罠
目が覚めると、いつもの見慣れた天井。暁は起き上がろうとすると、そばに重さを感じて、そちらを見れば、白菊が眠っていた。
昨晩のことが、一気に思い出される。
「俺は……」
暁が動いたのを感じて、白菊も目をさました。暁は白菊の顔を見られない。
「大丈夫?痛いところはない?」
「俺は何ともない。白菊は?」
暁の脳裏には、昨夜の木の幹に体を強く打ち付けられ、崩れ落ちる白菊の姿がチラつく。
「私は大丈夫だよ」
白菊は、笑ってみせる。
「今度は、私が暁の力になりたかったの」
「ありがとう」
白菊は、安心して、また目を閉じる。
「入るわよ」
ドアをノックする音がして、雪花と彰が入ってきた。
「暁君、目が覚めたのね。菊ちゃん、安心したのね。ようやく寝てくれたわ」
「申し訳ありません」
「なぜ謝る?」
暁は、悔しそうに眠っている白菊を見る。
「結局、白菊を巻き込んで、傷まで負わせた」
彰は、ため息をつく。
「だから、前にも言ったが、迷惑だとか思っちゃいない。お前が出て行く必要もない。まぁ、一つ言うなら、菊の顔に傷をつけたのは許せんがな」
最後の方は、シスコン全開の彰。雪花はら白菊に毛布をかけてやる。
「今日は、店も休みだし。暁ももう一眠りしろ」
「ありがとうございます」
暁は、ベットの上で深く頭を下げる。
そんな様子を遠くから見ている者が一人。怪しげな笑みを浮かべていた。
満月の日からしばらくして、店にギルがやって来た。
「いらっしゃい」
この日は、暁は外出していて、彰と雪花は休憩中で、店には白菊だけだった。
「オリジナルブレンドをお願いします」
「かしこまりました。今日は、リハーサルですか?」
「えぇ、もうじきですからね。今日はお願いがあって来ました」
「何でしょうか?」
コーヒーを出す白菊に、ギルが切り出す。
「よかったら、ショーに貴女に出て頂きたいのです」
「私がですか?」
「はい。ダメでしょうか?」
捨てられた仔犬の様な目で見られてしまえば、白菊は断ることができない。
「わかりました」
「ありがとうございます!助かります」
パッと花が咲く様な笑顔のギル。
「では、明日でいいので、リハーサルをしているお城の広場に来てください」
「はい」
その後、何をどう手伝うのか。ギルは一通り説明をして帰っていった。
外出からの帰り道、暁はギルと擦れ違った。
「鬼族の末裔」
擦れ違いざまにギルが呟いた。暁はバッと振り返れば、ギルは不敵な笑みを浮かべて、暁を一瞥して、何も言わずに歩いていった。
「ただいま」
「お帰り。何か飲む?」
「じゃあ、ブレンドで」
「了解」
満月の夜から、暁は鍛錬に出かける様になった。
「何かあったの?」
ご機嫌な様子の白菊に暁が聞く。
「そうなの!さっき、ギルさんが来てね。マジックショーのお手伝いをして欲しいってお願いされちゃった。それで、お城の広場で、リハーサルをやっているから、明日来てくれって」
「そうか」
嬉しそうな白菊を見て、先ほどの事もあり暁は心配だった。その晩、白菊は彰たちにも報告した。彰の第一声はシスコンそのものだった。
「一人で行くのは、ダメだ。暁とヒカルが一緒ならいいぞ」
「シスコン」
ぼそっと雪花が呟く。
「でも、確かに一人で行くのは心配だから、暁君が一緒なら安心ね」
雪花も人のことは言えない。
「わかりました。明日、一緒に行きます」
「ありがとう。暁。ヒカルも一緒に行こう?」
「ワン!」




