白い少女の話
私には名前が無い。
家族もいない、いやいたけどいなくなったと言うべきかな。
私は生まれた時から髪や肌などが白かった。
だけど瞳だけは紅かった。
それを産みの親は、悪魔の子だと言い捨てようとしたが、如何せん生まれたばかりの赤子を捨てるのはまずかったのか、しばらく育ててもらった…
朝起きて、水を汲み、洗濯などの雑用をして、昼にカビた味のしない固いパンと水の様な味のしないスープを食べて、また雑用をして、夜遅くに物置で寝る。
町を歩けば石を投げられ、棒で叩かれ、いじめられる。
ある日、家に大きな人がきた。
その人は奴隷商と言っていた。
私は売られた。
だけど、私を買うような人はいなかった。
生活は前と変わらなかった。
雑用をして、味のしないスープとパンを食べて、寝る。
奴隷商も、同じ奴隷も私をいじめた。
いつしか私は周りを信じなくなった。
私は何をされようと笑いもしない、泣もしない。
無表情になった。
そんな私はさらに君悪がられた。
幾つかの奴隷商を転々と回されて、どれくらい経ったのか分からないけど、私は売られた。
最初は私なんかを買う人がいたのかと驚いたが、その貴族の様な人は、私を器と呼んだ。
それから、私は自分がどれほど貴重な物かを言われた。
だが、あくまでその人たちは私を道具としか扱わなかった。
私はだんだん自分が分からなくなってきた。
そんなある日私は、外に連れ出された。
馬車で長い距離を行き、深い森の中の遺跡の様な場所に着いた。
その人達は、私をその遺跡の祭壇と呼ばれる場所の台座に縛りつけた。
私はやっと理解した。
これがこの人達が言っていた儀式…
私は、人ではあり得ないほどの大きな器を持っているらしい。
どんな強大な力でも許容できる存在と言っていた。
その特性を生かし、私という器に悪魔の魂を入れて、そのまま使役するという計画。
もちろん、私は死に、代わりに悪魔がこの体を使う。
とうとうその日が来たのかと私は思った。
やっと私は死ぬのか…
もう、親がどんな人か覚えてない。
何も無い。私には、何も…
だから、死ぬことは怖くない。
むしろ、楽になれる。それが嬉しい。
だけど、もし、もしも私にも、私を認めて普通に扱う人がいるなら…
会いたかったな…
そんな人に…
そんな事を考えていると、悲鳴が聞こえて、少しだけ意識がはっきりした。
最近はいつも朦朧としてたから久しぶりの感覚。
悲鳴は気付けば無くなり。悲鳴が聞こえた場所には血が溢れていた。
あぁ、そうかもう少しで今度は私が死ぬのか…
儀式が最後の段階。
つまり私を殺し、悪魔を呼ぶと儀式は完成する。
思っていた通り、初めてみる、ローブを着た人達が私を囲い、一人が短剣を出す。
あぁ、やっと終わる。
そう思い、最後に夜空を見ようとして、顔を上げると、ちょうど、雲が無くなり月が姿を表した。
すると、空から月の光を背に、黒い翼の生えた、黒髪の獣人の人が急降下してきて、私の周りのローブの人達を吹き飛ばした。
私の前に降りたったその人は、月の光を背に私をその紅い、私と同じ紅い瞳で見てきた。
その人は優しく、微笑みながら私を撫でてくれた。
そこで私はまた意識が朦朧としてきた、今迄この朦朧とした状態を嫌だとは思わなかったけど、私は初めてこの朦朧とした状態を嫌だと感じた。
そして私は気を失った。