出会い 1
時は国主が、国を正しく治める時代。ここは、国の中心部にある食材処。
白菊は、兄の彰に頼まれた買い物を済ませて、店の前で待っていた狼犬の血を引く愛犬・ヒカルを呼んだ。一つにまとめ左肩に垂らした少し癖のある長い髪には、異国の髪飾りが光る。
「卵、小麦粉……。よし買い忘れなし!お待たせ。ヒカル」
「ワン」
白菊は、彰と彰の妻・雪花、息子の竜と愛犬・ヒカルと暮らしている。彰は、喫茶・鬼灯を営んでいて、白菊は店員として働いている。特技は歌。たまに店で歌うこともある。
しばらく歩いていると、何やら向こう側が騒がしい。人だかりできている。
「何だろうね?」
近づいてみると、旅人が警官に絡まれている。
「身なりが怪しいが、身分証明できるものはあるかね?どこから来たんだね?」
「出身は北の端です。身分証明ですか……。この時計ですかね」
青年は、懐をゴソゴソと探し、黒っぽい金色の懐中時計を取り出した。
「時計でわかるか‼」
「そう言われましても」
警官は馬鹿にされたと思い、怒る。
青年の姿は、この国の服装ではない。長身で深い青い瞳に、こげ茶色の少し長い髪を後ろで結っている。遠くからの旅人は珍しいので目立つ。
(綺麗な目……)
青年が周りを見渡すと、見惚れていた白菊と視線がぶつかった。
「遅かったじゃないか。だいぶ待ったよ」
深い青い瞳が、白菊に笑いかけると、周りの視線が一気に白菊に集まった。
「え?」
白菊が驚いていると、ヒカルが青年に近づいていった。いかにも親しい人に会ったかのように。
「ごめんなさい。混んでいたの」
ヒカルが懐いた人なら大丈夫だと判断した白菊は、話を合わせることにした。
「この人が何かしました?」
白菊は、前に出て青年と警官の間に入る。
「君の連れか?身元が分かるものはあるかね?」
「この人は、父方の親戚にあたるのですが、何せ家系が複雑で……。証明できるものは、この家系図ですかね」
白菊はどこに持っていたのか、分厚い巻物を取り出す。
「説明しろと仰るのでしたら、いくらでもしますが、時間がかかりますよ?」
巻物を見せながらにっこり笑って見せれば、警官の怒りは急速に冷めていった。無理もない、説明されたら軽く半日はかかるだろう厚みのあるものだった。
「そっ……、そうか。証明できるものがあればいいんだ。もう帰ってよろしい」
警官はいそいそと逃げていった。
野次馬をしていた人達もばらばらと引いていく。しばらくして青年が口を開いた。
「助かったよ。俺は暁。北の端にある島国から旅をしているんだ」
「私は白菊。こっちがヒカル」
ヒカルは一声鳴くと、尻尾をパタパタさせて、暁を見上げる。
「よく助けてくれたね」
「そりゃ驚いたわ。でも、ヒカルが懐いたみたいだったから」
「え?」
暁は、自分で無茶ぶりしておきながらも、犬が懐いたからといって、見ず知らずの男を助けるなんてと驚いた。
「ここにいても、目立つだけだから歩きませんか?」
驚いている暁をよそに歩き出す白菊。暁もそれに続く。
「俺が悪い奴だったら、どうする?」
「大丈夫。ヒカルが懐いた人で、悪い人はいないもの」
暁は先を歩く白菊の後ろ姿に問えば、白菊は何てことないと言う風に答えた。
(どこからくるんだろう……。その確信)
暁は不思議に思いながらも、その純粋さが気に入った。人混みを抜けて、静かな川辺まできた。二人は川岸に座った。
「巻物はどこからだしたの?」
ヒカルが蝶々を追いかけているのを目で追いながら、暁が聞く。
「これ?楽譜よ。私、歌うのが得意なの」
白菊が楽譜の帯を解く。暁には、楽譜というより、術使いが使う物のように見えた。
「あっ‼」と、声と共に立ち上がる白菊。緑色の地の着物に、蝶々が飛び交う柄の袖がはためく。
「どうした?」
「お使いの帰りだった」
「それは悪いことをしたね。助けてくれて、ありがとう」
「名前、暁さんでしたよね?」
立ち上がったかと思えば、しゃがんで暁と視線を合わせる。
「あぁ」
「服装、何とかした方がいいと思う。でないとまた絡まれるわ」
暁の服の端を引っ張り、白菊が言う。
「ありがとう。そうするよ」
苦笑交じりに答える暁。白菊は小さく笑うと、荷物を持って立ち上がり、ヒカルを呼ぶと、家路を急ぐ。




