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魔法使いにできないコト  作者: 水無雲夜斗
第一章 その魔法使いは、
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その魔法使いは、 1-5

 幼い頃から、俺は魔法が使える。

 これは厨二病の妄想設定とか、元々この世界では魔法が一般的に普及していて、俺もそれが使えるというファンタジー小説的なものではない。

 確かに世間一般では魔法というものは二次元でしか存在しないものだ。だが、それはこの世界に確実に存在する。

 とはいえ、誰でも彼でも魔法が使えるというわけではない。

 魔力とは、血によって伝わるものだ。

 その起源は不明とされているが、魔力は魔力を持った者の子にしか受け継がれず、一般人が後天的に魔力に目覚めることはまずないとされている。

 魔力を持った人間は、普通の人間と何ら変わりのない見た目、人体構造をしているが、ではどこに魔力が隠されているのかというと、それは血にある。

 別にD型とか変な血液型を魔法使いが持っているわけではないが、Rh+とか、そういう細かい分類をすると、特殊な血液の名前が付けられているらしい。なので、通常の医療機関に行って血液を調べられると多少医者に驚かれはするが、それは珍しい血液型に驚かれているだけであって、決して血液に魔力がめぐっていることがバレるわけではない。もちろん、魔法使いの血液型が全員一緒というわけでもない。

 それはともかく、その存在が隠されているだけで、魔法使いは確かに存在するのだ。

 また、魔法と聞いてマンガやアニメのような派手なバトルアクションを想像する者もそう少なくはないだろうが、実際の魔法はてんで大したことはない。

 確かに炎や風などを生み出し、操る魔法使いもこの世には存在しているが、大抵の魔法使いの魔法というのは地味である。

 たとえば、有名な魔法でいえば、読心術などだろうか。テレビやらで本物か偽者かどうかわからない超能力者が、人の心を読んで殺人事件の犯人を捜すドキュメンタリー番組があったりするが、あれは大抵が偽者だが、たまに本物がいたりする。

 他にも催眠術やらサイコキネシスやらいろいろな魔法を使える魔法使いがいるが、そのどれもが「タネさえわかれば誰でもできるのではないだろうか」程度の、科学で解明できそうな、ありえないレベルではない程度の魔法しか使うことができない。

 さらに厄介なのが、魔法使いが習得できる魔法は、一人につきせいぜい一種類が限界であるということだ。

 これについての定義は曖昧で、中には指から炎を生み出してそれをサイコキネシスで操るみたいな二種類の魔法を使えるタイプもいるが、大抵の魔法使いは一種類しか使えない。

 どうやらその人物の心の形やら願いやらが強く影響しているらしいが、これまた詳しくは解明されていないため、よくわかっていないらしい。

 そんな魔法使いの一人である俺が使えるのは、簡単に言ってしまえば「幻影を作り出す」魔法だ。

 自分で言ってて何だが、これは本当によくわからない魔法だ。一言で言ってしまってもよくわからないだろうし、反応に困るだろう。

 実際に使用した例でいえば、今しがた九が述べた時。

 一週間前の登校路で、俺は車道に飛び出しそうになっていた子猫を助けた。

 別に道路に飛び出して、さっと子猫を抱えて歩道に緊急退避したわけではないし、子猫を助けて代わりに俺が轢かれたわけでもない。後者だったら今頃俺は病院か天国にいます。

 単純な話、魔法を使ったのだ。

 猫の前方に壁の幻影を作り出し、進路を塞ぐ。実際にそこには壁などないが、視界に壁が現れれば一瞬戸惑うだろう。

 はいこれだけ。地味にも程がある魔法である。

 これだけというだけあって、魔法を使っても誰も不審には思わない。

 当然魔法の存在は親から秘密にするよう強く言われているので、誰にも話したこともない。話して信じてもらえるかどうかも微妙だしな。

 そんなわけで、俺は魔法が使えるわけだが。



 「いや、いきなり何言ってんだお前?」


 屋上から去ろうとする足を止め、振り返った俺は、九沙奈に対して「これ以上なくドン引きしている顔」を作る。自分で見えないから作れてるのかどうかわからんけど、変な顔になってないかしらん。

 ここで俺がしらばっくれる理由は、単純に九沙奈がいわゆる電波少女である可能性があるからだ。

 一週間前、確かに俺は子猫を助けた。魔法を使う際、俺は片手を軽く上げてそれを行使した。その瞬間を、その場に居合わせた誰かが気付いて見ていたかもしれない。

 確かに俺の行動は不自然だ。登校路でいきなり立ち止まって片手を上げる生徒がいれば、少しは気になるヤツもいるだろう。

 それと今にも轢かれそうだった子猫に気付き、その子猫が偶然にも車道へと向かう歩を止め、なんとか事故を免れたことを重ね合わせて、俺が何か不思議な力を行使して、猫を助けたと考える妄想ちゃんもいるかもしれない。

 その妄想ちゃんが、この九沙奈である可能性があるのだ。その可能性がある以上、魔法の存在を秘匿しなければならない立場である俺は、しらばっくれるという安定択を取る他ない。


 「そもそも魔法って何だよ、今更そんなもの信じる歳でもないだろ」

 「本物の魔法使いなら、そういう対応を取らざるを得ないでしょうね」


 まったくもってその通りである。

 だが、どうにもこの九沙奈という少女は知ったような口ぶりだ。

 断定こそできないものの、もしこの九沙奈が魔法使いであるのなら、そういう反応を取るであろうという言動をいちいちしてくる。


 「よくわからないけど、俺がその本物の魔法使いだっていう証拠でもあるのか?」


 ならばと、俺はこの問いをぶつける。

 タネも仕掛けもない、現実で起こり得る事象を強引に引き起こす小さな奇跡、魔法。

 その性質故に、それが魔法であるかどうかは、本物の魔法使いですら判断がつかない。実際、本物の魔法使いである俺ですら、テレビの向こう側にいるマジシャンが、実際に魔法を使ってマジックを行っているのかどうかすら判断がつかない。

 だが、それでも魔法使いが魔法を行使したと確証づける証拠は存在する。

 キィン、と耳鳴りのような音が頭の中に響く。

 実際に音がしたわけではない。実際、鼓膜は風や遠くから聞こえてくる喧噪の音しか捉えていないことだろう。

 脳にダイレクトに感覚を送るような感じ。


 「あなたの右ポケット、まだ真新しい青のスマートフォンが一つ入っていますね」


 この時、俺は既に確信していた。

 目の前にいる彼女も、本物の魔法使いであるということを。


 「あと、あなたの胸ポケットにあるのは生徒手帳ですか。肌身離さず持ち歩くとは、まるで生徒の模範ですね」

 「・・・・・・なるほど、それがアンタの魔法か」


 魔法使いであれば、他人が魔法を行使した際、それを感じ取ることができる。

 この感覚だけは口では説明しづらい。感じ取ろうと思って感じ取るものではなく、波の音を聞いて海が近づいてきたことを感じるように、それがあるから「そう」だと思える程度のものでしかない。多分、潜水艦のソナーとか、イルカの超音波とか、そういう感じの解釈をしてもらえればいいと思う。

 加えて、俺の持ち物を正確に当ててきたこと。これら二つを合わせると、つまりそういうことになるんだろう。

 念のために言っておくと、俺が厨二病で相手に合わせているということもない。第三者から見ればイマイチ実感が湧かないかもしれないが、これが魔法なのである。


 「はい、私の魔法はどこに何があるかをソナーのようにして探す魔法、これを私は『探知』と呼んでいます」

 「魔法に名前までつけてるんですかい」


 皮肉のつもりで言ったつもりだったが、九には通じなかったらしい。首を傾げて「それが何か」とでも言いたげな表情をしている。


 「とりあえず、これで私が魔法使いであるということは証明できましたね」

 「ああ、どうやらそうみたいだな」


 認めざるを得ない、九沙奈は魔法使いだ。

 今実際こうして九沙奈と相対している俺だからこそ、彼女がそうであると断言できる。


 「では本題です。何故私が魔法使いであることをあなたに明かしたか、そしてあなたを生徒会に勧誘したもう一つの理由。ここまで言えば大体察しがつくとは思われますが」


 それは九沙奈が魔法使いであるということを俺が確信した時点で察しがついていたことだった。

 九沙奈は、俺の上っ面の善意だけを生徒会への勧誘の理由にしたわけではない。それも大きな一因ではあるだろうが、その理由にさらに付与される要素があったからこそ俺を勧誘したのだろう。

 つまり。


 「俺達の魔法を『補助委員』の活動で使って、より生徒の手助けに貢献すること。それが補助委員の目的か」


 魔法は小さな奇跡ではあるが、それでも使い方によっては絶大な効果を発揮することがある。

 今九沙奈が使った魔法―――『探知』も、ソナーのようにして物を探し出せる魔法だというのなら、他人の大事なものの隠し場所とか、他人の家のどこに金目のものがあるかとか、悪用の方法はいろいろある。

 俺の魔法にしても、車を運転している人に幻影を見せて判断を狂わせ、意図的に事故を起こすことだって可能だ。

 単に俺達に悪用意思がないというだけで、魔法はいろんなことに応用が効く。そして、それは悪用とは逆の方向にだって使えることもある。

 この魔法を他人のために使うというのであれば、確かに助かる人はいるだろう。

 そして、魔法とは本来そういったことに使うために生まれたものなのかもしれない。


 「その通りです、だから、あなたの魔法を正しく使うためにも、生徒会に入ってもらいたいのです」


 だが、それでも俺は、


 「答えは変わらないな、断る」


 キッパリと斬り捨てる。

 今回こそ予想外だったのだろう。九が少しだけ言葉を失う。きっと、彼女は真っ直ぐな人間だからこそ、そういう反応になるのだろう。


 「・・・・・・どうして、ですか?」


 先程もしたやり取り。

 それに対する俺の答えは簡単だ。


 「俺は魔法を他人のために使うつもりなんてない。もちろん悪用もするつもりはない。ただ俺は自分の日常を平凡に過ごしたいだけだ。だから、生徒会なんてめんどくさそうな組織に入るのは御免だな」


 そう、俺はただ平凡に学生時代を乗り切りたいのだ。その日常を守るために魔法を使うくらいなら構わないが、わざわざ自分から他人を助けるために進んで魔法を使うなどということは考えられない。

 しかし、九沙奈はその理由が気に食わなかったのか、むっと顔をしかめる。


 「それは逃げている、と捉えても構いませんか?」

 「なに?」

 「力を持つ者が力を持たない者のために働くのは当然のことです。あなたのしていることは、二切れのパンを持っているのに、その片方を目の前の貧しい者にあたえず、自分の腹を満たすために全て食すのと同じことです」


 なるほど、確かに富を持つ者が貧しい者にその富を分け与えないのは腹が立つ。

 世界には百億の大金を持つ富豪がいるのに、俺達一般市民はその足元にも及ばないような資金をやりくりして必死に生きなければならない。普通に考えるなら、百億の少しだけでもいいから分けてくれと思う。

 だが、仮に分けたところでどうなるだろうか。与えられた力なき者から感謝はされるだろう。その言葉で気持ちが満たされる力ある者もいるだろう。でも、そうでない者もいる。


 「それが?」


 だから俺は本当にどうでもよさそうに返す。


 「この学校にいるヤツらが、この学校生活で死ぬほど困ることなんてないだろ。困るだけで死にはしない。じゃあ放っておいて大丈夫だ」


 それに、と俺は付け足して、


 「魔法を使えるから弱者を助けるって考えは、傲慢だろ。そんな考え方してるそっちの方が、俺はどうかと思うぞ」

 「なっ―――!」


 その言葉はきっと、九沙奈の心にぐさりと突き刺さったことだろう。彼女自身、そんなつもりはなく、ただ純粋に人助けをしたかった。それを真っ向から否定されたのだ。

 だが、別視点から見てみるとその言葉は核心を射ていて、それがわかったからこそ彼女は反論ができないといったところだろうか。

 なにはともあれ話は終わった。


 「じゃあそういうことだから、生徒会の活動頑張れよ」


 それだけ言って踵を返すと、今度こそ屋上を後にする。

 下駄箱へと向かうために階段を下りていると、開いた窓から肌寒い風が吹き込んできた。

 四月もまだ終盤。寒さはまだまだ残る時期だ。だが、その風はこの季節にしては、妙に冷たすぎるような気がしてならなかった。

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