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【 ゴ ッ ド ハ ン ド ! 】

どうも~~~!!!! 美少女で~~~~す!!!!

ぜひね!! ぜひね!!! この【ゴッドハンド!】だけでもね!!! 読んでいってほしいんですね!!!!


前回のあらすじ!

超大ピンチ!

 強大な力の前に、次々と倒れていくフィギュアたち。ベガはとどめを刺そうとしない。バカにされた仕返しとして、苦痛を与えていたぶっている。

「どうだぁ、いい気分だろう? ワガハイは最ッ高の気分だぁ!」

 自慢の右腕を踏み潰されて悲鳴をあげるナックル。力を送るために気合を入れ続ける陽太。しかしパワーは上がらない。ナックルの悲鳴は止まらない。

 ベガはナックルを盛大に蹴飛ばした。ナックルは力なくゴロゴロと転がり、陽太のもとへ。陽太はポータでフォトングレアカウンターを見る。パワー一〇〇〇と少し。力は少しも上がらない。そんな不甲斐ない姿を見て、怒りのようなものが湧いてきた。

「ナックルっ! 立てっ! 立つんだ! オレたちがやらないと、地球があいつに取られちまうんだぞ! そんなことさせるわけにはいかないんだ! 戦えっ!」

「ダメだぁ、アニキ……力が……力が入らないんだ……」

 ナックルは全身に力をこめたが立ち上がれない。何度からだを持ち上げても地面に崩れ落ちた。苦しみに満ちた表情。声はかすれ、息も絶え絶えだ。全身ぐちゃぐちゃに壊れている。

 それを見ても、陽太はかわいそうとは思わなかった。いや違う。大切なおもちゃがぐちゃぐちゃに壊されて、なんとも思わないことなどあろうはずがない。陽太は苦しんでいた。悲しんでいた。しかしその気持ちを、無意識に押し殺した。戦わなければ未来がない。戦いをやめろとは言えないのだ。少しでもかわいそうと思えば戦う気持ちが折れる。涙を流せば戦う気持ちが折れる。戦う気持ちを折らないために、無意識に怒った。

「なんでだ……なんで力が入らない!? オレがこれだけシャウトしてオーラを出してるのに、なんで力が入らないんだ!」

 怒気をこめて言い放つ。

「オレだって、がんばってるよぉっ! でもダメなんだ……力が入らねェんだよぉ……」

 陽太に対して怒りがわいた。なぜだかわからない。それと同じくらい、さびしい気持ちにもなった。これもなぜだかわからない。戦いの最中に感傷的になってる余裕はないのに。

「おまえしか戦えないんだぞ! フィギュアじゃないと戦えないんだ! あいつらは核兵器でも傷つかないんだ! おまえしかいないんだよ! おまえがやるしかないんだよ!」

「ダメだって言ってるだろおおおおおおおおおおおお!」

 仰向けに寝返ったナックルの顔を見て、陽太は次に放とうとした言葉を呑みこんだ。

「泣いてる……のか……」

 ナックルは涙を流していた。パワーが急激に低下し、フィギュアライズが解けた。

 小さなおもちゃが、おえつ混じりに言葉をつむぐ。

「うっ、うぅっ……オレっ、オレだってっ、戦いたいっ! もっと強くなりたいっ! でもダメなんだよぉぉぉぉぉ……」

 悲しさとさびしさが苛烈を極めた。涙が止まらない。歯を食いしばって泣くのを止めようとする。しかしできない。一度タガが外れれば、押しとどめていたものがあふれるだけ。

「ごめんアニキぃ……ごめんんんんっ! オレっ、ヒーローっ、なのにっ、アニキが、一生懸命っ、作ってっ、くれたのにっ! 弱くてっ、弱くてっ! ごめんなぁぁぁぁっ! オレがっ、弱いっ、からっ、弱いっ! からっ! アニキにっ、アニキにっ! ううううっ! はずっ、恥ずかしいっ、思いをおおおお、させちまった!」

 泣いている。泣いている。ナックルは泣いている。必死に涙をこらえている。でも泣いている。涙を止められないでいる。

「弱い上に、こんなに、メソメソしてっ、女々しくてっ無様なところを! さらしてるっ! みっともねぇ! ダセぇ! かっこわりぃよっ! だからアニキが、オレを恥じるんだって、わかってても、わかってても! 女々しく、なっちまうんだっ! 泣いちまうんだよぉ!」

 声をあげて泣き出した。抑えきれなくなったものが、とうとうあふれ出した。

「恥ずかしいと思われるのがイヤだっ! だからなりてぇ! もっとかっこいいおもちゃに、もっと強いヒーローに、なりてぇ! またアニキにっ、自慢してもらえるような、おもちゃになりてぇ! アニキの自慢のおもちゃになりてぇ! そうすれば、そうすればっ! またアニキは、オレといっしょにリボルビングナックルって叫んでくれるっ! いっしょにっ、遊んでくれるっ! アニキといっしょに遊ぶのがっ、一番っ、うれしくてっ、楽しいんだっ! またいっしょに、遊んでほしいっ!」

 ベガが二人の邪魔をしようと動き出す。その前にミラとエディが立ちふさがる。

「今いいとこなんだ。邪魔するんじゃねェぞ」

 ナックルの悲痛極める心の叫びを聞いて、陽太はようやくわかった。ナックルの不調の理由。ナックルの気持ち。心を打たれた。涙が出た。

「そんな風に思ってたんだな……知らなかった。わからなかった。いや、知ろうとしなかった。わかろうとしなかった。オレは、おまえを無視してた。おまえを遠ざけていた。そんなつもりはなかったけど、きっとそうしてしまっていた」

 陽太にもおえつがこみ上げてきた。べそをかく。鼻をすすり上げる。涙があふれた。オレはとんでもないことをしてしまった。そう思った。

「オレは、大人になりたい。強くなりたい。燦を守れる、立派な大人に。もしオレが、恥ずかしいヤツだと思われるような、そんな大人だったら、燦がイヤな思いをするだろう。それはいけないと思った。オレに恥じるべきところがあるなら、それは直さなきゃいけないと思った。それ以上に、おもちゃで遊ぶ自分が恥ずかしいと思った。だって、大人は誰もおもちゃで遊ばないんだから。オレはおもちゃで遊びたい。でも恥ずかしい。せめぎあって、板ばさみになって、迷った。だから他人に訊いた。大人がおもちゃで遊ぶのは恥ずかしいか、大人になってもおもちゃで遊ぶかどうか。いろんな人に訊いた。オレはおもちゃで遊んでいいのかどうか、他人に判断をゆだねた! それはまちがいだった! オレのしたことは全部まちがっていた! 他人に判断をゆだねるなんてまちがってる! この悩みで、一番大切なのは、オレがどうしたいかと、ナックル、おまえの気持ちだった! でもオレは、おまえにじゃなく、他人に訊いた! どうでもいい他人に訊いた! オレは真っ先に、大切な友達である、おまえの気持ちを訊かなきゃいけなかった! そうするべきところで、オレは、おまえに向かって、おもちゃで遊ぶのは恥ずかしいよな、なんて言っちまった! バカ野郎! クソ野郎! そんなこと言うクソバカがあるかよ! どうでもいいヤツの気持ちを訊きに行って、その上大切な友達の気持ちをないがしろにした! こんなの、どう考えたってまちがってる! オレは悪いことをした! オレはいったいなにをやってるんだよおおおお、クソったれがああああああああ! ふざけすぎだろうが、クッソオオオオオオオオオオ!」

 地面にひざをつき、腕をつき、おでこをたたきつけて、陽太はナックルに謝った。それを涙して見つめるナックル。

「ナックルっ! ごめんッッッ! すまないッ! オレが悪かったッ! 許してくれッ!」

「アニキぃ……ッ!」

 ナックルの涙は強く激しく加速した。フォトングレアの涙はとてもきれいに光る。

 陽太は確固たる意志を宿した瞳で、燦と美々のほうを向いた。

「美々、おまえはいっつも恥ずかしい格好をしやがって。でもいっつも誇らしげに歩いてたな。その心意気、見習わせてもらう!」

「おお、そうしろ! どんどんアタシを見習え!」

「燦、オレはおもちゃで遊ぶ自分を誇りたい! ナックルが超かっこいいおもちゃなんだってことを誇りたい! 誰かがおまえの兄を、いい年しておもちゃで遊ぶ恥ずかしいヤツだと笑うかもしれない。悪いな、我慢してくれ!」

「我慢なんてしないよ! あかりといっしょにおもちゃで遊んでくれる兄ちゃんが大好き! おもちゃを自慢する兄ちゃんでいてほしい!」

「ありがとう、美々、燦!」

 ふたたびナックルを見つめる。

「ナックル、おまえの言葉を聞いて、はっきりわかった。オレの、おもちゃで遊ぶのは恥ずかしいという気持ち、これはまがいものだ。他人に植えつけられた偽物の感情だ。こんなもの、オレの心であるはずがない。だってそうだろう? オレは何年もずっと、おまえといっしょに遊んできた! おまえにはオレの思い出と夢がたくさん詰めこんである! ナックルはオレの人生だ! 恥ずかしいわけがない! おまえは強い! かっこいい! すげぇヒーローだ! この宇宙でたった一つしかない、オレの大切な友達、オレの大事なおもちゃだッッッ!」

「アぁニキィ……ッッ!」

 ナックルはうれしさが最高潮に達した。瞳を潤ませて顔を明るくした。体に力がみなぎるのを感じた。体を起こして、陽太に向かって飛び出した。陽太は、それをしっかりと抱きとめた。二人は人目をはばからず、お互いを抱きしめ、全身を使って、大泣きに泣いた。

「アニキはっ、オレの自慢だ! 最高のホルダー。最高のパートナー。最高の友達だ! オレは、オレはっ! これからもアニキの自慢のおもちゃでありたい! アニキといっしょに胸を張っていきたい! アニキ、オレといっしょに胸を張ってくれ!」

「ああ、もちろんだ! これからも、いっしょに胸を張っていこうぜ!」

「アニキ、ありがとうッッ!」

「おう!」

 ミラが二人のそばにやってきた。サッカーボールくらい大きなおにぎりを二人に差し出す。

「このおにぎりは、陽太の母ちゃんに伝授してもらったもの。秘密兵器その二だ。陽太の晴れ舞台が来たら、おまえに食わせろと作り方を教えてもらった。二人で食べな」

 陽太とナックルはうなずいた。おにぎりをはんぶんこにして、がつがつと勢いよく食べた。何日も食べていないほど飢えているのかと思うほどの食べっぷり。すぐさまたいらげた。

「ナックル、パワーは充分かッ!?」

「おうッ!」

「じゃあ……いっくゼええええええええええええええええええええ!」

 ナックルをにぎり、陽太は立ち上がる。泣きはらしていても勇ましい顔で、敵に向かっていく。そして天高くナックルを放り投げた。拳のネクサスエンブレムが光る。

「フィギュアッ、ラーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーイズッッ!」

 陽太はジュラルミンケースも放り投げた。今からこれを開ける。破壊するのだ。

「ジュラルミンケース。合金。すっげぇ硬い。だからなんだ! それがどうした! こんなものォ……ナックルとのキズナが刻まれたこの拳でぇッ! ぶっこわあああああああすッッ! これが、“兄さんいい男”の拳っだああああああああああああ!」

 陽太はジュラルミンケースの中心に向けて拳を突き出した。そこは、強化パーツが丁重に置かれている場所だ。もしジュラルミンケースを破壊するほどの力がこもった拳ならば、パーツまで破壊してしまうだろう。こんなことをすべきではなかった。しかしそうはならない。ならないのだ! ジュラルミンケースは壊れても、中のパーツは壊れない。陽太にはその確信がある!

 殴った。ジュラルミンケースにビキビキと亀裂が走り、中から閃光が飛び出す。ケースが砕けてはじけ飛ぶ。輝きを放つパーツが宙に浮かぶ。陽太はそれをつかみ、空にいるナックルに向けて投げた。

「天下武双合体! アームド、フュージョオオーーーーーーーーーーーーーーオオオンッ!」

 テンカムソーガッタイ! 二人が叫ぶ。ガキンッ! ガキンッ! と金属同士がぶつかる重厚音が響く。ナックルがその身に強化パーツを纏う。脚に、腕に、その体に!

「バカが! そんなことさせるか!」

 しがみついて妨害するエディを振り払うベガ。合体を阻止しようと、戦車砲を取りこんで巨大になったカノンをナックルに向ける。エディがその邪魔をしようとするも、ベガを抑えきれない。無情の光弾がナックルに迫る。

「合体中に攻撃!? 卑怯でショ!」

 着弾音が炸裂した。ナックルは合体の最中に攻撃を受けた。大きな塊が煙をあげて地面に墜落した。

「天道のおもちゃは壊した! これで天道は勉強ができる! なにものにも邪魔されない!」

 櫻井は声高によろこびを叫んだ。

 直撃を受けて墜落した。だがナックルが立ち上がるのを、皆が信じていた。これしきのことで倒れるはずがない。

 陽太は太陽のネクサスエンブレムから切り裂くようなまばゆい光がほとばしる。

「オレのおもちゃをぉ、ナメるなあああああああああああああああ!」

 逆巻く激風が黒煙を吹き飛ばす。弩震弩震と勇ましい地響きを立てて、ナックルが姿を現した。合体は完了したのだ!

 だから二人は、勇壮を極めて名乗る!

「ゴォッド! ハンッドッ! ナァックルーーーーーーーーーーーウウウッッ!」

 ついに完成した! ゴッドハンドナックル! 過去の思い出と、未来へと続く夢をこめて作り上げた、陽太の、人生の集大成!

 ほとばしる太陽のエネルギーが全身をかけめぐり、ナックルのボディをオレンジに染め上げた。凝縮を重ねてもなおまだ有り余るパワーが、腕、肩、脚、拳、すべてを巨大化させる。中でも特に大きいのは拳。この拳が放つ威圧感は神の鉄槌を思わせる。

 今、七年の時を越え、ゴッドハンドナックルは、その完全な姿をこの世に現した。

 二人はもう負ける気がしなかった。父が作った強化パーツ。母のおにぎり。そして陽太とナックルはキズナを取り戻した。このナックルにはあらゆるものが詰まっている。負けることなどあろうはずがない!

「体は大きくなったみたいだが、パワーのほうは足りんようだな!」

 ベガが不敵に笑みを作る。ベガのパワーが五万を超えるのに対し、ナックルのパワーは二万五〇〇〇程度。倍の差だ。急激なパワーアップには驚いたが、自分の優位は少しも揺るがない。この差をくつがえすことなどできはしない。笑みは揺るぎないものだった。

「だったら見せてやる。オレの、すごく、すごい、おもちゃのすごさをおおおおおおお!」

 陽太はこの上なく大きく空気を吸いこんでヒロイックシャウトした。

「パワーァブースタァーッオォンッ!」

 地面に向かって、空に向かって、雄叫びをあげる! 地の底から湧き上がるマグマが天を衝き破るがごとき雄叫びだった。全身の筋肉が大きく隆起した。炎の刺青から真っ赤な炎が噴き荒れる。心臓が大型マシンのエンジンのように稼動した。全身をめぐる血流がブワッと熱を上げ、稲妻のごとく加速した。オレンジのシャイニングオーラがバーナーのように激しく燃え上がった。灼熱の血液が影響し、絶叫の波動が大気を振動させたことで、空気は熱気を帯びて赤く燃え、気温を急激に高めた。体の中心、奥の奥から莫大な神経電気ニューロスパークが全身を駆けめぐり、皮膚の壁を突き破って空間にほとばしる。爆発する感情が、あふれる想いが、全身をめぐるニューロスパークを増幅、加速させ、体内に収まりきらなくなり、放電現象を起こした。ビリビリバリバリと激しい電撃を放ちながら、大気の壁を貫き、がれきの山を吹き飛ばす。とてつもない声量が、辺り一面に轟音を撒き散らし暴風を起こす。あまりにもすさまじい声の波動が景色をゆがませ、大地を鳴動させる。

 天が震える地が鳴る。名づけて、勇壮絶叫・天地震鳴!

 フォトングレアが二人のキズナをぶつけあう。ぶつかりあい、弾け、爆発し、途方もない量のエネルギーを生み出す! 二人の雄叫びが、ヒロイックシャウトが、パワーを爆発的に高めた。カウンターの数値が勢いよく伸び上がっていく。そのパワーは、二万五〇〇〇の三倍、七万五〇〇〇を超えた!

 壊したはずのおもちゃがまた歯向かってくることに怒った。増してや、おもちゃの合体など、幼稚極まる遊びだ。それを堂々とするなど、破廉恥に過ぎる。櫻井は許せなかった。怒りに燃え上がった。謝れば許してやるつもりでいたが、もうそれはない。教師として、子供を大人にする責務がある。だからこのおもちゃ、絶対に壊してやる! 櫻井は固く決意した。

「なにが合体だァ! 恥を知れ! 天道おおおおおおおおおおおお!」

 櫻井の、子供の気持ちをないがしろにした決意。顔から、声から、空気から、全身から、あらゆるものから、陽太はその決意を感じ取った。

 だがもう従うことはない。自分と友のために、戦うのだ!

「恥だと、悪だと、許さんと、罵りたいのならばいくらでもしろ! それが社会と世界の総意だとしても! たとえこの世のすべてを敵にまわそうとも! オレは、オレと友のために、心を譲ることはもうしない! だからッ!」

 胸を張り! 自慢し! 誇るためだけに! 陽太は勇みを上げる!

「なに一つ恥じることなどないッ! 傾聴せよ! 刮目しろ! その身に刻めッ!」


 こ れ が オ レ の 自 慢 の お も ち ゃ だ あ あ あ あ ッ !


 爆発が起きた! 爆発“的”という言葉ではすまない。正真正銘の明らかな爆発だった。オレンジと燃える炎のシャイニングオーラの爆発。巨大で爆大なシャイニングオーラが、辺り一面を覆いつくした。

「なんだこの暴風は!? なんだこの地鳴りは!? それに、熱い! 空気が赤い! 空がオレンジに染まっている!? いったいなにが起きてる!? これが全部、ヤツらが起こしたことなのか!? はっ!? なんだこのパワーはああああああああああああ!? な、な、七万五〇〇〇!? これがっ、これがァ!? おもちゃアアアアアアアアアアアア!?」

 超常現象と、巨大なパワーを前にして、ベガはうろたえた。敵が持つパワー、その圧倒的な強さに、ただただうろたえた。

「ブチかますゼえええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」

 ナックルがベガに向かって突進する。レーザービームのごときその挙動、目視不可! 

「グガガガガガガガガガああああああああああああああああああああ!」

 ナックルの拳を受け、盛大にブッ飛ぶベガ。空気の壁をつらぬくほどの勢いでがれきの山に衝突した。痛みに悲鳴をあげる。ナックルのあまりの速さに、防御が追いつかなかった。

 ベガは反撃した。ナックルに肉薄し、エナジーアックスを振りかぶる。しかし、アックスは空を斬るのみ。手ごたえがまるでない。確かに、ナックルを確かに斬ったはずなのに! 右にいたはずのナックルは、左にいた。と思えば次はうしろ。と思えば上。と思えば正面。確かにそこにいるはずなのに、そこにはいない。認識した瞬間にはすでに消えている。そして違う場所にいる。それを認識したらまた違う場所にいる。見てから攻撃したのでは、まったく追いつけない!

「残像だと!? バカな! 光を置き去りにするほど速く動いているとでもいうのかッ!?」

 ナックルは間髪を容れずに怒涛の殴打を浴びせた。一秒間に三十発はあるだろうが、それ以上は速すぎて、ベガには認識できなかった。とても全長十メートルの巨体が放つ速度とは思えない。たじろぐしかない。まるで対応できなかった。

 ナックルは特別力をこめた拳でベガを突き飛ばした。宙高く飛び上がり、右腕をかまえる。モーターと拳が超速回転。竜巻を起こし、オレンジのスパークがバチバチと放電する。

「オレたちの拳が唸りを上げるッ! 心が轟き咆える! 弾撃、討ー魂! ゴォッドハンドッ! リボルビングゥゥゥゥ……ナァックルーーーーーーーーーーーウウウッ!」

 魂を討ち抜く拳が撃たれた。オレンジのスパークを放ち、トルネードを纏った拳がベガに迫る。

「これなら、どうだああああああああああああ!」

 ベガは渾身の一撃を右腕のカノンから放った。勝利を確信した一撃。グレートグレアのエネルギーを引き出し、パワーを八万にまで高めた。それだけではすまない。光弾にグレートグレアのかけらをこめて、直接撃ち出した。絶対に勝てる! まかりまちがっても、この一撃が負けることはない! そう思った!

 だがしかしッ!

「んんぬなああああああああああああああああああああああああ!?」

 ゴッドハンドリボルビングナックルは、その一撃をたやすく粉砕したッッ! 拳の威力が減衰することすらなかった! ベガは驚きで声をひっくり返した。

 ――まさか! そんなバカな! グレートグレアのかけらを直接撃ち出したのに!

 拳が迫る。防御なんて考えていなかった。回避も間にあわない。直撃した! とっさに体をひねって避けようとしたが、左の上半身が、ごっそりと、ブッッ飛んだ!

 巨大なロボットたちの争いに、みんな息を呑んだ。ナックルが優勢であるのを見て、美々たちは威勢をとりもどした。握り拳を振って陽太とナックルを応援する。 いいぞーっ! いけえ! と、みんなの声援が轟いた。陽太とナックルはさらに勢いづいた。

「バカなぁ! こんなっ、こんなことぉ、あってたまるかぁ! はあああああああ!」

 ベガは負けじと、グレートグレアの力をより大きく引き出した。パワーが九万に届くほど大きく上昇する。しかし、陽太とナックルはさらに声量を増してそれに追随した。

「まァだだあああああああああッ! もっと、もっとだああああああああ! オレたちはぁ、上がるッッッ! そうだろオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

「ああッ! そうだともオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 二人の咆哮の嵐が、大気をさらに加熱させる!

「まっ! まだ上がるだとおおおおおおおおおおおおおお!?」

 またもベガは驚いた。敵の底なしのエネルギーに、はじめて恐怖した。いままで驚くことはあっても、恐怖したことはなかった。だがいま、はっきりと、自分の中に恐れがあることを自覚した。

 陽太はこの上なく自慢げな顔をして口を開く。

「残存エネルギーをすべて圧縮し、高速消費することで、パワーを爆発的に高める! 全身を循環するエネルギーを加速させることで、超高速攻撃も実現する! エネルギーを圧縮するんだから、当然すぐにエネルギー切れを起こす。しかし! フォトングレアのエネルギーは、オレたちの心が尽きない限り続く! つまり無限! これを超えることなどできはしないっ! これがパワーブースター! そして、オレたちのキズナだッ!」

 陽太は大見得を切って浪漫設定を披露した。二人は天地震鳴する勇壮絶叫を放つ。拳を握りしめ、筋肉を盛り上げ、汗をボッタボッタと地面に落とし、オーラの竜巻と爆発を絶えず起こし続けた。ナックルのパワーは、力を高めたベガをさらに超えるっ! 驚異! 驚嘆! 驚愕! まさにアメイジング! 陽太とナックルの凄味に、誰もがたじろぎ、仰天した!

 この無限にほとばしる力を見て、ミラが興奮する。

「すっ、すごい……っ! まだ上がるのかっ! これはきっと百年前の伝説の再現だ。白の巨神像が見せたという、とどまることなく上がり続ける無限の力、絆が起こす奇跡。ネクサスインフィニティ!」

 ミラはよろこんだが、楽観していい状況ではないと察していた。百年前の再現、ネクサスインフィニティだとしても、それは永遠に続く力ではない。パワーの上昇が無限でも、それが続く時間が無限ではない。つまり、この強大なパワーには時間制限がある!

 ナックルの怒濤の攻めが続く。ただパワーが増しただけのベガは、ナックルの動きにまるでついていけない。

 考えた。どうすればこのおもちゃの化け物を倒せるのか。今のボディではグレートグレアの力を最大限には引き出せない。そんなことをすれば、たちまち自分の体は爆散してしまう。これ以上のパワーアップはできない。それはきっとナックルも同じだろう。ナックルの力はいつまでも続きはしないだろう。心が無限の力を生むなど、なにをバカなことを言うのだ。絶対にエネルギー切れを起こすはず。ワガハイに時間制限はない。勝機があるとすれば、そこだ。

 ベガは持久戦に持ちこもうとした。ナックルのスピードには追いつけない。岩のように身を固め、高めたパワーをすべて防御に回した。

 しかし! 岩のように動かぬその姿、いまの陽太とナックルの前では、両腕を広げて裸をさらしているも同然だった! ただ防御にパワーを使っているというだけで、このゴッドハンドリボルビングナックルを、どうして防げると思うのかッ!

「パワーを拳に一点集中! ゴッドハンド! リボルビング! ナックルゥーーーアアア!」

 ギュオンギュオンギュオンッと圧縮に圧縮を重ねたパワーは、局所的に一〇万を超える!

「じゅっ、一〇万!? まずい! これはっ、防ぎきれないッ!」

 ベガはとっさに回避しようとしたが、間に合わない。

 拳を撃つその瞬間、櫻井がとびだした。ベガをかばう。陽太とナックルは、櫻井を避けるために、突き出した腕をとっさに空に向けた。拳は敵には向かわず、夏の空に浮かぶ、大きな白い雲を全部吹き飛ばした。

「ベガっ、今だああああああああああああああああああああああああッ!」

 櫻井は顔を憎しみに染めて叫んだ。ベガは防御を解いて進撃した。ここが、千載一遇のチャンスに他ならない。ナックルはパワーの大半を拳に乗せていたようだ。本体のエネルギーがほとんどない。

「フォトンッ、ショックカノォンッッッ!」

 ベガは渾身の一撃を放った。高をくくる、あなどる、見下す、それらをいっさいやめた。目の前の敵は、まぎれもない脅威であると認めた。グレートグレアのかけらをこめた。ゆえにフルパワー。最大限の一撃。

「ラミネーーーート、レイッヤーーーーッ!」

 ラミネートレイヤー。ナックルが持つ防御の技。左腕のエネルギーを開放する。左掌から五枚の五色に光る壁が展開し、ベガの光弾を防御した。が、ダメだった。光弾の勢いは止まらない。五枚の壁はガラスのようにまたたく間に砕かれた。光弾はナックルに直撃した。エネルギーが極端に減少している状態での損傷。ひとたまりもない。

「ナックルーーーーッ!」

 みんながナックルを案じて叫んだ。

「大丈夫だ。ナックルは負けない!」

 もくもくと煙が立ちこめる中からナックルが姿を現す。撃った拳が右腕に帰還する。立っている。負けていなかった。しかしただではすまなかった。左上半身がブッ飛んでいる。壊れた体から、流血のようにフォトングレアが噴き出している。大ダメージであることは明らかだ。

「ナックルのパワーが! 一万もありませんよ!」

 燦が心配する声を上げる。

「それはヤツも同じだ。ベガのパワーも一万を切ってる」

 美々がフォトングレアカウンターを見て言った。

「おそらく、次の“一撃”で決まる」

 ミラは固唾を呑んで汗を一筋たらした。

「アニキ、目が、見えねェ……」

 陽太はナックルの顔をのぞき見た。顔が壊れている。目の光が見えない。視界が潰されている。リボルビングナックルでなければ決定打にならない。当てなければならない。これは致命的だ。

 だが陽太は恐れない。退かない。

「ナックル、オレを感じろ。オレがヤツを見る。オレの感覚を感じ取れ。オレの目を通して、ベガを見るんだ!」

「よぉし、わかったッ!」

 ナックルが意気込んでリボルビングナックルを構える。

 次の一撃で決まる。これは櫻井も察していた。ベガが明らかに疲弊している。長く持たないことは明らかだった。憎いおもちゃが、生意気にも歯向かってくる。これが恨めしくてならない。櫻井は憎悪に満ちた顔で陽太とナックルをにらみつける。

「なにが合体だ……おもちゃが自慢とはなんだ天道! 一体どこまで幼稚になれば気がすむんだ! それは子供のすることだぞ! みっともないと思え! 恥じろ! 大人になれ!」

「うるせぇ! 恥など知るものか! オレが恥じたせいで、オレのおもちゃが、オレの友達が、泣いたんだ! 恥なんてくだらないことで泣かせた! 友達を泣かす大人になんかなりたくない! そんなことをするくらいなら、オ レ は 子 供 の ま ま で い い !」

 両者はシャイニングオーラを激しく燃え上がらせた。パワーが急激に上昇する。

「愚かなクソガキがあああああああああああああああああああああああ!」

「うるせええええええええええええ老害がアアアアアアアアアアア! オレたちが夢を叶えるための道だァ! 邪魔をするなら、この拳で圧し徹る! 道をあけろォ!」

 櫻井の憎しみに呼応して、ベガがフォトンショックカノンを構えた。

「ここだッ! エディ! 秘密兵器その三! フラッシュグレネードォ!」

 エディがグレネードを撃った。ベガのボディに当たる。即座に爆発。激しい光と音が、ベガと櫻井の視界と聴覚を奪う。突然感覚を失ったことで気が動転した。憎しみ、恨み、怨念、そうした想念に、不純物が混ざった。必然、シャイニングオーラのパワーが弱まる。攻撃を回避することも難しくなる。

「しまった! 視界がッ! これではヤツの技をよけられない!」

「いまだああああああああ! リボルビングナックルッ! ゼロオオオオオオオオ!」

 聴覚をふさがれていても聞こえた、陽太とナックルの叫び。ベガは飛び上がった。無我夢中で飛び上がった。目が見えない状態で、じっとしているよりは、そのほうが攻撃を回避できる確率が高いと、とっさに考えた。安易な考えに違いないが、この場合にほかに取れる手段はない。最善手だった。さらに、ナックルは目が見えないのだ。正確な狙いはつけられない。かなりの確率で回避が可能になる。理屈で考えれば、確かにのはずだった。

 しかし、この“一撃”は当たるのだ。そして討ち砕く。絶対に!

 このナックルの一撃には二人の魂がみなぎっている。この世の理と自然の法則をはるかに超越した力が宿っている。この力の前には、確率や計算といった数字など、なんの意味も価値も持たない。

 結局、ナックルには敵が見えなかった。陽太の感覚を感じ取ることはできなかった。見えなかったのだ。しかし、そこだ! という確信を持って拳を打ちはなった。敵が見えている必要などなかった。ただ陽太の心がそばにあれば、なにもいらなかった。

 かたや計算と数字と運が頼り。かたや確信と信頼と魂みなぎる一撃。勝敗は明白である。語るべくもない。この時この拳の一撃に勝るものなど、この世のどこにも存在しない。

 リボルビングナックルゼロ。直接敵を殴ったのち、ゼロ距離で拳を撃ち出す技。

 ナックルはブースターを噴き放ち、ベガに向かって猛然、突進した。迷いも淀みもない、心の澄み切った動き。目が見えている時よりもきれいな動きだった。まるで吸い寄せられているかのように、まったく無駄なく、寸分狂わず最短距離を飛び、ベガにつっこんでいった。モーターが唸りを上げる。ゼロ距離で撃ち出された拳が、ベガのボディを打ち砕く! 当たった! ナックルの拳は、ベガの真芯を確かにとらえた!

 二人が地面に墜落した。そこでパワーブースターが切れた。ナックルのパワーが急激に減少した。もう力はない。どうだ。倒せたか。やったか!?

 足りなかった。ナックルの拳はいま一つ足りなかった。装甲を砕きはした。しかしそこまでだった。ベガのソウルグレアを討つまでにはいたらなかった。

 ベガは、生きている!

「グワカカカ! どうやらあと“一歩”およばなかったようだなアアアアア!」

 反攻のアックスが、パワーを使い果たしてボロボロのナックルをこなごなに斬り砕いた。こなごなだ。燦たちは悲痛に顔をゆがめた。事実を受け入れたくないがために、みんながとっさに目をそむけた。カウンターを見た。パワーが残っていれば死んでいないとわかる。

 ゼロだった。

 つまり、目の前で起きたことはまぎれもない事実なのである。負けた、およばなかった、誰もがそう思った。

 燦は今にも泣き出しそうだった。

 セラは飛ぶのも忘れて、空から落っこちて尻もちを突いた。

 美々は美意識も忘れてガニ股であんぐりと口を開けている。

 ビビは剣を落として口元を両手で押さえて悲痛を悟られぬよう隠した。

 ミラは歯を食いしばって逃走手段を必死に考えた。

 エディは愕然として地面に突っ伏して倒れた。

 この場の誰もが理解した。いや理解させられた。敗北を。頭の中だけでなく、全身で。

 そんな、人間たちの顔が絶望にゆがむのを見て、ベガは勝利を味わい、ほくそ笑んだ。高笑いをして、高らかに勝利宣言をしてやろうと思った。

 しかし、あるものを見てとっさに笑いを引っこめた。おかしな顔をするものがいたのだ。誰もが悲痛な顔をする絶望の海の中で、灯台の明かりのように際立つそいつは、口元をつりあげて笑っている。

 この場にいるものの中で、陽太だけは、不敵な笑みを浮かべていた。

 ベガは一瞬だけいぶかしんだ。たったの一瞬である。〇・一秒にも満たない時間である。これは人のまばたき一回よりも短い時間。しかし、これが致命的な遅れとなった。

「リボルビング……ッ!」

 陽太は叫んだ。苦しまぎれに放つ声ではなかった。敗北を受け入れられずに放つ声ではなかった。強い確信と強い気持ちがこもった、生命の力がみなぎる声だった。

 ベガはこの一瞬と声で察した。理解した。いや理解させられた。

 ナックルは死んでいない!

 死んでいないどころではない。まだ力が残っている! いままさに、追撃を放とうとしている! 自分が持つフォトングレアカウンターは故障していたのだ! ナックルの力はゼロになっていない!

 ナックルの一撃は“一撃”ではない! 二つあったッ! この一撃は“双撃”の“一撃”ッ!

 土煙を吹き飛ばして、アーマーをパージした人間大のナックルが飛び出した。拳はオレンジのスパークを放ち、はちきれんばかりに回転している。

 遅かった。なにもかもが遅かった。ベガは遅かったのだ。回避しなければ、防御しなければ、そう思った時には遅くて、回避も防御もできなかった。

 絶望の海は、一瞬で陽の光をあびたように鮮やかに彩られた。この場の全員が希望の光を受けて顔を輝かせた。

「ナァッッックルゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーウウウ!!!」

 陽太とナックルは弩震ッと、“一歩”を踏みこんだ! およばなかった“一歩”を!

 全身全霊、命と魂の限りを尽くした渾身の一撃が爆発した。ナックルの拳が、ベガの真芯、そのさらに奥の魂を爆砕する!

 この一撃は、当たる! そして討ち砕く! 絶対に!

 大爆発。風が吹き荒れ、煙を吹き飛ばす。現れたのは、倒れた人間大のベガと、それを踏みつける、おもちゃに戻ったナックル。

 陽太とナックルは、太陽のエンブレムを天に衝き上げ、雄々しく勝利を見せつけた。

 みんなは勝利をよろこんだ。抱きあったり、ぴょんぴょん跳ねたり、ガッツポーズをした。

 ナックルに駆け寄る陽太。二人は、情熱こもるまなざしで見つめあい、お互いの手を取る。

 ことができなかった。

「おもちゃはああああああああ、壊あああああああああああああああす!」

 櫻井が飛び出す。握手を交わそうとしたナックルを横からひったくる。友達二人の手は重ならない。ともに一つのことを目指し、気持ちを合わせ、勝利したよろこびを、分かちあい、称えあいたかったのに。邪魔された。水を差された。阻止された。

「ああああああああああ! センセイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」

 陽太はナックルを奪い返そうと櫻井に殴りかかった。だが武術で瞬時にあしらわれ、逆に殴り返される。腹に打撃。背骨まで響くような衝撃。しかしまだ陽太は動けた。行動不能になるほどのダメージではなかった。ナックルを取り返そうと思えば、体を動かせた。しかしこの一撃は、恐怖を生み出すには充分だった。たった一瞬のことだが、陽太は恐れた。自分の体が傷つくことが怖くなった。その結果どうしたかと言えば、ナックルを取り返すために体を張ることをしなかったのだ。だから櫻井はナックルを壊そうとする。この上ない邪悪な顔つきで壊そうとする。たった一瞬とはいえ、陽太はこの邪悪に立ち向かうことができなかったのだ。

「おもちゃよ! この世から、消えてなくなれええええええええええええええええええ!」

 バキッ、バキバキバキッ! ナックルのプラスチックのボディに次々と亀裂が走る。

「アニキイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッ!」

「ヤああああああああああメロおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 バッキャアアアアアアアアンッッ!

 砕けて飛び散った。日の光を受けてキラキラ光る、たくさんの破片が落ちていく。

「ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 陽太は断末魔のごとき絶叫をはなった。後悔した。一瞬でも恐れに屈したことを後悔した。いま感じている苦しみに比べれば、恐怖などなんでもないことだった。立ち向かうべきだった。歯向かうべきだった。

 ――なぜそうしなかった。なぜやらなかった!

 陽太は心で己を深く呪った。

 おもちゃが大好きな子供にとって、おもちゃを壊されることは、とてつもなく悲しい。ナックルはこの宇宙にたった一つしかないおもちゃだ。母に誕生日にプレゼントしてもらい、父と改造した。両親の思い出がこもっている。こんなヒーローになりたいという夢をこめた。一番のお気に入り。これを壊された悲しみはただごとではない。しかし、壊されたのがナックルでなかったとしても、おもちゃを壊されれば泣いただろう。たとえ量産品だったとしても、お店で見て買った時のわくわくした気持ち、プレゼントにもらった思い出、説明書を見ながら四苦八苦した末に作り上げた達成感がある。同じものを手に入れたとしても、そんな気持ちは二度と味わえない。だから量産品であったとしても、絶対に宇宙でたった一つしかないおもちゃなのだ。量産品であってもそれなのだ。思い入れ深いナックルが壊れた悲しみは、心がブッ壊れるほどつらい。

 だから泣いた。砕け散った破片を手のひらに乗せて、そこに涙を何度も落っことした。

「ない。ない、ない、ない! おいウソだろおい! なんでないんだよ!」

 土埃がついて消えているだけかと思って、必死になってひっかいた。血がダラダラ流れて、皮膚の下の肉が見えるほどひっかいた。だが、なかった。

「太陽のエンブレムがないっっっ!」

 ナックルは死んだ! キズナは絶たれた!

 泣いた。泣いた。絶叫して泣いた。


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