【 黒の巨神像 ラグナイト 】
どうも~~~~!!!! 美少女で~~~す!!!!
わたしって、なんでこんなにかわいいのかなって、鏡を見てると思うんです。あまりにもかわいすぎるから。てへぺろりんこ。
だから知り合いの神さまに聞いたんです。
「あ、神ちゃま~? あーしぃ~、なんでこんなにかわいいンすかぁ~?」ガムくちゃくちゃ。
「それはね、前世がハゲたおっさんだからなんだよ」
フッッッッッッッッざけんなし!!!!! 聞かなきゃよかった!!!!!!!
前回のあらすじ!
おもちゃ壊れた! 先生むかつく!
「孝一よ。あれは持ってきたか?」
ナックルに討たれ、身動き一つできないベガ。
「これでいいんだな?」
櫻井はビー玉に似た光る珠をベガに見せた。この光る珠は、ナックルを破壊した時に出てきたものだ。つまり、ナックルの命。ソウルグレア。ベガはこれを手に入れるようにと、事前に櫻井と決めていた。
「おお! それだ! それを早くよこせ! ワガハイの口の中に入れてくれればいい!」
そう言って、あんぐりを口を開け、光る珠を飲みこんだ。すると全身が元通りになった。傷一つない完全なボディ。しかしそれだけではなかった。力が満ちあふれるのを感じる。急に回復したから体が軽く感じるなどという感覚をはるかに超えている。すさまじいエネルギーが全身を駆け抜けている。
「なんだこのソウルグレアは!? まるでグレートグレアではないか! これほど強大なソウルグレアであれば、あの強さもうなずけるというものだ!」
エネルギーを取り戻し、復活したところで、さぁ仕返しをしようと意気込んだ。しかしベガはミラたちとは違う方を向いた。ナックルのソウルグレアから、ある情報をつかんだのだ。
「これはイイ! 最高のシチュエーションではないか! そうか! ヤツらが持っていたグレートグレアはここにあったものか! 黒の巨神像、終末の騎士ラグナイト!」
ベガはミラたちを無視して、櫻井を背負い、黒の巨神像のところへ飛んだ。
ミラたちは復活したベガに気づき、戦闘態勢を取ったが、ベガの急激なパワー上昇を見て、即座に退散を決めた。ミラにはすぐにわかった。ベガが黒の巨神像を起動させようとしていると。エディをレーシングマシンに変形させ、時速三〇〇キロで来た道を戻った。
エディが走る背後で、巨大な黒い騎士鎧をまとった巨人が起動する。ゴッドハンドナックルの三倍、三十メートルはあろうかという巨体。黒の巨神像、ラグナイト。弩震弩震と地響きをを立て、逃げるミラたちを追いかける。速い。もうエディのうしろに張りついている。
「ひや~っ! さすが、あんだけでかいと足も速いな」
ミラはアクセルをベタ踏みにしてマシンを走らせた。このストレートのオンロードは、エディのマシンスペックを最大限に発揮できる場所。最悪の敵を前にして、究極の見せ場がやってきたこと、ミラとエディの心はウキウキと躍った。
「だがなぁ! あたしの愛車はレーシングマシンだぜ! ここが最大最高のかっこつけどころよォ! やるぞエディ! レーシングマシンであるおまえの力、見せてやろうぜ! 必殺! ライディングサンダーーーーーーーーーアアアアッ!」
エディはエンジンを激しく鳴らしてこれに応じた。
なんの法則性もなく撃ち出される光弾。それを華麗なコントローラさばきでグルングルンと左右に車体を回転させてよけるミラ。かなり乱暴な操縦をしているにも関わらず、エディは失速しない。ただコントローラをグルグルと動かしているだけではないのだ。アクセルとブレーキの加減とタイミングはもちろん、コントローラに多数配置されたボタンやツマミを過不足なく適切なタイミングで操作している。ギアのアップダウン。どのタイヤのブレーキをどの強さでかけるか。エンジンやブレーキの音からどの程度の無茶ができるか。路面の状態とそれに合わせた走行。それら全部まとめて把握し、四つ五つの複数の操作をどうするか、まばたき一回の間に判断している。超人的操縦だった。しかしこんなことはミラには造作もない。ここはオンロードのストレートコースだ。前を見る必要がない。バックモニターを見て敵の動きに集中するだけでいい。舌なめずりして瞳を燃え上がらせた。
エディが走ったあとには雷に打たれたようにバチバチとスパークが飛び散る。雷撃を放って縦横無尽に動き回る車体に、攻撃はまるで当たらない。
「エンジンとハートがあったまってきた! さぁいくぜエディ! 秘密兵器その四! フォーミュラーーーーーーーーフォーーーーーーーーーーームッ!」
コントローラのセーフティ解除スイッチをパチパチと押す。ボタンカバーを開け、Fの意匠が施された目立つボタンを押した。ヒロイックシャウトを響かせる。
エディがフォーミュラフォームに変形する。横に二つ並んでいたシートが縦一列になり、オープンホイールとなる。車高を下げ、極限まで空気抵抗を減らしたボディは突き刺すようなフォルムをしている。最高時速五〇〇キロを超える、その走る軌跡はまさに黒い稲妻!
ミラはエディが死ぬ前にこれをやりたかった。エディはずいぶんと長生きをした。寿命が近い。レーシングマシンなのにその力を使って輝くことはなかった。いつも暴れたそうにしていた。アクセルを踏みこんでいないのに、加速したくてうずうずしていた。ただの買い物だというのにエンジンをブルンブルン鳴らしてうるさくして、すれ違う人に怪訝な顔をされた。レーシングマシンとして輝く時を求めていたのだ。いつその時が来てもいいように、いつもエディを最高の状態にしておいた。何年も、毎日欠かさず。エディが望んだからというのもあるが、ミラは乗り物で走るのが好きだった。少しでも違う人生だったら、きっとレーサーになっていただろう。ミラにもマシンをかっ飛ばしたい気持ちがあった。二人は気が合っていた。二人は全力で走ることを夢見ていた。今この時のために今までの時間があったのだ。そう思った。だからこの時を全力で楽しんだ。今は夢を叶えている時間なのだ。
「かっ飛べえええええええええええ、エディィィィィィィィィィッ!」
あまりの速度と衝撃に、驚きうろたえる美々たちの言葉は耳に入らなかった。道の先だって見えていない。ただひたすら、加速し続けた。このまま走り続けたら、空間の壁を破壊し、異世界にでも行けそうだと思った。いや、行けるのだ。この加速の果てに、この世のどこでもない場所がある。ミラとエディにはそれが見えた気がした。エンジンが爆裂する音以外なにも聞こえない。道ではなく虹の上を走っているように見えた。これは明らかに別世界。空間の壁を突き破った向こう側へ、今まさに到達したのだ! 走るのは、楽しくてたまらない!
だが楽しい時間はあっという間に終わった。遠呂知大橋の終わりだ。ミラはコントローラを盛大に回し、エディはグルングルングルンと大きく何度もまわって、急停止した。ちょうどガス欠だ。これ以上は走れない。走るのが楽しくて気づかなかったが、美々たちはすっかりぐったりしている。速すぎて体に負担がかかってしまったのだ。はるか後方に黒の巨神像が見える。だいぶ引き離した。今は猶予がある。少し休んでから、ミラは言った。
「あたしはここで、巨神像の足止めをする。おまえたちは逃げるんだ」
「エディと二人で戦うの!? どう考えても無理でショ! エディには悪いけど、一人で足止めをしてもらって、ミラも逃げたほうがいいよ!」
美々が食ってかかった。ほかのものも続々と抗議した。
「フィギュアっていうのは、ホルダーが近くにいるほど力を増すんだ。逆に言うと、離れすぎるとフィギュアライズを維持できない。だからあたしもここにいないといけない」
「そんなぁ……じゃあ、みんなで戦いましょう!」
「エディ一人でいるのも、おまえたちがいるのもおんなじことだ。だったらおまえたちが逃げるほうがいい」
「そうかもしれないけど!」
陽太だけはなにも言わなかった。ナックルがいない自分は戦えない。ミラのそばにいても意味がない。だから反論できない。だがミラを一人にしたくない気持ちは強かった。
陽気なメロディが鳴った。ケータイデンワ、ポータだ。美々が応じる。子供たちからだ。内容は深刻だ。街中でバグが暴れまわって大変だから、助けてくれと。美々はこの場のみんなにすぐそれを知らせた。子供たちを助けに行かなければならない。みんなミラのそばにいたいのにそれができそうにもない。
みんなが口を閉ざす中、ミラが話した。
「あたしには夢がある。一つはマシンをかっ飛ばしたいこと。それは今叶った。もう一つある。それは、おまえたちの親になること。陽太と燦はもちろん、美々ちゃんもね」
「あ、アタシもォ!?」
「うんうん。だって陽太の嫁に来るでしょ?」
「そうねっ! ほかの誰にも譲る気はないわね!」
美々は顔を赤くして言う。
「ほら、美々ちゃんもあたしの娘ってことになるのよ」
ミラはエディをフィギュアライズさせる。
「あたしはおまえたちの親になりたい。親は子を守るものだ。守れなきゃ、親になれないジャン? あ、そうだ。親が子供にすることはまだあったな。おまえたち、おいで」
ミラは手招きをする。燦と美々がそれに応じた。
「親は子を愛するものだよな。今までさんざん家を空けて、ろくに親らしいことをしてやれないで、今さらなに言ってんだ、なにしてんだって思うかもしれないけど、悪いな、親のわがままを聞いてくれよ。ぎゅっとだっこさせてくれ」
燦を、美々を抱きしめた。それとほっぺにちゅーをした。
「おい、陽太。こっちおいでよ」
陽太は応じなかった。うつむいて、わなわなと肩を震わせた。ミラが今際の際みたいなことをしてると思った。これから死ぬから、心残りがないようにこんなことをしてるんだと思った。抱きしめられたら、心残りをなくしたミラはどこかへ行ってしまうと思った。だからおいでと言われても応じたくなかった。両親が死んだ時とそっくりだと思った。
「陽太ぁ」
「うるせぇよ!」
つらくなって、つい乱暴な言い方をした。また泣いた。
「やめてくれよ姉ちゃん! オレは父ちゃんも母ちゃんも死んだんだ! 二人の思い出があるナックルも壊れちまった! その上姉ちゃんもいなくなっちまうのかよ! やめてくれよ! 逃げるならいっしょに逃げようよ!」
ミラのほうへは向かずに、うつむいたまま叫んだ。背中を向ける陽太をミラが抱きしめて、頭をなでた。
「心配させてごめんな。でもあたしは死なないよ。ちゃんと帰ってくる。あたしは奇跡を司る女神、ミラ・クールだぜ。たとえ死んだとしても奇跡で生き返るさ」
「なにがミラ・クールだよ。ふざけんなよ……」
「だからだいじょうぶ。だいじょうぶだよ。ちゃんと帰ってくる」
「……ホントに?」
陽太はミラのほうを向いた。
「あたしはズボラだけどな、約束は守るぜ」
「わかった。姉ちゃん」
「おいおい、そこはママって呼んでくれよ」
「いや、だって、昔から姉ちゃんって呼んでるし、ママって恥ずかしいし。でも……ずっとお母さんみたいだと思ってた」
「ありがとう。そう言ってくれるだけで充分だ。うれしいよ。ありがとう」
陽太はぎゅっと抱きしめられ、胸に顔を埋めた。ミラの心臓の音が聞こえた。すごく懐かしい鼓動だ。どうしようもなく母ちゃんを感じた。これは否応なく、まぎれもなく母だった。
そのあとほっぺにちゅっとキスをされ、髪の毛がぐしゃぐしゃになるまで頭をなでられた。
「さぁ、おまえたちはそこの電車に乗って街へ帰れ。無人電車だからな。待ってくれないから早く乗れよ」
陽太たちは電車に乗る。ミラは乗らずに、じゃあなと手を振った。扉が閉まる。電車が発進した。最後尾の車両の窓からミラを見る。勇ましい背中。あの日の父ちゃんに似ていた。あれが、子を守る親の背中というものなんだろう。
電車はミラから遠ざかる。ミラは見えなくなった。エディも見えなくなった。巨神像の黒い影だけが見えた。でかい声が聞こえた。ミラの雄叫び、ヒロイックシャウトだ。一筋大きな閃光がほとばしる。電車は戦地からどんどん遠ざかる。もうなにも見えない。光ったあとどうなったのか。ガタンガタンと揺れる、誰もいない電車の中、座席に身を寄せあって座った。陽太が座り、そのひざの上に燦が座り、美々は陽太に肩をぴったりとくっつけて座っていた。絶対帰ってくると言っていたが、いなくなってしまう不安があった。それでさびしくなって、少しでもまぎらわせようとして身を寄せあった。みんななにも言わなかった。
◆
街はバグだらけだった。コンクリートが、アスファルトが、家、ビル、電柱、目につくあらゆる無機物が食い荒らされている。バグに立ち向かう大勢の子供たちは、陽太を見つけると続々と声をかけた。陽太はその子らを連れて、学校へ向かった。一時そこへ避難する。そこでどうするか考えることにした。
子供たちを集め、校舎の中へ逃げこむ。街中バグだらけなのに、子供たちは希望に満ちた顔をしていた。みんな、陽太がなんとかしてくれると信じていた。
「バグだらけになった時はどうなることかと思ったぜ」
「でも兄ちゃんが来てくれた!」
「兄ちゃんとナックルがいれば、こんなバグの群れなんてなんともねぇ!」
「兄ちゃん! これからどうするんだ!?」
子供たちの大きな期待がこもった瞳が一斉に陽太を見つめた。陽太は見栄を張ることも、かっこつけることもできず、苦い顔をして見せた。とても言いづらいが、言うほかない。
「どうすることもできない。逃げるしかない……」
子供たちは、陽太がこんな弱腰の言葉を言う姿を見たことがなかった。陽太はいつだって、自信たっぷりで、明朗快活で、みんなの前に立って引っ張っていく、そんな兄ちゃんだった。できないと言うより、どうしたらできるのかと言う人だった。そんな人が、「できない」と言った。ずしりと重いものが子供たちの心にのしかかる。
「兄ちゃんとナックルがいれば、なんだってできるでしょ!?」
「……ナックルは死んだんだ!」
ナックルの破片と、エンブレムをなくした右手を見せた。
子供たちは絶句した。現状がいかに絶望の極みにあるかを知った。表情がどんどん曇っていく。泣き出す子もいた。陽太はそれを見ていられず、顔をそむけた。子供たちに曇った顔をさせたことを後悔した。そんなの年長者のすることじゃない。でもほかになんと言えばよかったのか。誰もなにも言わなかった。空気がどんよりしてきた。それのせいか、空まで曇ってきた。気分と状況は最悪だ。
窓から外を見ると、大勢の大人たちがバグ相手に奮闘していた。警官に、軍人らしき装備をしたものもいる。ヘリが飛ぶ。機動戦車が走る。まるで戦場だ。無駄なのに、なにをしてるんだろう。核兵器だって効かない相手に、軍事兵器が効くわけない。兵器たちは次々とバグに食われていく。
「おれ、行ってくる! こんなの見てらんない!」
「そうだな! 戦える力があるのに、やらないのはかっこ悪いよな!」
子供たちは続々と立ち上がり、外へ出ようとした。それを陽太が止める。
「ダメだ! オレたちは逃げるんだ!」
「どうして!? 兄ちゃん、らしくないぜ!」
「それは!」
理由を話そうとした。その時、その“理由”がやってきた。
「ここにいたか! 天道おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
黒の巨神像。こいつが来るから、逃げなきゃいけなかった。
黒の巨神像は群がるヘリや戦車をものともせず、子供たちに迫った。
「都合よくおもちゃが集まってるじゃないか。破壊する……この、黒の巨神像、終末の騎士ラグナイトで! 破壊するッ!」
校舎と同じくらい大きな敵に、子供たちは恐れおののいた。覇気も戦意も失って、ただただおびえた。ホルダーのそんな姿を見て、フィギュアたちは、おもちゃたちは奮起した。自分に魂を与えてくれた大切な友達のために、戦わなければならないと思った。おもちゃたちは決意をホルダーに打ち明けた。「戦う。大切な友達のために」その言葉に勇気づけられた子供たちは、おもちゃを手に前へと歩み出す。どうしようもなく、ただ突っ立ってるだけの陽太の横を次々通りすぎて、黒の巨神像に立ち向かう。そして叫んだ。フィギュアライズ!
大勢のフィギュアと子供が、陽太の前で勇ましく戦っていた。しかしダメだ。ちっとも勝負にならない。フィギュアたちは力を高め、パワー四〇〇〇近くまで成長している。しかし巨神像のパワーは二〇万だ。束になってもかなわない。次々と倒れ伏していくおもちゃたち。戦えるものはすぐにいなくなった。おもちゃが壊され、悲痛の声がたくさん上がる。
自分より年が下の子供たちを前に出して、自分はうしろでなにもせず突っ立っているだけという状況、陽太には耐えがたい。自分こそが前に出て戦わなければならないのに。しかしなにもできない。
セラが倒れた。追撃が迫る。
「ダメですーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
燦がセラをかばった。追撃が燦を襲う。
「燦いいいいーーーーーーーーーッ!」
陽太は飛び出した。燦とセラを助ける。間に合った。助けられた。だが燦はケガをした。廃都でケガをしたばかりなのに。またケガをさせた。兄として不甲斐ないことこの上なかった。
しかしわかった。今自分がなにをすべきなのか。子供たちを前に出して、うしろで突っ立っているだけ、なんていうことをすべきでないことは確かだと言えた。
だから前に出る。
「オレがなにもしなかったから、ナックルが死んだ。オレが前に出なかったから、燦が傷ついた。前に出なきゃ。そうしないとナックルみたいに大切なものを失っちまう。オレは父ちゃんと母ちゃんに守ってもらった。姉ちゃんに守ってもらった。勝ち目がないのにオレを守ってくれた。だから今、オレは生きている。生きて、大きくなった。だから多分、守ってもらう時期っていうのが、終わったんだと思う。いつまでも子供でいちゃいけないんだ。オレは今、大人になるべき時が来た。前に立って子供たちを、燦を守る、そんな大人に、ヒーローになる!」
陽太は歩き出した。みんなの先頭に立って、巨神像と対峙した。首を上げて敵をにらみつける。ナックルの破片を右手でにぎりしめ、シャイニングオーラを放つ。巨神像の顔めがけて大きく飛び上がった。三十メートルの高さを上昇する。オーラの力かわからないが、超人的な跳躍だった。
「どぅあああああああああああああありゃああああああああああああああッッッ!」
そして殴った。力いっぱい、巨神像の頬を殴った。ちっとも効きやしない。
「おもちゃがなくなっても、まぁだ懲りないのかあああああああああああああ!」
激昂する櫻井。陽太を地面にたたきつける。そして、踏みつけた! ズドンと、地面に穴を穿つほどの力強さで、陽太を踏み潰した。
誰もが息を呑んで、悲壮に目を見開いた。
「ヒナ、うそ……ヒナ……ヒナああああああああああああああああああああ!」
「兄ちゃああああああああああああああああああああああああああん!」
大勢の悲鳴が空気を引き裂いた。
◆
「なんだここ。真っ暗だ……死んじまったのか? ここはあの世か?」
「違うぜアニキ」
「ナックル!」
「よおアニキ」
淡い光に包まれた、人間大のナックルが目の前に現れた。
「どういうことだ。死んだおまえがいるんだ。ここはあの世だろ?」
「バカ言っちゃいけないぜアニキ。オレは死んでない。アニキも死んでない」
「なんで死んでないんだ? ナックルは死んだと思ってた。壊されたし、ネクサスエンブレムだって消えちまった。ソウルグレアだってなくなった。生きてるとはとうてい思えない」
「おいアニキぃ、そりゃないぜ。オレが死ぬわけないだろ? オレはアニキが作った最強最高、宇宙一のおもちゃなんだぜ」
「でもよぉ」
「わりぃわりぃ。きちんと言葉にしなきゃ伝わらないよな。オレはどうにも、アニキとのキズナの強さに甘えて察してほしたがる。これくらい言わなくても伝わっていてほしいと思いたがる。悪いクセだ。違うんだよな。伝えたいことはきちんと言わないとな。言うぜ。いいか?」
「おう」
「オレたちおもちゃの魂は、ソウルグレアなんかじゃない。その証拠に、プレシャスメモリーがある! オレにはアニキとすごした何年もの記憶がある! それはすなわち、ソウルグレアを手に入れる前から、命はなくとも魂を持って生きていたということだ! ソウルグレアがあるから生きてるんじゃない。子供たちがおもちゃと遊んでくれるから、アニキがオレと遊んでくれるから生きてるんだ! ネクサスエンブレムなんかなかった頃からずっと生きてた! プラスチックのひとかけらにいたるまで魂がつまってんだよ! それをつめこんだのは、ほかの誰でもない、アニキだぜ!」
陽太はにぎりしめた手を開いた。ナックルの破片だ。壊れて、命を失ったようにしか見えない。しかし、この破片の隅々にまで、魂がつまっている。
「アニキだって死んでない。アニキは妹を残してくたばるようなヤワな男じゃないぜ。それはオレが一番よく知ってる。七年前の破滅の流れ星、あの時オレはアニキといっしょにいた。その炎の刺青が、アニキが死ぬわけがねぇ証拠なのさ! オレの自慢のアニキは死なない!」
陽太は自分の右半身にあるやけどの痕を見つめた。確かにそうだ。オレは燦を残して死ぬつもりはない。ナックルの言うとおりだ。
「オレも死なない! もしオレが死んだとしても、必ずよみがえる! なぜなら、おもちゃは子供を絶対に裏切らないからだ! 子供がおもちゃを手放すその時まで! たとえ手放されようとも、また手に取ってくれる時が来るのを、押し入れの中でずっと待ってる!」
「ナックル……」
「だからよぉ、アニキ、またオレを手に取ってくれ。死んだなんて言わないでくれ。またいっしょに遊んでくれよ。そうすりゃオレは、いつまでも生きていられる!」
「ナックル……オレは、おまえのホルダーにふさわしくないんだ」
「アニキ……!?」
「オレはまだ、おまえに自慢してもらえる男じゃない。おまえにだけ戦わせて、オレはうしろの安全なところにいる。みっともねぇし、情けねぇ。ダセぇだろ。こんなの、自慢できるわけがない。だからおまえのホルダーにふさわしくないんだ」
陽太の言葉を聞いていた。ナックルは言葉を返さない。
「オレは、超かっこいいおまえにふさわしい男になりたい。おまえが恥じることなく、自慢に思えるようなアニキでありたい。おまえにだけ痛いを思いをさせたくない。心だけでなく、肩を並べて、おまえといっしょに戦いたい。楽しいことだけじゃなくて、苦しいこともいっしょに感じたい。それだけじゃない。オレはかっこいいヒーローになりたいんだ。ナックルみたいなヒーローに。大人っていうヒーローに。ヒーローになって、子供たちを、燦を、大切なものを守りたい。そうすりゃ、おまえにふさわしいホルダーになれる。オレはやりたいことがいっぱいあるんだ。おまえといっしょなら、きっとその夢が全部かなう」
「アニキ……ッ!」
「だから、オレといっしょに戦ってくれ。これからもいっしょに遊ぼう、ナックル!」
「ああ! もちろんだとも!」
二人は友情みなぎるまなざしで見つめあい、がっしりと握手をかわした。
「ならば!」
「叫ぶ言葉はただ一つ!」
ナックルは光の粒となり、拳の中の破片に吸収された。破片をにぎった拳を天に衝き上げる。閃光を放ち、じりじりと焼きつくように拳に刻まれる太陽のネクサスエンブレム。
叫ぼう、夢を実現させる合言葉を!
フィギュアッ、ラーーーーーーーーーーーーーーーーーイズッッ!
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ホントにね、うれしいです。ハゲ味になります。
ハゲではない。
ハゲ増しのおたよりもね、あるとうれしいです。
ハゲは増さない。ハゲではないから。
励ましって言葉なに!?!? なんでハゲなの!?!? 増しってなに!?!?
明らかに悪意があるよね!?!?!?
この言葉を作ったのはだれだあああああ!!!!!