発動
翌日、二人と一匹で、お城の広場に向かった。広場では、舞台の準備をする裏方達とギルがいた。
「こんにちは」
「よかった。引き受けて貰えて」
白菊が声をかけると、ギルは安心した様に言う。
「暁とヒカルは付き添いです」
「かまいませんよ」
半日、白菊はギルからマジックショーの助手の内容を教わった。白菊が楽しそう様子を見ていた暁は、複雑な気持ちだった。昨日、ギルとすれ違いの際の一言、あれは明らかに暁に向けてのものだった。
暁の不安は、マジックショー当日に的中する。
ショーそれ自体は、とてもすごいものだった。空中を舞うトランプカードや鳥。まだこの国で目にするには、真新しいものばかりだった。
ギルのそばでは、いつもの着物ではなく、洋装を身にまとう女性達が華を添えていた。白菊もその一人だった。
問題は、その後だった。それは、本日の大目玉、水中で助手が消えて、再び登場するというものだった。水に入るのは、白菊だった。
練習で、白菊が入るとは聞かされていなかった。暁は立ち上がろうとするが、何故か体が金縛りにあったかの様に動かない。ショーはその間にも進んでいく。
「暁?」
一緒に来ていた彰や雪花が、暁の異変に気がつく。
「マジック自体に白菊が関わる予定はないんです。あくまで助手。あれは、おかしい」
「え?」
舞台の上では、大きな水槽の中の白菊が、大きな幕で覆われる。
「ワン!ツー!スリー!」
ギルの掛け声とともに幕が外されると、そこには白菊の姿はなく、再び幕が被され、外されると、水槽の側に白菊が立っていて客席に手を振っていた。
彰達は、白菊の姿を見てホッとしたが、暁の一言で吹き飛ばされた。
「あれは人形です。白菊の髪飾りがない」
白菊が髪飾りを、滅多な事がない限り外さない事を知っている。
夜のマジックショーといい事もある、他の観客は誰一人として、舞台の上で手を振っているのは、白菊によく似せた、出来の良い機械仕掛けの人形だった。
拍手の中、ギルが一礼して舞台が閉まる。それと同時に暁の金縛りは解けた。暁が舞台上に行こうと駆け出そうとしたとき、小さな女の子が暁を呼び止めた。
「これを、お兄さんに渡して欲しいって頼まれたの」
女の子は、手紙を差し出し渡すと、それだけ言うと、親の元に戻って行った。
"白菊さんは、預かりました。返して欲しいなら、鬼族の末裔一人で、城山の館に来てください"
暁は、手紙をぐしゃりと握りつぶす。
「あの男は、俺の事を知っていました。白菊は、必ず取り戻します」
自分を受け入れてくれた人達の温かさに慣れすぎた。自分への怒りと、ギルへの怒りが、暁の全身を駆け巡る。暁の瞳は、怒りで紅い色に変わっていた。
「お前も、一緒に帰って来るんだろうな?」
「……」
「自分の責任だと思うなら、お前も一緒に帰って来い」
彰が真っ直ぐに暁を見つめて言う。人と関わる事を避けて来た暁にとって、とても厳しい言葉だった。
でも、やさしい言葉。
「そうよ。一緒に帰ってらっしゃい」
雪花が、にっこりと笑って言う。この二人には敵わないなぁと、暁は苦笑する。
「必ず戻ります」
「暁……」
不安そうに見上げる竜の頭を撫でて、フッと笑うと、暁は館を目指して走り出した。その後をどこにいたのかヒカルが追う。
「私達は、信じて待ちましょう」
「あぁ」
血が出るのではないかと思うほど、強く握っている彰の手を雪花が優しく包む。




