一話目
楽しく書くことをモットーにしてます!
俺に彼女が出来て、もとい、猫との決着がついて早くてもう一週間が経った。
激痛を伴った春が終わりを告げ、暑い暑い、夏が始まる。
次の勾玉を探しに街を駆け回っているが全く見つからない。
今は放課後。
二人っきりの教室で若宮ーーじゃなかった、安曇と休日の計画を練っている所。
「テストも終わったし、どこに行こうか……?」
彼女と一緒ならどこでも良いのだが、出来るだけ彼女の希望通りにしてあげたい。
夏の日差しに照らされている安曇はとても可愛かった。
前髪をかき分け、細い首筋にはほんのり汗をかいていた。
うん。エロい。
いや、別にそういう目で見ているのではない、ただ単純にそう思っただけだ。
「んー? 私は、洋服を買いに行きたいな」
「分かった。今週の日曜日にでも行こうか」
「それでいいよ」
休日の予定も決まり、荷物をまとめて教室を無人にする。
学校には先生と俺達ぐらいしかいない。
閑散としている。
「おや? そこにいるのは、可憐な美女と、それに似つかわしくない変態じゃないですか」
俺達以外にもいた。
喰空満だ。
前にも説明したと思うが、彼女は学校に入ると周りにかなり気を使い、素の自分を出せずにいる。
今は、周りに誰もいない。完全に喰空一人だ。
安曇に慣れされるのにも時間がかかった。
「喰空ちゃん。こんにちは」
安曇がぺこりと頭を下げる。
「こんにちは。若宮さん」
ニコリと微笑む。
仲が良さそうでなによりだ。
でも、喰空は何故こんな時間に居るんだ?
「速水先輩、二人で何をしてたんですか?」
ニヤニヤしながらそう言った。
「あぁ、休日の予定を話してたんだ。そう言うお前は?」
「手伝いをちょっと」
「またか……」
また。
そう、まただ。
彼女はいつも、周りの手伝いをしている。悪いことではない。
だが、もしも、利用されているんだとしたら、直ちに止めさせなければならない。
一番厄介なのは、利用されていると気付かない事だ。
「良いんです。これが私の学校生活ですから」
「……」
これ以上俺は何も言えなかった。
「先輩方、良かったら一緒に帰っても?」
「うん。良いよ。喰空ちゃん」
俺は彼女の決定に黙って従うだけだ。
俺達は三人横に並びながら、校舎を後にする。
みんなも考えた事があるだろうか? 俺にはある。
自分とは一体?
悩む時期があった。
何故、今、この話をするかと言うとただ単に気になっただけだ。
自分を出せない喰空の気持ちを少しは、考えてやるために。
まぁ、馬鹿臭いかもしれないが……。
「室久佐先輩! 室久佐先輩!」
俺はハッとして、喰空の声に気付く。
「どうしたの? ぼーっとして」
「いや、何でもない」
この台詞を聞いた瞬間、喰空がニヤリと笑いながら俺にこう言う。
「また、いやらしい妄想でもしてたんじゃないですか? これだから変態は」
彼女が居る前でこいつは、堂々と俺をけなしやがる。
「安心しろ、男の八割はエロで出来てる」
しまった。
安曇が居ることを完全に忘れていた。
彼女の方を恐る恐る、見ると、ハハッと苦笑いしていた。
喰空と居ると、ついついリミッターが外れてしまう。
自制しなければ……。
「まぁ、変態先輩は置いといて、若宮さん。ガールズトークしましょうよ」
どうやら、完全に仲間外れにされてしまった。
彼女達の後ろを追うようにして、溜め息を漏らしながら物思いに耽る。
さて……今夜も、勾玉を探しに夜更かしでもするか。最初はキツかったが、慣れればどうという事はない。
今度は痛い思いをしなければ良いが……。
神にでも祈るか。
気が付けば、安曇の家に到着してしまった。
「あっ、私の家、ここだから。じゃあね。喰空ちゃん、室久佐君」
「うん。またね」
「それじゃ、若宮さん」
安曇と別れ、喰空と一緒に家路につく。
「先輩、あの可憐な若宮さんを先輩みたいな変態野郎がどうやって落としたんですか?」
かなり失礼。
この言葉で傷つかない人はいないだろう。
「あっちから、告白したんだよ」
俺は照れくさく、答えた。
喰空の目は、冷めていた。
きっと俺の答えがつまらなかっただろう……いやどうやって面白く答えれば良いんだ?
誰かに教えてもらいたいくらいだ。
「またまた、黒魔術でも使ったんじゃないんですか?」
「俺は魔女の末裔か!!」
つっこんだ所で俺は自分の家に着いた。
彼女との言葉のじゃれ合いに決着をつけれないのが残念だが致し方ない。
「じゃあな。喰空」
「では、またいずれ」
そして夜。
部屋着から、私服のジーンズと半袖の服に着替えて、家を出る。
まず手始めに、近くのコンビニにでも行こうかな?
勾玉とは関係ないが、立ち読みでもして考えをまとめるとするか……。
そうと決まれば、早速行くとするか。
家を出て、三十分ぐらいだろうか? 俺の目の前に一人の少女が現れた。
「……?」
彼女には、関わってはーーいや、関わる方が良い気がする。
「ストレス、発散」
妙な言葉を放ち、暗い夜道をふらふらと俺に歩み寄る。
「お前ーー」
誰かは理解したその時、俺の右腕は彼女によって噛み千切られていた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!?」
痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い!!
訳が分からない。
一体、何があって俺の腕が?
鮮血が勢いよく噴き出る。
あたり一面、俺の血で染められていた。
誰がこんな事を……。
いや、誰かは分かってる。
「どうしてだ……喰空」
「先輩。私から勾玉を取らないで下さい」
勾玉?
何故、彼女がそんな事を?
どうして? 一体何の大罪の勾玉につけ込まれたんだよ。
彼女の笑顔がちらつく。
今は対照的に無表情極まりない。
恐怖すら感じてしまう。
「悪いな。喰空……そいつは無理だ」
「なら、死んで下さい。それと、先輩の腕クソ不味かったです」
俺は左腕で血を必死に抑えながら、彼女と一旦距離を取る。
出血が酷い。
目が霞む。
俺の意識もそうは長くは保たないだろう。せめて彼女の話を聞かなければ……。
「なぁ? どうしてお前が? そんな奴じゃなかったハズだ」
「さぁ? 何ででしょうね」
答えをはぐらかし、殴りかかる。
彼女の拳はそれ程攻撃力は無く、猫と違う点を挙げるとするならば、体には変化は起きていないのと動きが機敏では無いくらいだ。
だが、噛む力が凄い。
俺の腕を容易に引き千切った。
それだけで十分脅威だ。
「ちょろちょろ逃げないで下さい」
俺の足が彼女によって踏まれる。
「なっ!?」
顔面を激しく殴られる。
逃げようがない。
攻撃力が無いとは言え、これだけ殴られたらダメージがある。
どうにかしないと……。
「ごめん。喰空」
彼女の腹を軽く殴打し、踏まれた足をほどいて蹴りを繰り出す。
が、力が入らない蹴りが彼女の腕で止められて、俺は舌打ちをして、距離を取る。
このままじゃジリ貧だ。
頭が全然回らない。
「死にますか? 先輩。諦めて下さい」
「ふざけるな……俺は何としても罪の因子を取り除く」
意識が……。
体に力が入らず、その場に倒れ込んでしまう。
血こそは止まったが、血が足りない。
彼女は踵を返して立ち去ろうとしているが、俺は必死に呼び止める。
「待てよ………喰空!!」
何でお前が? どうしてだよ。なにがきっかけでそうなっちまったんだよ。
振り向いてくれよ……。
そこで意識が途切れた。
感想、評価どんと来いです!