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魔法使いにできないコト  作者: 水無雲夜斗
第二章 ひどく面倒くさがりで、
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ひどく面倒くさがりで、 2-1

 一晩経てばどうにかなるだろうという俺の希望的観測も虚しく、翌日になっても九のストーカーのような行為は続いていた。

 朝、下駄箱のところでそれに気付いた俺はため息を吐き、それでも九を無視し続けることにしたわけだが、以降休み時間になるたびに後をつけられることになる。

 生徒達からは、流石に昨日ほど質問攻めにあったりはしなかったが、それでもそういうことをしてくる輩はいたし、九の隠れている柱のさらに向こう側の柱から、ドス黒い殺気に満ちた視線が突き刺さることもあった。

 青柳や高野の協力もあってなんとか生徒達の誤解は解かれていたが、噂というものは怖いもので、話に尾ひれがついて広がっていた。

 ある者は「九沙奈は折無武月の生き別れの妹で、ようやく見つけたお兄ちゃんにいつ挨拶するか、その機会を窺っている」とか、またある者は「折無武月は実は悪の結社の幹部であり、正義の魔法少女九沙奈がヤツの動向を見張っている」とか、さらには「実は九沙奈と折無武月は秘密の恋人同士で、それでも気持ちを抑えきれない九沙奈がああして影から遠目に見ているんだ」とか、なんだこの学校はオタクとお花畑な頭を持ったヤツしかいないのか。

 ともかく、このままでは俺の平穏な学園生活が台無しである。

 二限までは無視を決め込んでしまっていたため機会がなかったので、三限終了後の十分休憩で話をつけてやろうと心に決め、俺はその時を待った。

 そしてチャイムが鳴り、休憩時間。

 いつも九が俺を覗く時に使っている教室後部の扉を、彼女に気づかれないようちらりと見る。

 しかし、そこにはあの目立つ銀髪はない。生徒が出入りしているだけの、いつも通りの景色だ。

 はてと首を傾げてしばらく待ってみるものの、九が現れる様子はない。


 「お、なんだなんだ、九のヤツ来てないじゃねぇか」


 同じ疑問を持った青柳が、後部扉を見ながら俺の傍へとやってくる。


 「よくわからねぇが、向こうもお前を追っかけ回すのに飽きたのかもな」


 軽くそう言って去っていく青柳だが、これまであれほど執拗に俺を監視していた九が、こうもぴたりと何事もなく尾行をやめたりするものだろうか。

 結局三限の休み時間に九が現れることはなく、また昼休みに青柳と高野と一緒に学食で昼食を摂っていても、その姿が見えることはなかった。

 しかしその昼休みのことである。

 授業十分前にトイレに行き、教室に帰ろうとしたところで、あの銀髪を発見した。

 なにやら重そうなダンボールを抱えた彼女は、急ぎ足で廊下を歩いていた。

 ダンボールの上には何やら機材と思しきものが積まれていて、どう見ても九の視界を塞いでいた。あれでは首を左右に傾けないと前が見えないだろう。

 とはいえ、ここで手を貸してやるほど俺は親切でも紳士でもない。というかそんなことしたらまた男子生徒達に変な誤解をされそうで怖い。

 さっさとその場を離れて自分の教室に向かおうと思ったところで、俺は九の進行方向の先に女子の集団がいることに気がついた。

 四人ほどで固まっている彼女らは、話に夢中で九の存在に気付いていないのだろう。

 そして九自身も彼女らの存在に気付いていないのか、真っ直ぐ進路を曲げることなく女子集団に向かって歩いていく。

 やれやれ、と俺は心の中でため息を吐き、ひょいと右手人指し指を女子集団の一人に向けて振る。

 使った魔法は単純明解。ただ小虫の幻影を、女子集団の一人の視界の端に横切らせるだけ。

 前から後ろへ抜ける小虫を鬱陶しそうに見送ると、その際に女子生徒の一人は視界に映った九の存在に気付き、他の三人に注意して道を開けさせる。

 九は四人に礼をしてその場を通り過ぎると、俺の方に「キッ」という擬音が似合いそうな視線を向けてくる。俺が魔法を発動させたことを感知し、それで気付いたのだろう。

 俺はそれに「ちょっとは気をつけろ」という意味も込めて素知らぬ顔をすると、それを理解したのかしていないのか、ペコリと一つお辞儀をした。

 それでやりとりは終了。二人の行き先はそれぞれ違う場所にある。

 本当に、やれやれだ。

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