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獣の神と高校生  作者: カミハラクロネコ
暴食の鮫
9/11

三話目

楽しく書くことをモットーにしてます。

 


 目を覚めたら、真っ白な天井を見つめていた。


 懐かしい日の頃の夢を見ていたらしい……喰空……どうしてだ……?


 いや、理由は彼女にしか分からない。だからこそ俺は理由を彼女に訊きに行かないと。


 彼女の全てを受け止めてやるんだ。


 安曇あずみみたいに……。


「ウッ!」


 腕が痛い。


 忘れていた、俺は腕を噛み千切られたんだった。


 俺は、ゆっくりと腕を見てみると、肩と腕を繋げているかのように、真っ白な包帯が巻かれている。その包帯に見たことがある札が貼ってある。


 体を無理矢理、起こし周りを見渡す。


 あまりにも殺風景。


 必要最低限の物しか置いていない。


 ベットの近くにあるテーブルに俺の携帯と服が丁寧に置かれていた。


 ……?


 もしかして、俺は今全裸?


 布団をめくると、俺はパンツの一枚も履いてはいなかった。


 携帯がえらく光っている。


「?」


 手にとって携帯を見る。


「マジか……」


 メールが千八件。電話が七百七件。


 全て、安曇あずみからだった。


 メールは全て、「大丈夫?」「学校、来ないの?」だ。


 余程心配だったんだな……。


 留守電には、一件、入っていた。


 俺は携帯を耳に当てる。


「室久佐君? 私、あなたが死んだら泣いちゃうよ? 大号泣しちゃうよ? それでも良いの? これを聞いたら返事を下さい。愛してます」


 大袈裟だな……。


 と思い、携帯に表示されている日にちに目をやる。


 喰空に会って、一日半が経っていた。


 こりゃ、心配するわな……。


 彼女を心配させるなんて、彼氏失敗だな。


「ごめんな……安曇あずみ


「こんな時にも彼女の名前を出すなんて、ラブラブだねー」


 若い男の声が俺を茶化す。あの人か……神西じんざい封馬ふうまさんか。また、助けられたのか……。


 今度、お礼しないとな。


 窓辺にある椅子に座っている神西さんが、ゆっくりと立ち上がる。


「神西さん……ありがとう」


「いやいや、どういたしましてだよ」


 学校に行かないと……。


 喰空に会わないと、会って話さないと。


 俺はベットから降り、服を着る。


 服の袖を通すのに、肩の傷が痛む。長い息を吐き出す。


「行くのかい?」


 服を着を終わり、神西さんに包帯で腕を固定される。


「はい」


「これは友人としての言葉だ。ヒーローにはなるんじゃない、なっちゃうものなんだ」


 一息もつかずに、続ける。


「自分のためにやるんじゃない、他人ひとのためにやるんだ。そこを履き違えちゃ駄目だ」


 分かってる。


 安曇あずみとの一件で経験済みだ。


「大丈夫です」


 きびすを返し、玄関で靴を履き部屋を出る。時刻は午後二時半。まだ学校はやっているハズだ。


 俺は足早に学校に向かう。


 幸いにも、ここから学校への距離はそう遠くない。これも神西さんの……考え過ぎか。


 五分程度で、学校に到着する。


「私服ですいません」


 一年三組。


 喰空のクラス。


「なっ!?」


 異形。


 このクラスにはこの言葉が一番似合うだろう。


 風邪、病気が流行してはいないのに、喰空を含めて男子が三人。女子が四人しかいない。


 何故?


 生唾を飲み込み、肩の傷の疼きを抑える。


「喰空、ちょっといいか?」


 少ない生徒がざわめく。


 そんな事を無視して、授業を受けている喰空の手を引く。


 先生が何か言っているが、今は許してくれ。


「すいません先生。こいつ、親が危篤で」


 先生は渋々承諾する。


 急いで喰空を連れて行く。


「ちょっと! 先輩!?」


 目的地は屋上だ。


 他にうってつけの場所が無い。


「先輩、腕どうしたんですか!? 折れたんですか!?」


「え?」


 覚えてない?


 いや、まさか……。


 俺の腕をこんなにした奴が目の前にいるのに、その本人が覚えてないなんて。


 おかしい。


 彼女の顔を見ると、本当に知らないみたいだ。


「覚えてない……のか?」


「私……何かしました……?」


 勾玉の力。


 それしか今は考えられない。勾玉は人の記憶を消せるのか……?


 俺の知らない事実。


 こうなったらーー。


「出てこい!! 居るんだろ!!」


 空に向かって叫ぶ。


 喰空が知らなくて、俺が知っていること。


 それは獣の神の存在。さて、今回はどんな化け物が出てくるんだ?


 霧が集まる。


《僕を呼ぶ人間が居るなんてね》


 鮫。


 鮫が居る。


 白と黒が混じった、口調が大人しいだが、凶暴そうな鮫。


 口調に騙されては駄目だ。


 奴は厄介に決まってる。


「ああ、居るぜ」


「先輩!? 何なんですか!?」


 鮫を見て、喰空が腰を抜かす。


 正直怖いだろう……俺も今でも怖い。こんな恐怖簡単には克服できない。


 死と隣り合わせなのだから。


 だからと言って、ここで立ち止まる訳にはいかない。


「神様だよ……元は善良な神様」


《満は渡さない》


 喰空は、気を失ってしまった。


 多分あの鮫のせいだろう。神のくせに、喰空を独占しようとしてやがる。


 ふざけた神だ。


「なんで、喰空に取り憑いた? 答えろ」


《僕の勾玉は暴食。ストレスを強く感じている子に取り憑いた。たまたまそこにいたのが、満だったんだ》


 たまたま居たから? ふざけるなよ……。


 俺は拳を強く握り込む。


 明らかに、俺の顔は怪訝の表情をしていた。


《君は、満がどうしてこうなったか分かるかい?》


「何でって……?」


 分からない。


 俺は、彼女の事を分かってやってるつもりだった。


 何にも知らないのは俺の方だ。


《言いたいことを言えない辛さが分かるか? 意見も言えない、言ったとしても空気を悪くしてしまうって満は知ってるんだ》


 だから……だから喰空は自分の意見を持たないようにしたんだ。


 気を使い、自分自身の精神を削って生きてきた。


 気づかなかった訳じゃない。喰空なら何とか出来ると思ってたかもしれない。


 分かってやれなかった。


《だから僕は決めた。満のストレスになるものは全て食べ尽くしてやるってね》


 鮫はクックックと俺を嘲笑う。


「まさか……お前、あのクラスの人もか?」


《そうだって言ったらどうするの?》


 やはり、こいつが……。


 許さない。


 歯を食いしばり、怒りを全力で抑える。


 ここで、立ち向かっても勝敗は決まっている。俺は負ける。


「どんな事をしたんだ?」


《記憶を食べた。目の覚ましかたを》


 と言うことは、食われた奴は起きてこない。


 一生寝続ける。


 恐ろしい能力だ。一生寝続けるなんて考えるだけで空恐ろしい。


《君も満のストレスになりそうだ。ここで殺そう》


 鮫の尾ひれで、俺の体にぶち当たる。


「うっ!?」


 屋上の貯水タンクに体がめり込む。


 喀血かっけつし、俺の体がタンクの水に浸かる。


 気持ち悪い。服が濡れて、口は血の味がするし、息もろくに出来ていない。


 肩の傷から出た血が包帯を赤黒くした。


「クソ、あの鮫野郎」


 ワンコが居れば、何とかやるんだが。


 全く体が動かない。


《弱いねー》


 鮫の尾ひれで俺はタンクごともう一度、はね飛ばされる。


 タンクに当たったとは言え、物凄い衝撃だ。


 五百メートルぐらい吹き飛ばされたのだろうか? 目が霞んで、何も見えない。


「クッ……動けよ体」


 何を念じてみても、体が動かない。


 痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。


 今頃、痛みが襲いかかってきた。


《何だ。死んでなかったんだ》


 鮫の鋭い歯が俺の目の前で鈍く光る。


《逃げるぞ! 速水はやみ!!」


 俺のピンチに駆けつけたワンコに、くわえられて鮫から逃げる。


 何にも知らない。


 俺が知っているのが喰空の、心の片隅だったんだ。


 もっと知らなきゃ、喰空の心とその叫びに。



    

 


   


        


  


          

 


 







 

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