【 隕石 宇宙人 たたかうおもちゃ 】
活動報告って読まれないだろうからここに書くんですけどね。
毎朝、お化粧して着替えて、鏡の前で自分をチェックするわけですよ。
そしてこう思うわけです。
「やべェな……あたしって……超かわいいな……」って。
前回のあらすじ!
おもちゃしゃべるよ! たたかうよ!
話は二日前に遡る。天道陽太がフィギュアと出会う以前だ。
陽太は朝五時に起きる。夏の今ならちょうど夜が明ける頃だ。早起きをするのは、日課の鍛錬のためでもあるが、“もう一つの理由”がある。
陽太は起きあがるとまず、にらみつけるようにして周囲を注意深く見まわし、あやしい人影がないことと、窓の鍵が閉まっていることを確認した。“もう一つの理由”はクリアした。
だれもいないことがわかると、となりで寝ている、妹の燦の頭をなでてやった。頬ずりをしてほっぺをちゅっちゅしたくなる衝動を必死にこらえてなでた。
二人の両親は七年前に死んだ。それ以来、おたがいをなによりも大切にしてすごしてきた。
燦を起こさぬよう、陽太はそっとベッドを離れる。運動着に着替えた。視界のすみにおもちゃが映る。昨夜、燦といっしょにおもちゃで遊んでいた。
陽太が見ていたのは、部屋のあちこちにすきまなく置かれているおもちゃの中でも、特別思い入れがある可動フィギュア。これは母からの誕生日プレゼントであり、父とともに改造をほどこしたもの。陽太があこがれる理想のヒーロー。右の拳を弾丸のように撃ち出す必殺技を持つことから、ナックルと名づけた。自慢のおもちゃだ。
陽太はおもちゃを通じてヒーローを夢見た。このあこがれに近づくために鍛錬をしている。
その鍛錬を終えて帰路に着くが、憂鬱だ。さきほどの“もう一つの理由”のせいだ。
陽太が部屋に戻ると、案の定であった。
長いピンク髪の女がパンツをかぶってねっころがっている。陽太のパンツを、だ。
「はへ。あへへへ」
間のぬけたあえぎをもらす女。気色悪いことこの上ないと思った。この女は毎朝こうしてこの部屋に侵入してはこのような痴と恥をさらしている。
「オイ、美々ィ!」
陽太は寝ている燦を起こさないように小声で怒った。頭を捕まえ、拳でぐりぐりと責める。
「あだだだだ! いだい! いだい! いだい!」
この女は星宮美々。陽太と同じ十六歳。陽太の幼馴染で、となりに住んでいる。
この女はとにかくルックスが派手だ。髪は表側がハイビスカスピンク、裏側が若葉のようなグリーンをしていて、立った時に地面に届くほど長い。化粧はしていないが、アイラインを引いたように目の縁が黒く、まつ毛が長い。くちびるはみずみずしい桃色をしている。瞳は精細な水晶に似たエメラルドグリーンをしており、ツリ目。よく言えば華やか、悪く言えばケバケバしい顔だ。肌は血色がよく潤いに満ちていて、健康的なにおいを感じさせる。スタイルはとてもいい。おっぱいとおしりはとても大きくまんまるで、パンパンに張っている。しかし腰や首はキュッと引きしまっている。女の魅力を語る以上のぜいたくな肉はいっさいついていない。豊満な肉づきと細さを両立した見事な体型だ。いまは制服を着ているが、かなり着崩している。まず肌の露出が多い。露出狂というほどだ。少しキツめのシャツを着ていて体型がくっきり表れている。ボタンは胸の下の一つしか留めていない。ブラジャーの上に別の下着をつけることもしない。だからブラがチラと見え、色がピンクだとわかってしまう。ヘソも見える。スカートは異常な短さで、普通に立っているだけでもピンクのパンツがこんにちはしている。前かがみになろうものなら、うしろからはパンツがいっさい隠れない。脚は黒の長いニーソックスをはいて、太ももの上のほうまで露出していない。隠すところが違うだろと陽太はいつも思う。首につけるはずの赤いリボンは左手首に巻いている。視力は二・〇をゆうに超えるが、赤いメタルフレームのだてメガネをかけている。着飾ることが好きで、私服の時はさらにアクセサリーが増える。
ひとしきり美々の頭をぐりぐりし終えると、陽太は美々の頭からパンツを奪い、鍛錬でかいた汗を流すために風呂へ向かった。
美々が頭にかぶったパンツをはくというのは気持ちのいいものではないが、これくらいのことで洗濯するというのも、もったいない。それにこれは毎朝起こるのだ。いちいち洗っていてはキリがない。陽太はしぶしぶこのパンツを持っていく。
風呂に入りシャワーを浴びる。不快で不愉快な視線を感じた。
「みィーみィーーーーー!」
「キャーーーーー!」
風呂場の扉にある換気口から美々がのぞいている。扉を開けて怒鳴り、美々を追いはらう。
風呂から出たら朝食の時間だ。陽太はキッチンへ向かう途中でリビングを通る。
「にいちゃーーーーーん! おはよーーーーーーーっ!」
タックルするように元気よく陽太に飛びこんでくる女の子。陽太の妹の燦だ。十歳。たんぽぽのような黄色い髪を、ブタのしっぽのようにツインテールにしている。瞳は春の青空のようなスカイブルーで、まんまるの形をしている。肌はスクール水着の形に日焼けしていて、小学生らしくつるつるしている。もう着替えをすませたようで、頭に白い大きなうさみみリボン、ノースリーブの白いプリントTシャツ、パステルピンク・ブルーのティアードミニスカート、白いソックスを着ている。うさみみはとにかく大きく、燦が身につけると陽太の身長よりもだいぶ高い位置に先端がくる。
「おはよう燦!」
しゃがんで妹に頬をくっつけてずりずりしたあと、頭をくしゃくしゃとなでてやった。なでられて燦は目を細め「えへへ」と笑う。
「ただいまーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
バタンと玄関の扉がひらいた。快活な女の声がする。
「おかえり姉ちゃん」
「陽太、ただいまっ!」
陽太よりも大きなその女は、返事をすると陽太を抱きしめた。
「ママーーーーーー、おかえりーーーーーーーっ!」
「ただいまー燦!」
突進してくる燦をしゃがんで抱きとめる女。二人はほおずりして愛情をおしつけあった。
この女の名はミラ。両親をなくした陽太と燦の保護者だ。陽太よりも背が高い。金髪で、赤いヘアバンドで稲妻のようなジグザグのポニーテールを作る。腰まで届く長さだ。前髪は右側だけ直角にカールして上を向いている。瞳はルビーのように透きとおったあざやかな赤で、活力あふれる目力がある。両目の目尻にそって金のM字模様がある。スタイルのよさでは美々にも勝る。非常に細く引きしまった体つきで、腕や脚は女性としての丸みを保ちながらも筋肉が浮き出てたくましさがある。おっぱいは誰よりもでかい。おしりの肉も多め。美々が女らしい丸みをおびたスタイルのよさだとすると、ミラは筋肉質で力強さを感じさせるスタイルのよさがある。
ミラは着ているものをぽいぽいと脱ぎだし、丈が短いスポーティなキャミソールと、体にピタッとフィットする下着のショートパンツだけという格好になる。ブラをつける習慣がないため、キャミソールに乳首がつんと浮き出る。
「ミラ! なんであんたはいつもいつもブラをつけてないワケ!? 朝っぱらから乳首トンがらせてんじゃないわよ!」
ミラを指さして声を荒らげる美々。
「いやぁ、ブラは苦しいっていつも言ってるジャン」
ミラはにやにやして答える。
「男の子がいるのよ!?」
「いやいや、それを言ったら美々ちゃんだって刺激的ジャーーーン? ブラとパンツをチラチラ見せてさァ。男の子には刺激が強すぎィ!」
「アタシのはファッションなの! あんたのはただヤらしいだけでショ!」
「ヤらしくなんかないよォ~~~。陽太はあたしの息子だよ?」
「二十五のあんたに十六の息子がいるわけないでショおおおお!」
「あたしは陽太のママだもーん! ねー陽太ー!」
そう言って陽太に抱きつく。
母ではなく姉のようなものだと陽太は言おうとするが、抱きしめられ、ミラの心臓の音を聞くと、ほわほわとやわらかい気分になってきて、母親じゃないと否定する気が失せてしまう。
「ちょ、ちょっと! なにやってんの! ヒナから離れなさいよ!」
「いいジャンいいジャーン。みんなで仲良くしようよぉ~」
「あかりも仲良くしますーっ!」
みんなで陽太に抱きつく。朝とはいえ、夏である。気温はやや高め。みんな肌にじっとりと汗をにじませ、それが混じりあう。
「だぁーーーーっ! 暑苦しいんじゃーーーーーーっ! 夏だぞ夏!」
まとわりつくみんなをふりはらって、陽太はキッチンで朝の仕事をする。ごはんの支度だ。
野菜を炒め、肉を焼き、どんぶりに白米を山ほど乗せ、パンを焼いてバターとジャムを塗り、コーンフレークに牛乳をかけ、うどんをゆでる。
これだけ多様な食事を用意するのは、みんなの食の好みが違うためかとも思えるが、そうではない。みんなでこれを全部食べるのだ。いまここにいるみんなは、暴食を超えた豪食家。大食らいなのである。食べあわせの好悪など気にしない。おいしいものはいくらでも食べてしまう。こいつらの胃袋は宇宙だ。
大きなテーブルにドン、ドンと大皿に盛られた料理がならぶ。
「いただきまーーーーす!」
「ごちそうさまでしたーーーー!」
二十人前はあったかというほどの朝食はたやすく完食された。
食事にかける時間が長いせいで学校の時間が迫る。陽太と燦と美々は登校する身支度を整える。
「ママ、ちゅーしてくださいー」
「はいよ」
玄関で靴をはいた燦がミラにちゅーをねだる。ミラはにっこり笑って、燦のほおにキスをして頭をなでた。燦もにこにこして明るい顔をする。
「ほら、陽太も」
照れてもじもじする陽太の顔をつかまえて、ミラは強引にキスをする。そのとなりにいた美々にも。
「アタシはいいって!」
「なに言ってんだよぉ~。もううちの子ジャーン!」
ミラはけらけら笑って、三人を見送る。
「じゃあみんな、いってらっしゃい!」
「いってきます!」
オーロラが見える青空の下、三人は学校へ向けて走り出した。のんびり楽しく朝ごはんを食べているから毎日遅刻寸前だ。
陽太と美々は高校生で、燦は小学生。学校は小中高が全部いっしょになっているため、三人とも同じ場所へ向かう。
登校途中に遅刻ギリギリ組の学生たちが走る。その中の多くは陽太の友達だ。いつも陽太がこの時間に登校するから、それにあわせてるものもいる。みんな美々や燦のようにカラフルな色の髪と目をしている。陽太のような黒髪はほとんどいない。
陽太はすれ違う友達の群れに次々をおはようと声をかけていく。特にランドセルの子が多い。併走する友達の群れはドンドン増えていく。しまいには道路を埋めつくすほどとなった。
なだれこむように学校に流れていく学生の群れ。みんな教室へ目指して一目散に走っていく。しかし、陽太だけは校庭のどまんなかに向かう。そして校舎に向かって叫んだ。
「おーーーーはーーーーーーーーーよーーーーーーーーうーーーーーッ!」
手をメガホンにして、校舎全体にぶつけるように声を張りあげた。
「おはよーーーーーーーー、兄ちゃーーーーーーーーーーーーん!」
窓を乗りだしたりベランダに出たりした子供たちが校舎全体から大勢現れた。手を振り、声を上げ、陽太に返事をした。毎朝の光景だ。
始業のチャイムが鳴り、大勢の子供たちに見送られながら、教室に向けて疾走する陽太。鳴り終わる前に、なんとか着席に成功する。
今日のはじまりもすがすがしい。そう思った。
◆
今は西暦二七五七年。ここは日本の関東南部にある巨大人工浮島“伊予”。日本の第二首都である。
かつて日本に住んでいた人の大半は、この伊予に移住している。百年前に世界中で起こった大戦争が原因だ。戦禍によって世界の主要な都市は壊滅した。日本も例外ではなく、東京を中心として関東が壊滅した。かつて首都だった東京は廃墟となった。関東以外は直接戦争の被害を受けなかったが、人が住める環境ではなくなった。終戦直後から、動植物の異常な進化が起こり、人間の生活に重大な悪影響をおよぼすようになった。人の安全や都市機能の維持が不能になり、日本全土は放棄された。こうして多くの日本居住者がこの人口浮島、第二首都伊予に移住した。
いま、日本と言えばこの伊予を指す。
昼休みのはじまりを知らせるチャイムが鳴ると、陽太と美々は昼ごはんを買いにでかけた。
コンビニのほかの客が二人を見てぎょっとした顔をした。腕に抱えきれないほどパンやおにぎりを持っているのもそうだが、美々が髪の毛を自在に動かして商品を取っているからだ。
美々の髪は自在に動く。髪がピンクだから、タコの足のように見えた。
「おまえさぁ、恥ずかしいから外で髪の毛動かすのやめろよ。まわりに変な目で見られるだろ」
「うっさいわねぇ。アタシがどうしようと勝手でショ。悪いこともしてないし、うしろめたいこともない。恥じることなんてなに一つないの。変な目で見たきゃ見ればいいワケ」
確かに言うとおりだ。陽太は納得した。恥じるべきところなどない。しかしすっきりした気持ちにはなれなかった。
「むう……しかしなんで動くんだこれ」
陽太が髪の房の一つをつまんで、指先で揉む。それに反応して美々が体をよじった。
「あひっ、あひぇひぇひぇっ、ちょっと! あひんっ。ちょっとやめてよね! くすぐったいでショ! あっひぇ!」
くすぐったさのあまり、抱えていたたくさんのパンやおにぎりを落っことした。身悶えする美々。
「外で髪の毛動かすのやめたら、髪の毛いじるのやめてやるよ。へへへ」
陽太は悪い顔で美々の髪の毛をもてあそんだ。くりくり、もみもみ、むにゅむにゅ、美々の体にいたずらをするつもりで髪の毛をいじる。
「ひィんっ! やめてってば! あっあっあっ!」
美々がドンドン紅潮していく。足が内股になりガクガクして、立っているのもつらそうだ。
「やめてって言ってるでショッッ!」
美々がブチ切れた。髪の毛を束にして拳を作り、陽太の腹に一発おみまいした。怖い顔で陽太をにらみつける。
「調子こいてんじゃないわよ……」
「ゴホゴホゴホッ! すみません……」
「ほら、落としたパンとおにぎりひろうの手伝って! いそいで! はやくして! 昼休み終わっちゃうでショ!」
落としたものをひろい、商品を買い占める勢いで買って帰った。
陽太の机の上にパンとおにぎりをばらまいて、二人の椅子をくっつけ、肩をくっつけて座り、昼ごはんを食べる。
これだけ山ほど食べ物があれば、ちょっとつまみに来るクラスメイトもいそうなものだが、周囲は二人の邪魔をしない。邪魔できない雰囲気なのだ。
「ヒナ、あーん」
美々はニッコリと笑みを見せて、陽太におにぎりをつきつけた。ピンクとグリーンの長い髪がクルンとカールして、大きなハートマークを作っている。
「ヤだよ! 恥ずかしいだろ」
「照れんな照れんな~。アタシとヒナの仲でショ?」
「そうだけどさァ! 人目ってもんがあンだろうがよぉ!」
「毎日シてるんだから、いまさら人目を気にしてもおそいでショ」
そう言ってけらけらと笑う。
確かに毎日やってることだった。しかしそれでも陽太には恥ずかしい。顔を真っ赤にしてそむける。そんなことをしても抵抗になってないことはわかっていても。
「ほら、早く口あけなって」
再度笑顔で陽太に迫る。いつもこの強引さに押し切られてしまう。
「しょうがねぇなァ……あーーーーん」
陽太は赤面して、突き出されたおにぎりを一口でほおばた。
「おいしい?」
「味なんて変わらねぇよ」
「一人で食べるよりうまいでショ?」
「そりゃそうだけどさァ!」
「じゃあアタシにもちょうだいよ」
「えぇ~……」
「えぇ~って言いながら、いつもやってくれるとこ、好きよ」
「うるせぇよっ! ……ほらっ」
照れる顔を見られるのが恥ずかしくてそっぽを向いた。持ってるパンを美々に押しつける。
「あーんっ。もぐもぐ……おーいしっ」
美々は髪の毛でハートマークをたくさん作り、ふわふわとおどらせた。
二人はごはんを食べる間、こんなことをずっとやっているのである。こんなものを見せられて、二人の邪魔をしようと思うものなどいない。とても近づけたものではない。クラスメイトたちは、冷ややかとまでは行かないまでも「うわぁなんだこれは……」というような、言い表しがたい複雑な心持ちで同じ空間にいる。
こうして二人は、クラスメイトたちに少し引かれながら昼をすごした。
◆
学校が終わると陽太は買い物へ向かう。
朝食と同じく、天道家は夕食も豪奢を極める。買い物はとても一人ではできない。いつも美々と買い物をする。
美々が朝も夜もと、天道家に入りびたることにはわけがある。星宮家には誰もいない。美々の両親も、陽太の両親と同じく七年前に死んだ。ほかにあてになる親戚もおらず、天涯孤独の身だ。陽太は幼馴染を一人ぼっちにしたくないのだ。
買い物をすませて帰路に着く。美々は一度自宅に戻り、五十センチもある大きなドールを持ってきた。燦と遊ぶためだ。
「ただいま~」
「おかえりーーーーっ!」
陽太と美々が声をそろえて言うと、燦が玄関に向けてかけだした。陽太に飛びつく。両手を広げて受け止める陽太。愛情たっぷりにほおをくっつけあった。ぷにぷにした感触が気持ちいい。
燦は次に美々にも抱きついてほおずりした。
このあと陽太はすぐにキッチンへ向かう。みんなでたくさん食べるから、調理には時間がかかる。
その間、美々と燦はいっしょに遊ぶ。今日はドールのファッションショーだ。
美々は持ってきた“ビビ”という名前のドールを燦にかしてやった。戦うお姫様をモチーフとしたドールだ。
髪は後頭部がリボンのようになっていて、毛先が肩より少し下まで伸びている。色は光を照り返してまぶしく輝くスカーレットシルバー。
瞳は大きく、色は宝石のようなバイオレットシルバー。かわいらしくも凛々しい表情をしている。
スレンダーできれいな体型をしている。おっぱいもおしりも凹凸がわかる程度に小ぶりで、気品を感じさせる。
美々はドールに着せるドレスを三つ持ってきた。すでに着ているプリンセスと、フェンサー、マジシャン。
プリンセスドレスは赤を基調としている。精細なアクセサリーをあしらっているなど、上品な印象に仕上がっている。スカートは汚れるのを防ぐためにやや短め。
フェンサードレスは騎士の服。青紫を基調として厚手の布で縫製され、さらにその上に鎧板を重ねるという頑丈な作り。スカートは短く動きやすさが追求されている。剣と盾には豪華な装飾が施されており、ただの騎士ではなく姫でもあることを表現している。
マジシャンドレスはピンクの花をモチーフとしてデザインされている。布の染色に花びらを使った塗料を混ぜている凝りよう。
「わあああ! すごーい! 新しいドレスですー! お姉ちゃんが作ったんですかー!?」
「そうだよ。アタシが作ったの!」
鼻を高くして胸を張る。裁縫は美々の特技だ。ドールの服を作るために習得した。
「ビビで遊んでもいいですか?」
爛々とした瞳で訊いてくる燦に「もちろんいいよ」とこたえた。
燦はビビをフェンサードレスに着替えさせた。剣と盾を持たせ、ポーズを取らせる。
「かっこいいです! キラキラしてきれいですー!」
「でショお! かっこいいでショ! アタシのビビは世界一なんだから!」
燦はその後もビビでポーズを取らせたりドレスを着替えさせたりしてひとしきり遊んだ。
「あかりのセラにも服を着せてあげたいですねぇ……」
燦はセラと呼んだおもちゃを持ってつぶやいた。
セラは燦のお気に入りのおもちゃだ。誕生日に陽太が買ってあげた。だから燦はとても大切にしている。
陽太は小さめのアクションフィギュアが好きで、燦に買ってあげたセラもそうだ。
十五センチサイズで、全身に武装がつけられる。天使をモチーフとしたデザインをしている。髪はスカイブルーで翼のような形。目はトパーズイエローで、少しタレて優しい印象がある。ボディは白地に青のラインが随所にあり、アクセントとして黄色が入っている。華奢で小ぶりなおしりに、ほんの少しふくらんだおっぱい。
美々はニカッと歯を見せて笑い、セラを持ってきた燦の頭をがしがしとなでた。
「実はね、ドレスがもう一つあるワケ」
美々はカバンから小さな服を一式取り出した。ビビのドレスに比べてだいぶ小さい。パステルブルーとホワイトで、青空をイメージして作られた服。
燦とセラのために、美々が作ったものだ。
「これ、セラの服だよ」
「ホントですかー!?」
「着せてごらん」
「はい!」
燦は美々から小さな服を受け取り、服を壊さないように慎重にセラに着せていく。
「かわいいですー! にあってますー! ありがとうございます! お姉ちゃん!」
「はっはっは! いいぞー、もっと感謝しろー! もっと作ってやるからな! いまはビビのドレスを一着作ってるから、それが終わったらセラのを作ってやる!」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
燦は土下座して両手を挙げ、頭を大きく上下させておおげさに感謝した。
「はーーーーっはっはっはっはっは!」
楽しそうな二人を横目に見て気分をよくしながら、陽太は料理を完成させた。
「おーい、ごはんできたぞー!」
「はーい!」
美々と燦が声をそろえて返事をする。ビビとセラを行儀よく座らせておき、にぎやかに食卓をかこんだ。
◆
夜、夕食が終わり、風呂をすませ、美々を帰したあと、陽太は燦をひざの上に乗せていっしょに遊んだ。陽太のお気に入りであるナックルと、宇宙からの侵略者ロボが戦うシチュエーションだ。
すると突然、ビカァッと窓の外が光った。あまりにも強い発光で二人はおどろいた。急いで窓を開けて外を見た。夜空からでっかい流れ星が落ちてくるのが見えた。
「わぁーすごい! 流れ星だよ兄ちゃん!」
はしゃいでうさ耳を揺らす燦。
普段ならいっしょにはしゃいだだろう陽太は、流れ星を見て固唾を呑んだ。似ていると思った。七年前、両親を失ったあの時と。
流れ星はどんどん大きくなる。迫ってきているのだ。そして家の近くにある放棄された工場へ、爆音を轟かせて墜落した。
「すごいよ兄ちゃん! 星が落っこちた! 見に行こう!」
「ああ、そうだな……」
燦はまったくの好奇心で言ったが、陽太は恐怖心で言った。七年前に落ちてきた星と似ている。両親が死ぬことになった“破滅の流れ星”。いま落ちてきた星も同じものかもしれない。確かめなければならないと思った。
陽太と燦はパジャマのまま飛び出した。燦は興奮のあまり、ナックルを手放すのも忘れている。陽太は燦と手をしっかりつないで駆け出し、電気が通ってないのに明かりが灯る工場へ向かった。
流れ星は工場の中へ落ちた。しかし工場の扉は閉まっている。流れ星が落ちたことで崩れた壁を見つけて、そこから中に入る。
流れ星は、万華鏡のように絶えず色を変化させてギラギラと光っていた。陽太の背丈よりも大きく、球状の形をしている。強い光を放っているのに熱はすこしもなかった。
燦はわくわくして流れ星をながめたが、陽太は恐怖で脂汗を流した。
「兄ちゃん、痛いよ……離して」
燦が顔をしかめて言った。
「あっ、ごめんな」
陽太は緊張するあまり、燦の手を握った手に力をこめすぎていた。手を離してと言われたが、心配で離すことはできない。力をゆるめるにとどめた。
がしゃりと、瓦礫が動く音がして、陽太はすばやくそっちを向いた。
視線の先には、人の形をした、人でないものが立っていた。
大柄な成人男子よりも二回り以上も大きい。全身が刺々しく分厚い灰色の装甲に覆われた、ロボットのような姿をしている。右腕には大きな筒、いや砲台が見えた。武装しているとはっきりわかった。見るからに強そうだ。灰色のヘルムの下に黒い顔があり、二つの紫の瞳が陽太を見すえる。
「久しいなぁ。地球人よ」
「……あんたいったい、なんなんだ」
陽太はおびえを隠し、燦を自らのうしろへやって、言った。
「おおっと、すまなかったなぁ。自己紹介がまだだった。いやぁ、人と人が出会ったら、まず自己紹介だよなぁ。ワガハイは“ベガ”と言う」
ベガと名乗るものは、身振り手振りを大げさにして、おどけた風な声色で言う。
「ベガ?」
「そうだ。覚えてくれてうれしいよ」
ベガは一歩、また一歩と陽太たちににじり寄る。それにあわせて陽太たちも、一歩また一歩とあとずさる。
「兄ちゃん……」
わくわくしていた燦もさすがに不安を感じて、陽太を見つめる。
「せっかく名前を覚えてもらって悪いんだが、おまえたちには死んでもらう」
ベガは不敵な笑みを作り、右腕のカノンを二人に向けた。黒い光が砲台に収束し、キュイイイイとかん高い危険な音が響き渡る。
「逃げるぞ燦!」
二人は一目散に駆け出した。
ドォン! と激しい音がした。一瞬前まで二人がいた場所には大きな穴ができている。あからさまに攻撃だった。敵意むきだしの一撃。
「グワカカカ! 脆弱な人間よ! 逃げてもムダだとわからんか!」
走る二人を追ってカノンから黒く光る弾が撃たれる。二人はなんとか追撃をかわし、もと来た道を戻り、走る。
入ってきた場所、崩れた壁まで来た。出口は目の前だ。その時、ベガの光弾ががれきを崩した。出口がふさがれた。退路がなくなったのだ。
終わった。陽太は観念した。ここで死ぬんだとあきらめた。
なにかのドッキリか、ジョークであってほしいと願った。あるいは夢でもいい。
視線をおろすと、おびえる燦が見えた。妹がこんなに怖がってるのに、自分はなにもできない。なにもできない。
諦観極まる陽太の視界のすみに、燦が握りしめたナックルが見えた。
ナックル。陽太が憧れるヒーロー。父といっしょに作った、宇宙でたった一つのおもちゃ。
父と母のことを思い出した。七年前、破滅の流れ星から自分と燦を守ってくれた。
こんな時、両親ならどうする? ナックルならどうする? オレはどうする?
迷っていられる時間はなかった。陽太はすぐに答えを出した。
陽太は燦の手からナックルを取った。そして燦をかばい、ベガに向き直る。
燦が涙目で陽太を見つめた。
自分はきっとなにもできないだろう。しかし妹を守る。それが小さい頃からずっと憧れ続けてきたヒーローの生き方だ。父と母はそう生きた。自分もそういう生き方をするのだ。陽太はそう決めた。
「ほう。貴様、潔いな。かっこいいな。だが意味などなァい!」
カノンに光が集まる。キュイイイイイと破壊をもたらす音が鳴り響く。
「兄ちゃん!」
陽太の真後ろにかばわれた燦が悲痛を叫ぶ。
「人間よ、死ねェい!」
ドォンと死を知らせる音が放たれた。
終わったと思った。せめて燦だけは逃げてくれと願った。
しかし陽太は、燦は、死ななかった。光弾は放たれた。しかし二人には当たっていない。
ベガの攻撃によって土煙が起こった。その中から現れたのは……
「ナ、ナックル……っ!?」
陽太とそっくりの大きさに巨大化した、おもちゃのナックル!
陽太は自分の両手を見た。どっちの手にもナックルがない。地面に落ちてもいない。そして目の前にあるのは、父とともに入魂して作ったおもちゃと、まったく変わらないデザインをしたもの。
ガンメタル色の素体の上に、オレンジ色で縁取られた真っ白なアーマーをつけている。
体の節目ごとに細さと太さが際立ち、メリハリのある体格。腕も脚も細く長いが、末端肥大であり、前腕部と拳、それと下脚部と足は太く大きい。胴は胸が太く、腰が細い。頭はごつごつとして凹凸が多いヘルムをつけている。
遊んでいる時につけてしまった傷跡、遊びすぎて塗装がはげているところ、そんなところまで一致していた。
目の前にいるのは、まさしくナックルそのものだった。それが陽太と同じ大きさで、目の前にいる!
「……なんなんだァ、おまえは!?」
突然現れたナックルに対して砲口を向けるベガ。
ナックルは瞬時にベガに飛びかかった。右拳がブォンとうなりを上げて、敵の頭を打ち抜いた。ベガはぶっ飛んで倒れ、衝撃で落ちてきたがれきの下敷きになる。
「いやはや、突然のことでなにごとかと思ったが、おまえ、“フィギュア”だな」
ベガはがれきを押しのけて立ち上がって言う。
「フィギュア……我らガイアークを裏切った……憎きバカものどもだアアアアア!」
ベガは左腕から黒く光る巨大な斧を繰り出し、ナックルに襲いかかる。たたきつけるような重い斬撃。ナックルはこれを何度もまともに受けて倒れてしまう。陽太たちを守るために、自ら攻撃にぶつかっていっているように見えた。
陽太は倒れるナックルを受け止めた。ナックルを見ると、ボディのあちこちに傷を負い、はた目にはボロボロのようだった。立ち上がれるのかと不安に思う。
「大丈夫か、ナックル?」
ナックルの顔を見つめて言う。ナックルは言葉に反応せず、瞳はベガをにらみつけたままだ。
「おまえ、ナックルなんだよな? 父ちゃんとオレが作った、宇宙でたった一つの、オレの自慢のおもちゃ……」
ナックルは顔をベガに向けたまま、瞳だけを動かして陽太を見つめ返した。瞳は無機質な動きだったが、その視線に陽太は懐かしさと親しみを感じた。
ナックルは陽太の右手にそっと自分の右手を重ねた。突然、陽太の右手に熱く突き刺さるような痛みが走り、うめいた。
ナックルの右手の甲に、オレンジ色の太陽の紋章が刻まれた。
ナックルが手を離した。陽太の手の甲にも、ナックルと同じ、オレンジ色の太陽の紋章が刻まれていた。
懐かしい瞳、二人に表れた同じ太陽の紋章。陽太は確信した。
――こいつはオレのおもちゃだ!
陽太とナックルは、勇ましく不敵な笑みを浮かべて立ち上がる。紋章が刻まれた拳をかかげて握りしめる。
「さぁ、ブチかますぜッ! ナックル!」
陽太とナックルからオレンジの波動、オーラが放たれる! 陽太の髪は爆発したように逆立ち、白髪の部分が赤く、黒髪の部分がオレンジに発光した。瞳までオレンジに輝いた。
「おびえが消えて勇ましくなったようだが、そんなものにはなんの意味もない!」
ベガは右腕のカノンから光弾を連射する。ナックルはよけずに受け止めた。しかしひるまない。光弾が何度も衝突するが、少しも効いたようすはない。
陽太とナックルが右腕をぐっとうしろに引き、右手を硬く握りしめると、ナックルの右手がモーター音をうならせて高速回転した。
「リボルビングッ……ナァックルーーーーーーウウウウ!」
二人は叫ぶと同時に上半身をぐるんと回し、引いた右腕をバネのように弾かせて前に突き出した。ブォンと風を鳴らし、ベガに向けて拳を撃ち放つ! ゴオオオオオと空気を突き破るソニックブーム音を起こし、リボルビングナックルはベガのボディに衝突した!
「ぐああああああああああああああああああああああああッ」
ベガは苦痛に悲鳴を上げた。がれきを吹き飛ばし工場の壁を突き抜けて、夜空の彼方へと消え去った。
撃った拳が飛んで帰ってきて、腕に収まる。
向かいあってしばし見つめあう陽太とナックル。
「イェーイ! やった! やったぜーーーッ!」
顔いっぱいによろこびを広げて、ナックルとハイタッチをして拳骨をゴツンとぶつけあった。続いてうしろにいた燦を抱きしめ無事を確認した。
そしてふりかえると、ナックルは消えてしまった。
「……あれ? ナックルどこ行った?」
流れ星の光もなくなった。星が落ちてきた穴から差しこむ月明かりに照らされる二人。
「ナックル、小さくなっちゃったよ」
燦が地面に落ちているナックルをひろいあげる。
流れ星があった場所には大きなくぼみがあるだけで、なにもない。
「……いったいなんだったんだろうな」
「あかりわかんない」
「とにかく、帰ろうか」
「うんっ」
家に帰った。安心したらドッと疲れが来て、ほこりまみれのパジャマだけ着替えて寝た。
ナックルはベッドのそばのテーブルに、かっこよく勝利のポーズを決めて飾っておかれた。
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ハゲじゃないです。わたし美少女ですので。
評価1でもいいけど、2がいいなぁ~?(チラッチラッ)
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