第八話 次の段階⇒そして携帯デビュー
竜心、携帯デビューです。
「これで第一段階は何とかクリアだ」
浩信の言葉を聞いて、竜心は一歩前に踏み出したという実感を「そうか……」とかみしめる。
竜心にしばらく達成感をかみしめさせた頃合いで、浩信が切り出す。
「んで、第二段階だ」
竜心は「おう」と心を引き締めながら、浩信が言おうとすることに耳を傾ける。
「まずは人付き合いを広げること。
俺、タケ、ケンの3人にはあまり気を遣わずに話せるだろーが、それ以外はまだまだだろ。
ある程度距離のあるヤツとの付き合いも慣れてかねーとな。
クラスメイトは俺たち3人とのやり取りを周りで見てて薄々お前がどういうヤツがわかってきただろーし、少々変なことがあっても『ああアイツか』で受け入れられるだろ」
浩信の言葉に、竜心は「俺はそんな扱いなんだな」と少し凹みつつも「おう」と答える。
浩信が続ける。
「それに、今日の体力測定の噂が広まれば、お前を部活に勧誘する動きも出てくるだろうなー
運動部のヤツらからすりゃ、お前のような『ド田舎者でずば抜けて運動ができる』なんてヤツは、『決まったスポーツに囚われていない原石』に見えるだろーしな。タケあたりも誘ってくるんじゃねーか?」
「そういうものか」
「ああ。今日見せた動きだけでも、昨日タケが部活紹介でやってみせたダンクくらいはできると思われただろうしな。
まー実際はダンクどころか、ひとっ跳びでゴールの上に乗るのも楽勝なんだろーが」
「むむ」
「まーやりたい部活があれば止めたりはしねーが、もう少し色々慣れてからの方がいいだろーよ」
竜心は少し考えて、
「ふむ。了解した」
と納得した。
「まーそういうことだから、これからお前は熱心に声をかけられて、それを断る必要が出てくるわけだ。
何か理由は考えておいた方がいいな。
古武術の訓練で忙しいとか、古武術の型を崩したくないから他のことをやりたくないとか、バイトで稼ぐ必要があるとか……」
浩信の提案で、思い当たることがあって竜心が言った。
「何かしら稼ぐ必要があるとは考えていたから、バイトで稼ぐ必要があるというのがウソがなくてよさそうだな」
浩信は、
「そうか。確かにそれが話が通りやすくてよさそーだな。
まあ高校にもある程度慣れてからの方がいいだろうが、バイト先には当てがあるからいずれそっちも紹介してやるよ」
と結論を出した。
竜心は「助かる」と感謝した。
一息ついて浩信がさらに続けた。
「まあ致命的なボロを出さなければ、学校の人付き合いは大丈夫だろ。
もう一つは、こっちの『普通』に馴染んでいくことだな」
「こっちの『普通』?」
竜心は、具体的なイメージがわからずに聞き返す。
浩信が説明する。
「ああ、お前のいた島ではなかったこっちの『普通』だ。
ゲーセン、カラオケ、スポーツ…… ある程度は調べたかもしれんが、実際にどういうものかわかんねーもんも多いだろ。
そういったもんを体験していって、こっちの感覚に少しずつ馴染んでいくことで、お前も日常の感覚がわかってくんだろ」
竜心は深くうなずいて答える。
「確かに、ゲーセン、カラオケなどは名前が略称であることと本に書いてあった概要を知っているだけで、実際にどんなものかはあまりわからんな」
「だろうな。
それに……こいつだ」
と、制服のポケットから携帯電話を取り出した。
「携帯電話か」
「こいつで何ができるかは知ってるか?」
「ああ、島外の任務で持たされて使ったことがあるぞ」
竜心は「さすがにそれは知っている」と少し不満げに答える。
浩信はニヤリとして続けた。
「じゃあ……これの話す以外の使い方はわかるか?」
「携帯できる電話だろう? 話す以外に使い方なんかあるのか? 仕込み武器……ではないだろうしな」
竜心は本来の用途以外の使い道のある道具といえばそれくらいしか思いつかなかった。
浩信は「ぶふっ」と吹き出して笑いながら言った。
「お前、それしか思いつかねーのかよ……
任務の時にメールは使わなかったのか?」
浩信が携帯電話を操作し、メール画面を出して竜心にみせた。
「こうやって話す以外に文字のやり取りもできんだよ」
竜心は「ほー」とまじまじと画面をみつめる。
「お前はこの辺はとことんわかんねーっぽいな。
こうやって何かを調べることもできんだぞ」
浩信が続けてネット画面を出し、「忍者」で検索して忍者について説明しているサイトを見せた。
竜心は「おおっ!」と目を見開き、さらに画面をみつめる。
その食いつきのよさに浩信は「期待を裏切らねー反応だな」と笑いつつ、
「任務の時に携帯を持たされたんじゃねーのか?」
と聞くと、竜心は言いにくそうに、
「……音が鳴った時にこのボタンを押せば話ができるとしか教わらなかった」
と通話ボタンを指さした。
浩信が呆れながら、
「それじゃマジで『持たされてた』だけだな……
今は誰でも携帯を持ってるからなー
お前も携帯を持っていると何かと便利だろうし、とりあえず、明日にでも買いに行くか」
と浩信が言うと、竜心は「おお」と心なしか目をキラキラさせながらうなずいた。
翌日、竜心は、「もう大丈夫だろ」と浩信に言われて一人で登校することにした。
竜心は、登校の途中で見かけたクラスメイトに「おはよう」と声をかけ、その都度「お、おはよう」と声をかけられると思っていなかった彼らから挨拶を返してもらい、「ふむ。なかなか順調のようだ」と満足しながら1-Hの教室に向かった。
浩信・武仁・賢治は先に登校して賢治の机の周りで話していた。
竜心は「おはよう」と挨拶してから自分の机にカバンを置いて、3人に合流した。
浩信が竜心に声をかけた。
「おう、ちょうどお前の携帯の話をしてたんだよ。
昨日言った必要なもんはちゃんと持ってきたか?」
竜心は心なしか誇らしげに「もちろんだ」と返した。
「うーん。携帯を持つって当たり前だと思っていたんだけど、竜心だと持ってなくても不思議に感じないのが不思議だよね」
と賢治が言った。
浩信も武仁も、「あーわかるわかる」と応じる。
竜心一人がよくわからずにきょとんとしている。
浩信が笑いながら、
「まーそれはいいとしてだ、お前にはどんな携帯がいいかって話になってな」
と携帯電話のカタログを広げながら言う。
「スマホだとお前が使える気がしなくてなー」と浩信が自分のスマートフォンをみせる。
「スマホ? それも携帯電話なのか? 昨日見せてもらったものと随分違うようだが?」
と竜心は混乱する。
浩信が苦笑しながら説明しながら操作する。
「俺は両方持って必要に応じて使い分けるようにしてんだよ。
まー普通は1台で十分なんだけどな」
竜心は初めて見るタッチパネルのスクリーンを見て、「ほー」と感心のため息をつく。
浩信が説明を続ける。
「こっちの方がいろいろできんだけどな。
最初からこっちはハードルが高いかと思ってなー」
賢治が補足する。
「機種を選ぶなら何に使うかにもよるけどね。
僕はいろいろやりたいことがあってスマホにしているけど、竜心がアプリで遊ぶことはないと思うし、電話とメールとネットで調べものをするくらいならガラケーの方が使いやすいんじゃないかな?
タケだってガラケーだし」
武仁がうなずきながら言う。
「確かに俺はガラケーで十分だしな」
竜心が浩信に聞く。
「ガラケーとは昨日みせてもらった方のことか?」
浩信は「そうだ」とそちらを取り出して見せながら答える。
浩信が竜心に聞く。
「まー決めるのはお前だけどな。
どーするよ?」
竜心はすぐに答える。
「こっちのガラケーの方がいいな。そのスマホというやつは使いこなすのが難しそうだ」
「オッケー」
賢治が竜心に茶々を入れる。
「それにしても、竜心が『ガラケー』とか『スマホ』とか言うとすごく違和感があるね」
浩信と武仁が「まちがいねー」と笑い、竜心が「なんなんだ」と少しふてくされる。
浩信が武仁と賢治に向かって聞く。
「今日の放課後に竜心が携帯を買いに行くのについていくつもりなんだが、お前らはどーする?」
武仁がすぐに答えた。
「俺は今日も部活だなー」
賢治は少し考えて答えた。
「僕は今日は予定が空いてるから付き合うよ」
浩信が言った。
「そんじゃ、3人で行くか。題して『初めての携帯 竜心編』だな」
幼児の「初めてのお使い」のイメージと竜心がぴったりはまって竜心以外の3人は大爆笑で、竜心だけがノリがわからずに取り残され、それをみてさらに笑いが止まらない、というところで、始業時間になり、担任の茜が教室に入ってきたので席に戻った。
昼休みに4人で学食に行って昼食をとりながら話している時に、武仁が竜心に言った。
「ところで竜心。お前バスケやってみねーか? お前ならやったことなくてもすぐに戦力になりそうなんだけどな」
竜心は昨日の浩信の話を思い出しながら「本当にきた!」と思い、昨晩考えていた答えを返す。
「あー、俺は部活はやる気がないんだ。やってみたいとは思うんだが、バイトで稼がないといけなくてな」
「そうなのか? 一人暮らしってのはヒロから聞いてたが、仕送りとかでやってけねーのか?」
「基本的には自分で何とかするって言ってこっちに出てきてるんだ」
「そっかー」
武仁が残念そうに諦め、竜心は申し訳なさそうに「誘ってもらったのにすまんな」と返す。
放課後になり、部活に行く武仁を見送って、竜心・浩信・賢治の3人は正門側から滝本駅の方へ坂を下っていく。
雑談を交わしながら歩いていると、「あーー!!」と驚いた声が聞こえる。
声のする方を見ると小さい子供が2人、こちらを指さしながら見ている。
「あんときのすげー兄ちゃんだー」「あんときはありがとー」
入学式の日、竜心が異常な体術を見せて風船を取ってあげた時の子供だ。
竜心と浩信が「まずい!」と顔をひきつらせながら、「よお」と声をかける。
賢治が「どういうこと?」と2人を見る。
2人が説明する前に、風船を取ってあげた方ではない子供が、
「この兄ちゃん、ビューンて飛んでポーンてまた飛んで木に引っ掛かっている風船をとってくれたんだー」
と賢治に説明する。
「まあ入学式の日にな」と竜心が補足する。
「へー」と賢治が感心する。
「兄ちゃん、あれ俺にも教えてくれよー」「僕もー」
と子供2人がせがむ。
「あー うー」と竜心がどうすればいいか戸惑う。
浩信がしゃがんで子供2人と目線を合わせて、ゆっくり話しかけた。
「いいか? あれは危ないからまだお前らにはできねーんだ。もっとおっきくなってからにしろ」
子供2人は割と素直に、
「わかったー」「おっきくなったら教えてなー」
と答えて、走って脇道に駆けていった。
子供たちが去った後、賢治が竜心に、
「こっちにきて早々いいことをしたんだねー」
と感心していうと、
竜心は、
「あ、うん。まあな」
と戸惑いながら答えた。
賢治は、
「別に照れることはないと思うけど……まあ竜心らしいのかな」
と自分で納得し、竜心と浩信はほっとした。
滝本駅前の多分学生向けに立てたと思われる携帯ショップに3人は入った。
「いらっしゃいませ」
同じ言葉でも仰天亭の大音量とは大きく異なる接客の声で、スーツ姿の女性店員が出迎えた。
「今日はどういったご用でしょうか」
「あ、こいつの携帯を買いにきたんすよ」
と竜心を指しながら浩信が応対した。
店員が竜心に向かって聞いた。
「お客様はもう購入される機種をお決めになられましたか?」
「あ、えーと、ガラケーというやつにしようと考えているんですけど……」
と竜心が戸惑いながら返すと、
「あ、はい。ガラケーと言われる機種はこちらに取り揃えております」
と店員は「フィーチャーフォン」と書かれたコーナーへ案内した。
店員が、
「ごゆっくりお選びくださいませ」
と3人に告げて、3歩ほど下がったところで3人の方を見守っている。
竜心は慣れない雰囲気に「はー」とため息をこぼす。
浩信と賢治はそんな竜心を見てクックッと笑っている。
竜心がどうしていいかわからず所在なげにしていると、
「こん中から好きなのを自由に選んでいいんだよ。
機能はどれもそれほど変わんねーから、気分で選べばいいだろ」
と浩信がアドバイスした。
賢治がふざけて、
「これとかどうだい?」
とかなり明るいピンク色の携帯を竜心に差し出した。
竜心にもさすがにこれは自分に似合っていないことはわかるし、賢治がふざけていることがわかったので、
「それはないな」と受け取って元の場所に置いた。
竜心は、「要は好きな色と好きな形で選べばいいということだな」と気づいて、「これはどうだろう」と少し型落ちで古い黒色の機種を2人に見せた。
浩信は「もっと新しいやつが同じ値段でいけるんだがな」と思いながらも、「まあこいつにとっちゃどっちでも同じか」と思い直し、
「それでいいんじゃねーか」
と返し、賢治も、
「それでいいと思うよ」
と返した。
店員が3人に向かって歩いてきて、
「そちらでお決まりでしょうか?」
と竜心に聞き、竜心が「はい」と答えると、店員が続けて聞いた。
「お客様、携帯電話の契約に必要なものはお持ちでしょうか?」
「あ、はい。持ってきています」
と竜心は答えながら昨日浩信に言われたものをカバンから取り出した。
店員はそれを確認し、
「はい。それで結構です。
それではこちらにおかけになって、こちらの用紙の必要事項を埋めていただけますか?」
と契約手続きを進めていった。
契約手続きの途中、いろいろ店員に言われたがよく理解できいことが多かったが、後で浩信と賢治に聞こうと考えてその場では流し、何とか携帯電話を受ける取るところまで手続きが完了した。
「それではこちらをお渡しします」
携帯電話とその付属器具が入った袋を受けとり、礼を言って、3人は携帯ショップを出た。
「はーーーっ」と竜心が大きく息を吐く。
浩信と賢治がぷくくっと笑い越えを漏らし、
「お前、緊張し過ぎ」「本当だね」
と言ってきたので、
「仕方ないだろ」
と竜心はふてくされた。
携帯ショップを出ると外は既に夕暮れの時間になっていた。
浩信が2人に、
「竜心に携帯の使い方を教えようと思ってたが……飯でも食いながらにするか?」
と聞いた。
竜心は「そうしよう」と答え、賢治は「今日は付き合うかな」と答えた。
賢治が携帯電話で母親に今日は食事はいらないとメールをする。
竜心はそれまでにも携帯電話を操作しているところを何度も見ていたが、メールの文字を打ったりしていたのだということを知らなかったので、自分が手に入れて改めて「ほー」と思いながら賢治の携帯への指さばきを見ていた。
浩信が「仰天亭でいいか?」と聞くと、賢治は「僕は久しぶりだね」と嬉しそうにうなずき、竜心はびくっと驚いた。
浩信が笑いながら、
「あそこの仰天盛りがトラウマになってんなー
あそこは仰天盛りにしなかったら普通に食える量だろ?
結構うめーしな」
というと、竜心は気を取り直して、
「ああ、確かにうまかったな……途中から拷問みたいになって忘れかけていたが」
と答えると、賢治がぶふっと吹き出して「よっぽどだったんだね」と笑い出した。
竜心が、
「ケンは仰天盛りを注文したときはどうなったんだ?」
と聞くと、賢治はまた笑いながら、
「頼むわけないよ。ヒロはよくイタズラで頼んでるけど、僕は昔からあそこを知ってるからね」
と答えた。
竜心が少しズルいと思って「むむ……」とうなると、そんな竜心を見てまた賢治が笑った。
結局、仰天亭に行くことになった。
仰天亭の引き戸を開けると、
「らっしゃい!!!」という前と同じ大音量の掛け声が竜心たちにかけられ、竜心はまた前の仰天盛りを思い出してしまう。
浩信はそんな竜心を見てクックと笑いながら店員の案内に従って4人席に座る。
「何にしやしょう!!」
店員のやたらと活きのいい声に、浩信が、
「俺は大盛り一つで、そしてこいつは……」
と竜心の分も勝手に注文しようとすると、
「俺も大盛りで!!」
と竜心が慌てて自分で注文した。この店に来るとなかなか油断できない。
賢治が「僕は普通で」と頼むと、
「大盛り二丁!!普通一丁!!」
と店員が厨房に注文を通し、
「あいよ!!!」と一際大きい声で大将が返事をする。
大将の声を聞いて、竜心がふと思い出し、
「さっきの声が天地さんの親父さんの声か……」
と考えにふけると、賢治が、
「みんな何回か本当かどうか悩むんだよね」
と笑いながら言う。
ラーメンがテーブルに置かれ、前とは違って急がず食べていく。
特に竜心は「うん。うまいな」と味わいながら食べている。
まだ少し夕食には早い時間で店は結構空いている。
一番食べるのが遅い賢治が食べ終わった後、竜心に携帯電話の使い方のレクチャーを始めた。
「さて、とりあえず必要最低限のことは教えとくか。
さっきの店員の説明はほとんどわかんなかっただろ?」
浩信が言うと、竜心が大きくうなずく。
電源の付け方、電話のかけ方、電話帳機能、などなど、本当の初歩から教えていく。
竜心は素直に「ふんふん」とうなずきながら試していく。
メールの打ち方になって、理解が怪しくなってきたのでゆっくり教えていく。
「このボタンを押した回数で、あ、い、う、と変わっていくんだ、そうそう……」
「同じア行の文字を打つ場合は一度この横ボタンを押して……」
竜心ほど知らない人間に教えるのはさすがに初めてだからか、浩信と賢治が2人がかりでもかなり手間取る。
とりあえず一回メールを打つ作業を一通りやってみるということで、その前に連絡先を赤外線でやり取りすることにした。
赤外線の送受信がうまくいった時には「おおー」と竜心が子供の用に喜び、浩信と賢治が温かい目で見守る。
メールを打つための条件が整い、最初から竜心が一人で操作する。
浩信と賢治と、後なぜか周りの客や店員までが固唾を呑んで見守る。
浩信の携帯電話がブルブルっと震えた時には皆の視線が集まり、浩信が「届いたぞ」とそのメールを見せると、「わー!」と歓声が上がった。
メールはタイトルが無題、本文は「とどいてるか」とひらがなだが、とにかく、竜心は、最初の一歩を踏み出した。
「あんたら何やってるの?」
呆れた口調のそれほど大きい声が店内に響く。
仰天亭の大将の娘の那美が店員のエプロンをつけて腰に手を当てながら竜心たちのいるテーブルを見ている。
店内の他の者はみな「はっ」と我に返り、先ほどまでのテンションはなんだったろうと首をひねりながら、店員は仕事に、客は食事に戻っていった。
浩信が那美に答える。
「いや、なに、こいつが携帯デビューするってんで付き合ってたんだけどな」
と竜心を指す。
那美は、
「古賀君? ああ……」
とすぐに納得する。
竜心は昨日浩信に言われた通り、「ああアイツか」で済んでいることでほっとすると同時に少し凹んだ。
那美は浩信に話しかける。
「ヒロは相変わらず変なところで面倒見がいいわよねー」
「あー、まあ、こいつがおもしれーヤツだからな」
と竜心の肩を叩きながら浩信が返す。
那美は竜心に向かって、
「古賀君、ちゃんと話をするのは初めてね。
私はここの店長の娘でたまにお手伝いしてるの。
ヒロやケンとは昔からの腐れ縁よ」
と話しかける。
「あ、ああ。ヒロたちからも話を聞いてるよ。よろしく」
と竜心が返す。
那美は笑いながら、
「あははっ。古賀君はイメージ通り、真面目なんだね。よろしく」
と返す。
賢治が横から口を出す。
「あはは。ヒロも那美には頭が上がらないくらいだからね。逆らわない方がいいよ」
那美が、
「何よそれ!」
と賢治の肩を叩き、
「あたっ! ほらね」
と賢治が竜心に言う。
竜心はどう返していいかわからず「ははは……」と乾いた笑いで返す。
そのまま少し談笑したあと、那美が竜心に、
「古賀君、こいつらとも連絡先を交換したんなら私とも交換する?」
と聞き、竜心は、
「あ、ああ」と戸惑いながら携帯を出した。
竜心の少し型の古い携帯電話の連絡帳には、
「山本 浩信」
「清永 賢治」
「天地 那美」
の3人の名前が並んでいた。