃに力を送った。それしかできない。そんなことをしても無駄だとわかっていた。自分のおもちゃが、ただ壊されていくしかないとわかっていた。だから泣いた。ヒロイックシャウトしながら、ボロボロと涙を流した。壮絶な嘆きの絶叫だった。
「なぜだ……なぜ死なんのだ!?」
生きていることがありえないほどの体をしたものたち。敵対をやめぬ瞳。倒しても倒しても起き上がってくる。ベガは恐れに似た気持ちを抱いた。こいつらは、本当にプラスチックのひとかけらになっても立ち向かってくるというのか!?
力なくうなだれつつも、決して倒れることがない陽太。
その目に、稲妻のポニーテールが揺れるのが見えた。
「よくがんばった陽太。かっこいいぞ」
「姉、ちゃん……?」
ミラだ。全身に傷を作って、帰ってきた。
「約束どおり、帰ってきたぞ。ただいま」
「よかった……おかえり」
「あんまりくっちゃべってるひまはないからな。手短に言うぞ。おみやげを持ってきた」
「おみやげ……?」
「秘密兵器その五だ。とっておきの隠し玉。おまえをヒーローを超えたヒーロー、スーパーヒーローにしてやるッ!」
ミラはケータイデンワ“ポータ”を取り出した。陽太と、子供たちの前に仁王立ちする。
「あたしは奇跡を司る女神、ミラ・クール! おまえたちに奇跡を授けよう!」
ミラはポータを空高く掲げ、ボタンを押した。
「かつてケータイは、人々の心をつないだ。このポータが、最後の秘密兵器だ! キズナ拡張! ネクサスッ、エクステンダッーーーーーーーーーーーーアアアアアアッ!」
ミラのポータから無数のビームが飛び出す。その向かう先は、子供たちが持っているポータ。光を受信したみんなのポータが、さまざまなメロディを元気よく鳴らして覚醒した!
「さぁ、おまえたちの願いを言えッ!」
みんな、口をそろえて叫んだ。
おもちゃと、子供と、友達と! 明 日 も 遊 び た い ッ !
陽太の体がまばゆい光に包まれて宙に浮かんだ。おもちゃたちは爆光し、光る陽太に次々とくっついていった。光と光がくっつき、混じりあい、どんどん巨大化し、極光の煌めきと、ほとばしる夢の輝きを放ち、一つの姿となる!
全身に湧き起こる壮大で無限のエネルギー。宇宙の広がりそのものを全身で、指先から髪の毛の先でまで感じ取った。このおもちゃは、強い!
「これぞ、太陽の巨神像! さぁ陽太! そのみんなのおもちゃの“名前を決めろ”!」
浪漫あふれる名前を“設定する”。これがおもちゃに魂を吹きこみ、力を宿すことになる。
「こいつは最強無敵。究極最大。完全無欠。みんなの思い出と夢がぎっしり詰まったこの世のすべてだ。誰にも負ける道理はない。つまり! 王の中の王! キングオブキング! 宇宙一のおもちゃ! 決まったゼ。こいつの名前は……ッ!」
皇帝王、カイーゼルッ、エンッペリオーーーーーーーーーーオオオンンッッッッ!!!
カイゼルエンペリオン! 陽太がそう叫んだ瞬間、光が弾け飛び、太陽の巨神像はその超全な姿を現した。太陽色の騎士鎧を纏い、兜から雄々しく猛る角を天に向かって衝いている。ドォンドォンッと波動を放つ日輪を背負い、煌々と輝くその姿、まさに太陽の化身!
黒と太陽、二柱の巨神像のパワーは同じく二〇万。互角。
「ブチかますゼええええええええええええええええええッ!」
大勢の子供たちの声援を受けた拳が、ラグナイトを打つ! 打撃の衝撃波が天地を震撼させた。この一発に留まらない。二発、三発と続いた。
「クッソおおおおおおおお! 調子にィ、乗るなアアアアアアアアアアアアッ!」
ラグナイトもまた拳を放った。攻められた分を取り戻し、さらに押し返すために。
「効かねぇなァ! そんなぬるい拳はよォ!」
ラグナイトの拳を前腕で受ける、受ける、受ける。カイゼルエンペリオンは一歩たりとも退かない。その攻撃のわずかな隙を突いて、拳をたたきこんだ。続けざまに蹴りを放つ。追撃をやめない。殴打、蹴撃の連打。どんどんラグナイトを破壊し、押していく。
「バカな、こんなバカなことがあるかァ! パワーは互角のはずだ。なのに、なぜこうも簡単に押されていくゥ!? この攻撃の勢い……回復がっ、追いつかない!」
グッと拳を目の前に持ち上げ、ミラが口を開いた。
「たとえグレートグレアがあろうとも、それはただのエネルギーにすぎない! エネルギーで多少の傷をふさぐことはできても、ボディのパーツがぶっ飛ぶほどの大きなダメージを回復することはできない! エネルギーは言わば肉! 骨のないところに肉はつけられない!」
怒涛の攻勢。威力を増す攻撃。ラグナイトの破損箇所は次々と増え、パワーがどんどん下がる。勝利は、すぐそこまで来た!
「こいつで……トドメだああああああああああ!」
カイゼルエンペリオンの右拳が超速回転する。盛大にスパークを弾け散らし、トルネードを巻き起こす。これが最後の一撃だ。
「リボルビング、ナックルゥーーーーーーーーーーーーーーウウウッ!」
撃ち出された拳がラグナイトの中心を打った。ラグナイトは胸に大きな風穴を作り、地響きを起こして地面に倒れ伏した。
倒した! 勝った! 歓声に湧いた。誰もがよろこび、はしゃいだ。
誰もが笑顔でいる中で、ミラだけが険しい顔で叫んだ。
「陽太ぁッ! まだ終わってないッ!」
ドォンッ! カイゼルエンペリオンの天地震撼する拳と同程度の衝撃波が轟く。太陽の巨神像は不意打ちによってかっこ悪く地面に倒れこんだ。これは、ベガのカノンによる攻撃!
「ぬかよろこびというヤツだなぁ、人間よ!」
ラグナイトは立ち上がった。破損箇所が、胸の風穴が直っていく!
「なんでッ!? 陽太の、カイゼルエンペリオンの攻撃は、確かにラグナイトの骨を断ったはずだッ! ……あああああああああああああッ!?」
ミラは気づいた。ラグナイトの破損が瞬く間に直っていく、そこに、無数の黒い生き物、バグがいることに!
「そうか! ベガは、グレートグレアでバグをあやつって、バグが食い散らかした無機物を使って、ラグナイトが失った物質、質量を、骨を、修復してるんだッ!」
周囲を見れば、たくさんのバグが無機物を食い荒らし、その蓄えた質量をラグナイトに送っていた。バグと戦えるフィギュアは、すべて陽太と融合してしまっている。打つ手がない。
「そのとおりだあああああああああああああああああ!」
ラグナイトのパワーはすぐさま復活した。そしてカイゼルエンペリオンに反撃を開始する。
「だからどうしたああああああああああああああああああああ!」
応戦。拳の打ち合いが再開した。今度は互角。両者一歩も譲らない。
「無駄だァ! ワガハイの無限再生の前には、もうキサマの攻撃は無駄だァ!」
「なら、何度でもお見舞いしてやらああああああああああああ!」
ふたたびリボルビングナックルを放った。効いた。またしてもラグナイトに風穴を開けた。しかし、この技は連発できない。撃った拳が戻ってくるまでに少しの時間がかかる。この間、有効打を与えられなかった。ラグナイトはこの時間で即座に回復してしまったのだ。
必殺技を何度も打った。しかしことごとく回復された。ひどいのはそれだけではなかった。だんだん与えられるダメージが少なくなっていった。ラグナイトにできる傷が、目に見えて小さくなっていったのだ。回復されてしまう以前に、そもそも効いていない。それもそのはず、ラグナイトのパワーは三〇万まで上昇していたのだ。ボディのサイズもやや大きくなっている。カイゼルエンペリオンとまったく同じ大きさだったはずの体が、今では頭一つ分でかい。明らかに質量が増えている。パワーアップはそのためだ。ダメージがない時も、常にバグを取りこんで成長を続けている。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
「どうした!? もう終わりか!? もっとワガハイを楽しませろオオオオオオ!」
盛大に蹴りを放つ。カイゼルエンペリオンはぶざまに地面を転がった。
しかしまだ手はある。陽太はあきらめていない。
「よしたまった! アニキ! できるぞ!」
ナックルが言った。たまった。エネルギーが!
「よオオオッしゃアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
今までの攻撃は時間稼ぎ。この時を待っていた!
「パワーブースターオンッ!」
日輪から波動がほとばしる。スパークをともなってオレンジのシャイニングオーラが噴き上がる。カイゼルエンペリオンのパワーは、三倍の六〇万にまで一気にふくれあがった!
「どんだけ回復しようが、このパワー差なら、消し炭にできるッ!」
リボルビングナックルをかまえた。モーターがうなりを上げる。今度こそ、みんなは勝利を確信した。今度こそ勝てる!
だから、ベガの高笑いを聞いて戦慄した。このパワー差を知って、なお笑うことができるのか!? なんで!?
「グワーーーーーーーーーーーーカカカカカカカカカカカ! それだけか? ん? それだけか!? もっと上がらんのか!?」
「な、なんだと!? なにを言ってる! おまえのパワーは三〇万。オレのパワーは六〇万! おまえがバグを取りこみ続けて、常にパワーアップできるとしても、この差をすぐにくつがえすことはできない! おまえの無限再生、無限パワーアップでオレを超える前に、リボルビングナックルがおまえを討ち砕く!」
「グワカカカ! わからないなら教えてやろう! これがワガハイのニューーーーーーーーーーパワァァァーーーーーーーァァだあああああああああッ!」
ゴオオオオオオオオオオッ! とスパークを纏ったトルネードが逆巻く。それは黒いシャイニングオーラ。ラグナイトが起こしたもの。地に亀裂が走る。空に暗雲が立ちこめ雷鳴が轟く。圧倒的な威圧感が、この場のすべてを支配した。
「なんだこれは……なんなんだこれはああああああああああああああッ!?」
ラグナイトのパワー、三倍の九〇万!
「アニキ……これは……ッ!」
「まさか……まさかァ……ッ!」
三倍。このオーラの激しさ。陽太には、一つ思い当たるものがあった。
「そう。そのまさかよッ! これは、パワーブースターッ! キサマのおもちゃのソウルグレアが持っていた力だッ!」
六〇万と九〇万。くつがえしようがない圧倒的な力の差を前に、子供たちは、ただ絶望するしかなかった。ミラも万策尽きた。秘密兵器はもうない。人類は滅ぶしかないのか。
だが、やる……!
「あきらめろ! 潔く、大人しく、無様に! その命を散らせええええええええええ!」
「やってみなくてもダメだとわかることはある。きっとおまえには勝てないだろう。だが、たとえ負けるとわかっていても、夢破れるとわかっていても、この拳を打つ。明日も、おもちゃと友達と遊びたい。その夢を、自らの意志で捨てることは絶対にしたくない。だから打つんだ……この拳をオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
カイゼルエンペリオンの右拳に限界以上の力がみなぎる。すべての子供たちはシャイニングオーラを命の限り燃やした。勇壮絶叫が校舎に反響して響き渡る。莫大なパワーだ。
ラグナイトはその莫大なパワーをあっさりと上回った。ギュオンギュオンギュオン! と右拳からにぶく重い音を轟かせ、周囲の光の波動をことごとく奪った。フォトングレアカウンターなど見なくとも、その拳のエネルギーがすさまじいとわかる。なぜなら、この場をとりまく場所が暗闇となっているからだ。曇っているとはいえ、今は日中である。日の光が地に届くはず。なのに、まるで海の底から空を見ているようだった。太陽の光は見えているが、自分たちがいるところにまでは届いていない、そんな海の底にいるような気分。
天道陽太。太陽の名を持つ男。カイゼルエンペリオン。日輪を背負う太陽を冠する巨神像。その太陽が放つ輝きが、この場にはないのだ。やはり、敗北は必定。
陽太はこれを見てもなお、打つという気持ちを強めた。誰かに打ち砕かれるのと、自ら捨てるのとではまったく違う。誰かに打ち砕かれることはあっても、自ら捨てることをしたくないのだ。自分の手で捨てることだけは絶対にしたくない。だから打つのだ。この拳を!
ぶつかる。両者の必殺の拳が!
「リボルビングッ、ナァックルウウーーーーーーーーーーーウウウッッ!」
「ラグナッ、インッパクトォーーーーーーーーーーーーーオオオオオオッ!」
拳の激突。光、音、風、波動の爆発。光が目を焼き、音が耳を裂き、風が肌に突き刺さり、波動が恐れを生んだ。誰もが悲鳴を上げた。衝撃波に吹き飛ばされないように身を伏せた。
一人、また一人と、子供たちが立ち上がった。拳を突き出したラグナイトの前にカイゼルエンペリオンの姿はない。どこだ? どこだ? まさか、消し飛んでしまったのか?
いた。校舎に抱えられるようにして、カイゼルエンペリオンは倒れていた。まるで千年の時を経て朽ちたように色あせていた。パワーは一か〇を行ったりきたりしている。日輪が消えた。太陽の輝きはない。
真っ暗闇の中に雨が降り出した。ざーざーと降りしきる雨。みんなぬれたが、雨が降ったことにも気づかない。
「兄ちゃんっ! 兄ちゃんっ! 兄ちゃんっ!」
燦が叫んだ。必死になってカイゼルエンペリオンを叩きながら声を張り上げた。返事をしてくれない。こんなことは生まれてはじめてだった。話しかければ、いつも笑顔で抱きしめてくれたのに、今、それがない。
「カイゼルエンペリオンが……兄ちゃんが……負けた……」
子供たちの瞳からも光が奪われた。みんなまっくらな目をして、カイゼルエンペリオンを見つめた。茫然自失。次々と、電池が切れたおもちゃのように倒れ伏した。ひざから崩れ落ちるもの。受け身も取らず地面に倒れるもの。誰かによりかかって、その相手ごと倒れるもの。叫び、力をこめたから、疲れていた。だが、そんなことよりも、大切なものがなくなったことのほうがずっとずっとつらかった。そのショックに耐えられないのだ。絶望した。
ミラも絶望した。陽太は死んでいない。しかし敗北した。勝てなかった。夢は破れた。どうしたら子供たちの、陽太の命を守れるか、必死になって考えた。こうなれば子供たちだけはなんとしても守らなければならない。
櫻井は子供たちが死んだような顔をするのを見て、おそろしい気持ちになった。自分がやろうとしていたこと、おもちゃを壊すことは、子供たちをこんな顔にさせることだったのかと、おそろしくなった。子供たちにこんな暗い、生きているのかもわからないような顔と目をさせて、なにが子供を幸せにする、だ。自分の言うことを聞かず、教室でおもちゃを広げて遊んでいた時のほうが断然よかった。自分がいかに間違っていたのかを、この時はっきりと思い知った。だからもうおもちゃへの恨みはなくなった。ほんの少しも残っていない。子供たちがこんなにも必死になって、友達との明日がほしいと叫んだ。その想いの強さを肌で感じた。この子たちのためになにかをしたかった。だがなにができるのか、全然わからない。自分にできることはないのか。櫻井はその場に立ち尽くした。歯がゆく、悔しくて、ぎりぎりと歯を食いしばって、血がにじむほど強く拳をにぎった。
美々は一人、歩き出した。ズンズンと足を地面に叩きつけるように力強く。カイゼルエンペリオンの背中を、押した。大声で叫び、シャイニングオーラを輝かせ、背中を押した。美々だけは抗った。陽太を失いたくない。ただそれだけの気持ちで、今こうしている。みんな、ただそれを見ているだけだった。美々はそんな子供たちに向けて叫んだ。
「おまえたちがヒーローにならないから、ヒナがヒーローをやってるんだ! ヒナしかヒーローをやらなかったから、今こうして倒れてるんだ! アタシがいっしょにヒーローをやってやりゃあ、ヒナはこんなにつらい思いをせずにすんだんだ! おまえたちと、アタシが! ヒナをこんな目にあわせた! アタシは最低最悪のことをしたっ! そんなことはもうしない。もう二度とヒナだけに戦わせない! アタシはヒナといっしょに戦う。おまえたちはどうする!? 消沈したいなら勝手にしろ。あきらめたいなら勝手にしろ。アタシはイヤ! ヒナがいないのは絶対にイヤ! アタシがヒナを立ち上がらせる。アタシ一人でもヒナに力を送る。ヒナ一人に戦わせない! アタシのおもちゃだってまだあきらめてない! プラスチックのひとかけらになろうとも戦ってる! まだひとかけらになるほどブッ壊れてない! おもちゃたちは、まだあきらめてない! じゃあアタシらがあきらめるわけにはいかないでショ! だからアタシはやる。ヒナに力がないなら、アタシが力を、出すん、だああああああああああああ!」
美々は一人、カイゼルエンペリオンの背中を押した。持ち上げようとした。全身の力、髪の毛の一本一本にいたるまで、全身残らず全部使って持ち上げようとした。雨に濡れていてもはっきりわかるほど涙を流して、陽太の名前を叫んだ。
そんな美々を見て、燦をはじめとして、子供たちが次々と参加した。みんなで叫び、輝いて、持ち上げた。千人を超える子供たち、みんなが一丸となって力を送った。
それを見て、ミラもなにかをしようと思った。自分はなにを弱気になっていたんだと気持ちを改めた。子供たちにばかりさせられない。そこで、ポータがあることに気づいた。
「ポータだ! これを使え! 陽太もこれを持ってる! みんなでデンワをかけるんだ! これは心をつなぐ道具! 直接声をかけて届かないなら、ポータなら届くかもしれない! できることはなんでもやるんだ!」
みんな、できることをやった。希望なんてない。絶望が晴れたわけじゃない。だがなにもせずにはいられなかった。みんなひたすら前を向いて突っ走った。きっと向かう先は道のないがけっぷち。落っこちる。だが、そうとわかっていても前に向かうことをやめたくなかった。できることがあるなら、全部やりたかった。
櫻井もだ。自分もなにかしたい。自分にも、なにかできることはないのか。必死に考えた。一つ、みんなの力になれそうなことが思い当たった。おもちゃが、一つだけ家にある。おもちゃは全部捨ててしまったと思っていた。だが一つだけ残っていた。押し入れの深くにしまいこんだから、そこにあることも忘れていた。これだ。これを持ってくるのだ。そうすれば、そのおもちゃが、子供たちのおもちゃのように動き出すかもしれない。ずっとおもちゃを憎んでいた自分が、おもちゃに命を与えられるとはとうてい思えなかった。だが、なにもせずにはいられない。自分も、大人として、できることはなんでもやるんだ! 櫻井は学校に停めてあった誰のかわからない自転車に乗って、自宅目指して全力で駆け出した。
「ごちゃごちゃと無駄なことを。死ねば楽になるのに、どうして苦しい道を選ぶのだ。不憫極まりない。今、楽にしてやろう!」
ベガはふたたびラグナインパクトをかまえた。その攻撃からカイゼルエンペリオンを守るため、多くの子供たちが前に出て仁王立ちした。しかしベガは止まらない。
「死ねええええええええええええええええええええええ!」
無情の一撃が放たれた。
◆
「なんも見えねぇ。なんも聞こえねぇ。なんもわかんねぇ。なんだ、今度こそ死んだか?」
違った。よくよく見回してみれば、上のほうにかすかな明かりが見える。感覚を研ぎ澄ましてみれば、ゆっくり落ちているのがわかった。まるで海の深くに沈みこんでいるようだ。
「あの明かりのほうに行きてぇ。オレは青空が好きなんだ。空はいいぜ。とうてい行けっこねぇ、宇宙の果てが見えるんだからな」
陽太は明かりに手を伸ばそうとした。だが体は指先一つ動かせやしない。沈んでいくだけ。
「ダメかぁ。そうだよなぁ。ダメだよなぁ。力も、技も、心も、全部燃やしつくした。それでもダメだった。じゃあダメってことだよな」
父ちゃんと母ちゃんを思い出した。
「ヒーローになりたかった。でもダメだったよ、父ちゃん、母ちゃん」
目をつぶって、沈むがままに任せた。
「あーーーーーーーーーっ! 陽太じゃねぇか!」
「ホントだ! あんたこんなとこでなにやってんの!?」
突然騒がしい声がした。驚いて目をあけた。
「父ちゃん! 母ちゃん! なんで!? ええええええええええええええ!?」
「なんではこっちのセリフだバカもの! おまえなんでこんなとこにいるんだよ!」
「そうだよ! ここあの世だよ!?」
「あの世オオオオオオ!? やっぱりオレ死んじまったのかああああああああああ!」
あの世か。やっぱりオレは死んじまったんだな。でもそんなことより、もっともっと気になって仕方ないことがあった。
「父ちゃん! 母ちゃん! あの世ってのはメシが食えるところなのかッ!?」
父と母はのんきにメシを食っている。どんぶりに山盛りにした白米。おかずは大皿でテーブルをめいっぱい使って置いてある。
「そうだ! あの世はメシが食える!」
「だからあんたも食べていきな」
「なんだよそれ! わけわかんねぇよ! せっかくだから食っていくけどさぁ、オレ体が動かねぇんだよ」
「ふふふ。じゃあママが食べさせてあげる。ほら、あーんして」
母は陽太をイスに座らせて、料理をひとつかみ陽太の口に運んだ。
「イヤだよそんなの! 母ちゃんたちは知らねぇだろうけど、オレはもう高校生なんだぜ! もうガキんちょじゃねぇんだ! ちゃんと大人にもなった!」
その言葉を聞いて、両親は滝のように涙を流した。感動していた。息子の成長に感極まっていた。体が動かない。大人になった。その二言と、表情だけで、息子になにがあったのか、だいたいを察した。
「そうか、そうか! よくがんばったな! えらい! すげぇ! よくやった!」
「だったらごほうびってことで、なおさらごはんを食べていきなさい。あーん」
体が動かないから、仕方なくあーんした。次々口の中に詰めこまれていく。口の中いっぱいにほおばって、よくかんで食べた。陽太もまた勢いよく涙を流した。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 母ちゃんの味だあああああああああああ!」
「母のメシはうまいだろ?」
「母ちゃん最高だぜ!」
笑顔の陽太は突然暗い顔をしてうつむいた。それを心配そうに見つめる両親。陽太はぽつぽつと語り始めた。
「オレさぁ、ヒーローになりきれなかったんだ」
「……そうなのか?」
「そうだ。だってもう指一本動かねぇ」
「……今どうしたい?」
「正直、もういいかなと思う。やるだけやった。力も技も心も使い果たした。これでダメならしょうがない。それにさぁ、死んじまったんじゃあ、やりたくてもやれないだろ?」
「本当にもういいのか? あきらめちまうのか? ここで終わりにしたいのか?」
陽太は答えない。
「陽太、もういいって顔してないよ。だって泣いてるもん」
陽太は泣いた。歯を食いしばってウグウウウとおえつをこらえ、ボロボロ泣いた。
「……あきらめたくない! 負けたくないんだ! 子供の頃からの夢を叶えたい! オレはヒーローになりたいんだ! 燦を置いて死ぬわけにはいかないッ!」
陽太は続ける。
「でもダメなんだ! もうすッからかンなんだよ! 力がなんにも残ってない! なんにもできねぇんだよ! クッソオオオオ……負けたくねぇ……父ちゃん、母ちゃん、オレは負けたくねぇ……ッ! 負けたくねぇンだよ……ッ!」
「だよな。そうだと思った。心は立ってる。倒れてない。負けてない!」
「陽太は負けてないよ。できる。やれる!」
「無理だよ! 力が入らねぇんだよ! パワーブースターも使っちまった! パワーはゼロだ! もうダメなんだよ!」
「バカだなァおまえ。なんにもわかってねェ。ははははは!」
「陽太はかっこいいヒーローになった。立派な大人になった。でもバカだね。ははははは!」
父と母は、陽太の肩に力強く手を置いた。
「おまえが前に進みたくても叶わない時、オレたちが力をやる」
「だってあんたは私たちの子供だからね」
両親は陽太をぎゅっと抱きしめた。今の自分は一人で戦ってるのではないと感じた。父と母が力をくれる。そう思った時、体の芯に火が灯るのを感じた。指が、腕が動いた。両親を抱き返した。
「父ちゃん……母ちゃん……ッ!」
陽気なメロディが鳴る。なんとか手を動かして、受話ボタンを押した。うるさくも力強い声が聞こえた。ヒナ! 兄ちゃん! 起きろ! 目を覚ませ! 立ち上がれ! あたしたちも戦う! 力を送る! 一人じゃない、みんなで戦うんだ! やかましく叫んでいる。
「どうやら陽太に力をくれるのは、オレたちだけじゃないみたいだな」
「陽太は一人で戦ってるんじゃない。みんなが力をくれる。だから陽太は、心を前に向けるだけでいい」
自分は子供たちを守るヒーローだから、負けてはいけないと思っていた。だがその考えは間違っていた。子供たちのフィギュアが融合した時、子供たちもヒーローとなっていたのだ。今自分が持っている力は自分一人だけのものではなかった。それなのに、自分一人で戦って、みんなを守っているつもりでいた。違うのだ。みんなといっしょに戦っていたのだ。
「こいつも言いたいことがあるみたいだぜ」
父が手のひらを差し出した。その上にナックルがいた。
「アニキ、力も技も心も使い果たしたって、そりゃあウソだぜ。まだ一つあるだろ? とっておきの隠し技がよォ。オレのプレシャスメモリーが、ちゃあンと覚えてるんだぜ。廃都東京でも使ったばかりじゃねぇか。忘れたとは言わせねェ!」
「ゴオビヨンドゼロ……ッ!」
ゴオビヨンドゼロ。もうどうにもならない。ダメだ。なんにもできない。知恵も力も使い尽くした。エネルギーゼロ。その先に行く力。たとえその身尽き果てようとも、思い出を胸に夢へと向かう心は、決して失われない。その心を力に変える。それが、ゴオビヨンドゼロ! 廃都東京でこれを使い、ナックルはパワーゼロから復活し、勝利した。
「力、多くのヒーローたち。技、ゴオビヨンドゼロ。心、アニキのみんなの夢を守りたい気持ち。力、技、心! さぁ全部そろったぜアニキ! みんなでいっしょにブチかまそうぜ!」
「あぁ、そうだな!」
「見送りは私たちに任せなさい!」
「かならず現世まで送ってやる!」
父と母は、陽太の手を片方ずつにぎった。ナックルが陽太の肩に乗る。
「父ちゃん、母ちゃん、オレは立派に生きてくるぜ! ちゃんと見ててくれよな!」
陽太は両親を力強く見つめて言った。両親は笑顔で、大きくうなずいた。そのあと、前を向いた。はるか上に見える、ほのかな光のほうへ。
「それじゃあ……いってらっしゃああああああああああああああああああいいいいい!」
「いってきまあああああああああああああああああああああああああああすうううう!」
父と母は腕を思いっきり振り、陽太を空の彼方、光の差すほうへブン投げた。かすかに光っているだけの明かりがどんどん大きくなり、間近に迫ってくる。どんどん周囲が明るくなる。光が満ちる空間に飛びこんだ。ポータを通してみんなに語りかけた。
「待たせたな! みんなの声、しっかり届いたぜ! だから叫ぶ言葉はただ一つ! おもちゃにこめた夢を、みんなで叶えようゼ!」
美々も、燦も、子供たちも、おもちゃたちも、陽太も、みんな一斉に、夢を実現させるために叫んだ。
フィギュアッラーーーーーーーーーーーーーアアアアアイズッッ!!!
◆
光の爆発が天を衝き破る。雨雲が吹き飛んだ。夏の正午の太陽が、濡れたカイゼルエンペリオンを虹色に輝かせた。日輪から七色の煌めきがほとばしる。
雄々しく、猛々しく、凄まじく、勇大に、壮大。その姿、まさしく勇壮!
それを見て、この場の誰もが顔に、瞳に光を宿した。虹色に煌めく希望の光。
「なぜ立ち上がれる……ッ! なにをしたッ!?」
「オレは太陽、お天道さまだゼ。みんなの涙を照らして虹を作る男よォ!」
ラグナインパクトの拳を片手で受け止め、殴り返し、不敵な笑みでベガをにらみ返した。
爆音放つ殴打が炸裂する。ラグナイトはあまりの衝撃の強さに数歩あとずさりした。すぐに反撃しようとした。しかしできない。圧された。すさまじいプレッシャーに圧された。その正体は声。子供たちの天地震鳴するすさまじい勇壮絶叫が、ラグナイトにぶつかっているのだ。声のプレッシャーが全身にぶち当たる。前進できない。まともに動けない。カイゼルエンペリオンはその隙を見逃さなかった。声が追い風となって拳を加速させる。さらに拳を敵に刻みこんでいく。ラグナイトのボディはすぐにボコボコになった。
「パワー九〇万ッ!? バカなッ! なぜだあああああッ! なんで急に強くなったッ! どういうことだ!? いったいどうなってる!?」
あわてた。どうやって復活したのか。なぜ急激にパワーアップしたのか。このパターンはまずいと思った。いつもこのパターンで負けている。クソガキどもに勢いづかせてはいけない。圧倒して押し切るのだ! そう考えた。
「だが、どれだけ強くなろうとも、ワガハイには無限再生がある! キサマらがパワーアップしても、ワガハイはその上を行くッ!」
ラグナイトはさらにバグを吸収し、巨大化、パワーアップした。カウンターのサークルゲージが勢いよく回転し、数値を伸ばしていく。
「だから、勝つのはワガハイだああああああああああああああああああああああ!」
ベガは渾身の一撃を放った。先刻よりも威力を上げたラグナインパクト。もうクソガキどもには調子に乗らせない。そのはずだったのに、ラグナインパクトは周囲の光を吸収しきれない。暗闇にならないのだ。これがなにを意味するか。ベガは余裕をなくして恐れた。
ラグナインパクトは直撃した。防御も回避もしなかったから、簡単に真芯をとらえた。しかし、カイゼルエンペリオンはビクともしない。ベガは全力で殴り続けた。しかし少しも効かない。攻撃はすべて命中しているのに、まるで通じていない!
「バッ、バカなああああああああああああああああ!? なぜ倒れないッ!?」
「オレはなんもしちゃいねぇよ。もうまともに体を動かせやしねぇんだ。オレはただ、おまえを倒すと心に決めてにらみつけてるだけだ。おまえを殴るこの拳をにぎりしめてるのはみんなだ。みんなの力がこのカイゼルエンペリオンを動かしてる。だから倒れない。オレは間違っていた。カイゼルエンペリオンは、オレだけのおもちゃじゃない。みんなのおもちゃだ。オレだけで動かそうとして、真の力を発揮できるわけがない。オレたちみんなで動かすものだったんだ。今! みんなはヒーローになった! だからこのカイゼルエンペリオンは、ヒーローを超えたヒーロー、スーパーヒーロー、それをォ、さらにッ超えたッ! フィギュアライズヒーローズなンだ!」
オ レ た ち は ヒ ー ロ ー の 集 大 成 だ ア ア ア ア ッ !
カイゼルエンペリオンの止まらぬ拳。敵のボディをどんどん打ち砕いていく。しかしラグナイトはバグを吸収してすぐに再生する。ベガは笑みを浮かべた。無限再生さえあれば、勝てなくとも負けはありえない。しかしッ! カイゼルエンペリオンの拳は、その無限再生の速度を上回るッ! ラグナイトがへこみ、ひしゃげ、はがれ、ねじれ、砕け散る! ただ打っているだけの拳が、先刻のリボルビングナックルをはるかに凌駕する威力を持っている!
「おっ、おっ、追いつかない! 再生がっ、追いつかないッッ!」
このままでは負ける! ベガはあせった。窮地に立たされた。追い詰められた。余裕などまったくない。だが逃げるということは頭になかった。人間に敗北するなどプライドが許さない。たとえ死ぬとしても、勝って死にたかった。だから使った。グレートグレアのすべてを!
「ワガハイは勝つ! 絶対に! だからこれでとどめだァ! 惑星一つ分のエネルギー、あまさず使い尽くす! 滅せよッ! カイゼルエンペリオオオオオオオオン!」
「みんな、ブチかますゼェェェェェ! リボルビングッ! ナァックルウウウウウウウウ!」
みんなで必殺技を叫んだ。みんなのシャイニングオーラが一つとなって燃え上がる。絶えずその色を変え続ける万色の輝き。全員が勇壮絶叫し、そろって必殺の右拳を突き出した。リボルビングナックルとラグナインパクトが空間をブチ破るほどの衝撃波を放って激突する。
誰も負けるなどとは思っていなかった。しかしおよばない。倒しきれない。拳の威力は互角。カイゼルエンペリオンは少しも負けていない。空が万色の輝きと暗闇に二分した。二色はただひたすら押し合いを続けている。ミラがパワーを計測する。ラグナイト、九九万九九九九。計測限界。カウンターストップ。いまだバグを吸収し続け、パワーアップを続けている。しかし百万には到達しない。百万には壁がある。フォトングレアのパワーは百万を超えられないのだ。だからここが限界値。カイゼルエンペリオンも九九万九九九九。互角だ。このままではグレートグレアと無限再生があるベガのほうがスタミナで上回る。足りない。このままでは倒しきれない。百万、“メガグレア”に到達しなければ勝てない! 誰か、誰でもいい、あと少し、メガグレアに至るためのあと少しの力を……ッ!
◆
櫻井は家に戻った。おもちゃを探すために来た。玄関扉を開けようとしたが鍵がなかった。服のポケットを全部探したがなかった。なくした。クソッと言って、転がってた大きな石で窓ガラスを破った。窓の鍵を開けて土足で中に入った。ガラスを割ったのも、土足でカーペットを汚したのも、あとで片付ければいい。まっすぐ押し入れに向かった。中のものを全部出す。
「どこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだ!?」
箱のものは全部開けた。ダメだ、見つからない。捨ててしまったのか? そうかもしれない。ほかのは全部捨てたから、捨ててしまったかもしれない。しかし記憶が確かなら、それだけは捨てていなかった。押し入れの奥にしまいこんでいたから忘れていて、捨てなかったのだ。
「あったあああああああああああああああああああああああああ!」
見つけた! ついに見つけた! 小学校の入学祝い、家に帰るまで待てなくて桜吹雪の中で箱を開けた、両親に買ってもらったおもちゃ! ブレイブデッカー!
櫻井はそれをポケットに入れようとした。そこにはスタンガンがあった。
「こぉんなものおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
窓の外に向かって思いっきりブン投げた。スタンガンがガラスを突き破ってどこぞへと消える。子供を傷つけるものはいらない。自分がやりたかったのは、そんなことじゃない。ポケットの中にブレイブデッカーを入れて、ふたたび自転車に乗って、がれきでボコボコになった道を駆け出した。風と一体になって走った。
学校まで来た。カイゼルエンペリオンとラグナイトが拳をぶつけあっている。よかった。天道は立ち上がれたのだ。
余所見をしたせいか、折れた電柱にぶつかって盛大に転倒した。地面に倒れ転がりながらも、ブレイブデッカーを胸に抱えて壊れないよう守った。顔も腕も脚も傷を作って血が流れた。当たりどころが悪かったか、うまく歩けない。それでもまっすぐ子供たちのところへ向かった。そしてたどり着いた。激しい絶叫の嵐の中で、櫻井はポケットからブレイブデッカーを取り出した。しかしおもちゃはうんともすんとも言わない。
「やっぱりダメか!? ぼくがおもちゃを憎んでいたから、ぼくがキミをずっとしまいこんでいたから、キミは動いてくれないのか!?」
動かない。動かない。どれだけ願っても動かない。でもあきらめない。泣いて願った。
「聞いてくれブレイブデッカー。キミをしまいこんでいて悪かった。ずっと遊んでやれなかった。ぼくはおもちゃが憎かった。だから子供たちを傷つけてしまった。違うんだ。ぼくがやりたかったのはそんなことじゃないんだ! ぼくは子供たちを明るい未来に導きたい。ぼくは間違っていた。おもちゃを壊すのはなんのためか、そこを忘れていた。子供たちとその家族の笑顔のためだ。それを実現するには勉強が必要だから、勉強の邪魔をするおもちゃを壊したかった。でもそれは間違いだった。子供も親も、おもちゃで遊んで、笑顔になれたんだ。家族が幸せになる方法は、勉強して稼ぎのいい仕事をするだけじゃなかった。おもちゃでも家族は笑顔になれたんだ。ぼくとお父さんとお母さんは笑顔だったんだ。だから今はおもちゃを壊そうなんてちっとも思ってない。ぼくは子供たちを明るい未来に導きたい。子供たちが、なんの心配もせず遊んで、笑顔になれる世界を、大人として、作ってやりたい。ぼくはもう子供に暗い顔をさせたくないんだ! 子供の敵となって世界を作るのではなく、子供の味方となって作りたい! これがぼくの夢だ! だからお願いだよブレイブデッカー! ぼくに力があるのなら、それを天道に、カイゼルエンペリオンにッ! 送ってくれええええええええええええええ!」
ブレイブデッカーが輝いた。櫻井の右腕に桜のネクサスエンブレムが刻まれる。
子供といっしょにいてよろこばないおもちゃはいない。子供の夢を聞いてなにもしないおもちゃはいない。おもちゃは子供を裏切らないのだ。たとえ押し入れにしまいこまれようとも、また手に取って遊んでくれるのをずっと待ってる。だからブレイブデッカーは動く。しゃべる。輝く! 櫻井孝一の気持ちに応えるために!
「孝一! 孝一の気持ち、ちゃんと届いたよ! やろう! 子供たちの未来の笑顔のために! 孝一の力を、カイゼルエンペリオンに!」
「ブレイブデッカああああああああああああああああ!」
ぶわっと涙があふれた。想いが通じた。うれしかった。おもちゃが気持ちに応えてくれることが、こんなにもうれしいことなのかと感極まった。これで夢が叶う! 今度こそ、子供たちを明るい未来へと導くのだ! そのために、カイゼルエンペリオンに力を送る!
「天道! カイゼルエンペリオン! ぼくの力を、受け取ってくれええええええええ!」
櫻井は勇壮絶叫し、桜色のシャイニングオーラを放ち、おもちゃをぶん投げた。ブレイブデッカーは光り輝き、カイゼルエンペリオンと一体となった。
ミラはカウンターを見て驚く。サークルゲージがギュインギュインとけたたましく回転している。その数値、〇〇万〇〇〇〇! つまり、計測限界を超えた!
「超えたああああああああああああああああああああああ! 一〇〇万! キタ! 到達したッ! メガグレアだあああーーーーーーーーーーーーーーーーアアアアッ!」
カイゼルエンペリオンがさらにさらにさらに輝く。あまりに激しい光が、ラグナイトの体を打ち壊し、切り裂いていく。
「サンキュー、センセイッ! これで…… 夢 が 叶 う ゼ え え え ッ ! 」
拳が纏うフォトングレアが量と速度と熱を増す。一歩進む。一歩進む。拳で、体全体で、ラグナイトを押していく。強く熱い想いが、ラグナイトを討ち破る。太陽と虹の煌めきが暗闇の空を塗りつぶしていく。
惑星一つ分であろうとも、ただのエネルギーの塊では勝てるはずがないのだ。人間に負けたくないというプライドではダメなのだ。思い出を胸に、夢を持って打ち出される拳にかなうはずがない。想いの強さがまるで違う。ベガは、この子供たちに勝てるわけがなかった。だから今まで負け続けた。そして、今も負ける! 子供たちの明日への強い気持ちが勝つ!
「バカな、バカなァ! 惑星一つ分のエネルギーだぞ。惑星だぞ! なぁぜ負けるゥ!?」
「なにが惑星一つ分だァ! そんなもん大したことねェんだよォ!」
「ありえない! グレートグレアを持つワガハイが、ワガハイがァ! なんで、なんで子供のおもちゃなんかに! キサマらのおもちゃは、いったいナンなんだあああああああああ!?」
「わからねェなら、教えてやる……」
みんなは声をそろえてベガに言ってやった。
オ レ た ち の お も ち ゃ は … …
宇 宙 一 だ ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ッ ッ ッ ! ! !
その声、勇大! 壮大! 絶大! 夢あふれる一撃が、命と魂を超越した心の輝きが、敵の腕から全身を粉々に討ち砕いていく! ラグナイトを空の彼方に殴り飛ばした! 空の果て、オーロラを突き破り、どこまでもどこまでも、宇宙の果てまで、飛んでいく!
「クソガキなんかにィ! おもちゃなんかにィ! グレートエンペラーたる、このワガハイが負けるウウウウウウウウウウウウ!? グワアアアアアアアアアアアアアア!!!」
放たれたリボルビングナックルがカイゼルエンペリオンの腕に戻ると同時に、ラグナイト・ベガは天で花火のように虹をばらまいて爆発、消滅した。
空の雨雲が全部吹き飛んだ。夏の青い空が子供たちを照らす。ひらひらと雪のように舞い落ちる無数の光の粒。この明るい空がなによりの勝利の証だった。
「よッしゃアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
大歓声。湧きに湧いた。
カイゼルエンペリオンはボロボロと崩れていき、元のおもちゃに戻った。おもちゃは全部元通り、傷一つなくなった。陽太はおもちゃの山に落っこちた。子供たちは真っ先に自分のおもちゃを手に取り、感動を分かち合った。
体が動かない陽太を、大きくなったナックルが抱え起こす。陽太に燦が抱きついた。美々が抱きついた。ミラがそれを全部抱きしめた。
子供たちに向かって、櫻井は謝った。地面にひざをつき手をつき、額をたたきつけて土下座した。張り裂けんばかりの声で謝った。
「みんなっ! すまなかったっ! 本当に、本当に悪いことをしたっ! 申し訳ない! おもちゃを壊そうなんて、そんなことはもう二度としないっ! ごめんなさいっ!」
ナックルに抱えられた陽太が櫻井のほうに向く。
「よしてくれよセンセイ。オレたちも学校におもちゃを持ってきて、授業中に遊ぶとか、悪いことをしたよ。ごめんなさい」
兄ちゃんだけにやらせまいと、子供たちも謝った。櫻井のほうを向いて頭を下げた。
陽太は地面に一つだけ取り残されたおもちゃを手に取って、櫻井に差し出した。
「ありがとうセンセイ。センセイとコイツがいたから勝てた! ありがとう!」
櫻井は頭を上げた。陽太からブレイブデッカーを受け取った。
「ありがとうを言うのはぼくのほうだ。大切なことを思い出した。お父さんとお母さんが不幸じゃなかった、幸せだったんだとわかった。ブレイブデッカーがしゃべってくれた。こんなにうれしいことはほかにない。ありがとう天道。ありがとうみんな!」
全部終わった。おもちゃとの楽しい未来を邪魔するものはもうなにもない。これで、明日からも笑って生きていける。今度は櫻井も交えて、みんなで夢が叶ったことをよろこんだ。
「やあったああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
◆
夏の太陽が照りつける学校で授業が行われる。校舎はボロボロだから、校庭にホワイトボードと机を持ってきてやっている。
櫻井が「この問題わかる人!」と言うと、子供たちは青空よりも明るい声で「はいはい!」と元気よく手をあげた。
もう授業中に遊ぶものはいない。そういうことはやらないと約束して、おもちゃを学校に持ってきてもいいことになった。だから昼休みになると、みんなおもちゃを出した。いっしょにごはんを食べて、はしゃぎまわって遊んだ。いっぱいたくさん笑った。
陽太はナックルといっしょに、校舎の屋上で風に吹かれて寝転がり、のんびりしていた。空に浮かぶオーロラ越しに、宇宙の果てを眺めた。
「みんな楽しんでる。笑ってくれる。子供も、おもちゃも。これよ。これがほしかった!」
「夢が一つ叶ったな、アニキ!」
「おう! だがよぉ、まだだぜ。まだ。オレにはやりたいことがたくさんあるんだ。これからだ、これから! 全部かなえるまで、おまえには付き合ってもらうからな、ナックル!」
「おう! 火の中水の中、あのオーロラの向こう側だろうが付き合ってやるぜ!」
陽気なメロディが鳴った。デンワに出ると、燦が出た。
「兄ちゃん、出た! でっかいの! もうすぐ授業がはじまっちゃうから、あかりたちといっしょにやっつけて! おねがい!」
「まったくしょうがねぇなァ! よーしわかった、今すぐ行く!」
通話を切ってすぐさま立ち上がる。手を伸ばすと、ナックルがその手の中に収まる。
「さっそく付き合ってもらうぜ、ナックル!」
「よっしゃあ! 腕が鳴るぜェッ!」
校庭に集まった子供たちのそばにでっかいバグがいた。あいつだな。陽太は屋上のフェンスをさっと飛び越えた。ドォンと大地を揺らして校庭に降り立つ。おもちゃを持った子供の群れの中を突っ切って走る。
「ヒナ!」
「兄ちゃん!」
「天道!」
多くのものたちが走る陽太を熱いまなざしで見送る。先頭に立ってバグに対峙する陽太。
「さぁ、いくゼェ!」
オレたちはこれからも遊び続ける。最ッ高の友達とともに!
フ ィ ギ ュ ア ッ ラ ァ ー ー ー ー ア イ ズ ッ !
くぅ~疲れましたw これにて完結です!
どうでしたか!? 最高におもしろかったでしょ!?
わたしって、自画自賛をよくやるから、よく「じがじーさん」って言われるんです。
だれがじーさんじゃボケ!!!!!!! わしゃ美少女じゃわ!!!!!!
このかがやくピンクのツインテールとボインな乳と張りのあるケツが見えんのか!!!!!!
しつこくて申し訳ないんですけど、よかったらね、評価ポイントとかくれるとうれしいんですね!!!!!