【 廃都東京決戦! 】
どうも~~~~。美少女で~~~~す。
まじめに作品の話しま~す。
超もりあがってきました~。そんだけで~す。
それよりさぁ、聞いて聞いて?
わたしねぇ、ひさしぶりにバストを計ったら1センチも増えてたの!
すごいと思わない!?
ウェストは3センチ増えてたんだけどね。
なんでだ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
なんでバストだけ増えない!!!!!!!!!!!!!!!!
だれもしあわせにならないだろうが!!!!!!!!!!!!!
前回のあらすじ!
先生むかつく!
陽太は眠っていた。連日の騒ぎによる疲労感があって、あまり目を覚ましたくない気分だったが、体は起床時間を守ろうとした。目を開けようとしても簡単には開かないから、手でこする。すると、ぎゅっと、燦ごと誰かに抱きしめられた。むにゅっとした感触が陽太の顔いっぱいに当たる。しまった! 美々だ! 今日もやられてしまったのか! 連日とは不覚の極み! と思ったが、違った。
「おはよう。陽太」
陽太を抱きしめたのは美々ではなく、満面の笑みを浮かべるミラだった。
「姉ちゃん! なんでオレのベッドにいるの!?」
陽太は燦を起こさないよう、小声で抗議した。
「つれないなぁもう! 子供といっしょに寝るのに理由がいるかい? むしろいっしょに寝ない理由のほうが必要だよね? それと、姉ちゃんじゃなくてママって呼んでね」
ミラもまた、燦を起こさないように小声で言った。
「あーっ! ミラ! あんた、アタシのヒナになにしてんの!」
美々が窓から侵入して部屋に現れる。怒った顔をしてミラを指差し、やはり小声で言った。
「いーや、陽太はあたしのもの。あたしの息子だから」
「だからぁ! アンタは高校生の子供がいる年じゃないでショ! 仮にアンタの息子だとしても、アンタのものじゃないでショうが! ヒナは、アタシのものだから!」
「オレはおまえらのどっちのものでもねェよ」
二人は陽太の抗議の声を無視して話を続ける。
「男の子というのは母親のものなのだよ。女の子もだけど。男の子は特に」
「はァ!? わけわかんないこと言ってんじゃないわよ!」
「とにかく、陽太はあたしのものだから。それを、自分のものだなどと声を上げる女がいるのであれば、それはもう戦うしかないジャン」
「望むところだ。アンタを倒すために毎日鍛えてるワケよ!」
二人は部屋を出てリビングに向かう。おもしろいのでそれについていく陽太。二人はテーブル越しに向かい合わせに立ち、ひじを乗せ、がっしりとお互いの手を握った。腕相撲である。
「今日こそヒナをいただく。母の呪縛から解き放ち、名実ともにアタシのものにする!」
「いくら鍛えても無駄無駄。母の愛からは逃れられない!」
眠い目をこすってこれをながめる陽太だが、いつまでもはじまらない。
「ちょっとヒナ、スタートの合図してよ」
「オレが?」
「アンタ以外いないでショ」
「勝手にしてくれよ……なんでオレが。オレがなんで」
「陽太、あたしからもお願い。言ってわからぬ子には体に教える必要があるのよ」
「姉ちゃんまでなに言ってんだ」
「ママって呼んでって言ってんジャン? あたしはあんたの生みの親じゃないけど、おむつを替えたことは何度もあるし、母乳は出ないけどおっぱいをほしがるあんたに吸わせてあげたこともあるんだからね。これはもう立派な母親ジャン」
またはじまった。ミラの母親アピールである。陽太はあきれるしかない。たまにこういう頭のおかしいことを言い出す。やめてほしい。
「オレ以外の人がいる場所で、そのおむつとかおっぱいとかのエピソードを話すのはやめてくれよ! 恥ずかしすぎるだろ! とにかくさぁ、腕相撲がしたきゃ好きにしてくれよ。なんでオレが合図をしたり審判みたいなことをしなきゃならないんだ」
「美々ちゃん、先にこいつを“やっちゃおう”か」
「そうね。“やっちゃおう”」
二人は組んだ手をほどいて、陽太の前で肩を並べる。
「さぁ、その身に余る愛を受けよ! 陽太ァ!」
「え、え、え、え……ゲェーーーーーーェェ!」
二人は陽太に襲いかかった。飛びかかり抱きつき押し倒す。陽太はもがくもまるで抵抗できない。腕と脚を閉じるも、無理矢理こじ開けられ、上半身下半身余すところなく、惜しみない愛情をそそがれてしまった。美々もミラもおっぱいが暴力的に大きい。いや、この弾力とやわらかさは、暴力“的”ではすまない。“暴力そのもの”である。世界にはこの二人以上に大きな胸を持つ人がいるだろうが、美しさを兼ね備えていることを考えると、二人にかなうものは存在しなくなる。それが襲ってくるというのは、男にとってこれ以上の脅威はない。
陽太がなぜ毎日鍛えているのか。燦のため以外に、この暴力に抗いたいという気持ちもある。かなりハードなトレーニングをしている。毎朝時速二〇キロでランニングするし、握力はハンドグリップ七〇キロを余裕でこなす。ベンチプレスは一〇〇キロを超える。しかしかなわないのだ。これだけ鍛えてもかなわない。それがこの二人である。
どちらか一人だけなら、なんとなかなる。しかし二人同時となると、もうダメだ。あきらめるしかない。どんなにあがいてもダメだ。この愛の暴力の前には屈するしかない。
さんざんもみくちゃにされた。全身あらゆるところを密着させられた。特に乳。巨乳恐怖症になりそうなくらい顔に圧しつけられた。服を脱がされ全身にキスされた。
天道陽太、齢十六にして悟る。愛とは暴力である。
「はぁー、愛した愛した。すっきりしたァー!」
「いやぁ、朝からこんなに愛しあうなんて、すがすがしいなァ!」
「いや、愛し“あって”はいないだろ……」
気持ちの良さそうな、晴れ晴れとした顔をする二人を尻目に言う。
「さて、じゃあ決着をつけよう。ヒナを愛する女は一人でいい」
「息子に寄ってくる女の挑戦、母はすべて受けて立つ!」
二人は再びテーブルにつき、合図なしで腕相撲をはじめてしまった。
「やっぱり合図いらねーじゃん……」
ぐぎぎぎぎぎと歯を食いしばり、明らかにフルパワーをくりだしている美々に対し、表情を崩さず笑みを浮かべるミラ。
「美々ちゃん、さらに力を上げたね。よくがんばってる。でもまだだ、まだ足りんよォ! 美々ちゃん! この母の愛を打倒するには足りぬゥ! 今日も我が愛の嵐、ラブハリケーンの前に倒れよ、美ィ々ィィィィィィィ!」
一気に美々のほうに腕が倒れる。陽太は負けたなと思った。今日もミラの勝ちだ。
「ぐんぬぬぬぬぬぬぬうううううう!」
美々は顔を真っ赤にして汗をボタボタ落として、ふんばり、こらえた。拳はテーブルについていない。髪の毛を束にして自分の手を持ち上げている。ずるいが、まだ負けていない。
「ちょっと! 髪の毛使うのはルール違反でしょ!?」
「ふざけんじゃないわよ筋肉ダルマゴリラ女ァ……あんたのその腕力のほうがよっぽどルール違反でショうが……ッ! 現に髪の毛使ったって勝ててないんだから。両手は使ってないからルール違反じゃないワケ……ッ!」
髪の毛を使ったら反則負けというのは確かに聞いたことがない。
「ゴリラについてこられる美々ちゃんもかなりゴリラジャン。まぁいいだろう。ズルいことをしたって、母の愛にはかなわないということ、その身で思い知るがいい! ラブ、ハリケエエエエエエエエエエンッ!」
「ヒナを好きな気持ち、誰にも負けるものかあああああああああああああああああ!」
ボオッと美々から激しいピンクの光が噴き出す。シャイニングオーラだ。美々の腕がぐおんと跳ね上がる。今度は美々が押した。ミラの手がツきそうになる。
「ちょっ、なんでオーラ出てんの!? しかもすごく強くなってる! シャイニングオーラにそんな効果はないよ!?」
ミラはうろたえて必死にこらえる。はじめ余裕の顔を見せていたが、今は汗を落とすほど力んでいる。あまりの迫力に寝起きの陽太はついていけない。
「お母さん! 息子さんをアタシにぃ……くださああああああああああいいッッッ!!!」
すさまじいプレッシャーが、シャイニングオーラとなって放たれる。リビングを破壊しそうなほどだ。ボアッボアッボアッと激しい周期で発している波動が家具を揺らし壁をきしませる。あまりのすごさに、陽太は美々の勝利を確信した。
「ダメだあああああああ! 息子はやらああああああああああああああんんんッッッ!」
バゴオオオンッという激しい音を立ててテーブルが砕け散った。勝負は一瞬で決着した。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
美々はオーラを消し、前のめりに倒れた。それを抱きとめるミラ。美々の負けだ。
「うれしいよ美々ちゃん……あたしの息子をこんなに好きになってくれて……ありがとう」
ミラはほろりと涙をこぼした。陽太にはまるで理解できないが、どうやら感動的なシーンらしい。わけわからん。ドン引きした。
「いや、おまえら、テーブルをコナゴナにしてんじゃねぇよ……朝メシどうすんだ……」
美々は力尽きてるし、ミラは感動してるらしく、嗚咽をもらしながら涙を流している。陽太はあきれた。壊れたテーブルを片づける。これはもう今日の鍛錬はできないなと思った。
壊したヤツらにも手伝わせて、テーブルの片づけをした。七時が近い。陽太は急いでごはんの支度をした。燦がやってきた。セラを頭の上に乗っけて目をこすっている。
「みんな、おはよーございますー……ほわぁ~」
燦は真っ先に陽太に抱きついた。優しく笑って頭をなでてやる陽太。
「おはよう。ごはん作ってるから、待ってな」
「燦もごはん作る。たまご焼き」
燦は顔と手を洗うと、たまご焼き用の四角いフライパンを出した。たまごを十個も割ってかきまぜ、砂糖と塩をてきとうにざーっと入れ、熱して油を引いたフライパンにときたまごをじゅわーっと乗せた。
「わたしも手伝います~」
セラはにこにこ笑って、はしをつかんで焼けたタマゴをクルクルとひっくり返していった。
「セラは箸なんか持ったことないのに、その小さい体で器用にこなすなぁ。すげぇ」
陽太が感心してセラをながめる。
「えへへ、お兄ちゃんにほめられると照れちゃいます~」
セラは両手を頬にあててうれしそうに体をくねくねさせる。
「あー! 兄ちゃん、あかりは!? あかりはほめてくれないの!?」
「ごはん作るの手伝ってくれてありがとな」
そう言って燦の頭をなでた。燦は満足そうに笑みを浮かべる。
ミラと美々が新しいテーブルを持ってくる。
「ヒナ! なんで女子のアタシたちがどでかい木のテーブルを運ぶっていう重労働をして、アンタが料理をしてんの? これ普通は逆じゃないワケ!?」
「おまえが料理できるんだって言うなら変わってやってもいいんだがなぁ? あぁ~オレも男らしく重労働がしてぇなぁ?」
ヘラヘラ笑いながら言う陽太。こんなことを言われたら料理ができない美々には言い返す言葉がない。歯がゆい思いをしてぐぬぬとうなった。
それからほどなくして料理ができあがり、テーブルにドン、ドンと続々料理が置かれていく。みんなそろってるか確認する燦。ナックルの姿が見えないことに気づく。
「あれれー? 兄ちゃん、ナックルがいないよー?」
言われて、リビングを見渡す。ナックルがいない。
「燦、探してきてくれるか? オレはごはんをテーブルに並べてるから」
陽太は無意識にそう言った。この言葉に、周囲は違和感を覚えた。はっきりとおかしいとは思わなかったが、いつもと違うものを感じた。しかしそれを気に留めるものはいなかった。
燦はセラを連れて家中を駆けまわった。しかしナックルは見つからない。
「ど~こ~?」
クローゼットを開ける。
「ど~こ~で~す~か~?」
物置を開ける。
「い~ま~せ~ん~か~?」
トイレのフタを開ける。
「って便器の中にいるわけないですよー」
とうとう家の中にはいなかった。
「いませんねぇ」
「庭に行ってみようよ、あかりちゃん」
芝が広がる庭に出てみるとすぐに見つかった。ナックルは大きい姿でなにかしている。
「なにしてるんですかー?」
燦はしゃがんで頬杖をついて、ナックルを見上げた。
「特訓、っだよ……オレは、もっとっ、強くならなきゃ、いけないんだ……」
ナックルは汗を流し、息を切らしながらそう言った。どこから持ってきたのか、分厚いコンクリート板を次々と拳で打ち壊していく。
「ナックルはすごく強いじゃないですか」
「こんなんじゃ足りないんだ。もっともっと強くないと。オレは誰にも負けない強いヒーローになりたいんだ」
ナックルはコンクリート板を縦一列にたくさん並べ、深呼吸し、腰を落として拳を突き出す。この一撃でコンクリートは一気に壊れるが、すべては壊せない。
「足りない。届かないんだ。もっと強くならなきゃいけないのに」
「なんで強くなりたいんですかー?」
「オレは宇宙で一番強いんだ。最強無敵のヒーロー。そういう設定なんだ。でも実際はそうじゃない。負けた。勝てなかった。強くなりたい。オレはアニキがくれた設定を実現したい」
「なんで兄ちゃんが作った設定を実現したいんですかー?」
「なんでって……」
恥ずかしくて、ナックルは言えなかった。無言で、またコンクリートを並べて一気に打ち壊した。やはり一度にすべては壊れない。それを見ていた燦が、ナックルの目の前にぴょんと立って口を開いた。
「特訓はとりあえず休憩にしましょー! ごはんができたんですよ! きっとおなかいっぱいになったら全部いっぺんに壊せますよー! だからいっしょにごはんを食べましょー!」
「そうですよ~。兄さんもいっしょにごはん食べましょうよ~。みんないっしょじゃないといただきますできないんですよ~? だからいっしょに来てくださ~い」
「え、おい、ちょっと!」
セラは大きくなって、燦といっしょにナックルの両腕をひっぱっていく。ひきずられて食卓に座るナックル。少し気まずい思いでいた。強くなれた実感がないまま、陽太のそばにいることがつらかった。胸を張れず、うつむいて猫背になる。
みんなそろって食事をはじめた。はた目から見れば、わいわいと非常に楽しそうな風景だった。しかし陽太とナックルだけは、浮かない気持ちでいた。
食事が終わって後片づけをする。その最中にミラが口を開いた。
「おまえたち! 今日は作戦会議をするから、学校は休みだ! もう連絡してある!」
作戦会議という言葉にわくわくして、燦はテーブルに手をついてぴょんぴょんと跳ねる。うさ耳が揺れる。
「作戦会議!? おもしろそうですー!」
◆
「なぁんだこれ。すげぇ……」
一同は絶句した。ヒーロー映画の秘密基地そのものが目の前に広がっているからだ。広くて黒い部屋に黒いツール類、黒いもので統一されている。高い天井には大きな円形ライトがいくつも並ぶ。赤青黄白黒などカラフルなケーブルがむき出しのコンピュータ類、デスクの上にたくさんあるディスプレイ、壁そのものとなっている大型モニター。金属加工に使うドリル、旋盤、プレス機。ターンテーブルの上にはミラの愛車、レーシングマシンである“エディ”が停められている。ほかにも車やバイクが何台もあって、魔法時代の遺産∧アンティーク∨であるフォーミュラマシンまである。大きなデスクがいくつもあり、そのすべてが、乗り物のエンジン、タイヤ、小型ロボット、電子部品、研究機材のようなもの、なにかの設計図と思しき図面などであふれている。
「ようこそ、我がカウンターインベイジョンベース、CIBへ!」
一同はミラに座るよううながされ、椅子に腰かける。
「かうんたー、なに?」
燦が聞き返す。
「カウンター・インベイジョン・ベース。反、侵略、基地。おまえたち、昨日ガイアークと戦ったよな? あたしはあいつが地球にやってくることを知っていた! だからここで、何年も研究と開発をくりかえしてきた! ここはガイアークと戦うための基地なのだよ!」
ごほんとのどを整え、ミラは言葉を続ける。
「話は単純だ。我ら地球人とフィギュアの目標は、侵略宇宙人ガイアーク、ベガの打倒だ! 敵は一人であることがわかっている。こいつさえ倒せばよいのだ!」
みんなうんうんとうなずいて話を聞く。
「ベガも言っていたが、こいつの狙いはグレートグレアだ。これを探してる。幸い、どこにあるのか、詳しい位置を知らないらしい。このチャンスを逃す手はない。だから、今日、あたしたちがグレートグレアを手に入れる! 廃都、東京で!」
ミラが大げさなアクションでリモコンをピッと押すと、壁一面のモニターに日本関東南部の地図が表示された。巨大人工浮島、伊予から伸びる遠呂知大橋の先にある東京が強調されている。ここにグレートグレアがあるよ、と画面の中でデフォルメされたミラが言っている。
「なんでグレートグレアが東京にあるんですか?」
セラが質問を投げた。
「いい質問ですねぇ! それは、東京で戦争があったからなんだよ」
「え、東京戦争って、ガイアークが絡んでるの?」
美々が言う。
「その通り! 今から昔話をするから、そこでちゃんと説明するよ! モニターを見ろ!」
唐突に大画面でアニメがはじまった。
昔々、百年くらい前、地球は平和でした。日本人は、伊予ではなく本土で生活していました。髪の毛が今ほどカラフルではなく、みんな真っ黒でした。オーロラもありません。科学技術が栄え、魔法のようであるとして、今ではこの時代を魔法の時代と呼んでいます。
そんな平和を破壊するものが現れました。ガイアークです。彼らは空から降ってやってきました。地球の外の惑星から来たのです。
彼らは地球人の文明をことごとく破壊していきました。地球人にこれを防ぐ手段はありませんでした。なぜなら、兵器がなに一つ通用しなかったからです。
地球人は最後の手段に出ました。核兵器です。大地が汚染されてしまっても、ガイアークを倒すべきだと判断しました。核兵器によって大爆発が起こります。しかしガイアークは無傷。地球人は降服を迫られます。
しかし、地球人は逆転しました。たった一人の少年と、その少年のおもちゃ、アクションフィギュアが、この戦況をひっくり返しました。少年のおもちゃが、“フィギュア”として覚醒したのです。少年とおもちゃの活躍によって、世界中であらゆる人工物、作品、人の強い想念がこもった、いわゆるアーティファクトが、“フィギュア”として一斉に覚醒しました。
“フィギュア”がどうしてそう呼ばれるようになったのか、それはこの少年のおもちゃが最初に覚醒したからです。周囲の人たちが、この動いてしゃべるおもちゃをフィギュアと呼んでいたのが由来なのです。
核兵器でもかすり傷一つないガイアークを、フィギュアたちは次々と倒していきました。この戦いはどんどん拡大し、戦争となりました。
この戦争を終わらせるため、ガイアークは∧巨神像∨オベリスクを起動させます。全長三〇メートルにもおよぶ人型の巨大兵器です。グレートグレアを丸々一つ使って動かすこの兵器の強さは格別でした。
地球人とフィギュアたちは力をあわせ、絆の力で∧巨神像∨オベリスクと同じ巨大兵器∧白の巨神像∨を生み出します。日本では∧白の巨神像∨と∧黒の巨神像∨が戦いました。これが東京戦争です。
戦争は∧白の巨神像∨の勝利でした。世界各国でも、地球人の勢力が勝ちました。
しかし、ガイアークの∧巨神像∨はすべて自爆しました。グレートグレアは惑星一個分のエネルギーがあります。このパワーを使った自爆はとんでもないものでした。世界各国の地球勢力の∧巨神像∨は、自らの命を使い尽くして、この自爆を押しとどめ、被害を減らしました。そのおかげで地球は守れましたが、地球文明は壊滅的打撃を受けました。
地球勢力のフィギュアたちはみんなフォトングレアの粒子となって消えました。この輝きが空にオーロラを作り、あらゆる生物を進化させました。進化と言っても、人類の場合は髪の毛と目の色がカラフルになっただけです。
科学文明を失った人類は、異常進化した動植物に対処できず、以前の土地にはなかなか住めなくなります。日本人は、本土を放棄するような形で、ガイアーク侵攻以前から第二首都として開発を進めていた巨大人工浮島、伊予に移り住みます。
ちなみにですが、この伊予は、かつて四国の一部でした。魔法の時代の科学力は、今からすれば想像を絶するほど驚異的なもので、四国の一部を切り離し、それを関東南部に持ってきて人工浮島にしてしまう、ということをやってのけます。人工物であるはずの伊予がどうして豊かな自然に恵まれているのか。それは元々自然の大地だからなのです。
フィギュアもガイアークもいなくなった地球で、百年の月日が流れ、現在に至るのです。
「以上、日本の簡単な歴史でした~」
「簡単な歴史ってなに!? 四国の一部を切り取って関東南部に持ってきたってなに!? わけわかんないんだけど!? ∧黒の巨神像∨よりも四国を持ってきたことのほうがびっくりなんだけど!?」
美々は髪の毛をとんがらせて驚きの声を上げた。
「百年前はそういうことができるくらい、科学技術がすごかったんだよ」
「百年前すごすぎでショ……」
ミラはリモコンをピッと押してモニターの電源を切った。
「まぁそんな話は置いといて、あたしたちはこれから、廃都東京へ向かう! そこに∧黒の巨神像∨が使っていたグレートグレアがあるからだ! 一時間後に出発する! きっとベガが出てくるに違いないから、準備は入念にしておけよ! ではまた一時間後にここへ。解散!」
一同は思い思いに準備をはじめた。
◆
「セラ! 特訓ですよー!」
「無理だよぉ~あかりちゃ~ん。わたし戦えないよぉ~!」
「だいじょうぶです! あかりもついてますから! がんばってがんばってがんばれば、きっとなんとかなります! なんとかするんです!」
二人は陽太の部屋で戦闘のイメージトレーニングをしていた。セラの戦闘への苦手意識をなんとかしようという考えだ。燦が怪獣のおもちゃを持って、セラにごつごつぶつけていく。
「いたっ、いたっ。あかりちゃんやめてぇ~!」
「よけるんですー! セラは空を飛べるんですから、飛んでよけるんです! 背中にくっつけたウィングブースターで飛ぶんです!」
「こ、こうかなぁ?」
セラの背中には戦闘機の翼のようなバックパックがある。そこから青い噴射炎を放って飛んだ。しかし出力調整が下手で、勢いよく天井に頭をぶつけてしまう。噴射炎を止めたことで真っ逆さまに落っこち、燦がそれをキャッチした。
「いたいよぉ~! あかりちゃ~ん!」
「だいじょうぶですか? いたいのいたいの~飛んでけ~!」
涙ぐむセラの頭をさすって、痛みを外に放り投げた。
「いたいのは治りましたか?」
「うん……」
「じゃあまたがんばりましょう! 戦うのはやめて、空を飛びましょう!」
燦はセラを持って部屋を抜け、廊下を走り、庭へ飛び出した。
「さぁいきますよー! 思いっきり投げますよー! がんばって飛んでください!」
「え!? え!? え!? 怖いよ! あかりちゃんやめてええええええ!」
「だいじょうぶです! おっこちたらぜったいキャッチしてあげます! ぜったいぜったいぜったい怖くないです! がんばれがんばれできますできますぜったいできます! がんばれもっとやれますってやれます! それぇーーーーーーーーーーっ!」
白い雲揺れる青い夏の空めがけ、腕をブオンと振ってセラを放り投げた。
「いやああああああああああああああ!」
「ブースターを使ってください! 飛んでえええええええ!」
「と、と、飛ぶううううううう!」
ブォオォ! とウィングブースターから青い炎が噴射する。
「速いよおおおおおお! 止まらないよおおおおおおお! あかりちゃーーーーん!」
「だいじょうぶ! だいじょうぶですー! あかりはちゃんとセラの下にいますー! おっこちてもだいじょうぶですーーーーーー!」
勢いよく空を飛びまわるセラに、庭の芝生を蹴ってついていく燦。
「ブースターをちょっとずつ弱くしてください!」
「ちょっとずつ、弱く……!」
噴射炎が弱まっていくにつれ、飛行速度が下がっていく。
「セラ! いいですよ! その調子ですー!」
しかし、飛行速度の減少にともない、高度がじょじょに下がっていく。
「でもおっこちちゃうよ! あかりちゃん!」
セラは飛んでいる間ずっと、下、地面を見ていた。空を飛んでいるのに空を見ていなかった。落ちることばかり考えていた。飛ぶことではなく落ちることを考えていた。落ちることが怖くて怖くてしかたなかった。
「だいじょうぶですー! あかりがキャッチするから怖くないんですーーーーーーー!」
高度が下がる。こわいこわいこわい。おっこちる恐怖がセラを襲う。しかし恐怖を感じる間も、燦のだいじょうぶという声がずっと空いっぱいに響いて聞こえた。おっこちてもだいじょうぶ。さっきもキャッチしてくれた。だからだいじょうぶ。あとのことはいっさい考えないことにした。おっこちたあとのことは全部、燦に任せることにした。きっと、絶対キャッチしてくれる。そう信じて、地面を見ることをやめ、空を見た。空を、飛んだ!
燦とセラのタンポポのネクサスエンブレムが輝く。セラはフィギュアライズして空を翔けぬけた。ゴォォォオと噴射炎を勢いよく放ち、空を縦横無尽に飛びまわった。おっこちる気がまるでしなかった。意のままに飛んでいる。飛べた! そう思った。
「飛んでるーーーーーううう! 飛んでるよーーーーーーお! あかりちゃーーーーん!」
「やったああああああああああああああああああああああああああああああ!」
セラは満面の笑みで空をぐるぐる飛びまわった。燦は満開の笑みで、両腕をぐるんぐるん振りまわし、ぴょんぴょん跳びはねてうさ耳のリボンを大きく揺らしてよろこんだ。
◆
ナックルは庭で一人、朝の特訓の続きをしていた。しかしどれだけ力をこめても、並べたコンクリートを一撃で破壊しきれない。パワーが足りない。
――なんで強くなりたいんですか?
燦に言われた言葉を思い出す。なんで強くなりたいのか。強くなれば、アニキに恥ずかしいと思われずにすむ。またオレを自慢してくれる。そう思ったからだ。
強くなりたい。でもなれない。ちっとも強くなれる気がしない。こんな特訓をいくらやっても、絶対強くなれっこない。そう感じていた。
どうすれば強くなれるのか。どんな時に力の高まりを感じたか。考えた。はじめから弱かったわけじゃない。強い時があった。強くなれたと感じる時があった。それはどんな時だったか。アニキがいっしょになって必殺技を叫んでくれた時だ。この時が一番力の高まりを感じた。アニキがいっしょに叫んでくれた時、全身をめぐるフォトングレアが灼熱に燃え上がるのを感じた。フォトングレアの熱い血が、右手の拳に凝縮されて、なにもかも圧倒する力になると感じた。誰にも負けないすごいパワーだと思った。アニキがいっしょに叫んでくれなかった時は、パワーが出なかった。自分がいくら力をこめても、ちっとも血は熱くならなかった。フォトングレアは輝かなかった。
「強くなるには、アニキがいっしょにいてくれないとダメなんだ……」
自分の気持ちを打ち明けよう。アニキに全部話そう。美々が言うように、自分がなにをしてほしいのか、はっきり伝えよう。ホルダーとフィギュアには、目に見えないふしぎな絆がある。オレとアニキは以心伝心、いつでも気持ちを同じく一つにしている。そんな錯覚をしていた。でも違う。ふしぎな絆で結ばれていても、思っていることは、言わないと伝わらないんだ。同じ紋章のネクサスエンブレムがあるからと言っても、心は二つあって、それは同じものじゃないんだ。言わなきゃわかってもらえない。決心した。
「オレの気持ちを伝えよう。アニキに!」
ナックルは陽太を探した。すぐに見つかった。リビングにいた。座って、テーブルにひじをつけて手を組み、あごをのせている。考えごとをしているのか、目がどこか遠くを見ていた。
「アニキ……」
「……なんだ」
一拍置いて返事が来た。冷たい気がした。そう思ったら、陽太の顔が、表情が、冷たいものに見えてきた。いや、そうとしか見えなくなった。敵意か、嫌悪か、なんだかわからないが、自分に対してよくない感情を向けられているような気がしてならない。そう感じた。
二の句が継げなくなった。陽太から向けられる視線から、目をそらした。下を見た。変な汗が出た。口が渇く。息苦しさまであった。ひどく、居た堪れない気分だった。
話さなきゃ。オレの気持ちを。全部。わかってもらいたいんだ。恥ずかしいと思ってほしくないことを。アニキなら、きっとわかってくれる。絶対わかってくれるはず。今までどれだけ長い時間をいっしょにすごしてきたのか。自慢のおもちゃと何度言ってくれたか。その歴史が証明している。アニキがオレによくない気持ちを持つはずがない。仮によくない気持ちがあったとしても、オレの気持ちを伝えれば、絶対に考え直してくれる。アニキがおもちゃを見捨てるはずはない。部屋中おもちゃだらけで、いつだって子供たちに交じっていっしょにおもちゃで遊んでいたのに、たった一日で、それがまるっと全部変わってしまうなんてありえない。だから、絶対にわかってくれる。
だがナックルはその確信を信じられなかった。陽太が「おもちゃで遊ぶのは恥ずかしいよな」と言ったのは事実である。今までの歴史を覆すような出来事が、昨日起こったのかもしれない。そんなことは絶対にありえないという確信もある。しかしそれを信じきれない。陽太を、アニキを、信じ抜けなかった。
いくら時間がたったのかわからなくなった頃、陽太が口を開いた。
「オレは、やることがあるから……」
静かに、陽太は席を立った。どこかへ行った。その姿を、ナックルは目で追った。追いかけられなかった。追いかけて、オレの話を聞いてくれ、と言えなかった。ただその場に立ちつくすしかなかった。ひどく傷ついたから。
ナックルは傷ついた。歯を食いしばって、握り拳を作る。床にひざをついて、静かに、音を立てないように、床板を殴った。涙がポロポロ出てきた。
アニキの言葉は、傷つけるようなものではなかった。理屈では充分わかっていた。嫌悪も敵意もない。何気ない一言だった。それはわかっていた。そこに敵意や嫌悪なんてない。でもそうとしか思えなかった。
おまえとは関わりたくない。おまえなんかいらない。
ナックルには、どうしてもそうとしか聞こえなかった。悲しかった。さびしかった。涙が止まらない。フィギュアに性別なんてないが、ナックルは自分を男だと思っていた。男が、こんなことでメソメソしていて、みっともないと思った。こんなにしめっぽいから、アニキに恥ずかしいと思われてしまうのだと自責した。
「なりてェ……なりてェ……ッ! アニキに、また自慢してもらえるおもちゃに、オレはなりてェッ! アニキの一番のおもちゃになりてェッ! なりてェよッ! でもダメだっ。ダメなんだっ! 強くもねェ、男らしくもねェ。ダセぇんだよ、オレは! こんなの、自慢できるわけねェだろ! オレはっ、アニキのおもちゃにふさわしくないんだよっ! クッソオオオオオオオオオッ!」
嗚咽を必死に噛み殺しながら、思いの丈をぶちまけた。その声は誰にも届かない。
◆
陽太は父の部屋に来ていた。あるものを持ち出すためである。押し入れをあさった。
ナックルの弱体化の理由がわからなかった。なぜベガとの戦いで本領を発揮できなかったのか。しかし、仮に本調子だったとしても、ナックルのパワー最大値は四〇〇〇に満たない。ベガの六〇〇〇にはおよばない。ナックルの調子いかんに関わらず、パワーアップは必要だ。
「あった」
少し小さめのジュラルミンケース。これを探していた。四桁のナンバーロックで鍵をかけてある。開錠番号は二三一〇。“兄さんいい男”である。中には、父が作ってくれたナックルの強化パーツが入っている。
ジュラルミンケースには一枚の紙が貼ってあった。手紙だ。
「陽太へ。これを出したということは、大きな戦いがあるんだね。きっと地球の危機なんだろう。負けるな。がんばれ。応援しているよ」
宇宙人が侵攻してきてナックルが戦うことを、まるで知っていたかのような手紙だ。しかし父はこういう演出が大好きな人だった。自分が物語の登場人物であるかのように振る舞って、日常を楽しんでいた。この手紙のようなことはよくやっていた。
「父ちゃん……母ちゃん……」
母が見守る中で父と遊んだ記憶がよみがえる。エプロンをつけて母が料理をしてる最中、父といっしょにおもちゃを作り、遊んだ。ごはんを食べる時、食卓におもちゃを乗せて、いかにすごいか、いかにかっこいいかを、父と力説して母に聞かせた。ヒーローと父に憧れる陽太に、強い子に育つようにと、母はいつもおなかいっぱい食べさせてくれた。
陽太はジュラルミンケースを抱えてミラのところへ向かった。これがあれば、ナックルは絶対に負けない。父と母の想いがこもっているのだ。負ける道理はない。
◆
「よーしおまえたち! 準備ができたようだな!」
秘密基地CIBに集まる陽太たち。ミラの愛車エディに乗りこむ。レーシングマシンだからか、シートが二つしかない。ミラが燦を抱え、陽太は美々を抱えて乗った。
「んっしょ、んっしょ」
「おいこら! もぞもぞ動くんじゃねぇよ!」
「美少女のおしりと太ももを股間に押しつけられて文句言うんじゃないわよ!」
「うるっせぇよ! もっと恥じらえよ!」
「そうですわよ美々! あなたはもっと貞淑というものを身につけなければなりません!」
「アタシにばっかり言わないでよ! ミラだって痴女みたいな格好してんじゃないの!」
「いやぁ、あたしの場合パンツは見せないジャン? ほら、あたしホットパンツで、下着は見えないし。あはははははは!」
「そこじゃないわよ! 乳首のこと言ってるワケ! なにあれ! ブラつけなさいよ! 完全に痴女でショ!?」
「うーん……姉ちゃんは違うんだよなぁ……なんていうかこう……健康的なエロさというか健全というか……おまえのはヤらしいんだよ! 変態すぎる!」
「なんなのよそれええええええええええええ! もおおおおおおおおおおおおお!」
体をよじって、陽太におしりをぐりぐりと押しつける美々。
「だからやめろってええええええええええええええ!」
二人が騒いでいる間に、車を載せたターンテーブルが上昇し、ガレージのシャッターが開く。直線の道が空に向けて傾いていく。まるで特撮の戦闘部隊の基地のようだ。
「え、なにこれ、なんで道が斜めになってんの? カタパルトなの?」
美々が恐れ半分に問いただす。しかしミラは答えない。
「それじゃあ、廃都東京へ、レッツ、エンド、ゴーーーーーーッ!」
アクセル全開でエディが発進した。すさまじいスピードでシートに背中が押しつけられる。
「ゲェーーーッ! ちょっと! この道、先がないんだからっ! おっこっちゃうわよ!」
「YAAAAAAAAAAAH―FOOOOOOOOOOO!!!」
悲鳴を上げる一同を意に介さないミラ。気分最高と言ったシャウトをかまして、エディを空に向けてかっ飛ばす。握っているコントローラに多数配置されたさまざまな色と形をしたボタンの一つを押す。ガションと車の底面からウィングが展開され、エディは空を飛んだ。
「ゲェーーーーーーッ! 飛んでるーーーーーーーーーーうッ!?」
「おいおい、このエディをなめんなよ。聞いて驚け。こいつはなぁ、科学技術が魔法と言われた時代に作られたマシンなんだ。つまり、∧アンティーク∨だよ! なにができてもふしぎはない! ぎゃあぎゃあわめいてないで、空の旅を楽しめええええええええええ!」
∧アンティーク∨。陽太たちも知っている。科学技術が魔法と言われた時代に作られた作品アーティファクトのことだ。二七五七年現代の科学技術では到底再現できない代物。
みんなを乗せたエディは、あっという間に、遠呂知大橋にたどり着いた。この橋は伊予の最北から伸びて、行き先が三つに分かれている。東西の二つは、千葉県南部と神奈川県南部の復興完了都市に続いている。真ん中の道は、廃都東京へ続く。
エディは橋に着地し、この東京行きの真ん中の道を爆走した。
「この東京に続く道、なんで作られたか知ってる!?」
爆走してテンションが高いミラが大声で訊いた。
「東京にある、戦争で失われた∧アンティーク∨を発掘するためって聞いたことある!」
美々も同じくテンションを上げて大声で答えた。
「そう! でも今まで一個も発掘できたことはないんだ! なんでだかわかる!?」
「わかんないけど……東京が廃墟になったのはフィギュアとガイアークの戦争が原因だから……もしかして、それと関係があるの!?」
「そのとおり! フィギュアやガイアークの体は核兵器でも傷つかない! 当然、重機なんかでも傷つかない! 廃都東京にある∧アンティーク∨は、全部っ、フィギュアライズと同じことが起こってしまってるんだよ! だから発掘できないのさ!」
「へぇーーーっ! そうなんだ!」
ミラはアクセルをベタ踏みにして、廃都めがけ、直線がずっと続く橋の上を爆走した。
◆
「ここが、東京……」
「まさに廃墟だな……」
一面、見渡す限りの灰色だ。巨大なビル群が崩れた跡、がれきの山、原形を保って残っている建造物はいっさいない。電柱もない。魔法の時代は電柱を使わず送電していたのだろう。
「植物がないな。百年も放置されてれば、植物が生い茂ってそうなのに、コケ一つない」
「この辺の物質は全部、フィギュアライズ状態だ。フォトングレアメタルっていう金属になってるからね。ソウルグレアがなくて意思がないだけで、東京はまるっと全部フィギュアの体を持ってることになる。植物にとっちゃ居心地が悪いのかもな」
一行はグレートグレアがある∧黒の巨神像∨目指して、廃墟の中を進んでいく。ここでもまたエディの能力が発揮された。がれきの山の中を走行するのは、オンロードタイヤでは不便極まりない。そこでエディはタイヤを大きくした。がれきの山の中でも苦もなく走れている。
「ねー兄ちゃん見てー! 飛行機!」
「なにこれ! 教科書で見た戦車だ!」
燦と美々がはしゃぐ。黒い戦闘機と、エンジ色の戦車だ。どちらも壊れているが、それとわかるほどには原形をとどめている。それぞれ一台ではなく、あちらこちらに散見した。
「百年前の戦争では、子供たちが主体となってガイアークと戦った。なぜなら、フィギュアのほとんどは子供の持ち物だったから。大人は戦争の主役にはなれなかった。それでもなにもせずにはいられなくて、無駄とわかっていても戦争兵器を持ち出したんだ」
「姉ちゃんはどうしてそんな話を知ってるんだ? 戦争当時のことがわかるものはほとんど残ってないって聞いたぞ。それにガイアークが攻めてくることも知ってた。なんで?」
「そりゃ聞いたのさ。こいつにな」
ミラはトントンとコントローラをたたいた。陽太にはなんのことかわからなかった。
「さぁついたぞ。こいつが∧黒の巨神像∨だ」
でっかいクレーターの外側にエディを停めて、一行は外に出た。クレーターの中心に、黒の鎧をまとったドでかいものがある。
「これが∧黒の巨神像∨……世界を崩壊させたオベリスクの一つ……」
機能を停止してもなお迫力と厳かな雰囲気を失わない姿に、一行は息を呑んだ。
「これ、動き出したりしないよね……?」
美々が恐る恐るミラに聞く。
「大丈夫だ。絶対に動かない。理由はいくつかある。まず、エネルギー源であるグレートグレアが停止状態だ。グレートグレアは点火して、起動しないとエネルギーを生み出せない」
「グレートグレアが起動したら?」
「巨神像にソウルグレアがない。意思を持たないんだから、動きようがない」
「グレートグレアは物体にソウルグレアを与えるんでショ? じゃあソウルグレアを持つ可能性があるんじゃないの?」
「それはない。巨神像は道具だ。生命体じゃない。中にガイアークが乗りこんで利用する兵器だ。生命体とならないように作られている。単体でソウルグレアを持つことはない」
「なるほど……」
「この巨神像が動くということは、中に誰かが乗って、グレートグレアを起動しなければならない。そのグレートグレアはこれからあたしたちが奪うから、動く心配はないということだ」
一行は巨神像の胸の上に立つ。胸の中にグレートグレアがある。
「さぁ、巨神像からグレートグレアを取り出すぞ。ナックル、やってくれ」
「……どうすればいいんだ?」
「フィギュアライズして、胸の鎧板をはがしてくれ」
「できるのか? 硬いんじゃないか?」
「食パンをちぎるくらい簡単にできる。フォトングレアメタルだから、核兵器でも傷つかないが、フォトングレアをともなったフィギュアであれば、鎧をはがせる。今は巨神像を動かすものもいないし、グレートグレアも停止している。エネルギーゼロで意思を持たないから、鎧はもろいんだ」
ナックルがフィギュアライズし、鎧板に手をかける。本当に、パンをちぎるようにはがれた。ちぎっては投げ、ちぎっては投げをくりかえすと、サッカーボールかバレーボールほどの大きさの、淡く光る結晶珠が見えた。
「これが、グレートグレア……」
きれいな球体で、中は美しくカットされた宝石のようになっていて、万華鏡のように七色の光が反射をくりかえしている。ミラがこれを取り出した。
「セラ、ちょっとフィギュアライズしておいで」
「え? わたしですか~?」
セラが大きくなってミラにとことこと駆け寄る。
「これはおまえが持っているんだよ」
「ええええええええええええ!? わたしがですかー!? 責任重大じゃないですかー! やめてくださいよー! ナックル兄さんとか、陽太お兄ちゃんにお願いしてくださいー! ていうか、ミラお母さんが持っていればいいのでは!?」
セラは両手を振って無理無理とアピールした。
「空を飛べるのはセラだけだからね。万が一、このあと戦闘になってベガに負けるようなことがあれば、おまえがこれを持って逃げるんだ。そしてどこかへ隠す。これは空を飛べるセラにしかできないことなんだ」
「ううーーーー……はい……わかりました……」
セラはグレートグレアを受け取る。
「グレートグレアは体の中にしまっておいて」
「えぇーっ!? そんなことできるんですかぁ!?」
「ほらほら! 胸に押しこんで!」
ミラがグレートグレアをセラの胸にぐいぐいと押しつける。
「や、やめてくださいー! なんだか怖いですー! あっ! あっ! あっ! なんか中に入ってくるううううううううううううう! いやあああああああああああ!」
グレートグレアはすぅっとセラの胸の中に吸いこまれていった。
「なに言ってんのあんた。別になんともないでしょ?」
「だってぇ、自分の体の中になにかが入ってくるのって怖いじゃないですかぁ?」
「そんなの大したことナイナイ。大したことあるのは、グレートグレアの取り扱いだよ。いい? よく聞いてね。今グレートグレアは停止状態だ。だからエネルギーの放出はない。でも、それを持っているフィギュアが、力を引き出そうと強く思ったら、起動状態になる。グレートグレアのエネルギーはとてつもなく大きく強い。フィギュアの体には収まりきらない。使い方を間違えれば、放出したエネルギーがフィギュアの体に収まりきらず、内側から爆発してしまう。とても危険だ。だからグレートグレアを使おうなんて考えちゃいけないよ?」
「それってすごく怖いじゃないですかぁ! ううう……わかりました……」
「よし! これでよし! 任務完了! さぁて戻ろうかー!」
フィギュアライズを解き、一行は降りてきたクレーターを登り、エディに乗りこみ、来た道を戻っていく。
「な~んかあっけなく終わっちゃいましたねぇ。もっとすごいことが起きると思ったのにー」
燦は拍子抜けしてそう言った。
「ホントホント。さんざんでかい話を聞かされたわりには、すごいのは巨神像の雰囲気だけ。小学生の遠足でももうちょっと盛り上がると思うワケよ!」
「なに言ってんだおまえたち! これからだぞこれから! 来るに決まってんジャン!」
「え? 来るってなにが?」
「ほら来たッ!」
前方から迫る黒い光弾! ミラはエディのコントローラを勢いよく回して急旋回し、光弾をよけた。車内がガッタンガッタンと激しく揺れ、転倒しそうだった。エディを停め、陽太たちは荷物を持って外に出る。戦闘開始だ。
「やぁみなさんおそろいで!」
ベガが現れた。不敵で邪悪な笑みを浮かべている。
「おまえたちの後をつければ、必ずグレートグレアのありかに導いてくれると信じていたよ。思ったとおりだ。道案内ご苦労さん。グワーーーーーーーーーーーカカカカカカカ!」
後をつけられたことに対してなにか思うのが普通なのだろうが、陽太はどうでもよかった。そんなのはアニメや映画でよくあることだ。そんなことよりももっと強く気になることがあった。ベガの隣に見える、もう一人の人影のことだ。この人が、なぜここにいるのか。
「なんで……なんでそこにいるんだ……センセイ!」
ベガの隣に、憤怒の形相をした櫻井がいた。
◆
「ご紹介しよう! この御仁は、ワガハイの友人、櫻井孝一だ!」
「なにが友人だ……どういうことだ、センセイ!」
櫻井孝一。学校の先生。算数と数学を受け持ち、小中高で授業を持っている。生徒指導主任。陽太、美々、燦、三人とも面識がある。
「どういうことだ、はこちらの言葉だ、天道! 今日は学校だ! なぜ休んでいる!?」
「学校へ行けというのは、そっくりそのままお返しする!」
「私は有給休暇だ! 本日は正当な休日となる!」
ぐうっとうめいた。陽太は言い返す言葉を失った。ロンパされた。しかしめげない。まだ言いたいことはある。
「なんでそいつと、ベガといっしょにいるんだ!? そいつは侵略者の宇宙人だぞ!」
「そうだ! しかし約束を取りつけた! 私が力を貸す代わりに、侵略をやめてもらう! ベガの最大の目的はグレートグレアだ! 侵略は二の次にすぎん!」
「いやいや! なんで力を貸すってことになるんだよ!? おかしくねぇか!?」
「私には私の目的がある!」
「あんたなに考えてやがる!? わけわからねぇ上に乱暴な宇宙人に協力するとか、頭おかしいんじゃねぇのか!?」
「黙れ! 今のは年長者に対する話し方じゃないぞ!」
「うるせぇよ! 宇宙からの侵略者がいるって状況で、年長も年少もねぇだろ!」
「そうやって、子供は学ぶべきを学ばず、野放図、傍若無人になる……ッ! そんなことは許さん! だからベガと協力すると決めたのだ!」
「支離滅裂だ! 子供がわがままなことと、あんたがベガに協力することがつながらねぇ!」
「ならば教えてやる! おまえたち子供が、娯楽に興じることがないよう、いっさいの娯楽を破壊しつくすためだ! そのためにベガと協力する!」
櫻井はワイシャツの長い袖をめくって腕を見せた。紫色の刃の紋章が浮かんでいる。
「そ、その紋章……エンブレムはァ……ッ!?」
その紋章はベガの腕にも同じものがある。間違いない。あれは、ネクサスエンブレム!
私 は こ の 世 す べ て の お も ち ゃ を 破 壊 す る ッ !
ゴォッ! と風が逆巻く。櫻井の全身から紫色の輝きが放たれた。
「あの輝きっ! シャイニングオーラ!」
「さぁベガ! ヤツらのおもちゃを壊すんだアアアアアアアアアア!」
「任せろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ブースターを噴射し、ベガが突進してくる。みんな戦闘態勢に入った。仮に侵略中止が本当だとしても、大切なおもちゃを壊されるわけにはいかない。戦わなければならない。
「ビビ、やるよ!」
「わかりました! やりますわよ!」
「セラ、空を飛んでベガから離れてビームを撃つんだよ!」
「わかった! あかりちゃん!」
「フィギュアッラーーーーーーーーーイズ!」
四人は同時に叫んだ。美々と燦がシャイニングオーラを放ち、ビビとセラはフォトングレアの輝きを放ってフィギュアライズする。フェンサードレスのビビがベガの突進を剣で受け止め、セラは全身フル装備して、飛行して後方から拳銃型のビームガンでベガを攻撃していく。
「あれ?」
ナックルは意気込んでいた。しかしフィギュアライズするタイミングがわからず、そのままでいる。タイミングを教えてほしくて、陽太のほうへ顔を向けた。
「なにやってるんだナックル! 早く行け!」
陽太が叱責する。もたもたしてる暇はない。どうしてナックルがさっさと向かっていかないのかわからない。ナックルは急いでフィギュアライズした。一人でそう叫んだ。
陽太はそれぞれのパワーを計るため、ポータを見た。ビビが三五〇〇。セラが二九〇〇。それに対してベガは、恐ろしいことに、八四〇〇。とてつもないパワーだ。学校襲撃時でも六〇〇〇オーバーあったのに、さらに積んできた。これが櫻井のシャイニングオーラの力なのか。肝心のナックルは……
「一七〇〇ゥ!? せ、せんなな……センナナヒャクッ!?」
なんだこの低い数値は!? 陽太は驚いた。あまりにも低すぎる。いったいこれはどういうことなんだ? なぜこんなにも低い!? おかしい。おかしすぎる。
数字ではおよばないものの、ビビは勇ましく奮闘している。防戦一方だが、まだ戦いになっている。しかしナックルは、ベガのたった一度の攻撃で、簡単に打ち倒されてしまう。
「オレのオーラが足りないのか!? シャウトが足りないのか!? ならばッ。はあああああああああああああ!」
陽太は全身の筋肉に力をこめた。雄叫びを上げる。これでどうだ!?
「一六〇〇!? なんで下がるッ!?」
ナックルは果敢に立ち向かうが、簡単にあしらわれてしまう。ナックルの攻撃には重さがまるでない。吹けば飛ぶほこりのように軽い。だから腕を振り回すだけであしらわれてしまう。
このままではダメだ。陽太はジュラルミンケースに手をかけた。いよいよこれを開ける時が来た。これさえあれば、ナックルは強くなれるはずだ。ナンバーロックの数字をあわせる。二三一〇。兄さんいい男……
ガチッ!
「あれっ!?」
ガチッ! ガチッ!
「ちょっ……! おいおいおいおい、ウソだろおい!」
ガチガチガチガチガチチガチガチガチッ!
開かない! そんなバカな! 二三一〇が開錠番号のはずなのに! 兄さんいい男と覚えろと言われたのに! こんなふざけた印象深い番号を間違えるはずがない! 何度確認してもきちんと番号は二三一〇になっている。なのに、開かない!
「なんでよなんでよ! ここが肝心なところだろうがよぉ! こんな展開の時のために作ったものなのにィ! おっかしいだろそんなのよォ!」
何度も開錠を試すが、やはり開かない。陽太の心の乱れが影響し、ナックルはさらなる不調に見舞われる。ベガに脚を捕まれ、振り回され、地面にたたきつけられる。
「兄さん!」
セラにはナックルがひどく疲労しているように見えた。疲労がなぜかはわからない。しかしサポートしなければと思った。
「ナックル兄さんを助ける。このビームランチャー、ユニコーンでええええっ!」
セラはビームランチャーをかまえた。自分の身長以上もの長さがある。白く太くメカニカルな造形をした砲台だ。ビームガンよりもはるかに長射程で高威力。しかしどうしてか、出力調整ができない上に連続使用ができなかった。また反動が大きくあつかいづらい。それゆえに今まで使っていなかった。必要な時に使おうと決めていた。今がその時。ランチャーにエネルギーを収束する。
「あかりちゃん! わたしにもっと力をちょうだい!」
「わっかりました! いきますよーーーーーーッ!」
二人は、せーのォ! と声をそろえた。黄色のシャイニングオーラが爆発する。
「ユニコーンホーンブラストおおおおおおおおおおおお!」
砲台から極太の青いビームが放たれた。セラは射撃の反動で姿勢を崩しぐるんと一回転。セラを警戒していなかったベガには完全に直撃した。この一撃で、ナックルへの追撃は防げた。
「豆鉄砲を撃ってるだけかと思ったら、かましてくれるじゃ、あ~りませんか!」
ベガは少し傷を負ったことでセラに注意を向けた。右腕のカノンから光弾が放たれる。セラは必死にこれをよけようとした。しかしよけられない。射撃の反動で姿勢制御がままならない。突然自分が標的にされたことであわててしまった。翼に被弾した。
「きゃあああああああああああああ!」
悲鳴を上げて地面に墜落していく。落ちる! 怖い! もうダメだ! そう思って目をぎゅっとつぶった。しかしなんともなかった。やわらかい感触に包まれて、落下の痛みは少しもなかった。そおっと目をあける。
「あ、あかりちゃん……っ!」
「落っこちても、あかりがキャッチするからだいじょうぶって約束しました!」
にかっと笑った。セラは燦に抱かれ、守られた。
「あかりちゃん! 血が!」
燦は右半身から血を流していた。セラをキャッチして倒れた時に地面で傷をつけたのだ。自分のせいで傷を負わせてしまった。なんてことをしてしまったのだと後悔した。
「だいじょうぶです! あかりは炎の刺青を持つ兄ちゃんの妹ですから! これくらい平気です! セラはだいじょうぶですか? 痛いところはないですか?」
「わたしはだいじょうぶだよ! ううっ、ごめんねあかりちゃん。わたしがもっとしっかりしてたらよかったのに」
べそをかきながら燦の傷を手当てした。燦の荷物から道具を取り出し、傷を洗って消毒し、ガーゼを当てて包帯を巻いた。
セラは決意した。もう二度と燦を傷つけることはしない。涙をぬぐって燦を見つめた。
「……あかりちゃん、見てて、わたしが空を飛ぶところ。今度は、絶対におっこちたりしないから! もっとかっこよく飛ぶから! だから見ててね!」
燦はいい子だから、キャッチしなくていいと言っても、きっと必死になって助けてくれるだろう。だからおっこちてはいけない。かっこよく飛び続ける。それが燦を守ることになる。
「はい! ちゃんと見てますよ!」
セラはふたたび飛翔した。空を華麗に翔けぬけた。二九〇〇だったセラのパワーは三八〇〇にまで高まった。
「もう豆鉄砲なんて言わせないんだからああああああああああああああ!」
ランチャーはもう使えない。ビームガンを両手に持ち、ベガに向けて乱射した。
「いたっ! いたっ! 痛イッ!? 威力が上がってる!? うっとうしいなァ!」
カノンで迎撃する。セラはツバメのごとき機敏な飛翔を見せて、ことごとく回避する。
多少威力が上がったところで、自分がベガに有効打を与えられるとは思っていなかった。あくまで自分はサポート役である。
「だったらこうだあああああああああああ!」
ベガの顔、一点に定め、ビームを撃ちこんでいく。顔に撃てない時は地面のがれきに向けて撃って土煙を起こした。とにかくベガの視界をふさいだ。視界がふさがることで攻撃の狙いが定められなくなり、行動が一瞬遅れるのだ。ビビとナックルは攻撃を簡単によけられたし、隙を突いて攻撃することもできた。セラは立派にサポート役を果たした。
しかし苦戦は続いた。どれだけうまく立ち回っても、圧倒的なパワーの差は覆しようがなかった。それでも美々は笑みを浮かべた。
「やはり本気を出さねばならないようね。ビビ!」
「アレですわね!」
二人は声をそろえてシャウトする。
「ドレスッ、チェーーーーーーーーーーーンジ!」
美々がカバンからヘヴンズスタードレスを取り出し、ビビに向かって放り投げる。
「バァカめ! 同じ手を食うか!」
ドォンッ! ベガのカノンから撃ち出された光弾が、ドレスを焼きつくす。いくつもの布のかけらが、花びらを散らすようにはらはらと舞い落ちる。
「あ、あ、あ……あああああああああああああああああああああああああ!」
「製作期間三年のドレスがああああああああああああああああああああ!」
美々とビビはそろって悲鳴を上げた。二人にとっての最高の思い出の結晶が、簡単に壊されてしまった。二人の痛み、苦しみ、悲しみは、ミラにも燦にも陽太にもわかった。しかしそのつらい気持ちの強さは、百分の一もわかっていなかった。このつらさは、当人にしかわからない。布を集め、針で縫い、ケガをして、時間をかけて、一針一針入魂したのである。そうやって言葉で言うのは非常にたやすいし、想像するのも非常にたやすい。当人以外に、このつらさは理解しきれないのだ。
「なにが製作期間三年だ! その時間を勉学に費やせえええええええええええええ!」
櫻井が怨嗟の声を上げる。紫のオーラが勢いを増す。
大切なドレスが壊れてしまったショックで大きな隙を作ったビビ。ベガの左腕のエナジーアックスがその隙を突かんと襲いかかる。
「エディイイイイイイッ! フィギュアッ、ラーーーーーーーーーイズ!」
ミラが叫ぶ。突風が巻き起こり、ゴールドのシャイニングオーラを放つ。エディが黒い稲妻のボディを突進させ、ベガに体当たりし、ビビを守った。ガションガションギゴゴゴと機械音を立てて車が変形する。脚が伸び、腕が出て、顔が現れ、エディは人型となった。車がフィギュアライズしたその姿はベガよりもはるかに大きい。
「秘密兵器その一、エディ! あたしの相棒! あたしのフィギュアだ!」
「エディって、フィギュアだったの!?」
「そのとおり! あたしの両目の下にあるM字の稲妻模様。こいつはあたしとエディのネクサスエンブレムだ!」
「ホントだ! エディにも両目の下にもM字の稲妻がある!」
「さらに言えば、エディはただのフィギュアじゃあない。百年前の戦争でガイアークと戦ったフィギュア! その生き残りだ!」
エディはブォォォンッブルォォンッとエンジンをうならせ、怒涛の攻めを見せた。ベガを押し出し、大きな腕と拳で殴る殴る殴る。大きな質量を持つ巨体から繰り出される殴打は、鉄の塊を投げつけているようなものだった。単純に重いのだ。さらにでかい。受け止めればダメージ。受け流したくても大きすぎてできない。シンプルに強い。
しかし、エディのパワーは六七〇〇。ベガの八四〇〇にはおよばない。大きい質量は有利だ。敵の攻撃を受けた時に吹き飛ばされにくいし、重い攻撃ができる。しかしただそれだけだ。質量が大きくてもダメージを軽減できるわけではないし、ベガに有効なダメージを与えられるわけでもない。むしろ、ボディが大きいことで回避行動ができず、すべての攻撃を受けてしまっていた。アックスによって、エディのボディは次々と焼き切れ傷を作っていき、カノンで撃たれても吹き飛ばないせいで、光弾の連打をあびた。
「負けんなエディ! ∧アンティーク∨の意地を見せろォ!」
「人を不幸に導くおもちゃよ! 粉々に砕け散れええええええええええええ!」
櫻井の叫びがベガを強くする。パワーが八八〇〇まで上昇する。勢いに押され、劣勢に立たされるエディたち。まともに戦えているのはエディだけだ。セラの攻撃は気に留められてもいない。ビビはダメージを受けすぎて動きがにぶい。ナックルは立っているのがやっとだ。
「とてもヒロイックじゃないが、あれもヒロイックシャウトと同じことをしてる。あのシャウトがベガを強くしてる」
ミラは苦い顔をしたが、すぐに明るくして見せた。バッグの中からなにかを取り出す。
「これ、なーんだ?」
ミラが大声でベガに向けて言った。両手で光る珠を持っている。ベガの目が見開かれる。
「それはっ! グレートグレア!」
「当ったり~~~っ!」
「そいつをよこせえええええええええ!」
ベガは戦闘を放り出し、光る珠めがけて走った。
「燦! バレーボールしようぜ!」
「はーーーい! やりまーーーーす!」
ミラは珠をポーンと高く放り投げた。ベガがそれを捕まえようと腕を伸ばして飛び上がるが、ビビに邪魔されて届かず、舌打ちをした。
「セラぁ~~~! いくわよぉ~~~ん! そぉ~れっ!」
燦がポーンとトスする。またも宙高く飛び上がる珠。ベガが珠を捕まえようと必死にぴょんぴょん飛ぶが、エディに脚を引っ張られて届かない。
「え、え、え、どうしよ!? え~い、美々ちゃんにパ~ス!」
セラは美々に珠を送った。ベガは必死な顔をしてがんばるが、珠に追いつけない。
「ミラーーーーーーーッ! くらえ! アタシの究極アタック!」
美々は珠を真上に飛ばし、落ちてきたところをミラめがけて、バァンッと力強くアタックした。受け止めてもまだ回転をやめない珠を見てミラはわくわくした。
「やっやめろおおおおおおおおおおお! なぁ~~にをやってるんだバカモノどもォッッ! グレートグレアでなんてことしてくれてんだキサマらはあああああ~~~~~~~っ! 乱暴にあつかうんじゃないっ! 爆発したら惑星ごと吹っ飛ぶんだぞ! それくらいすごいエネルギーがあるんだぞ! ワガハイ言ったよな!? 惑星一つ分のエネルギーがあるって! やめろおおおおおおおおおおお!?」
ベガは声を裏返して叫ぶ。ミラは燦にトスを送る。
「やぁ~っだねっ! やめてあげないよぉ~ん! ほぉらこっちだよ~。おし~りぺんぺん」
燦はべろべろばぁ~と舌を出して人差し指で下まぶたをめくる。ついでにおしりをベガに向けてたたいた。
「こぉ~~~~~んんんの、クッソォォォォォォォォォ!」
ベガのあまりの悔しがりように、みんなは大笑いした。宇宙からの侵略者というには、あまりにも威厳がなさすぎて、笑いがこらえられない。
コケにされまくって怒り狂ったベガが燦に飛びかかる。
「下がガラ空きですー! ヘイッ、シュートぉ!」
ビビに向けて、燦は珠を転がして思いっきり蹴っ飛ばした。
「ばっ、バカあああああああああッ! やめろおおおおおおお! 爆発するううううう!」
おかしい。おもしろおかしすぎる。みんな腹を抱えたり地面の上を転げまわったりして爆笑した。笑いすぎて腹がよじれて死ぬ思いだった。大笑いしながら、ベガを取り囲み、みんなは珠をお互いに渡しあい、ベガをおちょくりにおちょくりまくった。
「やめろおおおおおおおおおおおおお! やめてくれええええええええええ! グレートグレアが爆発してしまううううううううううう!」
「ぶわははははははははははははははははははははははははは!」
爆発なんてするはずがないのだ。これは本物のグレートグレアではないんだから。本物はセラの体の中にある。ベガにはグレートグレアの詳細な位置がわからない。だから近くにあるのはわかっても、目の前の光る珠が偽物だということがわからない。偽物を追いかけて必死になり、爆発しないのに、爆発する爆発するとおびえるのが、みんなおもしろくて仕方がない。
「ふざけるなああああああああああああああああああああああ!」
怒号、叫喚、大激昂。あまりの声量に、みんな笑うのをやめた。櫻井は怒り狂って体を震わせた。娯楽に興じてはしゃぐものたちが憎たらしくてたまらない。その憎しみはおもちゃだけでなく、とうとう守るべき子供にまで向いた。手近にいた燦を捕まえ、首になにかを押し当てた。スタンガンだ。
「燦っ!」
「動くなっ!」
陽太は燦を取り戻そうと走る足を止めた。櫻井の指がトリガーにかかる。脅しだ。
「ふざけるのもいい加減にしろおまえたち……こんな状況でも遊びかぁっ! ふざけるな! グレートグレアを渡せば丸く収まるというのに、なぜそうしない!?」
「ベガがおとなしく引き下がるわけがない。仮にそうだとしても、おもちゃを壊すと言われたんだ。黙って従うなんて絶対にない!」
「おもちゃおもちゃおもちゃとうるさいんだよ! 天道! 私はおまえに言ったよな! 大人になっておもちゃで遊ぶなど恥ずかしいことだと! 恥を知れ! もっと大人になれ!」
「うるさいのはおまえだ! 燦を離せ!」
「おまえがうるさいんだよ天道! だがいい、言葉で言ってわからない野生動物なら、それにふさわしい言語を使ってやるまでだ。わかるだろ天道陽太。グレートグレアを渡さなければ、おまえの妹がただじゃすまないことが! もちろん殺しなんてしない。だが、教育のためなら多少のケガをともなう体罰はするぞ!」
「なにが教育のための体罰だ! それは極悪非道の極みだろ!」
「それ以上はやめてっ、お兄ちゃん! あかりちゃんが!」
セラは陽太をいさめた。櫻井は完全に冷静さを失っている。なにをするかわからない。このままでは燦が傷つけられてしまう。それはなんとしても防ぎたい。
「問答をする気はない。聞きたいのは、グレートグレアを渡すという言葉だけだ」
「わかりました。グレートグレアを、あなたに渡します!」
セラは地上に降り、一番前に出て、はっきりとそう言い放った。
「セラっ! ダメです! 渡したらダメですー!」
「あかりちゃん、絶対に守るから! もう二度と傷つけたりしないから!」
グレートグレアを取られてしまえばとんでもないことになる。それは誰にもわかっていた。だがセラの気持ちに反するものはいなかった。
取り引きが行われた。セラはグレートグレアを差し出す。櫻井は燦を解放した。
「セラ、ダメだって言ったのに……でも、ありがとうっ!」
「わたしが一番大切にしてるのはあかりちゃんだから……ごめんね」
燦とセラは抱きあってお互いの気持ちを受け止めあった。
燦は取り戻した。しかしグレートグレアがベガの手に渡った。陽太たちは少しだけ安堵したあと、絶望を味わった。
「よくやった孝一! 実によくやってくれた! キサマと組んだ甲斐は確かにあったぞ!」
ベガはグレートグレアを空にかざして高笑いした。おちょくられ、笑われた分を取り返すように、おおげさに笑った。
ベガがグレートグレアを自分の身に取りこむ。紫色の波動が放たれ、空間がひずんだ。周囲にあった戦闘機、戦車を吸収する。次第に姿かたちが変わり、巨大化した。戦車と戦闘機の意匠を身につけたその姿を見て、陽太たちは敗北を覚悟した。
「でっ……けぇ……!」
全長五メートルあるエディの、二倍はあった。つまり十メートル近い。大きな一軒家がどすどすと歩いてるようなものだ。そのパワーはすさまじく、なんと五万を超えている。こんなヤツにどう戦えばいいのか、皆目見当もつかない。
「さぁ孝一、契約を果たそう」
「あぁ、やってくれ、ベガ! すべてのおもちゃを、破壊しつくすんだッ!」
あ の すば~らしい ひょ~か~を も~お~い~ち~ど~。
大空はるる先生に、ハゲ増しのおたよりを送ろう!
安心してください! ハゲてませんよ! 美少女ですから!
活動報告のところにもコメントください!
感想を書いてくれるのが一番うれしいんですけど、「おっぱいもんでいいですか?」とかでもいいですよ!!!!
ダメだよ!!!!! もむのはダメだよ!!!! 見るだけにしとけ!!!