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【 しゃべって、たべて、たたかう、おもちゃ 】

かんちがいするといけないからはっきり申し上げます。

わたしは女です! 美少女です! ボインです! 髪の毛うすピンクのギャルだよ!

誰だ!? いま「“うす”って、毛が薄いってこと?」とか言ったのは!!! ちがうよ!

「うまーーーーーーーーーーーーーーいッ!」

「ナックル、おまえはなにを食ってもうまいって言うな」

「アニキよぉ、うまいもんはうまいんだからしょうがないぜ!」

「兄ちゃん! あかりもおいしいー!」

「わたしもです~!」

 夏の晴れた昼時。四人でにぎやかに食卓を囲む一家。エプロンをつけているのが高校生の天道陽太ひなた。口が汚れるのも気にせずパクパク口に放りこんでいるのがその妹のあかりだ。

 食事をしているものがあと二人いるのだが、この二人が存在が、この食卓の奇妙な風景を作り出している。その二人は自分の体よりも大きなおにぎりやパンにかぶりついている。

 おにぎりやパンよりも小さなこの二人の名前は、ナックルとセラ。二人は全長十五センチのおもちゃである。おにぎりやパンが大きいのではない。この二人が小さいのである。

 ナックルは陽太の、セラは燦の持ち物だ。このおもちゃたちは動くし、しゃべるし、食べる。小さくて姿が違うだけで、人間そっくりだった。

 この食卓には二人の人間と二人のおもちゃが食事をしているのだ。

 天道家のものはよく食べる。陽太と燦も大食いなのだが、二人のおもちゃもよく食べた。どう見てもその小さな体よりも多くの質量を取りこんでいるとわかる量だ。すでにナックルは人間が作るサイズのおにぎりを十個、いろんな味のジャムを塗ったパンを八枚は食べた。セラが食べた量はそれよりも少なかったが、それでもおにぎり五個にパンを五枚は食べた。

「アニキ! 今度はなにを作ってるんだ!?」

 待ち切れんと、ナックルがキッチンをのぞきこんできた。このおもちゃはあれだけ食べてまだ食べたがっている。

「昨日のラーメンの時も思ったが、おまえらフィギュアは満腹って感覚がねぇのかよ!」

「しょうがねぇんだ! うまいもんはいくらでも食えるんだぜ!」

 いくら食べても満足しないおもちゃに陽太はあきれた。しかし、自分が作った食べ物がこれほど待望されるというのははじめてで、この上なくいい気分だった。笑顔をこらえきれない。

 陽太が笑顔でいるのは、料理が待望されているから、だけではない。それは当然、おもちゃが動きだし、しゃべり、友達でいてくれることが笑顔の理由だ。おもちゃが動いてしゃべってくれることは、きっとすべての子供の夢だ。陽太もそうであったらいいなと思い続けていた子供の一人だった。いや、きっと誰よりもそれを夢見ていた。陽太はおもちゃが好きだ。部屋の中にはおもちゃがあふれている。おもちゃを見なかった日はないし、遊ばなかった日はない。退屈な時はおもちゃ屋へ遊びに行く。壊れてしまえば当然直すし、直しきれない時はディスプレイ用に改造する。おもちゃを捨てたことはなかった。特に好きなのは可動フィギュア。ナックルとセラもこれだ。

 陽太が持っているおもちゃの中でも、ナックルは特別なものである。母親からの誕生日プレゼントであり、壊れた時に父親とともに改造して修復した。一番強くてかっこいい“設定”がある。一番強い必殺技がある。一番多く遊んでいる。一番の思い入れがある。一番好きなおもちゃだった。そんなおもちゃとこうして楽しくすごせるのだ。笑顔にならずにはいられない。

「次はうどんだ。できたぞ!」

 テーブルの上にどんぶりを、ドンッ、ドンッ、と置いていく。黄金色に澄んだ清流のようなスープに真っ白な麺が浮かぶ。彩りを添えるネギと一枚のあぶら揚げ。

「いっただっきまーーーーーす!」

 みんなで声をそろえて食べ始める。

「うんめええええええええええええええ!」

 ナックルとセラは小さい手でフォークを握り、麺を一本一本器用に捕まえて口に入れてはすすりこんでいく。十五センチという小さい体で、陽太と燦に劣らない早さで食べていく。

 そんな中、陽気な電子音のメロディが鳴った。陽太は一瞬なんの音かわからなかった。音がする場所にあったのは“ケータイデンワ”だった。ケータイを手にしたのは昨日がはじめてで、まだなじんでいない。

 画面を見ると着信があった。出てみると男の子の声がした。友達の小学生だ。やたら興奮した声だった。

「兄ちゃん! 出やがった! アレが!」

「なにィ! アレか!?」

「そうだよ! アレだ!」

「……アレって、なんだ!?」

「そういう小芝居はいいから! 昨日あんだけ大変な思いしたじゃん! 早く来て!」

「おまえたちでもなんとかできんだろぉ~? 気をつけて戦えば充分やれんだろぉ~?」

「そりゃそうだけどさァ! おれらはまた、兄ちゃんのナックルが見たいんだよ!」

「くっくっくっく……はーーーーはっはっはっはっは! そうか! 見たいか! オレの! 自慢の! おもちゃを! よおし、いいだろう! 場所はどこだ? 昨日の公園だな? 今すぐ行くから、オレたちの獲物も残しておけよ! じゃあな!」

 陽太がデンワを切ると、ナックルが食べる手を止めて陽太のほうへ寄り、顔を見上げた。

「アニキ、“バグ”か?」

「そうだ。行くぞ、ナックル!」

「おう!」

 二人は勇んで玄関に駆け出したが。

「兄ちゃん、パジャマ」

 燦が止めた。

「お兄ちゃん、まだパジャマ着てるよ~」

 セラも指摘した。

 陽太はパジャマの上にエプロンという格好。このまま外に出るのは恥ずかしい。急いで着替えることにした。

「アニキ、まだかよ!」

「すぐに着替え終わるから、急かさないでくれよ!」

 着替えるために脱いだ。陽太の体は特徴的だ。やけどのあとがあるのだ。顔の右側から右上半身、右腕にかけて。やけどにしてはあまりにもきれいな形と鮮やかな赤色をしているため、“炎の刺青”と呼ばれている。このほかに、黒髪だが右の前髪だけ白い。

 着替えを終えて、ナックルを肩に乗せ、準備は整った。

「よっしゃ、今度こそ行くぜ!」

「おう!」

 四人は子供たちが待つ公園へと駆け出した。

 公園のそばまで来ると、騒がしい一団が見えた。子供たちだ。おもちゃとともに、バグと戦っている。

「あっ! 兄ちゃん! 待ちくたびれたぞ!」

「兄ちゃんキターーーーーーーーー!」

「倒しがいがあるでかいのを一匹、残しといたよ!」

 大勢の子供たちが次々と陽太に声をかけていく。子供の一人が指差したほうに“バグ”がいる。真っ黒い体。大きく長い四つの脚。目のように見える発光部が一つ。牛くらい大きい。

「サンキュー、チルドレン! じゃあナックルッ、行くぜェェェーーーーーッ!」

「おおおおおおおおう!」


 フ ィ ギ ュ ア ラ イ ズ !


 陽太はナックルを天高く放り上げた。太陽の煌めきに負けないほど、ナックルが輝く。その姿はまぶしかったが、子供たちの好奇心と憧れに満ちた爛々とした瞳を傷つけることはない。

 ドシンッ! とナックルが着地した。地を揺らすほどの衝撃。全長十五センチのおもちゃが放つ重量感ではない。なぜならば。

 ナックルは巨大化したのだ!

 ガンメタル色の素体の上にオレンジで縁取られた白いアーマーを身につけ、凹凸の多いヘルムをつけた姿。もっとも特徴的なのは末端肥大な手足。前腕と下脚部が太く大きい。変身ヒーローのようでいてロボットのようにも見えるデザイン。そのナックルがちょうど陽太そっくりの背丈となった。

 バグに向かって、その大きな体で突進する。

 陽太の体がオレンジに輝くオーラに包まれる。髪は爆発したように逆立ち、黒髪の部分がオレンジに、前髪の白は赤に輝いた。

「一撃で片づけるぞ! いいな、ナックル!」

「まかせろおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」

 二人はそろって拳を握りしめた。渦巻く風を起こし、ギュイイイイイイイイイッ! とけたたましいモーター音を鳴らして、ナックルの拳が回転した。

「リボルビングッ! ナァックルゥゥーーーーーーーーーーウウウッ!」

 二人はまったく同じ動きをした。上半身をバネで弾いたように激しくしならせ、硬く握りしめた拳をバグに向かって突き出した。回転するナックルの拳がバグの赤い目めがけて撃ち出される。腕を離れた拳が、ゴオオオオオオオオオオオオと空気の壁を押しのけ突進する。

 そして命中! 貫通! 圧倒した! バグは電子音に似た悲鳴を上げて砕け、光る粒子となって霧散した。

「見たか! これがオレの自慢のおもちゃだッ!」

 子供たちの歓声に包まれる陽太とナックル。昨日に引き続き、今日も圧倒的な勝利を収めた二人は、ヒーローと称えられた。

 これが“フィギュアライズ”。子供によっておもちゃに与えられた“設定チカラ”を発揮するための、おもちゃの超常の姿。これをするおもちゃを“フィギュア”と呼ぶ。

よかった、と思うところが一つでもありましたら、評価1でもいただけると、とてもうれしいです。とてもハゲみになります。ハゲじゃないです。わたし美少女ですので。

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