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獣の神と高校生  作者: カミハラクロネコ
嫉妬の猫
4/11

三話目

人のダークな感情を書きます!

楽しく書くことをモットーにしてます

 傷が癒え、二日が経った。


 猫の正体を探るために俺は学校をウロウロしていた。

 

 見覚えがある顔……面影。


 あの人なのだろうか?

 

 いや、違うと信じたい。


 だが、あの女さえいなければと言う言葉は確かに彼女が言ったんだ。


 俺は中庭のベンチに座り込む。


 手がかりが全く無い。


 無駄に右往左往しても埒があかない。何か決定的な証拠があれば良いのだが……。


 だが、どこかで手がかりなんて見つからなければ言いと思っている俺がいる。


 どうする?


「室久佐君、怪我、大丈夫?」


 若宮安曇わかみや あずみが心配そうに顔をして覗いてきた。


 大丈夫な訳がない。


 心配しているのは俺の方だ。


 彼女はそんなことを知らずに隣に座る。


「大丈夫だよ」


 俺は笑って見せる。もちろん作り笑いだ。


「今日……一緒に帰らない?」


 答はYES、荷物をまとめ立ち上がる。


「元気ないよ? どうしたの?」


 心配をかけてはダメだ……


 意地でも元気に振る舞わなきゃいけない。

 

 よし! いっちょ演じるか……。


「大丈夫! てか、もう少しでテストだよね」


 校門を出て、少し歩いた所。


 俺は何気ない質問をした。


 何時もみたく、ただ平然に、何も考えもなく、日常みたいに質問した。


「そうだね。勉強して……る?」


 一瞬の躊躇いの中に彼女は見てしまった。一組のカップルをーー。


「うぅ!!」


 彼女は頭を抱えて座り込む。


 そして叫ぶ。


 止めて、止めてと叫び苦しむ。


 彼女の頭から驚くべき事に猫耳が生えていた……。


 やっぱり彼女が猫。


 信じたくなかった、せめて思い過ごしで済ませたかった。


「憎いな……あの女殺す!!」


 髪の毛が急激に伸び、尻尾が生える。


 完全に猫化。


 獰猛な目つき、鋭い牙、真っ黒な瞳、妖艶な体つき。どうもこうも見間違いする余地が無い。


 あの猫だ。


「なっ、若宮さん!?」


 ただ、驚くことしか出来なかった。


 日常という物は突如として瓦解するものだとこの時の自分は理解出来なかった。


 クソ……。


 彼女は今ずくにでもカップルに襲いかかってしまうほどに危険だ。


 止める!


 止めないとヤバい!!


「止めてくれ! 若宮さん!」


 彼女を必死に押されるが、振り解かれる。


 今までの猫とはレベルが違う。


 凶暴性、妖艶さが異常に上がっている。


「どけよ!! お前!!」


 俺を軽々とはねのける。


 電柱に当たる。息が出来ない。背中がズキズキと痛むが、なんとしても止めなければ。


 俺は立ち上がり、猫いや、若宮さんを止めようとして、飛びかかる。


 俺が飛びつこうが、関係なしに若宮さんはカップルに向かって突き進む。


 彼女の目は、俺を映すのではなく、カップルのみ見ていた。


「離せよ!! 私はあいつを殺したいんだ!」


「ダメだ! 人じゃなくなる!!」


「うるさい!! 黙れ!」


 この所行だけ見たら人間の所行ではない。


 化け物だ。


 怖い……俺が殺されてしまう。だが決めたんだ、俺は何があろうと関わると決めた。


 例え、死んでも……。


 助けなきゃ、何が何でも助けなきゃダメなんだ!


 自分の誓いを再確認して、必死に若宮さんに食らいつく。


「まず、お前から殺す!!」


 腹にパンチを当てられ、吹っ飛ぶ。


 近くの廃ビルの壁を突き破りながら、十数メートル吹っ飛んでしまう。


「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」


 痛い! 体中が痛い! 


 体が悲鳴を上げる。


「黙れ! 黙れ! 黙れ! 黙れ! 黙れ! 黙れ!」


 壁にめり込んでいる俺に彼女が追い討ちをかける。


 何度も、何度も、何度も、殴る。


 気が遠くなる。


「お前なんて、死んじまえ!!」


 死んでしまうかもしれない……。


 せめて、声をかけてやらないと、若宮さんを呼び戻さないと。


「止めてくれ!! 若宮さん! 止めるんだ! 若宮さん! 安曇あずみ!!」


 拳が止まる。


 消えゆく意識の中で、俺が叫んだ言葉は彼女の拳を止める。


「止めて! 出てって!!」


《何故だ! 何故、我を拒む!》


 頭を抱え、苦しむ


 猫の人の間で葛藤してるんだ。


 今は、今は呼びかけるんだ! 俺にはこれしか出来ない……


「戻って来い! 安曇ッ!!」


《黙れ!!」


 一匹と一人の声が重なる。


 彼女は苦しそうな表情をしながら拳を振り上げる。


 あぁ、ダメだったか……。


 俺は結局、誰も救えないで死んじまうのか……彼女の拳で死ぬんだ。


 俺は後悔しながら、目を閉じた。


「お前さえいなければ! お前さえいなければ!》


 これが若宮さんの嫉妬心……。


 誰かに向けた、怒りとか嫉妬心とかが俺に向けられている。


 猫とか、若宮さんとか、別々の存在じゃないんだ。


 きっと猫は若宮さんの心の闇の一部で、若宮さんは猫の存在理由の一部なんだ。


 お互い支え合って、生きているんだ。


 今の今まで抑え込んでいた、想い……。


 その全てを込めて、拳を振り下ろす。


 その時ーー。


 顔面、右腕、脇腹に札が貼られる。


「なっ!?》


 電撃が彼女の体を走り抜ける。


 見覚えのある札。


 あの人しかいない。自称、愛と勇気の伝道師、神西封馬じんざい ふうまさんに助けられた。


 電柱に片足で立っている。


 札を服の袖から取り出す。


「そこまでにしておく事だよ……猫のお嬢ちゃん」


 標的が俺から神西さんに変わる。


 お互いに臨戦態勢。


 猫は、壁がめり込むぐらい踏み込み神西さんに向かって飛ぶ。


《お前さえいなければ!!」


 気が狂ったように同じ言葉を繰り返す。


 お前さえいなければと……。


 神西さん、逃げてくれ! 今の彼女は危険すぎる! 


 俺はそう祈る。


「速水君、隠れてるんだ」


 神西さんは電柱から家の屋根に乗り移る。


 彼女は電柱を原型が分からないくらい叩き壊す。


 これじゃあまるで化け物じゃないか……なんとか彼女を止めないと……。


 神西さんは独特な構えをして、彼女を警戒する。


「殺す!!》


 爪や、蹴りの攻撃をギリギリの所でかわす、あのままじゃいずれ当たってしまう。


 俺は薄れゆく意識の中で神西さんの安全を祈る。


 神西さんの服は徐々に破れていく。


「また、感電してみる?」


 攻撃を躱して。

 

 彼女の背中に札を貼る。

 

 ーー電撃が走る。


「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!》


 制服と肌が軽く焦げる。見ているだけで痛々しい……。


 俺は目を背けてしまう。


 ダメだ……見なきゃ、目を背けちゃダメなんだ。しっかり見ないと……。


《何だ……お前は……私にあの女を殺させてくれ!!」


「解らない子だね……ちゃんと聞こえてるんだろ? 速水君の声が?」


 彼女はよろよろと立ち上がり、攻撃を止めた。


 ゆっくりと息を吐き、静かに喋り始める。


《聞こえてるさ、もちろん聞こえてる。でもそれ以上にあの女が憎い!」


 いきなり踏み出し、鋭い爪で不意を突かれた神西さんの腹を貫いた。


「神西さん!!」


 血を吐き出し、目を大きく見開く。


 神西さんが死……ぬのか?


 確かに俺が見ているのは、神西さんの腹が貫かれてる映像だ。


 神西さんの形が崩れていく。


「え……?」


 体が札に変わる。


「危ないな……まったく」

 

 彼女の後ろに神西さんは居た。


 生きてる。


 神西さんが生きてる。


 夢じゃない……。


 目をこすってみても、腹を貫かれた神西さんはいない。居るのは真剣な顔をしている神西さんだ。


 どうなってるんだ?


《おそらく、札の効果だな……》


 俺の近くにはワンコが佇んでいた。


 傷が癒えていく。


 ワンコが近くに居ることで傷の治りが速くなっているんだ。


 札の効果か……かなり便利な効果だな。


《黙って見ておけ、私とお前は見守ることしか出来ない……》


 じっと、二人を見つめる。


「ずるいな……いきなり攻撃するなんて」


 神西さんが不敵に笑う。


 それを見て、彼女の体を纏うように猫のオーラが現れる。


 若宮さん……どこまで行くんだよ……。


 俺は、俺は彼女を救いたい。けど……今の俺は余りにも無力過ぎる。


 ただ、指をくわえて見ることしか出来ない。


 悔しい……。


《お前をもう一度殺すだけさ!」


 そう言って、彼女は猫のオーラを纏った腕で神西さんに襲いかかる。


「君はどうしたいんだ? 猫のお嬢ちゃん」

 

 攻撃をなんとか躱しながら喋った。


 猫ではなく、彼女ーー若宮さんに訊いたのだ。


 そうだ、彼女は拒んだんだ……猫を。最後の最後に拒んだんだ。


「私は……あの人を殺すほど憎い」


 攻撃が止まる。

 

 え?


 嘘だろ……。


 嘘だって言ってくれよ!! 若宮さんの本心で言ったのか?


 何でだよ!!


「そっか……」


 神西さんの片腕が飛ぶーー。


 鮮血が噴き出る。神西さんは苦悶の表情を浮かべながら屋根から転げ落ちる。


「神西さん!!」


 今回は札じゃない。


 本当の、本当の神西さんの腕だ。


 行かなきゃダメだ……助けないと……体よ、ほんの少しだけ動け!!


 うおぉぉぉぉおぉぉ!!


「うおぉぉぉぉおぉぉ!!」


《行くぞ、速水》


 ワンコに連れて行かれ、神西さんの近くに寄る。


 今でも血が流れ出ている。


 止血しなきゃ……


「速水君、札を腕に貼ってくれ」


 神西さんが指差したポケットから一枚の札を取り出した。


 恐る恐る、札を腕に貼る。


 今の今まで流れていた血が止まる。


《悪いな……先に行かせてもらう」


 若宮さんが飛び立ってしまった。


 まさか………あのカップルを追いに行ったのか、俺も追わないと……。


 犠牲者が出てしまう。


 俺はボロボロの体を立ち上がらせようとするが右足を神西さんに掴まれる。


 ワンコにも止められた。


「止めるんだ……速水君。今の君は無力だ」


 深い息を吐き、話し続ける。


「良いかい、今の彼女は勾玉に取り付かれている。他人の力じゃどうにも出来ない……自分から勾玉を拒否しないとダメなんだ」


 勾玉にそんなに取り込まれていたのか……。


 怖い……はっきり言って俺は若宮さんが怖い。体が今でも震えている。


 あの目、あの言葉、全てが猫であり彼女の本心。


 誰かを妬み、憎み、そして勾玉を持った猫につけ込まれたんだ。


 俺に何が出来るんだ……? ただ受ける事しかできない。彼女を助けてやれない……。


 いくら心に誓たって無力じゃ意味がないんだ。


 俺は、その場に膝をつく。


 それを見ていた神西さんは静かに俺に、語りかける。


「例え無力でも、足掻けば奇跡は起きる。今君にはなにが出来るかよく考えるんだ……」


 なにが出来るか……。


 分からない。


 俺は自分の不甲斐なさを嘆き、地面に伏せる。


 泣けない。


 悔しくて、不甲斐なくて、自分には何にも出来ないが恥ずかしい。


 自分をどんなに責めても、涙は一つも出はしなかった。


たすく)神社に行くと良い……そこに彼女を救える鍵がある。僕は片腕を直しに仲間の所にいったん戻る。君が行くんだ……」


 救神社……すがるしかない小さな希望。



 


 


  




 

 


 


 


 


 




 

 


 


 


 

 


 



 







 


 

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