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魔法使いにできないコト  作者: 水無雲夜斗
第一章 その魔法使いは、
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その魔法使いは、 1-6

 「なるほどなー、それで生徒会に入らなかったってわけかこのドチキショウラノベ主人公ラッキーボーイ野郎」


 事の顛末を話してやると、至って平静な声で青柳に罵られた。しかしラノベ主人公ラッキーボーイ野郎って主語多すぎるだろ。

 二人に説明するにあたって、流石に魔法の部分に関して話してはいないが、そこは「よくわからないが九がどうしても俺の能力を欲している」みたいな理由をつけた。まぁ大体間違ってはいない。


 「しかしお前の話によると、九氏が何故今日一日お前を監視し続けているのか、その理由がわからんのだが?」


 という高野の疑問はもっともである。

 俺は生徒会の入会を拒み、あの屋上から立ち去った。よって、九沙奈との話はあの場で終わったはずだ。なのに、彼女が俺に執着している理由がわからない。

 今日一日中後を尾けられていたので、昼休みに一言文句を言ってやろうとバレバレの尾行をしている九に近寄ってみたのだが、案外逃げ足が速く捕まえることができなかった。

 よって今の今まで理由はわからずじまい。一日中同学年の生徒達から質問の嵐に晒されるし、青柳のように誤解して嫉妬に狂った男子生徒に追われたりもして、いろいろ散々である。


 「だから、俺が教えてほしいくらいなんだよ」


 ぐんにゃりと再び机に突っ伏す俺。ここ数年涙を流した憶えなどないが、久しぶりに泣けてくる展開である。


 「お前、本当にわかんねぇのか?」


 すると、青柳がやけに真剣な口調になった。


 「何がだよ?」


 再び顔を上げて青柳を見ると、まるで芋虫でも見るかのような視線で俺を見下していた。正直ムカつく。

 そしてくわっ、と目を見開くと、青柳は再び俺の胸倉に掴みかかり、


 「てめあれは恋だろ女子が一日中男を追いかけて物陰からじっと見つめてるとか全国男子が憧れるシチュエーションじゃねぇか確かにそういう女子は根暗そうなイメージがあるかもしれねぇがそれは属性といってそういうキャラクターなんだよ恥らう姿がいいんだろうがむしろ真正面から来る女とかビッチしかいねぇぞ積極的な女はみんなビッチだいや待てそれでも愛があればエッチな彼女ってキャラでありなんじゃねぇかやべぇやっぱいいかもしんねぇ俺そういう彼女がほしいわというかください!!」

 「おま、せめ、句読点、挟、め」


 俺をぐわんぐわんと前後に激しく揺さぶりながら早口にまくし立てた青柳は、ぜぇぜぇと肩で息をして、俺は再び物言わぬ屍として机に倒れる。さっきから俺はこの机に支えられてばかりだ。そう考えるとこの机がイケメンに見えなくもない。誰かこのイケメン机ニキを擬人化してくれ!

 しかし青柳の憤怒の言葉はおおよそ彼の変態性癖を語ったもののように思えるが、前半部分についてはそう考える者もいるだろうとは考えていた。

 だが、それはないだろう。


 「お前なぁ、あの獲物を目で殺せるような鷹の視線が、恋なわけないだろ」


 顔を上げ、九のいるであろう方向を顎で差す。そして三人同時に教室の後部扉に目を向けると、九の視線は変わらず俺に突き刺さっていた。

 しかし、そこから感じ取れるのは好意などという桃色な空気ではなく、俺の言葉の通り獲物を狙う鷹のような、鋭い棘のような、悪寒を感じる冷たいものだ。

 さっと三人同時に目を逸らす。


 「すまん、あれは確かにその類のものじゃないな」

 「うむ、あれはハンターの目だな」

 「だろ、はっきり言って本気で怖いだろ」


 その視線を一日中浴び続けた俺の身にもなってほしいものである。正直に言って、俺の精神的疲弊の原因の半分はあれと言っても過言ではない。

 しかしその視線からは不思議と殺意というか、恨みのようなものは感じられない。なんというか、言葉で表すなら「監視」というのが適切な表現であるようなものに思える。

 だからこそ九がそういう行動を取っている理由がわからない。勧誘を断られたことで俺に何らかの恨みを抱いているならまだしも、彼女の理想を裏切った俺に、彼女がこれ以上の興味を俺に向ける理由がイマイチわからないのだ。


 「で、お前どうするんだよ」


 青柳に問われ、はてと俺は首を傾げる。


 「どうするって?」

 「あのストーカーまがいのことだよ。正直迷惑してるんなら、なんとかした方がいいんじゃねぇか?」


 確かに、そうしたいのは山々だ。

 明日以降もこれが続くとなるとかなり迷惑だし、やろうと思えば九のストーカーのような行為をなんとかする手段などいくらでもある。

 だが、不思議とそういう気分にはなれなかった。九を止めるために努力するのが面倒だという理由もあるが、未だハッキリとしない、頭の中でもやもやとしている何かが、俺の行動を阻害している。

 「何なら、俺達が協力してやらんでもないぞ、折無よ」


 ドヤ顔で提案してくる高野。隣にいる青柳も頷いている。

 だが、そんな魅力的な提案に、俺は。


 「まぁ、明日になっても気になるようなら、頼らせてもらうよ」


 ひとまず、その場から逃げるように微笑みを返した。

 気になって再び教室後部の扉に目を向けると、そこにはもうあの目立つ銀色の髪は見えなくなっていた。

2015年10月28日現在、次話投稿日は未定です。

投稿ペースについて「活動報告」にてアンケートを行っておりますので、もしよければご協力いただけると嬉しいです。

なお、アンケート期間は2015年11月5日(木)までの予定です。

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