夜明け
小高い丘の上にある洋館。暁が扉を開けようとする前にひとりでに扉が開く。暁が中にはいると、またひとりでに閉まる。
「お待ちしていました」
真っ暗だった館の中が、パッと明るくなる。暁が声がする方を見れば、正面の階段のおどり場にギルがいた。
「白菊はどこだ?」
「この館の一室で眠って頂いています」
ギルはニッコリと微笑む。
「何故、あいつを巻き込んだ?」
「そうでもしないと、貴方は僕の相手をしてくれないでしょう?」
「きさま……」
「満月の日以外で、鬼族の血を呼び醒すには、怒っていただかないと」
暁は、その場から跳躍して、ギルの正面に降り立つ。間髪入れずに、回し蹴りを入れるが、目の前にいたはずのギルは消える。
「幻覚か……」
暁は、心の中で舌打ちをする。
「鬼族の血の話が迷信であることは、知っています。でも、試さずにはいられない」
別の場所から、ギルが言う。ギルがパチンと指を鳴らすと暁は動けなくなった。
「くっ…、またか!」
「この館ごと、少々手を加えましてね。西洋で伝わる魔法陣を張らせて頂きました。貴方の血、一番いいところをもらうには、こうするのが一番」
暁がもがいている間に、いつの間に現れたのか、ギルの側には、背もたれの長い椅子に、もたれ掛かって眠っている白菊がいた。
「白菊!」
「無駄ですよ?貴方の声は届かない」
ギルは冷たい笑みを浮かべ、白菊の頬に触れる。
「何をする!?」
「こうするんですよ」
ギルは、隠していた短剣を白菊の胸に突き刺した。白菊を赤が染めていく。
「白菊‼︎」
暁の頭の中で、白菊の姿が走馬燈の様に、駆け巡る。
「これだけ、怒りをたぎらせた血。さぞや効くのでしょうね」
ギルがクスクスと笑う。
暁の中で何かが切れて、みるみる鬼人と化していく。
「 おぉ-」
地鳴りの様な暁の吠えが、魔法陣を破る。
「まさか、ここまでとは……」
破られるはずのない魔法陣。でもそれよりも、鬼人と化した暁の力の方が上回っていた。
暁がその力のままに、人外の速さでギルに襲いかかる。ギルの心臓めがけ手刀を、つき出そうとしたとき、広間の扉が開く。
「暁!ダメー」
ギルに、とどめを刺そうとしていた暁の手が、ギリギリのところでピタリと止まる。
「…しら…ぎく」
「白菊さん、どうして……」
二人ともが、驚き白菊をみる。
「ダメだよ。暁……」
白菊の体が、ぐらりと揺れる。暁はギルから離れ、倒れる寸前の白菊を抱きとめる。
「大丈夫。気を失っただけ」
「あんたは……」
暁は、アリアナを見る。実体のない彼女を見て、白菊の人形を使ってまでも、ギルが何をしたかったのかを理解する。
「ありがとう。白菊さん。貴方も、ごめんなさい。あの人が迷惑をかけて」
アリアナは、気を失っている白菊の頭を撫で、暁に話しかける。
「アリアナ……」
ギルにも見えているのか。彼女の名を呼ぶ。
「まったく、何度呼んでも、気づいてくれないんだから」
アリアナは、優しく笑み。ギルに近づく。
「ねぇ、ギル。お願いだから、貴方自身も他の人も傷つけないで?ごめんね。一緒にいられなくて」
「俺は、アリアナと一緒にいたい」
子供の様な言葉に、アリアナは困った様に笑う。
「ダメよ?私はギルにしっかり前を向いて歩いて、幸せになって欲しいの」
優しくギルを抱きしめる。
「ギル、大好きよ」
ギルがアリアナの顔に触れようとした瞬間、アリアナは、静かに光に包まれて、消えてゆく。
「アリアナ⁉︎」
「ギル、さようなら」
「アリアナ--」
館の広間には、ギルの声だけが響く。ギルは、その場に泣き崩れる。
暁は、白菊を抱き上げ、そっとその場を後にする。
「あか…つき」
しばらくして、白菊が意識を取り戻す。暁は、白菊を抱きかかえまま立ち止まる。
「重いでしょう?降ろしてくれていいよ?」
別に重くはなかったが、暁は白菊をそっと降ろす。
「ギルさんとアリアナさん、ちゃんと話が出来たかな?」
「出来ていたよ」
「間に合って良かった」
まだ、本調子ではないであろう白菊は、ふにゃりと笑う。
「……」
「暁?」
暁は黙ったまま、白菊の手をとり引き寄せ、抱きしめる。作り物だったとはいえ、血で染まる白菊の姿が、チラつく。もう、あんな思いはしたくないと暁は思う。だが、以前の様に人との関わりから、逃げようとは思わなかった。
白菊は、驚きながらもされるがままになっていた。
「俺が一緒にいれば、また同じ様なめにあうかもしれない」
その言葉に、白菊はハッと暁を見上げるが、次の言葉に嬉しくて泣きそうになった。
「でも、何があっても守る」
「うん。私も暁と一緒にいたい」
白菊、涙目のまま笑う。
「帰ろう?皆んなが待ってる」
「あぁ」
二人は手を繋ぎ、帰路につく。
「白菊」
「なに?」
「ありがとう」
ようやく、完結しました!
番外編も書く予定です。




