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白菊のしらべ  作者: 柊 さつき
2/20

出会い 1

 時は国主が、国を正しく治める時代。ここは、国の中心部にある食材処。

 白菊は、兄の彰に頼まれた買い物を済ませて、店の前で待っていた狼犬の血を引く愛犬・ヒカルを呼んだ。一つにまとめ左肩に垂らした少し癖のある長い髪には、異国の髪飾りが光る。

 「卵、小麦粉……。よし買い忘れなし!お待たせ。ヒカル」

 「ワン」

 白菊は、彰と彰の妻・雪花、息子の竜と愛犬・ヒカルと暮らしている。彰は、喫茶・鬼灯を営んでいて、白菊は店員として働いている。特技は歌。たまに店で歌うこともある。

しばらく歩いていると、何やら向こう側が騒がしい。人だかりできている。

 「何だろうね?」

 近づいてみると、旅人が警官に絡まれている。

 「身なりが怪しいが、身分証明できるものはあるかね?どこから来たんだね?」

 「出身は北の端です。身分証明ですか……。この時計ですかね」

 青年は、懐をゴソゴソと探し、黒っぽい金色の懐中時計を取り出した。

 「時計でわかるか‼」

 「そう言われましても」

 警官は馬鹿にされたと思い、怒る。

 青年の姿は、この国の服装ではない。長身で深い青い瞳に、こげ茶色の少し長い髪を後ろで結っている。遠くからの旅人は珍しいので目立つ。

 (綺麗な目……)

 青年が周りを見渡すと、見惚れていた白菊と視線がぶつかった。

 「遅かったじゃないか。だいぶ待ったよ」

 深い青い瞳が、白菊に笑いかけると、周りの視線が一気に白菊に集まった。

 「え?」

 白菊が驚いていると、ヒカルが青年に近づいていった。いかにも親しい人に会ったかのように。

 「ごめんなさい。混んでいたの」

 ヒカルが懐いた人なら大丈夫だと判断した白菊は、話を合わせることにした。

 「この人が何かしました?」

 白菊は、前に出て青年と警官の間に入る。

 「君の連れか?身元が分かるものはあるかね?」

 「この人は、父方の親戚にあたるのですが、何せ家系が複雑で……。証明できるものは、この家系図ですかね」

 白菊はどこに持っていたのか、分厚い巻物を取り出す。

 「説明しろと仰るのでしたら、いくらでもしますが、時間がかかりますよ?」

 巻物を見せながらにっこり笑って見せれば、警官の怒りは急速に冷めていった。無理もない、説明されたら軽く半日はかかるだろう厚みのあるものだった。

 「そっ……、そうか。証明できるものがあればいいんだ。もう帰ってよろしい」

 警官はいそいそと逃げていった。

 野次馬をしていた人達もばらばらと引いていく。しばらくして青年が口を開いた。

 「助かったよ。俺は暁。北の端にある島国から旅をしているんだ」

 「私は白菊。こっちがヒカル」

 ヒカルは一声鳴くと、尻尾をパタパタさせて、暁を見上げる。

 「よく助けてくれたね」

 「そりゃ驚いたわ。でも、ヒカルが懐いたみたいだったから」

 「え?」

 暁は、自分で無茶ぶりしておきながらも、犬が懐いたからといって、見ず知らずの男を助けるなんてと驚いた。

 「ここにいても、目立つだけだから歩きませんか?」

 驚いている暁をよそに歩き出す白菊。暁もそれに続く。

 「俺が悪い奴だったら、どうする?」

 「大丈夫。ヒカルが懐いた人で、悪い人はいないもの」

 暁は先を歩く白菊の後ろ姿に問えば、白菊は何てことないと言う風に答えた。

 (どこからくるんだろう……。その確信)

 暁は不思議に思いながらも、その純粋さが気に入った。人混みを抜けて、静かな川辺まできた。二人は川岸に座った。

 「巻物はどこからだしたの?」

 ヒカルが蝶々を追いかけているのを目で追いながら、暁が聞く。

 「これ?楽譜よ。私、歌うのが得意なの」

 白菊が楽譜の帯を解く。暁には、楽譜というより、術使いが使う物のように見えた。

 「あっ‼」と、声と共に立ち上がる白菊。緑色の地の着物に、蝶々が飛び交う柄の袖がはためく。

 「どうした?」

 「お使いの帰りだった」

 「それは悪いことをしたね。助けてくれて、ありがとう」

 「名前、暁さんでしたよね?」

 立ち上がったかと思えば、しゃがんで暁と視線を合わせる。

 「あぁ」

 「服装、何とかした方がいいと思う。でないとまた絡まれるわ」

 暁の服の端を引っ張り、白菊が言う。

 「ありがとう。そうするよ」

 苦笑交じりに答える暁。白菊は小さく笑うと、荷物を持って立ち上がり、ヒカルを呼ぶと、家路を急ぐ。

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