三話目
楽しく書くことをモットーにしてます。
目を覚めたら、真っ白な天井を見つめていた。
懐かしい日の頃の夢を見ていたらしい……喰空……どうしてだ……?
いや、理由は彼女にしか分からない。だからこそ俺は理由を彼女に訊きに行かないと。
彼女の全てを受け止めてやるんだ。
安曇みたいに……。
「ウッ!」
腕が痛い。
忘れていた、俺は腕を噛み千切られたんだった。
俺は、ゆっくりと腕を見てみると、肩と腕を繋げているかのように、真っ白な包帯が巻かれている。その包帯に見たことがある札が貼ってある。
体を無理矢理、起こし周りを見渡す。
あまりにも殺風景。
必要最低限の物しか置いていない。
ベットの近くにあるテーブルに俺の携帯と服が丁寧に置かれていた。
……?
もしかして、俺は今全裸?
布団をめくると、俺はパンツの一枚も履いてはいなかった。
携帯がえらく光っている。
「?」
手にとって携帯を見る。
「マジか……」
メールが千八件。電話が七百七件。
全て、安曇からだった。
メールは全て、「大丈夫?」「学校、来ないの?」だ。
余程心配だったんだな……。
留守電には、一件、入っていた。
俺は携帯を耳に当てる。
「室久佐君? 私、あなたが死んだら泣いちゃうよ? 大号泣しちゃうよ? それでも良いの? これを聞いたら返事を下さい。愛してます」
大袈裟だな……。
と思い、携帯に表示されている日にちに目をやる。
喰空に会って、一日半が経っていた。
こりゃ、心配するわな……。
彼女を心配させるなんて、彼氏失敗だな。
「ごめんな……安曇」
「こんな時にも彼女の名前を出すなんて、ラブラブだねー」
若い男の声が俺を茶化す。あの人か……神西封馬さんか。また、助けられたのか……。
今度、お礼しないとな。
窓辺にある椅子に座っている神西さんが、ゆっくりと立ち上がる。
「神西さん……ありがとう」
「いやいや、どういたしましてだよ」
学校に行かないと……。
喰空に会わないと、会って話さないと。
俺はベットから降り、服を着る。
服の袖を通すのに、肩の傷が痛む。長い息を吐き出す。
「行くのかい?」
服を着を終わり、神西さんに包帯で腕を固定される。
「はい」
「これは友人としての言葉だ。ヒーローにはなるんじゃない、なっちゃうものなんだ」
一息もつかずに、続ける。
「自分のためにやるんじゃない、他人のためにやるんだ。そこを履き違えちゃ駄目だ」
分かってる。
安曇との一件で経験済みだ。
「大丈夫です」
踵を返し、玄関で靴を履き部屋を出る。時刻は午後二時半。まだ学校はやっているハズだ。
俺は足早に学校に向かう。
幸いにも、ここから学校への距離はそう遠くない。これも神西さんの……考え過ぎか。
五分程度で、学校に到着する。
「私服ですいません」
一年三組。
喰空のクラス。
「なっ!?」
異形。
このクラスにはこの言葉が一番似合うだろう。
風邪、病気が流行してはいないのに、喰空を含めて男子が三人。女子が四人しかいない。
何故?
生唾を飲み込み、肩の傷の疼きを抑える。
「喰空、ちょっといいか?」
少ない生徒がざわめく。
そんな事を無視して、授業を受けている喰空の手を引く。
先生が何か言っているが、今は許してくれ。
「すいません先生。こいつ、親が危篤で」
先生は渋々承諾する。
急いで喰空を連れて行く。
「ちょっと! 先輩!?」
目的地は屋上だ。
他にうってつけの場所が無い。
「先輩、腕どうしたんですか!? 折れたんですか!?」
「え?」
覚えてない?
いや、まさか……。
俺の腕をこんなにした奴が目の前にいるのに、その本人が覚えてないなんて。
おかしい。
彼女の顔を見ると、本当に知らないみたいだ。
「覚えてない……のか?」
「私……何かしました……?」
勾玉の力。
それしか今は考えられない。勾玉は人の記憶を消せるのか……?
俺の知らない事実。
こうなったらーー。
「出てこい!! 居るんだろ!!」
空に向かって叫ぶ。
喰空が知らなくて、俺が知っていること。
それは獣の神の存在。さて、今回はどんな化け物が出てくるんだ?
霧が集まる。
《僕を呼ぶ人間が居るなんてね》
鮫。
鮫が居る。
白と黒が混じった、口調が大人しいだが、凶暴そうな鮫。
口調に騙されては駄目だ。
奴は厄介に決まってる。
「ああ、居るぜ」
「先輩!? 何なんですか!?」
鮫を見て、喰空が腰を抜かす。
正直怖いだろう……俺も今でも怖い。こんな恐怖簡単には克服できない。
死と隣り合わせなのだから。
だからと言って、ここで立ち止まる訳にはいかない。
「神様だよ……元は善良な神様」
《満は渡さない》
喰空は、気を失ってしまった。
多分あの鮫のせいだろう。神のくせに、喰空を独占しようとしてやがる。
ふざけた神だ。
「なんで、喰空に取り憑いた? 答えろ」
《僕の勾玉は暴食。ストレスを強く感じている子に取り憑いた。たまたまそこにいたのが、満だったんだ》
たまたま居たから? ふざけるなよ……。
俺は拳を強く握り込む。
明らかに、俺の顔は怪訝の表情をしていた。
《君は、満がどうしてこうなったか分かるかい?》
「何でって……?」
分からない。
俺は、彼女の事を分かってやってるつもりだった。
何にも知らないのは俺の方だ。
《言いたいことを言えない辛さが分かるか? 意見も言えない、言ったとしても空気を悪くしてしまうって満は知ってるんだ》
だから……だから喰空は自分の意見を持たないようにしたんだ。
気を使い、自分自身の精神を削って生きてきた。
気づかなかった訳じゃない。喰空なら何とか出来ると思ってたかもしれない。
分かってやれなかった。
《だから僕は決めた。満のストレスになるものは全て食べ尽くしてやるってね》
鮫はクックックと俺を嘲笑う。
「まさか……お前、あのクラスの人もか?」
《そうだって言ったらどうするの?》
やはり、こいつが……。
許さない。
歯を食いしばり、怒りを全力で抑える。
ここで、立ち向かっても勝敗は決まっている。俺は負ける。
「どんな事をしたんだ?」
《記憶を食べた。目の覚ましかたを》
と言うことは、食われた奴は起きてこない。
一生寝続ける。
恐ろしい能力だ。一生寝続けるなんて考えるだけで空恐ろしい。
《君も満のストレスになりそうだ。ここで殺そう》
鮫の尾ひれで、俺の体にぶち当たる。
「うっ!?」
屋上の貯水タンクに体がめり込む。
喀血し、俺の体がタンクの水に浸かる。
気持ち悪い。服が濡れて、口は血の味がするし、息もろくに出来ていない。
肩の傷から出た血が包帯を赤黒くした。
「クソ、あの鮫野郎」
ワンコが居れば、何とかやるんだが。
全く体が動かない。
《弱いねー》
鮫の尾ひれで俺はタンクごともう一度、はね飛ばされる。
タンクに当たったとは言え、物凄い衝撃だ。
五百メートルぐらい吹き飛ばされたのだろうか? 目が霞んで、何も見えない。
「クッ……動けよ体」
何を念じてみても、体が動かない。
痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。
今頃、痛みが襲いかかってきた。
《何だ。死んでなかったんだ》
鮫の鋭い歯が俺の目の前で鈍く光る。
《逃げるぞ! 速水!!」
俺のピンチに駆けつけたワンコに、くわえられて鮫から逃げる。
何にも知らない。
俺が知っているのが喰空の、心の片隅だったんだ。
もっと知らなきゃ、喰空の心とその叫びに。
感想待ってます!