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魔王討伐戦

 マグダラ大陸には様々な種族が生息している。神族(しんぞく)聖族(せいぞく)邪族(じゃぞく)(けもの)といった具合で四つのランクに分けられており、人間は聖族に分類されている。


 そんな大陸の最北端に、魔王城と呼ばれる城がある。


 遥か昔、人間と戦争をしていた悪魔族が建てた城だが、悪魔族が滅びた後、その城をとある邪族が占領し、この大陸で最も強い権力を持っている人間に反旗を上げ、自らを魔族と名乗った。当時の勇者がその魔族を倒したのだがしかし、違う邪族が同じように魔王城を占拠して魔族を名乗った。それはいつしか伝統となり、人間は長いこと、いたちごっこよろしくの魔王討伐を繰り返している。


 そして俺とそのパーティー計六人は、魔王討伐のため魔王城に侵攻していた。


 玉座の間へたどり着くと、そこで待ち構えていたのは現魔王で間違いは無く、その戦闘力も魔王を名乗るに相応しい力だった。


 戦闘が始まり十分が経過していたが、パーティー含めて脱落者はゼロ。俺もそうだが、ここに居るのは歴戦の猛者達ばかり。純粋に人々の平和を守るために立ち上がり、旅の途中で幾度も魔族の者と戦ってきた彼らは、戦闘力だけでなく、心も強い。


 人々の中には、魔王を倒しても、どうせまた次の種族が魔王を名乗り、悪事を働くのだ、と、諦めている者達も少なくない。しかし、ここに居る者達は、そんな諦めは一切抱かず、次の魔王が現れたならまた死闘を繰り広げ、何度であろうと勝利し、人々の平和を守ってみせるという決意を持っている。そんな者達の心が折れるはずが無いというのは当然だが……。


 おかしい。


 一抹の違和感が脳裏を過ぎった。


 魔王の力は脅威的だ。一度尾を振れば錬金術師が生み出した石のゴーレムを粉砕し、巨大なトカゲのような体から放たれる咆哮は、鼓膜を破りかねない威力がある。魔王と名乗るに相応しい戦闘力。魔王と成るに相応しい外観。しかし、魔王の振る舞いに、魔王らしさが無かった。


 必死だった。


 野望を抱いている者の必死さではない。幾激の攻撃を浴びながらも決して怯まないが、攻撃を食らう度に上げる悲鳴から、どれだけのダメージを受けているかが伝わってくる。この悲鳴の機微を読み取れるのは、おそらくこのパーティー内で俺だけだろう。その必死さは、俺達と同じ物のように思えたのだ。


 何故?


 魔王とは奪う側の者だ。奪われる側と同じ感情を抱くはずが無い。


 しかして、そんな疑問は関係無く、戦いは決着した。


 立っているのは俺だけだった。


 他の者も皆息がある。それは、魔王とて例外では無い。


 別に、俺が一番強かったから立っているわけでは無い。ただの偶然だ。


 魔王と向き合う。流石の魔王だ。連れてきた二体の使役獣もやられてしまい、俺が自ら、この手で留めを刺す事になった。


 脇差を引き抜く。


 それを構えてみせても、魔王は虚ろに、その刃を見つめるだけだった。


「どうした。早くやれ」


 魔王は言った。いや、魔王と言うべきなのだろうか。その声は女のものだった。


「お前にも、守るべきものがあったのか」


 問う。


 しかしその問いに、魔王は空虚な笑いを返した。


「そんなものは、もう全て失ったよ」


「そうか……」


 さっきまでの必死さは、もう無かった。無気力だった。だからだろうか。俺の役職上、魔物に感情移入してしまう事が多い、というのも理由のひとつかもしれない。掲げた刃を振り下ろす事に、いくらかの抵抗を感じた。邪魔するものなど何も無い現状、抵抗など己の内にしか存在しないというのに。


「やるならやれ」


 魔王は言った。




「――もう、疲れたんだ」




 その嫌に重たい刃を振り落としてから数秒後、そうして魔王は……。

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