四話目
楽しく書くことをモットーにしてます!
若宮さんが猫になって二日経った。
俺は私服に着替えて救神社に向かおうとしている。
自分のやれることを探しに行く。
きっと何かあるはずだ……。
早朝に家を出て名前しか知らない場所に向かう。
てか、救神社ってどこにあるんだよ。
十何年この九無町に住んでいるがそんな神社は知らない。
意外と神西さんも適当だな。
家を出て五分、いきなり俺は挫折しようとしていた。
「やや! そこにいる便器みたいな顔をしているのは、室久佐速水先輩では?」
路頭に迷っている俺に大変失礼な挨拶をしたのは、喰空満ちゃんだ。
柿別高校の一年生。
俺の後輩にあたる。
「やや! そこにいるのは毒舌スレンダー美人の喰空満ちゃんじゃないか」
お互いに少しけなしつつ、挨拶を交わした。
つか、便器みたいな顔ってどんな顔だよ。
排便物でもついてんのか?
俺は便器みたい顔をしているの意味を考えながら、喰空にあること訊く。
「なぁ、喰空……救神社って知ってるか?」
「知ってますよ、便器先輩」
「誰が便器先輩だ!」
知ってるのか?
意外な人物が知っているものだな……。
よし、一応、場所知ってる人に出会えた。
だが……案内してくれるかな? あいつ意外と意地悪だからな。
「場所、教えてくれるか?」
「ふむ、良いだろう……ついて来て下さい。便器先輩」
「誰がやねん!」
今日はすんなりと言うことを聞いてくれたな……
いや、別にてこずりたい訳では無いのだが、まぁいっか。
スタスタと歩く喰空を俺は追う。
喰空は後ろを振り返らず、歩く速度も変えず、歩き続ける。
「歩くと何分ぐらいかかるんだ?」
「三十分ですね……まさか、歩きたくないとでも言うのですか?」
「そうは言わんが……」
実際、思ってる。
三十分歩くのは流石に嫌だ。てか、無理だ!
運動不足の俺に三十分歩かせるのは、拷問以外何物でもない。
いや、行くしかないんだ……彼女を助けるために。
「嘘ついても無駄ですよ。先輩、嘘ついてる時の顔気持ち悪いですもん」
「さらっとけなすな!!」
「アハッハッハ、嘘ですよ」
彼女と居るとろくな事がない。
俺が一方的にけなされてしまう。もし、けなし返したとしても、倍返しされる。
だが、彼女は一度学校に入ると性格はガラリと変わり、大人しくなり、周りの人に気をかなり使う。まるで別人。
昔からそうだ。
俺は中学の時から彼女を知っているが、俺の前では毒舌なのだが……親とか、友達の前になると大人しくなる。
気を使い過ぎて素の自分を出せずにいた。
「この山を登りますよ」
目の前には見るからに険しそうな山がある。
えーっとマジか!!
絶対、昔、修行僧とか妖怪退治にいそしんでたよ!
俺の目には負のオーラ的な物がしっかり見えていた。
だけど……ここを登るしかない。この先に救神社があるんだ。
俺は腹をくくり喰空と一緒に山を登り始める。
「ねぇ、先輩。何でいきなり救神社の場所を知りたいんですか?」
何気ない顔で俺に質問する。
「用事を済ましに行くんだ……」
「用事ね……おつかいですか?」
「神社にどんなおつかいがあるんだよ! 御守りでも買いに行くのかよ!」
行けば行くほど森、森、森。
リスがいたり、ウサギがいたり、野鳥が飛んでたりしている。
夜に来ると不気味になるんだろうな……。
舗装されていない道無き道を、ひたすら進み続ける。俺は何度か転びかけた。
下手をすれば遭難しそうだ。
「もう少しですよー、変態先輩」
「便器から変態に変わった!?」
「だって、いやらしい顔してるじゃないですか、女の子の太ももとか見て、ペロペロしたいとかそう思ってるんでしょ?」
あながち間違いではないが……
ここまで的確に言い当てられると逆に清々しいぜ!
んまぁ、実際ペロペロしたい! スリスリしたいよ!! チャンスはあったけど我慢した。
あの時の自分は良く我慢したと思ってる。
「あっ、元からか」
と彼女は続ける。
俺は木のデカい根っこを跨ぎながら、必死に歩き続けた。
てか、今俺の事けなしたよね。
今日はあと何回彼女にけなされれば気が済むんだ?
それにしても、元気だな……。
俺はいつから息が上がってるが、彼女は全く息が上がってない。
恐ろしい子だ。
「元から変態みたいな顔ってどんな顔だよ!!」
「先輩、鏡って言う便利なもの知ってますか? 一回で良いので自分の顔見て下さいよ」
「俺の顔は最初から変態じゃない!」
「え? もう一回」
「すいません。負けました」
俺が負けを認めた所で、開けた場所に出た。
その中央にえらく、古びて、朽ちて、触れたら壊れてしまいそうな神社がある。
多分ーー救神社だ。
やっと来たんだ……救神社に。
今度、喰空に何かお礼をしなきゃな。
「あの、朽ちてる神社が救神社です」
「あぁ……」
俺は救神社に惹きつけられるみたいに向かう。
不思議な感覚に体が支配されてる。けど,どこか心地いい。
そんな感覚を覚えながら、神社の戸を開けた。
案の定、かなり朽ちていて少しの力で壊れてしまった。
ヤベ……。
そして、奥に刀が飾られていた。
あれが希望?
「先輩、ここに何か書いてありますよ『この刀救いたき物を救う希望の刀なり……力な物に……えん。……おのが影と……しせり』途中、途中、かすれて見えませんでした」
今必要なのは、希望の刀だと言う情報なのだ。
彼女がいてくれたおかげで刀が俺にとって希望だと分かった。
俺は刀を手に取る。
これで若宮さんを……。
俺は無力じゃなくなる。
「この刀をとる者が現れるのは約二千年ぶりだな」
俺の目の前には俺が居た。
いや、ドッペルゲンガーとかの類とかじゃなくて本当に自分が居る。
多分……影。
自分の影か……喰空には見えてないらしい。
「刀を取ったしても、なにも変わらんぞ」
「いや、彼女を救える」
そうだ。救ってみせる。
この刀で!!
その言葉を聞いて、もう一人の俺が笑う。
「くっくっくっくっ、いいか、もう一人の俺……この刀を手に入れでも無力のままだぞ」
俺の言葉は俺に響いた。
「無理なんだよ、目的を見失ってるお前には結局あの子を助けられずに一生後悔するんだよ」
目的を見失ってる?
そうだ。
もう一人の俺の声が俺の頭に直接入ってきた。
まるで自問自答しているみたいだ。
何で? 俺はちゃんと彼女を救いたいって言う目的がある……。
本当か?
本当だ!
違う!
お前はただ単に戦って彼女を救おうとして、力が欲しいんだろ?
力が欲しい……。
もう一人の俺の言葉が重くのしかかる。
違う……俺は戦いたいんじゃない。
俺ははっきりと言う。
「俺は、ただ単純に誰が苦しんでるから、困ってるから助けるんだ!」
そうだ無力でも良かったんだ……俺は戦いに行くんじゃないんだ……助けに行くんだ。
ただ、受け止めてやれば良かったんだ。
彼女の全てを……。
「どうやら、自分の本当の目的が分かったみたいだな」
「ありがとう。俺」
「礼はいらねぇよ、早く行ってやれよ若宮さんの所に」
刀が札に変わり俺の手に残った。
今度こそ、今度こそ助けてみせる。俺は無力だけど、受け止める事ぐらいは出来るから。
家に帰って早速、準備をしよう。
ワンコにもお願いしないとな……ある意味神頼みか。
「どうしたんですか先輩、便器から排便物が綺麗さっぱり取れたみたいな顔してますけど?」
「んや、何でもない……帰るぞ。喰空」
俺は下山して家に帰った。
その夜。
俺は動きやすい服に着替え、部屋でくつろいでいるワンコに話しかける。
「ワンコ、若宮さんの所に行こう……」
《また、殺されかけるぞ?》
「良いんだ。ワンコ、お願いがある。すべての力を回復に回して欲しいんだ」
俺は頭を下げてお願いした。
《ぅはっはっはっはっは! 良かろう。行くぞ、猫の元に》
俺は、ワンコと一緒に猫と初めて会った公園に向かった。
きっと彼女はそこにいる。
待っててくれ若宮さん。今、暴走を止めに行くから。
俺は彼女とのいや、猫との因縁に決着をつけるために歩き始める。
感想待ってます!