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抜け忍、普通の高校生を目指す  作者: ろん
第一章 抜け忍、高校に入学する
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第六話   学食、古賀家の事情⇒そしてあの子が実は……

第二話に続き、竜心の事情その2が語られます。

竜心・浩信・武仁・賢治の4人が学食に着くと、昼休みの時間の後半だからか、席は割と空いていた。


滝本高校の学食は、自動販売機で食券を買ってから厨房に提出する仕組みのようだ。


空いているので席を確保する必要がないかと考えて自動販売機の前で何を食べるかを検討する。


浩信が3人に話しかけた。


「ここはそばがオススメらしいぜ」


賢治が胡散臭げに返す。


「ヒロがいうと何か裏がありそうだね」


そう言いながらも、特に食べたいものを決めてきたわけでもなく、手早く食べられるそばを4人とも注文する。



食券を持って並んで厨房のおばちゃんからそばを受け取る。


浩信以外の3人がギョッとしてそばを受け取る。



……麺が黄色い。


一般的なそばを思い浮かべていたので違和感がすごかった。


空いている席に向かいながら、武仁が言った。


「……これがそばか?


いや、ダシとかは普通なんだけどよ」


「まーまー とりあえず食ってみろよ」


浩信が返す。



食べてみると……意外と普通のそばの味がする。


賢治が気づく。


「これ……中華そばの麺じゃない?」


竜心・武仁が「あっ!」と声を上げ、同意する。



浩信がニヤニヤしながら言った。


「いやー 先輩からここの学食は最初にそばを見た時のインパクトがでかいって聞いていてなー」


竜心が返す。


「『そば』だといってもウソではないところがまた『やられた』という気がするな……」


武仁も同意しながら、


「しっかりハメられた感があって、なんか悔しいぜ……」


と返す。




浩信は普通に、他の3人が軽い敗北感を感じながら食べ終えると、浩信が話し始めた。


「この後は委員決めだな……


タケとケンは委員にはならねーだろ?


俺もなるつもりはねーし、竜心もやめておいた方がいいかもな」



竜心は「余計な行動パターンを増やさない方がいいということだな」と浩信の意図を理解し、


「ああ、そうだな」


と返した。



武仁と賢治がちゃかす。


「あいかわらずヒロはよくわからんところで面倒見がいいなー」


「そうそう。まあそういうところがあるから友達が多いんだろうけど」



浩信が笑って誤魔化しながら返す。


「まーこいつにはいろいろおもしれーところを見せてもらってるからなー そのお返しってヤツだ」


それを聞いて武仁と賢治が妙に納得し、その様子を見て竜心が少し凹む。



浩信が続けて話す。


「まあ委員になろうっていうヤツはここでは結構多いみてーだからな。


中学の時に部活に入ってなかったヤツらの仲間づくりにいいんだと。


学級委員長は……多分那美のヤツがやんだろ」



自己紹介が最初だった女子の名前を思い出しながら竜心が聞く。


「『天地あまち 那美なみ』さんのことか?


何となく周りを引っ張っていくようなタイプにはみえたな。


天地さんも友人なのか?」



浩信がニヤリとしながら答える。


「ああ。同じ中学だ。


中学でも委員長やら生徒会役員やらを進んでやるよーなヤツだったしな。


ちなみにあいつは…………仰天亭の大将の娘だぜ」


竜心が驚いて目を真ん丸に見開いた。

自己紹介のときに見た那美は少し背が高めではあるものの、熊のような仰天亭の大将とは似ても似つかぬ容姿だったからだ。



その様子を見て武仁と賢治が笑いながら竜心に同意した。


「まあ……驚くようなあ。 先にあの大将の娘って聞いてたら那美をドーンと2倍にしたようなのを思い浮かべるだろうしな」


「僕と同じくらいの身長だけど、さすがに大将には似てないよね。母親似でよかったと本人も思ってるだろうしね」



竜心は気を取り直しながら、


「ああ……驚いた。 正直な話、さっき黄色いそばで驚いたことが吹き飛ぶくらいに驚いた」


と心境を語った。




4人は昼休みが終わる5分前の予鈴が鳴ったのを合図に学食を出て1-Hの教室に戻った。


他のクラスメイトはほとんど教室に戻ってきていて、担任の茜も既に来ていた。



茜は今日決める委員を黒板に書き出している。

背が届かないのか、黒板の上の方が使えていないところを見て、何人かの生徒がまた温かい目で茜を見守っている。



竜心は直前の話もあり、つい那美の方を見てしまった。

身長は高めだが、特に肥えているというわけではなく肉付きのいいメリハリのある体で、ストレートの黒髪をポニーテールにしている。

とても仰天亭の大将とはイメージが重ならないが、あえて似ている点を挙げるなら、快活そうに大きな声で友人と話してるところだろうか。



「人間って不思議だな……」と天地家の家族をみると誰もが思う感想を竜心も持ちつつ、自分の席に着いた。



昼休み終了の本鈴が鳴り、茜が教卓について生徒に話しかける。


「それじゃ、今から委員を決めていくねー


委員になろうと思った子は、白板のなりたいと思う委員のところに自分の名前を書いてくださーい」



出席番号順で左端の1番前の席に座っている那美がすっと席を立って学級委員のところに自分の名前を書き込み、クラスメイトの3分の1ほどがめいめいに席を立って自分の希望するところに名前を書いていく。



図書委員の希望者が多く、茜の「じゃーんけーんぽん!」という間延びした掛け声で人数が調整され、希望者のみで委員は決められた。


竜心は「聞いていた通りだな」とその様子を眺めながら、浩信の情報の精度に感心していた。




委員が決まり、立っていた生徒も席についたところで茜が連絡事項を告げた。


「それでは今日はこれで終わりでーす!


明日から授業が始まります!


あと、1年生は午後から身体検査と体力測定があるからねー

体操服は忘れないように持ってきてくださいねー」



他のクラスではまだ委員決めが落ち着いていないようだが、1-Hは早めに終わって下校となった。


竜心が今日受け取った教科書をそのままカバンと共に持って浩信の方を見ると、教室後ろの自分のロッカーに教科書を置いている。

浩信の動きを見て他の生徒の何人かも同じように教科書を置きはじめた。


竜心はそれを見ても「家で勉強するときに必要になるだろう」と思い、持って帰ることにした。



ロッカーに教科書を置き終えた浩信が竜心に話しかける。


「お前、教科書全部持って帰んのか?


相変わらず真面目なヤツだなー」


「そうか?」


竜心はそのあたりの感覚がよく分からずに返した。



武仁・賢治もやってきて、武仁は、


「俺は早速バスケ部に顔を出してくるわ!」


と言ってすぐに教室を出て行った。


賢治は、


「僕は他のクラスの友達とゲーセンにいってくるよ」


と言って、他のクラスが終わるまで待つ姿勢のようだ。



浩信は「俺は今日はとっとと帰るかな」と言い、竜心も「俺も今日は真っ直ぐ帰るかな」と言って、竜心と浩信は2人で教室を出た。

他のクラスはまだ終わっていないようで、2人は早足で下駄箱に向かい、校門を出た。


昨日と同じように、2人が出た時には周りにはほとんど生徒はいなかった。




話が聞こえる範囲に人がいないことを見計らって、浩信が竜心に話しかけた。


「今日はどうだった?」


竜心は思い返しながら答えた。


「ああ……昨日と違って少し余裕もあったし、楽しい一日だったよ


まあ……すこし危ないところもあったが、何とか乗り越えられた気もする。


設定がなかったらまず間違いなくボロを出していただろうな……」


「ああ、それは間違いねーな」と浩信がすぐに返す。



浩信が続ける。


「それにしても、今日はなかなか上出来だろ。


タケもケンもお前のことは気に入ったようだしな。


問題は明日の体力測定だな……」


「ああ。ただ、今日の部活動の紹介で実際にどういう範囲で動けば自然に見えるかはだいぶ掴めたし、それほど心配しなくても大丈夫かなとも思う。


……もちろん油断は禁物だが」


「ああ。心配し過ぎても余計に失敗しそーだが、油断すんのは論外だ。


まーでもとりあえずやってける目処は立ったかなー」


「そうか」


竜心はほっとする。



今度は竜心から尋ねる。


「今日の俺で何かおかしいところはあったか?」


浩信が答える。


「おかしいところはいくらでもあるが、まあ『普通』の範囲だろ。


ただ……」


少し浩信が言葉を濁す。


「なんだ、お前が言葉を濁すのは珍しい気がするな」


と竜心が先を促す。



浩信は「ん?ああ」と考えながら間をおいて、切り出す。


「少し疑問に思ったことはあってな。


お前の対応が、特殊な島で生きていたってだけじゃ考えにくいというか……


まあ、ほとんど人と話をしてこなかったような印象を受けてな。


閉鎖されている中でもそれなりに人はいたんだろ?」



竜心は苦笑しながら返す。


「鋭いな。その通り、島では特に他人には関わらないようにして生きてきたな。


……少し長くなるが構わないか?」


「ああ」


浩信が神妙な顔をしてうなずく。




竜心が過去を語り始める。


「昨日、沙桜一族と十支族の話と、俺が十支族の内の古賀家の者だという話しはしたな。


古賀家は十支族の中で、ここ四代ほど最弱の支族として地位が低かったんだ。


そして俺はその古賀家の中でも落ちこぼれだった。


俺の家が古賀家では宗家の血筋に当たり、俺には弟が一人いるが、そちらの方に目がかけられて俺は見離されてしまっていたな。


体術にしても同年代の他の者に後れを取っていた。


10歳の頃、親にもクズ呼ばわりされるようになって、逆に開き直ってな。


十支族全体に伝わる『逆身法』を徹底的に突き詰めて試していった」



竜心が間をおいたところで浩信が質問を挟んだ。


「お前が落ちこぼれってのも想像できねーな。


ところでその『逆身法』ってのは何なんだ?」



竜心が答えた。


「そういえば『逆身法』の話はまだだったな。


忍者とこっちでの身体能力の違いはそこから出ていると思う。


自己暗示と筋肉の意識的な使い方の組み合わせなんだが……」


と話しながら、竜心が右肘を曲げた状態から浩信に向けてゆっくり腕を伸ばす。



その動作の後、竜心は腕を浩信の方へ伸ばしたまま話を続けた。


「さっきの肘を伸ばすだけの動作でも複数の筋肉が動いているのはわかるな?」


「ああ」


「今の動作に100%の力をつかったとする。


そのうち20%の力を逆向きに使ったとしたら、80%の力を前向きに使い、20%の力を後ろ向きに使うから、前に向けては合計60%の力しか出ない。


わかるか?」



浩信が眉をひそめながら答える。


「そりゃ足し算引き算くらいはわかるが……そんなことができるのかっつーと、できるのがお前らなんだな?」


「ああ、そうだ。島の忍者は全員が『逆身法』を使える」



そのまま竜心が続ける。


「『逆身法』を80:20で使えるレベルでそれなりにできる方だ。


そして、俺は突き詰めることで2年前の御前武試のときまでには55:45までできるようになった」


浩信は考えて、


「ってことは10の力で1しかでないようにするってことか!


重力が10倍になるようなもんなのか?


……お前はセルフ『界○星』か!!」


「『界○星』?」


「ああ、お前にドラ○ンボールはわからんか……」


思わぬ方向での常識外れで少し浩信も取り乱した。



気を取り直して浩信が質問する。


「そんなことをやっていたら筋肉が膨れ上がりそうな気がするな。


お前はそれなりに筋肉はついているが、筋肉ダルマにはなってねーし


その辺はどーなってんだ?」


「ああ、見た目に筋肉がつき続けるわけじゃなくて、筋肉の質が変わるそうだ。


それだけじゃなくて、筋肉の使い方が効率的になるってのもあるらしい」


「はー」


浩信は完全に納得するまではいかなかったが、「そういうものだ」と納得することにした。



浩信が続けて質問する。


「それは、例えば俺にもできんのか?」


竜心は「うーん」と考えて説明した。


「自己暗示と筋肉の動かし方の組み合わせだというのは言ったな。


この自己暗示ができるようになるためには最初に精神的外傷トラウマを植え付けることが必要になるし、筋肉の動かし方の訓練も必要になるし、忍者ではない沙桜一族が『逆身法』に挑戦して精神が壊れたことから十支族の血筋でないと無理かもしれないという話も聞いたことがあるし……」


浩信は「わかった。もういい」と話の途中で諦めて話を遮った。



竜心は「ああ、そうか」と話を切り上げ、話を元に戻した。


「そんなわけで、10歳頃までは普通に話せる人間がほとんどいなかったし、力をつけてもそのことは隠していたから、一族の落ちこぼれという立場はそのままだったな。


御前武試の後で沙桜一族の護衛任務に就くようになったが無口で通していたし、人とほとんど話してこなかったというのはその通りだな」



浩信は「はー」とため息をつきながら、


「事情はわかったぜ。


……っつーか、途中からどうでもよくなった」


と疲れたように言った。




そして付け加えるように言った。


「お前が沙桜島でも浮いていたってのがわかって妙に納得したぜ」



竜心はそれを聞いて大いに凹んだ。

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