表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白菊のしらべ  作者: 柊 さつき
15/20

前進

「あれ以来、菊は少し変わった。どこがと言われると難しいんだがな」

「そうだったんですか……」

静かに語られた悲しい出来事が、暁が白菊に感じていた違和感の正体だった。

白菊に、前を向いて笑っていて欲しいと、暁は強く思った。


「京、久しぶり」

白菊は、丘の上に来ていた。目の前には、今が盛りと花が咲いている合歓木がたっている。昔、京介と彰とよく遊んでいた場所。京介がいなくなってしまったあの日、思い出の全てを木の下に埋めた。髪飾りを除いて。

「あのね。最近、ようやく笑えるようになったの。きっかけをくれた人がいるんだけど、その人、今まで一人で戦ってきて、今も一人で戦おうとしていて、ほっとけないの。京、私ね。ようやく前に進めそうだよ」

白菊は、木に寄りかかり、本を読んだり、横笛を吹いた。笛の音色は、優しく流れる。気がつけば昼をとうに過ぎていた。

「そろそろ、帰らないと」

立ち上がり、木にそっとふれる。ここには京介の魂はないけれど、思い出が残っている。

「また来るね」

合歓木を見上げていると、名を呼ばれる。

「白菊」

振り向けば、ヒカルと一緒に暁が立っていた。

「暁、どうして……」

「心配したんだぞ」

“どうして、ここに?”と聞く前に、怒られた。

「ごめんね。もう大丈夫。帰ろう?」

合歓木から離れ、暁にも帰路を促し、歩き出す白菊の腕を暁が掴む。

「どうしたの?」

暁は、白菊をまっすぐに見つめる。

「あかつ……」

「大切な者を残して、死んでしまった者が願うのは、残してしまった者の幸せだ」

「⁉︎」

暁の言葉に、白菊は目を見開く。

「泣かない強さも必要だ。でも、無理している白菊をしったら、そいつはどう思う?」

白菊は何も言えない。

「俺だったら嫌だ」

「な…んで……」

白菊の瞳からは涙が溢れる。

「彰さん達には、黙っていてやるから、泣きたいだけ泣けばいい」

暁がグイッと白菊を抱きよせる。抱きしめられたことに驚いたが、あたたかさに、今までせき止めていたものが一気に溢れ出す。白菊はそのまま泣き続けた。しばらくして暁は重さを感じた。

「白菊?」

呼びかけても返事はなく、規則正しい寝息が聞こえてくる。泣き疲れて眠ってしまったらしい。

やれやれと、暁はフッと笑う。白菊の背中を支え膝裏に手をかけ抱き上げ、帰路につく。ふと甘い香りがして、合歓木を振り返る。

“ありがとう”

暁は、そんな声が聞こえた気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ