【 バグ退治! 】
ちゃお♪ 美少女の大空はるるだよ~♪
突然だけど、作者である“美少女の”大空はるるのことを教えちゃうね~♪
髪色→うすピンクのツインテール
おっぱい→マジか!? ってくらいのボイン
格好→夏の夜にキャミとおしりの形がよくわかるホットパンツ着てるちょっとヤンキー入ってんじゃねーかって感じしてる感じ
瞳→童貞食いたくてムラムラしてる女の目してる
年齢→ちょっとわたしの知らない言葉なんでよくわからないです。どこの国の言葉なのかな? 翻訳してくれる人います?
前回のあらすじ!
宇宙人キタ!
七年前のある日。星とオーロラがきれいな夜だった。夜空から突然、大きな光がいくつも降りそそいだ。流れ星が降ってきたのだ。大災害。家屋が焼け、道路が裂け、建物がいくつも倒壊した。多くの人が死んだ。
この日、陽太は家族そろっておでかけしていた。父と、母と、幼い妹といっしょに。遊園地で遊び、ショッピングセンターで買い物をしてから、レストランで晩ごはんを食べた。
「陽太はどんな夢があるの?」
母が言った。
「オレはヒーローになりたい! テレビのヒーローとか、火事や災害から人を助ける父ちゃんみたいな、強くてかっこいいヒーローにな!」
「オレみたいになりたいって? うれしいなぁ! がんばれよ、陽太!」
「うん!」
「がんばってね陽太。はい、あーん」
「よせよ母ちゃん! オレはもう小さい子供じゃないんだぜ!」
レストランの窓に強い光が差す。夜空のあちこちに、強烈な発光体が飛んでいるのが見えた。
「うわぁーすげぇ! 流れ星だ! いっぱいある!」
楽しいばかりの時間を、この流れ星がブチ壊した。
陽太たちは流れ星が起こす災害に巻きこまれた。建物はすぐに崩れた。
陽太は倒れて血を流し、気を失った。気づけば、すぐそばに大きな燃える岩の塊、隕石があった。
そして、落ちてきた天井を受け止める父の姿が見えた。
突然の出来事に気が動転した。絶句だ。なにも言えなかった。
「だいじょうぶか……陽太」
父は苦しそうに、うめくように言った。その言葉にうなずいた。
「陽太、よく聞くんだ。おまえにやってほしいことがある……」
父の顔と声に、なにかを感じて、陽太は言いようがない恐ろしい気持ちになった。
「陽太……燦を、頼む……」
父の体から血が流れはじめる。よく見れば背中が大きく裂けていた。
「おねがい、陽太……」
母の声がした。燦を抱きかかえて倒れている。コンクリートの下敷きになり、鉄筋が胴を貫いている。大量の血を流して呼吸もままならないせいで、か細い声だった。
陽太はうなずきたくなかった。それをすれば、両親は死んでしまうと思った。
この時わかった。恐ろしい気持ちの正体。両親をこの場で失い、二度と会えなくなることを察したのだ。
両親は声にならない声で陽太の名前を呼んだ。
息ができない。泣くこともできなかった。あまりの悲しみと苦しみと恐怖の強さに、脳が追いつかない。だが陽太の心は、まちがいのない答えをすぐに導き出していた。どれだけ悲しく苦しく恐ろしくても、いまやるべきことがなんなのか、ヒーローを夢見る陽太にはわかっていた。
陽太は覚悟を決めた。父と母にかっこいいところを見せるんだ。
涙が出た。たくさん。鼻水をすすって胸を張った。
「任せろ……約束する……ッ!」
ボロボロと涙を流していても、精一杯勇ましい顔を見せて言いはなった。
「ありがとう……」
母から燦を託された。
「忘れ物だ。なくさないようにな……こいつが、おまえのそばにいてくれる」
父からナックルを渡された。
燦を背負い、ナックルを握りしめ、陽太は歩き出した。
父の背中を追い越したところで足を止めた。振り返る。落ちてくる天井を押し留める父の背中は、今までよりもずっとずっと大きく見えた。
自分がこの場を離れれば、両親は死ぬ。だからその場で足を止めた。
手に痛みが走った。ナックルを握る手に力をこめすぎてパーツが刺さっていた。ナックルが「早く行け!」と言っている。そう感じた。
オレはヒーローになって燦を守るんだ。父ちゃんと母ちゃんにかっこいいところを見せるんだ! 陽太は走った。
「陽太ァ! 達者でなあああああああああああ!」
ズズゥンという重厚音と同時に、声が消えた。
がむしゃらに走った。ひたすら走った。炎の壁が立ちふさがっても、燦をぎゅっと包みこんで炎の中を突っ切った。体が燃えても、陽太は燦を守りきった。
これが七年前に起こった“破滅の流れ星”である。
◆
土曜日の朝。学校はお休み。この日も陽太は日課の鍛錬をする、はずだったが、昨夜の出来事で疲れているのか、いつも起きる時間をすぎても眠ったまま。
カーテン越しに人の影が映る。いったいどんな手品を使ったのか、窓のクレセント錠がくるりと回り、静かに窓が開く。ふわりとした気持ちのいい風がカーテンをなでて揺らす。
風でひるがえったカーテンから現れたのはパジャマ姿の美々。
彼女は今、この上なく愉悦に満ちた悪い顔をしている。うれしくて、楽しくてたまらなかった。陽太が起きるよりも早く部屋に侵入できるのは年に何度もあることではない。待ちに待ったこの時がついにキタ。美々にはシたいことがある。とてもシたい。陽太とシたい。それは。
同衾! 同じベッドで、抱き合って寝る!
たまらなくこれがシたいのだ。我慢がならない。辛抱ならない。それが今まさにできるのだ。美々は心が跳ね躍った。奇声を発して狂喜乱舞しそうだったが、それをすれば陽太を起こすので必死にこらえた。
慎重に、慎重に、音を立てないようにゆっくりと動く。幸いにも、天道の家は作りがいいので、床を踏んできしむことはなかった。陽太と燦が顔を寄せあって寝ている。
ここで一つ障害があった。ベッドは壁にくっつけて配置されている。陽太が寝ているのは壁際のほうだった。陽太が手前で寝ていれば、ベッドにもぐりこむのは容易だったのに。惜しい。しかしあきらめる理由にはならない。一手間かかるだけ。大したことではない。
頭のほうは壁だ。横は壁と燦に阻まれている。必然、足のほうから侵入する。
ここで失態を犯す。夏用の薄い掛け布団から伸びている陽太の素足を見て、つい、思わず、本当にうっかりして、指先でツンとやってしまった。もぞもぞと動く陽太。
ウギャアアアアアアアアアア! 心に収まりきらず声に出しそうなほど内心絶叫した。少しでも声をもらさないために、両手で口を押さえてふさいだ。心臓が瞬時に高速稼動した。脂汗をダラダラ流して、陽太が起きないように祈った。
親愛の情が極まれば相手の体にさわりたくなってしまうのが人のサガだ。仕方がない。これは今の美々には避けようがなかった事態と言える。
幸いした。陽太は起きない。
失態による焦燥のせいか、同衾シたい興奮のせいか、息がドンドン荒くなる。はあはあハアハアと肩を上下させてあえぐ。息苦しい。この気持ちのぶつけどころがなくて生き苦しい。
掛け布団をハラリとめくる。静かに頭を入れる。ここが一番起こしてしまうポイントだ。緊張は最高潮に達した。あせるな。慎重にやれ。ここが正念場なんだ。はやる気持ちを抑えるんだ。少しずつ布団の中に体を侵入させる。振動を起こしてはいけない。世界中にいるどんなスパイよりも過酷なミッションをしている気分だった。
千切れそうなほどまぶたを開いて刮目する。陽太の脚が、ケツが、背中が、腕が肩が、パジャマ越しでもわかる鍛えられたイイ体が、視界に映る。それ以外はなにも見えなかった。
呼吸は潜りこむ時に止めた。あまりにもあえぎが激しくて、絶対に起こすと思ったから。
侵入は最終段階に来た。ベタベタとさわりたくなる気持ちを、ぎりぎりと歯を食いしばって耐える。あと少しで掛け布団から頭が抜ける。目的が、願いが、希望が、達成される。
そして、とうとうこの瞬間がキタ! 美々は陽太の隣に到達した! やった! 達成した! 同衾! 完成! 万歳! 生きててよかった! 心底そう思った!
髪の毛が自然必然、当然ハートマークを作る。美々は満面の愉悦を浮かべて幸福に浸った。
陽太はおとなしく寝ているタイプではない。寝相をよく変える。燦を胸にだっこしている時もある。あと、枕に顔を押しつけるのが好きだった。
この時も、枕に顔を押しつけているつもりだった。しかし違和感があった。なんか違う。なにが違う? 感触が違う。枕に顔を押しつけると、もふっ、という感じなのに、今は、むにゅっ、という感じだ。なんだこれはいったいなんなんだこれは。もっと眠っていたいという時もあるが、今は特にそうでもなかった。むにゅっ、の正体が気になるから、陽太はちょっと起きてみて、正体がなんであるか確認してから、また寝ようと思った。
うっすらと目を開けると、大きな大きな、大きな肌色の山が二つ見えた。そして枕とは思えない温かみを感じる。
これは……おっぱいだあああああああああああああああ! 瞬時に考えが至る。しまった! やられた! 美々だ! 侵入された!
毎朝早起きをするのは鍛錬のためだけではなく、“もう一つの理由”がある。このおっぱいがそれだ。
「美々ィーーーーーーーーーーーーッ!」
陽太は叫んで、跳ね起きた。
「あーーーーーーーーーっはっはっはっはっはっはっはーーーーーーッ! いやァ、じっくり堪能させていただきましたワァァァ!」
「クッソオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
この同衾するか、される前に起きるかというのは、二人の間では勝負のようなものだ。今日、陽太は負けたから悔しい。美々は勝ったから楽しかった。
二人が騒いでいると、まぶたをこすって燦が起きた。
「兄ちゃん、おはよ」
「おはよう燦」
「お姉ちゃんもいるんですねー。おはようございますー」
燦は陽太に抱きつき、頭をなでてもらい、美々にも同じことをしてもらった。
「あー、もう朝ごはんの時間だなー。なんか作らないと。美々のせいで疲れたから、簡単なものでいいか?」
「いいよ。あかり、ピザトーストハムエッグ乗せがいい」
「おお、いいぞ」
「えー。アタシめっちゃ腹減ってんだけど。朝から大仕事したからってワケ」
「うるっせえええええ。おめぇもトーストでガマンしろやああああああああ」
「あいだだだだだだだ!」
美々の頭にゴリゴリと拳骨を押し当て痛めつけてから、朝食作りをはじめる。その間、美々と燦は遊んでいた。
ピザートーストハムエッグ乗せを四人分作ってテーブルへ運ぶ。今朝はしばらくしてもミラの姿がない。しかし帰ってこないことはたまにあったから、特別気に留めはしなかった。
「兄ちゃん! 聞いて聞いて!」
「なんだ、どうしたんだ燦?」
「お姉ちゃんのビビも動いたんだって!」
「えぇっ!? ビビも動いたの!?」
「動いたのよ! いつものようにビビとお話をしてたんだけど、突然こっちに向かって歩いて歩いて、ゴテンって転んだワケ! でもそれっきり。もう動かないの」
美々はビビを持って実演して見せて、トーストにかじりつく。
「それよりもさぁ! あんたたちのほうがもっとすごいことしてんじゃないの! ナックルがでっかくなって、宇宙から来たロボットと戦ったんでショ!? なにそれ超すごい!」
「すげーだろ。オレも驚いた」
ジリリリリ! 会話をさえぎるようにして電話が鳴る。帰ってこないミラかもしれない。陽太は受話器を取った。
相手は小学生の友達。内容におどろいた。おもちゃが動いた。だから今すぐ会っておもちゃを見せたいと。
会話が終わって受話器を置く。すぐに着替えようとすると、また電話が鳴った。また小学生の友達からで、これも内容は同じでおもちゃが動いたから見せたいという話。また電話が鳴る。やはり同じ内容。また電話。また電話。また電話……全部同じ内容だ。
電話を受けるだけで優に一時間は経ってしまった。この時ばかりは友達の多さをうらんだ。
しかし、とんでもないことが起こっているということはよくわかった。こんなに多くのおもちゃが動き出すなんて、ただごとではない。
昨日の夜のことを考えた。あまりにも空想じみている。夢としか思えない。しかし……
陽太は右手の甲を見た。そこにはオレンジ色の太陽の紋章。金属の板に彫りこんだように確かに刻まれている。あの出来事が夢でない証だ。
あれが夢ではないということは、これから今までの生活はできなくなるのかもしれない。
昨日の夜、確かに異変が起こった。きっと世界が変わったのだ。変化に対する不安はあった。しかし、決して悪くない、いや、今までよりもいい未来が待っていると思えた。右手の甲の太陽がその証だ。あの夜、確かに絆を感じたのだ。悪い未来になるはずがない。
みんな着替え終わり、自分のおもちゃを持って、子供たちと待ち合わせた公園に向かう。
◆
公園へ向かう道すがら、陽太は派手な美々を眺めた。テンプルに星飾りをたらしている赤いメタルフレームの伊達メガネ。黒シャツの胸とおなかのボタンを開けて、ヘソと、ピンクのブラと、胸の谷間を見せ、赤いチェックのネクタイをたらす。ネクタイと同じ色柄のプリーツスカートを、わずかにパンツが見えるくらい短い丈ではき、前からはパンツが、うしろからはおしりがチラと見えている。髪の色と合わせた両脚で色違いのピンクとグリーンのオーバーニーソックスの上に、赤いヒモで編み上げた黒いブーツをはいている。アクセサリーは首にベルトチョーカー、右手首にベルトバングル、左手首には赤いリボン。派手好きにもほどがあるだろうと思う。パンツや肌を露出してることに関してはもっと恥じらいを持てと言いたいが、言ったところで聞く耳を持たない。恥ずかしい格好をしてるのにいつも誇らしげなのだ。
陽太の格好はシンプルだ。オレンジのジーパン、タイトフィットなVネックの白いTシャツ、ソールがブーツのようにでこぼこで分厚い黒いスニーカーを着ている。
三人でおしゃべりをしていると、公園に着いた。すでに公園は大勢の子供たちでごった返していた。一斉に陽太を呼ぶ声が辺りに響き渡る。
大勢のはしゃぎ回る子供たちを制して詳しく聞いてみると、みんな一様に、夜おもちゃが動いたが今は動かない、と話した。巨大化したりといったことは誰も言わなかった。
一通り話を聞き終わると、おもちゃの自慢大会がはじまった。どの子が持っているおもちゃも、親からの誕生日プレゼントだったり、おこづかいを貯めて買って大事にしているものだった。大勢いるから、中には同じおもちゃを持っている子供もいたが、“設定”が違った。みんなそれぞれ特別な名前があって、オリジナルの設定や必殺技がある。子供たちはそうやって、愛着と思い入れを強めていた。特に男の子たちは、みんなそろって自分のおもちゃが一番強いと張り合った。女の子たちは強さよりも、かわいさやきれいさを張り合った。
その後は、どうしておもちゃが動き出したかと、どうして今は動かないのかをみんなで考えた。しかし、おもちゃが動きだした原因は流れ星以外に思いつかなかった。
うんうんうなって考えたが、だんだん話に飽きてきてしまい、みんな公園の遊具やボールを使って遊びだした。
「兄ちゃーん! 変な虫見つけたー!」
燦がなにかを持ってきた。両手でなにかを包んでいる。手を少しだけ開くと、中からピョーンと黒い虫のようなものが飛び出した。
「おわっ! なんだこれ!?」
飛び出した黒い虫は、公園の脇に置いてあるみんなのおもちゃへ一目散に向かって、ゴキブリのように足を動かして走る。おもちゃの一つにしがみついてなにかしている……
「こいつ、なにしてやがんだ!」
それを見た陽太は急いでおもちゃから払いのけた。おもちゃの一部が欠けている。
「あの虫、おもちゃを食ってる!」
払われた虫はほかのおもちゃを食べる。それも急いで払う。また食べる。払う。そんなことを何度もくりかえすと、虫はおもちゃを食べるのをあきらめたのか、今度は子供たちのほうへ走る。そして服を食べた。食べる食べる食べる。どんどん服がなくなっていく。異変に気づいた子供たちが奇声を上げてパニックを起こす。当然すぐに追い払われるが、別の子供が狙われ、払いのけられるたびに次々に子供たちの服が食い荒らされる。夏だからみんな薄着で、多くの子供たちが肌を晒した。
「兄ちゃん! あれ悪い虫だ! 超悪いよ! ヤバイ!」
「あぁ、なんだかわからねぇがヤバイな」
美々が勇敢にも子供たちの前に立って虫を踏みつけて殺そうとするが、脚をつたって体に登られ、瞬時に服のあちこちを食い荒らされてしまう。
「ああああ! ちょっ、ふざけんなコラアアア! アタシのお気に入りをおおおお!」
半裸の美々は鬼のごとき形相で虫を捕まえようとする。しかしその気勢はすぐに削がれた。
虫がどんどん大きくなっていのだ。両手で包めるほどの大きさだった虫は、すぐに大型犬ほどの大きさになり、四つの脚と赤い一つ目の姿で公園中を走り回った。
子供たちはすぐにおもちゃを持って虫から離れた。この場の誰もが恐れを抱いて注視した。
虫は自分の体を半分に割るほど大きく口を開けて、花壇を花とレンガごと丸ごと食った。大きく口を動かして噛み砕く。プッと花だけ吐き出して、またほかのものを食べ始める。滑り台まで丸飲みした。食べる食べる食べる。
すると突然子供たちのほうへ向き直った。全員がビクンと体を跳ねさせて緊張した。虫が子供たちのほうに向けて走り出す! 全員がパニックを起こして散り散りになって逃げた。虫は陽太と燦のあとを追いかける。
「兄ちゃん、あいつこっち来た!」
「うひいいいいいいい! こっち来るなああああああ!」
陽太はナックルと燦を脇に抱えて猛然ダッシュで走り出す。
一瞬だけ頭が真っ白になったが、すぐに昨夜の出来事と関連があるに違いないと思い至る。ということは、この虫もベガと同じように敵なのだ。
だから昨夜のように、ナックルがきっとなんとかしてくれる。そう思った。
「ナックル、おいナックル! 聞こえてるんだろ? なんとかしてくれよ。おいおいおい!」
片手に持ったナックルに必死に語りかけながら街の中を疾走する。
虫は建物のあちこちに体をぶつけながら走り回る。そして建物、郵便ポスト、電話ボックス、電柱。そばにあるものならなんでも食べて大きさを増していく。
「助けてくれよおおおお! ナックルうううううううう!」
ガツンと爪先を地面にぶつけてつんのめる。燦をかばって倒れた。ナックルを落っことす。
「燦、逃げろ!」
「兄ちゃんは!?」
「あいつを足止めする! おまえは早く逃げるんだ!」
「兄ちゃん!」
「急げッッ!」
立ち上がって燦の背中を強く押して走らせる。そして自分は虫に向かって仁王立ちする。犬の大きさを超え、牛くらいになった。巨体からとてつもない威圧感を感じる。陽太は恐れおののき、泣き出しそうになった。
ナックルを拾い上げる。怖いものを見て親に頼る子供のように不安な顔でじっと見つめる。
「オレはよぉ、子供たちにはヒーローだとか言われることもあるんだ。なんでかわかんないけど好かれてる。尊敬されることも少なくないと思う。でもよぉ、ホントは臆病なんだ。精一杯かっこつけちゃあいるけどよぉ。怖いものは怖いんだよ。できれば立ち向かいたくなんかないと思ってる。父ちゃんみたいな、おまえみたいなヒーローになりたいって思ってるのにな」
獲物を追い詰めたつもりなのか、虫は走るのをやめ、じりじりと、ドスドスと地面を揺らして陽太に迫る。
虫は自分の体ほど大きく口を開けた。陽太に怖気が走る。
「助けてくれ! ナックルッーーーーッ!」
光った。陽太の右手の太陽が、ナックルが。まぶしくて目をつぶった。
光がやんだ。目を開けて見えたのは、自分そっくりの背丈に巨大化したナックル。
「ナ、ナックル……ッ!」
驚きと安心が混ざった表情でその場にへたりこむ。
牛ほどの巨体の虫がナックルめがけて突進する。
ナックルは体を左にグルリと一回転させ、その運動エネルギーを腕に集約して拳骨を打った! ドォンと空気を揺らす衝撃波を起こして、牛ほどもある巨体が一直線にぶっ飛んでいく。公園のフェンスが歪むほど勢いよくぶつかって、そのまま沈黙した。
「待たせたな、アニキ!」
ナックルは陽太に向き直り、手を差しのべた。その手をつかんで起き上がる。
「アニキ? オレのことか?」
「そうだぜ。オレを作ってくれた。だから“アニキ”さ!」
「そうか……そうか! 助けてくれてありがとう!」
「いいってことよ!」
二人はにかっと笑い、力強くがっしりと握手を交わした。
周囲から歓声が湧き起こる。ナックルが巨大化して虫をやっつけるところを、みんなが見ていた。夢に描いたヒーローが、目の前にいるのである。この場の誰もが熱くたぎった。
しかしこれで終わらなかった。みんなの持つおもちゃが、次々と動きだした。そしてしゃべるのである。誰もが狂喜乱舞した。ライブコンサートじみた熱狂。あまりの騒々しさに周辺の住民がみんな出てきて文句を言った。しかしそんなことはおかまいなし。おもちゃを持つものたちは、おしゃべりができることの感動と興奮をおもちゃとともに分かちあった。
「わーーーい! わーーーい! これからはセラといっしょに遊べますーーーっ!」
「はわあああああ! やめて! やめてあかりちゃん! たかいたかいしないでええええ! 落っこちちゃう落っこちちゃううううう! 怖いよおおおおお! ひぃぃぃぃん!」
燦はぴょんぴょんと飛び跳ねながらうさ耳を揺らし、セラを高く放り投げてはキャッチするをくりかえして、全身でよろこんだ。
「ビビ、あんた動いてる……しゃべってる!」
「美々、美々! そうなのです美々! わたくし、しゃべれるようになったみたいなのです。ずっとあなたとお話するのが夢でした……! ああなんてこと! うれしい。うれしくて涙がでてしまいます!」
ビビは美々を見つめて宝石のような瞳を潤ませた。それを見つめ返す美々も同じ。
「アタシもあんたとおしゃべりできたらいいなってずっと思ってた。ママもパパもいなくて、あんたと二人きりでいることが多かったから、いつもアタシがお話してたよね。あんたが返事をしてくれたらいいなって、ずっと思ってた。アタシもあんたとおしゃべりしたかったんだよビビ! あんたとおしゃべりするのが夢だった!」
「美々、わたくしは、いつもおうちで一人ぼっちでいるあなたのお話に、ずっとずっとお返事がしたいと思っていました。これからはそれができますのよ! 美々の言葉に、たくさんたくさん、いっぱい、お返事してあげますわ! だからいっぱいお話しましょうね、美々!」
「うん、うん! ありがとう、ありがとうビビ!」
美々とビビはひしと抱きあい、頬をくっつけ、涙をこぼした。ビビはドールであるはずなのに、人間の肌のようにぷにぷにとしてやわらかい頬だった。おもちゃなのに、人とまったく変わらない温もりがあった。美々はビビに友達であることを欲した。ビビはそれに応えたかったのに物言えず叶わなかった。両者の想いは今、成就した。
美々と燦のほかにも、大勢が泣いたり笑ったりを盛大にやった。この場の誰もが夢の実現を実感し、その奇跡をよろこび、興奮で騒ぎ散らした。
わーわーと騒ぐ子供たちの中へ、突然一台のスーパーカーが激しいドリフトをして割って入る。子供たちは驚いて騒ぎを止めた。低い車高、真っ黒なボディに金色のラインが稲妻のように走っており、一般販売しているとは思えない独特な形状をしている。スーパーカーから現れたのは背の高い女。稲妻のようにジグザグの金髪ポニーテールを赤いヘアバンドで結んでいる。キャミソールに丈が短いデニムジャケット、ヘソ出しでデニムホットパンツ、ソックスははかずに赤いローカットスニーカーといった出で立ち。誰よりもでかいおっぱいとおしり。
このスタイルは間違いなく……
「姉ちゃん!」
「よお、陽太! ママって呼べよ!」
ミラは言ってから、陽太の隣に立っているナックルをしげしげと眺めた。
「姉ちゃん! 聞いてくれよ! こいつはナックルだぜ! オレの一番のおもちゃのナックル! こいつが動いて、しゃべって、でっかくなって戦ったんだ! すげぇだろ!」
「これがあのナックルか。ふむふむ……」
「あれ? 驚かないの? ここにいるみんな大騒ぎしてたっていうのに」
「あたしは全部知ってるからね」
その場の全員が、「え!?」と驚く。
「おもちゃが動いたりしゃべったりすることがなんでか、知ってるんだよ。全部な」
ミラはニカッと笑った。
「えええええええええええええええ!」
◆
なぜおもちゃが動くようになったか。それはやはりあの流れ星が原因だった。あの流れ星はグレートグレアという、物体に命を与える結晶珠。それがおもちゃに影響して、覚醒を起こした。覚醒したおもちゃは“フィギュア”と言う。
どんな物体でもフィギュアとして覚醒できるわけではなかった。人の強い想念がこめられた人工物、アーティファクトでなければフィギュアに覚醒できない。グレートグレアの影響を受け、強い想念がこめられていたからこそ、みんなが持つおもちゃが覚醒できた。
おもちゃにはすでに記憶があった。ナックルは陽太を「自分を作った人」として認識しているし、ビビは美々に「返事がしたかった」と言っている。おもちゃたちには、フィギュアとして覚醒する以前の記憶がある。これは、物体には記憶が宿るからであった。人でなかったとしても、強い気持ちを向けられて、それを覚えていないはずがないと、ミラは熱をこめて語る。フィギュアが持っている記憶を、大切な思い出、“プレシャスメモリー”と言う。
どんなものであろうとも、物体には記憶が宿る。人の強い気持ちを向けられる、その記憶が蓄積することで、向けられた気持ちに応えたいという気持ちが強くなっていく。それがフィギュアの覚醒を起こすのだ。
ものを食べて巨大化していく黒い虫の正体について。ミラはこれを“バグ”と呼んだ。グレートグレアの影響で発生した、フィギュアのなりそこない。強い想念がこめられていない、その辺に転がっているガラクタがバグとなる。
このバグは必ず駆除しなければならない。バグは無機的な物質を食べる性質がある。そうすることで自分の不完全さを補おうとするのだ。放っておけば満足するまで食べ続ける。これは人が生活する上で必要なもの、たとえば家、電柱、車、道路などを食べられ、破壊されるということ。イナゴが稲を食い荒らすのと同じことが、街で起こる。バグは無機物の物体にあふれた都会の害虫なのだ。だから必ず駆除しなければならない。
駆除するために必要なのがフィギュアの力だ。グレートグレアによって誕生した生物は、“フォトングレア”のない攻撃では傷つけられない。たとえ核攻撃であっても平気で耐えてしまう。グレートグレアの力で誕生した生物は、皆フォトングレアという粒子で体が構成されている。このフォトングレアの体はフォトングレアによる攻撃でなければ傷つけることができない。バグはフィギュアの力でなければ倒すことができないのだ。
フィギュアの体も、核攻撃でもびくともしないフォトングレアの体を持っているが、平時では普通のおもちゃとしての強度しかなく、壊そうと思えば子供の手でも簡単に壊せてしまう。その状態ではバグを倒せるほどの力もない。これはエネルギー消費を抑えているため。
バグを倒すためには、フォトングレアのエネルギーを開放し、力を高める必要がある。フォトングレアを解放する状態になることを“フィギュアライズ”と言う。変身やバトルモードのようなものだ。
「話なげーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーよ!」
「おいおい、まだ終わってないぞ? 次はおまえたちの顔や体についたその紋章の話だ」
言われてお互いを見てみると、みんなの顔や体に紋章が表れている。人それぞれ違う形をしている。たとえば、美々は左目の下にピンクの流星。燦は右頬に黄色のタンポポ。
「なにこれ!?」
「鏡を貸してやるから、自分の紋章を見ろ。そしておもちゃを見ろ」
美々は自分の流星の紋章を見てからビビを見た。同じ場所に同じ紋章がある。えっと驚くが、これがどういうことなのか、すぐに察した。
「言わなくてもわかるだろう?」
ミラはニヤニヤと楽しそうに語る。
「言わなくてもわかるだろうが、ちゃんと教えてやる。それはネクサスエンブレム! 人とフィギュアの絆の証! こいつが表れたということは、人とフィギュアが熱い絆で結ばれたということ! 人間はフィギュアの持ち主だ! だからホルダーと呼ぶ!」
ネクサスエンブレムはたいてい顔に表れるが、陽太のように顔以外の場所に表れることもあると付け足す。
「さぁどんどん説明していくぞ! 次はバグ退治に必要な戦闘に関する知識だ!」
ミラは陽太とナックルの肩に手を置く。
「おまえたちを使って説明する。まずナックル、ちっちゃくなれ。フィギュアライズを解除するんだ。力を抜くだけでいい」
言われて、ナックルは小さくなり、元のおもちゃに戻る。
「次はどうすればいいんだ?」
「もう一回フィギュアライズするんだ。いいか、二人そろってフィギュアッラーーーイズ! って叫ぶんだぞ?」
「よっしゃ! やるぜ、ナックル!」
「おう!」
「フィギュア、ラァーーーイズッ!」
二人は叫び、陽太はナックルを空に放つ。空中で光を放ち巨大化するナックル。そして着地して、二人でかっこよくポーズを決める。
「かぁっけええええええええええ!」
興奮した子供たちは、話の途中ということも忘れ、すぐさま続々とフィギュアライズしていく。フィギュアライズしたフィギュアたちは、ホルダーそっくりの体格に巨大化した。
「よしみんな、フィギュアライズのやり方はわかったな。じゃあ次はこいつだ。おまえたちにプレゼントだ。その名も、ポータフォン!」
ミラは車から持ってきた、手のひら大の携帯端末をみんなに配る。
「なにこれ?」
「聞いて驚け、そいつはな、電話だ!」
「電話って、これ線がないじゃん。え、線がないのに電話ができるの!?」
「その通りだ!」
「すげええええええええええええ!」
「そいつはな、百年前、日本が壊滅する前の、科学技術が魔法と言われていた時代の道具だ。それを使えるように、あたしが改造した!」
無線通信技術はかつて存在していた。しかし現代にはない。電波が遮断されてしまうからだ。遮断しているのは百年前には存在しなかった粒子。それがフォトングレア。百年前の戦争はフィギュアによるもの。その戦争後に大気にはフォトングレアが満ちた。空にある、オーロラに見えるものもフォトングレアだ。
「昔、人々はその“ケータイ”で多くの言葉を交わした。それを再現した。ポータは人の心と心をつなぐアイテムなのさ」
ポータには通話とメールと、あと二つ機能がある。
「おまえたち、自分のフィギュアがどんくらいの力があるのか知りたいよな? バグがどこにいるのか知りたいよな?」
うんうんと首を縦に大きく振ってうなずく子供たち。
「このポータでそれができる! フォトングレアカウンターという、空気中のフォトングレアを計測する機能がある。どこにフォトングレアの反応があるか、つまりどこにバグがいるかがわかる。また対象のフィギュアやバグが放出するフォトングレアの濃度を計測することで、どのくらいのパワーを持っているのかがわかる。これらはポータがオートでやってくれる。難しい操作はない。試しにナックルのパワーを計ってみろ」
子供たちが教わった操作をすると、端末の画面にフォトングレアカウンターが表示された。七色の円環状のゲージの中に六桁の数字がある。ナックルの数値は五〇〇と少し。
気になるのが、自分のおもちゃの力がどんなものかというところ。子供たちはすぐに自分のフィギュアのパワーを計測する。しかし高くて四〇〇と少しで、どの子のおもちゃもナックルにはおよばない。この点でも陽太はみんなからすごいと尊敬を集めた。
「ここからナックルはパワーアップする! 陽太! 実演だ!」
「おう! ……ってなにすればいいんだ?」
「勇壮絶叫! ヒロイックシャウトだ! 陽太! さぁやれ!」
「おう! ……ってなにそれ?」
「言わなくてもわかるだろ? 絶叫だよ! シャウト! 今からおまえは、ナックルにエネルギーを送るんだと強い気持ちをこめて、全身に力をこめて、叫ぶんだよ! さぁやれ!」
「わかった。よっし! いくぜ、ナックル!」
「おう!」
陽太とナックルは構える。大股を開き、腰を落とし、ひじを曲げ、拳を握りこむ。爪先から頭のてっぺんにいたるまで、全身の筋肉に余さず同時に力を注いだ。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
はじめは静かに、しかしどっしりと重い声をもらしていく。
「あっ! 数字が増えていく!」
カウンターの数字の増加にあわせて、サークルゲージがグルグルと回る。
「あああああああああ……ッッ!」
陽太の力強さはどんどん増していく。全身への注力によって筋肉が隆起し、汗を浮かべた。
「はああああああああああああああああああああああああああああああッッ!」
陽太は溜めにためた全力を解放し、昨夜のように、黒髪がオレンジに、白い前髪が赤に、そして爆発したように逆立つ髪型となる。二人はオレンジのオーラに包まれ、そこを中心として重い音を立てて突風が起こる。風にあおられていくらかの子供たちが倒れて転がった。この突風の正体は声。圧縮された声が風となって辺りを吹き飛ばしたのだ。
カウンターのサークルゲージは勢いよく回転していく。数値は二〇〇〇を超えた。
「四倍ィ!? すげえええええ!」
「人と心を通わせ、エネルギー受け取れば、フィギュアはパワーアップできる!」
「姉ちゃん、なんでオレ光ってんの?」
「それはシャイニングオーラ! 陽太からフォトングレアが放出されてるんだよ! 一度にたくさん放出するから光る! フォトングレアは光るんだ!」
ミラは次に燦に向かう。
「さぁ次はバグの探し方だ! 燦、フォトングレアカウンターを使ってポータをあちこちに向けてごらん」
言われて燦はポータに表示された地図を見つめる。同じ色の反応がたくさんある。これはきっと自分たちのフィギュアの反応。あちこちへ向けてみると、点滅する一つの反応があった。
「あっ! 色が違う反応があります! ピコンピコンってしてます! こっちですー!」
燦がセラを握って反応を追いかける。その方向は、さっきナックルがバグを殴り飛ばした方向だ。反応がある場所へたどり着くと、そこにはアスファルトを食い散らかすさきほどのバグの姿があった。
「よし! やりますよー、セラ!」
「えっ? ええええええええ! 無理無理無理ぃぃぃぃ! 戦い方なんてわかんないよぉ!」
「がんばってね! フィギュアラーーーーーーイズ!」
「いやああああああああああああああああああああああ!」
燦は勇壮絶叫し、黄色のシャイニングオーラを纏いながらセラをバグに向かって放り投げる。バグに向かって特攻するように飛びながら巨大化するセラ。わけもわからず拳を突き出してみる。拳がバグの体にめりこんだ。大したダメージを与えられたようには見えない。バグにぶつかった反動で跳ね返って尻餅をついて転ぶ。
バグのパワーは一五〇〇ちょっと。対してセラのパワーは一〇〇〇と少し。力およばず。
「たたたた、たすけてええええ、あかりちゃーーーーーん!」
バグに狙いをつけられておびえ、涙目で訴えるセラ。バグの巨大な牙が迫る。
そこに割って入り、セラを守るビビ。フェンサードレスを身につけており、パワーはバグを優に超える一八〇〇。
「見てらんないなぁ、もう! さぁ、やっちゃいなさいビビ!」
「わかりました! 美々が作った、このフェンサードレスの力、とくと味わうがよい!」
ビビは上下にすばやく剣を振り、勇ましく斬撃をくりだす。ブラストのごとく激しい攻勢に、傷から光の血を吹いてバグは吹き飛び、また沈黙した。
「楽勝! やったねビビ! イェーイ!」
笑顔でパンッとハイタッチを決める二人。
「セラもビビもよくやった! しかぁし! 戦いは終わっていない!」
ミラが言うと、バグは再び動き出した。風船のようにふくらんでいき、ボンっと弾け、無数の小さいバグとなって分裂した。
「バグは目ン玉に見える赤いところがコアだ。こいつを破壊しないと復活するぞ!」
この場にいる全員が意気込み、無数のバグと戦った。バグはすぐさまあちこちの家の壁、電柱、道路、とにかく生き物でなければなんでも食べ散らかし、それぞれが犬くらいのサイズになる。パワーは一〇〇〇にも満たない。子供たちのフィギュアは勇壮絶叫によるブーストで弱いものでもパワーが一〇〇〇を超えている。
「解説も大詰めだ! まだ大事なことを教えてないから教えてやる! それは“浪漫設定”ロマンティックイデアだ! おまえたちが大事に大事にしてるおもちゃにこめた熱い想いの結晶である設定! それがロマンティックイデア! これがあるからフィギュアはもっともっと強くなれる! さぁ陽太、お手本だ、見せてやれ。おまえのナックルの“必殺技”を!」
「よっしゃああああああああああああ! ブチかますぜええええええええええ!」
陽太とナックルは右腕を掲げた。ナックルの右拳がけたたましい音を立てて回転する。
「リボルビングウウウウ……ナックルウウウウウウウウウアアアアアアア!」
竜巻を纏って撃たれる拳。またたく間に十体以上のバグを倒した。
それを見た子供たちは熱狂した。陽太とナックルに憧れた。自分たちも同じくらいかっこいいことがしたい。そう思って、みんなが必殺技をくりだし、破竹の勢いでバグを駆除した。
しかし優勢は長く続かなかった。一部のバグのパワーが急激に上がりだした。パワーは一〇〇〇を超え、一五〇〇を超え出す。ついには一八〇〇を超えて象のように巨大化し、この場でナックルの次に強いビビに届いた。
「なんでだ! 妙に強いヤツがいる!」
子供の一人が、バグにフィギュアを噛まれたと言った。
「フィギュアを食われた! そこら辺に転がってる物体より、フィギュアを食うほうが強くなる! 油断するなよおまえたち!」
「よしわかった! これ以上強くなる前に、オレのナックルが片づけてやる!」
陽太とナックルがリボルビングナックルを撃ち出す! が、出ない。拳が飛ばない。それどころか、拳の回転が止まってしまう。
「兄ちゃん! ナックルのパワーがぜんぜんないよ!」
ポータを見ると、ナックルのパワーが一〇〇を切っている。次の瞬間、ナックルはおもちゃに戻った。陽太のシャイニングオーラも消えた。
フィギュアライズが解けてしまった!
「陽太! 必殺技を使いすぎだ! エネルギー切れだ!」
「ええええええええええええええええええええええええ!?」
「確かにそうだ……元気が出ない……腹が減った……」
「おいナックル。腹が減ったってなんだよ!?」
「アニキ、メシを食わせてくれ。そうすればパワーが戻る」
「ホントかよ!?」
ウソである。ただ、自分もごはんが食べてみたいなぁという、軽々しい気持ちで言った。人間たちがにぎやかに楽しそうにごはんを食べているところを見てきたので、憧れがあるのだ。
「ラーメンがいい! アニキ、頼む!」
「よしわかった! じゃあメシを食おう! みんな、オレたちは今からラーメンを食ってくる! 戻ってくるまでにあいつを倒すか、でなければ持ちこたえてくれ! 頼んだぞ!」
陽太はナックルを持ってラーメン屋に向かって駆け出した。
◆
ラーメン屋“国士無双”。繊細さのかけらもない大雑把な味の料理を提供する飲食店。やたら大盛りのメニューが多いことも特徴だ。
今日の店内は満員。席が空くのを待っている人たちが列を作っていた。これじゃすぐに食べられない。ラーメンが食べたいと言ってるのにファミレスのラーメンを食わせる気にはなれなかった陽太は、列を作ってる人たちに金を渡して順番を譲ってもらった。早く戻らなければ、みんなのおもちゃが無事ではすまない。
向かい合わせに座り、注文を終え、ラーメンが目の前にやってきた。
「さぁナックル、食うぞ!」
「こ、これが……ラーメン……ッ! あの、ずるるるるっとやるヤツ……ッ!」
ナックルはがんばってフィギュアライズして人間大のサイズになった。それを見た周りの人たちが驚く。そんなのはおかまいなしに食べ始める二人。
ナックルはおずおずと、はしで麺をつかんだ。初めてはしを持つのに、とてもそうとは思えないほど器用にあつかった。そして麺を口に入れて、ずるるるるるっと吸いこむ。
「うンめぇぇぇぇ~~~~~~~~~~~~~~~ぇぇぇ! これよッ! オレはこのずるるるるっがやりたかった! しかもめっちゃうめぇ!」
感動の雄叫びを上げる。一心不乱に麺を口に流しこむ。すぐに一皿、二皿、三皿とたいらげていく。陽太も同様だ。
「おい! アニキ! みんなはこんなにうまいもんを食ってたのかよ! そりゃあないぜ! こんなのズルすぎる! もやしとキャベツがしっかり炒めてあるのにシャキシャキしてて塩こしょうがきいてる! スープはこってこて。透明な脂が浮いてるんじゃない。白い脂が浮いてる! どんだけ濃いんだよこれ! そんで麺だぜ。太すぎもしねぇ、細すぎもしねぇ、すすりやすい太さ、飲みこみやすい。麺の固さもいろいろあって飽きがこねぇ。しかもこの麺、ただものじゃねぇな? なんだかわからねぇが隠し味のにおいがするぜ。極めつきはチャーシューだ! こいつがヤベェ! なんだこの口の中で溶けるようなやわらかさは! しかもにおいも味もびっしり染みこんでやがる! なんだよこの食い物はよぉ……なんなんだよアニキ!?」
「ラーメンだよ! おまえメシ食うのホントにはじめてなのかよ! ソムリエか! おもしろいな! そうだろ、うまいだろ、ラーメン! ここはここらじゃ一番うまい! おまえが言った通り、シャキシャキの野菜、白く見えるほど濃い脂、一味違う麺、溶けるようなチャーシュー。うまいよな。最高だよな!」
「うまいッ! それとおもしろいッ! 楽しいんだ! アニキといっしょにごはんを食べるのだって夢だった! ごはんを食べることだって夢だったけど、一人で食べてたら、絶対楽しくなかった。こんなうまいもんを食って、こいつァうめぇ! って言うのを聞いてくれる人がいる。アニキに、これうめぇって言ったら、いっしょにうめぇって言ってくれる。だからもっとおいしくなった。誰かといっしょにごはんを食べるって最高なんだな、アニキ!」
「そうだ! メシはただ食ってもいいものだが、誰かと食えばもっとイイ!」
その後も二人はうめぇうめぇと連呼しながらラーメンをかきこみ続けた。
ポケットから陽気なメロディが聞こえた。聞いたことがない電子音に戸惑うが、正体がポータだとわかった。着信とある。電話だ。燦が出た。
「兄ちゃん助けて! みんなやられちゃった! ビビががんばってるけど、もうボロボロだよ! 早く来て! ひやああああああ!」
悲鳴が聞こえて電話は途切れた。
「燦! 燦ぃ! クソッ、電話が切れちまった!」
電話をかけ直してみるも、反応がない。急がなければみんなが危ない。
「ナックル、パワーは充分か?」
「おう! いまだかつてないほどみなぎるものを感じるぜ!」
「じゃあいくぜ!」
食事で力が回復するなどナックルは思っていなかったが、想像以上の充足感が得られた。
陽太は店員たちに、またよろしくと声をかけて駆け出した。みんなが待つ戦場へ。
◆
一軒家ほどに巨大化した一匹のバグに向かい、一人立ち向かうビビ。その姿はボロボロだ。表情も疲弊しきっている。服が破れ、鎧もボコボコだ。息切れを起こし、足取りも乱れる。パワーは一五〇〇を下回っていた。逃げようにも逃げられない。背後には大勢の子供たちとフィギュアライズが解けたおもちゃたちがいるのだ。
バグの攻撃を避けるほどの敏捷さがなくなっているため、盾で攻撃を防いでいく。しかしその盾もついには破壊されてしまう。吹き飛ばされて背中から倒れる。
「ビビッ!」
「まだですわ……倒せないなら、せめてナックルどのが来るまで、持ちこたえなければ!」
ビビは剣を両手で握り、力を振り絞って飛びかかり、バグに一太刀をあびせる。しかし反撃によって剣を折られ、突き飛ばされる。倒れた。パワーが急激にダウンする。一〇〇を切った。フィギュアライズが解ける。
無情にも顎が開き、ビビに迫る!
「ビビィィィっ!」
美々がビビを助け起こす。バグはすぐそこだ。もう逃げることはかなわない。恐れでぎゅっと目をつぶって叫ぶ。この場の誰もが敗北を覚悟した。
「ヒナあああああああああああああああ!」
助けを呼ぶ悲鳴が響き渡る。この声を放っておかないヤツがいる。誰の危機にも必ず駆けつける。その男、天道陽太。
「あいよおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!」
ゴオオオオオオオオオオオオオッと轟くソニックブーム。拳の弾丸がバグの側面を打って突き飛ばす。そのまま公園の木々をなぎ倒して転がっていく。
「ヒナぁっ!」
感激のあまり、美々は陽太に抱きついた。それをぎゅっと抱き返し、ナックルと肩を並べてバグに立ち向かう。
「美々、みんな! よくやってくれた! あとはオレたちに任せろッ! いくぜナックル!」
「おう!」
陽太とナックルが到着した。これで助かる! 敗北覚悟から一転、誰もが勝利を確信して顔を明るくした。歓声が湧き起こる。
「兄ちゃん! あいつのパワーは三一二八だよ! すっごく強いよ!」
バグのパワーは三一二八。ナックルは二二五〇。パワー負けしている。しかし陽太はひるまない。ナックルと温めあった心があった。充足感が、二人を強くする。その確信があった。
「なぁに、大したことねぇなァ! 要するに、さっきよりも強くなればいいだけだろォがァ! そうだろオオオオオオオオオオオオオ!」
「ああ、そうだ……ッ。そうだともオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
二人は並んで勇壮絶叫を吼えた。オレンジのシャイニングオーラを放つ。カウンターのサークルゲージが回転して数値がどんどん上昇していく。そして最高潮。二人が衝撃波を放つ。
「はああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!」
ナックルのパワーが三二〇〇、まだ積んで、三三〇〇を超える。
体勢を立て直したバグが牙を向くが、無駄である。絆を深めた人とフィギュアの力の前に、本能を無軌道に振り回すだけの生き物がかなうはずもない。ナックルはモーター音をうならせ、トルネードを起こして回転する拳骨を、バグのコアめがけてぶっ飛ばす!
「リボルビングッ、ナックルーーーーーーーーーーーーウウウッ!」
陽太はこの上なく自慢げに、浪漫あふれるナックルの設定を語る。
「大きな右前腕に内蔵されたモーターで拳を超高速回転させ、弾丸のようにぶっぱなす。銃の弾丸をはるかに超える、その大きさはまさに戦車砲! どんなものも打ち砕く! これが、オレのナックルの、リボルビングナックルだッ!」
空気の壁をゴオオオオオッと突き破り、赤い目、コアに激突、体を貫通する。高音の電子音のような断末魔の悲鳴をあげて倒れ、バグは光る粒子となって消えた。完全なる勝利である。
「よぉっしゃあああああああああ!」
「やったぜアニキ!」
「おう! よくやったナックル!」
二人はゴンッと拳骨をぶつけあった。周囲も強敵に勝ったことで大はしゃぎした。
「ん? なんだこれ?」
ナックルはバグが消えたところにキラキラ輝くビー玉のようなものが転がってるのが見えた。つまんでミラのところに持っていく。
「これはソウルグレアだ。フォトングレアで生きるものの魂。ナックルは勝った、倒した、殺した。だから、これは食っておけ。あらゆる生き物がほかの生き物を食べて生きているのと同じだ。倒したら必ず食って、おまえの命とするんだ」
うなずいて、ビー玉のようなソウルグレアを口に入れた。飴玉のようにバリバリと噛み砕き、飲みこむ。全身を流れるフォトングレアの血が熱を増したように感じた。
「さぁこれで説明は全部終わりだ! バグも全部倒した! みんな、お疲れさん! あたしは忙しいから失礼させていただく! これからバグ退治がんばれよ! ではサラバダー!」
ミラは稲妻模様の黒いスーパーカーをブォンブォンうならせ、どこかへと走り去った。
「ふあああ~~~~~~~~~~。つっかれたぁ~~~~~~~~」
突然疲労感に襲われ、陽太は公園の地面に大の字に寝転んだ。ナックルは小さくなってその上に乗っかった。
まだ昼をすぎて少しという時間だったが、疲れているから自分たちは帰ると言うと、子供たちはまだ残って遊んでいくと言う。すごい体力だなと感心した。
昨夜に引き続き、今日もすごい日だった。日常は明らかに変化した。不安はふしぎとなくなった。きっとおもちゃがいっしょにいてくれるからだ。陽太は満ち足りた気分だったし、それはナックルもそうだった。
◆
「いっしょならやれるはずさ~煌めく空の向こうへ~光るこころ一つに~いま重ねて~」
風呂から上がり、髪の毛を拭きながらアニメを見る。テーブルの上にナックルとセラを置き、床に座った陽太のひざの上に燦が座り、美々は重い乳を陽太の頭の上に乗せてよりかかる。ビビは上品に脚を崩して座っている。みんなそろって、リズムにあわせて体を左右に揺らしながら主題歌を歌った。大きいグラスに氷とコーラを入れてストローを挿す。一つのグラスをみんなで回し飲みした。視聴が終わると、みんなでアニメの内容を実演して遊んだ。
みんなで楽しい時間をすごした。こんなに楽しかったことは今までにない。おもちゃが動きだしたということを、思う存分楽しんだ。おもちゃたちもまた、人との触れあいをこの上なく堪能した。人もおもちゃも、夢に見ていたことが実現した。この幸せを噛みしめていた。
深夜も近くなり、みんなが眠りにつく中、夜風に当たる陽太とナックル。オーロラが漂う満天の星空の下で語りあう。
「夢みたいだよアニキ。アニキたちと、こんなに楽しくはしゃげるのがさ。ずっとやりたかった。今日一日だけで、たくさん夢が叶ったよ」
「そりゃオレもだぜ。ナックルだけの夢じゃない。オレの夢でもある」
「そうか。オレたち同じ夢を見てるんだな」
「ああ。でもオレは叶えたい夢がまだある」
「なんだそれは?」
「ヒーローになること。父ちゃんみたいな、ナックル、おまえみたいなヒーローにだよ」
「そうなのか? オレはアニキみたいなヒーローになりたいと思ってた」
「オレがヒーロー? んなバカな。オレはなんもしてないぜ」
「アニキはもう立派なヒーローだぜ。七年前からな。破滅の流れ星の日だ。お父さんとお母さんがアニキと燦を守った。そのあと、アニキは燦を守ったんだ。アニキはその時に大やけどを負った。その“炎の刺青”のやけどだ。オレもいっしょにいたから覚えてるぜ。その時からアニキはヒーローなのさ」
「ヒーローだなんて自覚はねぇけど、燦を守りたいのは確かだ。そのためにヒーローになりたい。守りたいものを守れる力を持った、ナックルみたいなヒーローになりたい」
「オレはアニキみたいなヒーローになりたい。アニキはオレの憧れだ」
「オレたちはお互いに憧れてるんだな。知らなかった。そうか、そうだったのか。オレたちが合体できたら超すごいンじゃねぇか?」
「ははは! そりゃ違ぇねぇ!」
二人はお互いを見つめあって笑顔を向けあった。信頼と憧れがこもった優しい笑顔だった。
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病気の子供がいるんです!(ウソ) 募金感覚で! ぜひ!