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抜け忍、普通の高校生を目指す  作者: ろん
第一章 抜け忍、高校に入学する
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第五話   オリエンテーションと部活紹介⇒そしてあの人が

オリエンテーションと部活動の紹介です。

竜心・浩信・武仁・賢治たちが体育館に向かうと、既にほとんどの1年生が集まっていた。


8クラスで1クラス40人弱。生徒だけで300人以上集まるので、何かをするたびに大事になる。



担任の藤堂先生が体育館の壇上に向かって左側の端で、ぶんぶんと大きく手を振りながら声を張り上げていた。


「1-Hのみんなはこっちだよー 男子と女子でそれぞれ1列になってねー」



武仁が他の3人に向かって言った。


「茜ちゃん、なんか小学生みたいだなー」


竜心は一瞬誰のことか思い当たらず、遅れて気付く。


「茜ちゃん……藤堂先生のことか!」


浩信と賢治は大ウケで笑いあっている。


「茜ちゃん……言われてみるとこれ以外に呼び名はねーってくらいにハマってんなー」


「僕もそう思うよ」



他のクラスメイトもがんばっている藤堂先生を温かい目で見守りながら、指示に従って男女2列に並んでいく。



9時半になって、1年生が全員そろい、8クラス16列になって立っている。


厳めしい雰囲気の1-Aの担任の学年主任が壇上に上がり、「それではオリエンテーションを始める!」と声をかけると、それまで交わされていた雑談がピタリと止まり、騒がしかった広い体育館が途端に静寂に包まれる。


「各自、その場に座りなさい」


学年主任が声をかけると、生徒は思い思いに座っていく。



竜心は正座していた。


背筋が伸びて凛とした雰囲気で堂に入ってはいたが、周りが胡坐をかいたり体育座りという中で浮いていた。



竜心の前にいた浩信が竜心の膝を叩きながら小声でつっこむ。


「こういう時は楽にしていいんだって!」


「……ああ、そうか。島ではこういう時は正座だったからな」


と竜心が返しながら足を崩す。



「確かに抜けてるな」


「ホントだよね」


武仁と賢治は、さっき教室で浩信に聞いた入学式の校門での話を思い出して笑いながら話す。


周りのクラスメイトも声を抑えながらクスクス笑っている。



壇上の学年主任が騒がしくなっている竜心たちのいる一角をジロリと睨み、竜心の周りのクラスメイトも口を閉じて前を見る。


学年主任は生徒たちが座り終えたのを確認して、話し始める。


「それでは新入生のためのオリエンテーションを始める!


まずは学校生活について……」



後で配布される生徒手帳の話、冬服・夏服の衣替えについて、学生食堂について、授業によって教室移動があることについて、部活動について、アルバイトについて、この後の教科書配布について……など、注意事項が整理されて話される。


学年主任の雰囲気もあって、生徒は雑談したりせずに真面目に聞いている。


一時間もせずに学年主任は話を終える。


「それでは10分休憩の後、部活動の紹介がある。ちゃんと元の位置に戻っているようにな」



次は部活動の説明とあって、生徒たちは一気に騒ぎ始める。

全員が部活に入るというわけではないだろうが、どんな説明があるのかも楽しみなようだ。



武仁が「さてと」とすくっと立ち上がって、「行ってくるわ」と体育館から出て行った。


竜心が「タケは部活動の紹介は見ないのか?」と残った浩信と賢治に聞くと、


「タケは紹介側に回るみたいだな」


「先輩に頼まれていたみたいだしね」


と答えが返ってくる。




2年生、3年生が制服だけでなく、体操服や部のユニフォーム姿で壇上の脇に向かっている。


さっきの学年主任のオリエンテーションの厳粛な雰囲気と違い、賑やかな雰囲気で、部活紹介が始まった。



生徒会長の静が壇上に上がり、


「みなさん、これからこの滝本高校の先輩たちが部活動の紹介をします! みなさんがこれから学校生活で送る中で、部活が大事なものになる人もいるでしょうし、部活以外でがんばる人もいると思います。それでも、この学校でどんなことをやっているかを知るいい機会なので、楽しみながら見ていてね」


と入学式とは変わったフランクな雰囲気で挨拶した。


新入生のほとんどが雑談をやめ、静の方に顔を上げて話しを聞いている。

新入生の中には「うんうん」とうなずいている者もいる。


竜心は「すごい求心力だな……」と感心した。



静がメモを取りだし、順に部活の名前を読み上げて簡単な説明を加え、その都度その部活のメンバーが壇上に上がって自分たちの活動を説明している。


部長だけが出てくる場合もあれば、メンバー全員で出てくる場合もあった。


演劇部は即興劇を行い、ブラスバンド部は手に持てる管楽器で短めの曲を演奏するなど、実演する場合もあった。



武仁が所属する予定のバスケ部の紹介が始まり、部長が壇上に出てくると、バスケ部の部長はさっと自己紹介したあと、いきなり叫んだ。


「カモン!!」


壇上とは逆側、生徒が背を向けている体育館の入り口がバーンと大きな音を立てて開き、バスケ部のメンバーがボールをドリブルしながら入ってくる。


体育館にはバスケのコートが2コート、ゴールが左右に2つずつ設置されているが、予めどこに行くか決めていたのか、整然と列を組んでゴールの前に向かう。

武仁は一番後ろに並んでいた。


壇上の部長が「ジャンプシュート!」「レイアップ!」という度に、担当するメンバーが動いて指示通りにシュートを放っていく。


緊張を知らなさそうな部長に比べて部員は緊張してるのか、何人かはシュートを外し、照れながらボールを回収している。


最後に部長が「ダンク!!」と一際大きな声で叫ぶと、武仁ともう一人、武仁よりも背の高い上級生が同時に走りだし、タイミングを合わせて同時にバスケのゴールに直接ボールを叩き込んだ。


新入生のほとんどと、上級生の一部も、「おーーー!!!」と大歓声を上げる。


その中で竜心は、「確かに1mと少しくらいだな」と、昨日浩信に指摘された高校生の上限を確かめて、「うんうん」とうなずいていた。


浩信はそんな竜心を見て「またこいつは周りとはずれたようなことを考えてやがるな」と思いながらも、昨日の指摘を確認しているんだろうと当たりをつけてつっこまずにおいた。



大盛り上がりな場を見て少し間を置き、静が部活紹介を続ける。


「さて、次が最後になります。トリを務めるのは空手部です。


主将の『小山こやま まこと』君は、一年生の時から全国大会で成果を出し、この滝本高校が取材されたこともあります。


そんな小山君を筆頭に、全国大会の常連になっていて県外でも有名になっている部です。


それでは主将の小山君、よろしくお願いします!」



身長は浩信と同じかそれより低いくらいだが、鍛え上げた肉体のせいで大きく見える、そんな威圧感をもった男子が、空手着を身にまとって壇上に出てくる。


筋肉で太くなった腕を胸の前で交差して十字を切り、


「押忍!!!!」


と今日一番の大声で吠えた。


新入生は目を見開き、雑談をピタッと止めた。

静はその様子をみて「ふふふ」と微笑んでいる。



竜心は、別の意味で目を見開き、驚いていた。


(あの人は、島でテレビで見た、あの空手の人だ!


会えると思っていなかった……あの人がきっかけになって、今俺はここにいる。


あの人のおかげで……)


竜心は2年前に見た光景を思い出し、そして今同じところにいるということに心の底から感動していた。



浩信が竜心の肩をポンと叩き、話しかける。


「昨日の話で2年前に滝本高校のことをテレビで見たって聞いてな、多分あの人のことだろうなと思ってたんだ」


「ああ……その通りだ……」


「感無量ってカンジだなー ……泣くんじゃねーぞ?」


「っ! 誰が泣くか!」


正直なところ、感涙しそうになった竜心は気を取り直した。



壇上では部員が板を持ってきて小山が試し割をし、型の演武や寸止めの組手をやっている。


竜心は「滝本市に来てから見た人の中では一番動きが鋭いな」と判断する。


浩信は周りの者も壇上に釘付けになっていることを確認して、


「あれが全国レベルの上限クラスだ」


と小声で竜心に伝えた。


「ああ、わかった」


と竜心は答えた。



もちろん小山でも竜心や島の忍者たちの身のこなしに比べれば足元にも及ばないが、竜心は、長年の修練など小山が経験してきたことを見てとって、素直に尊敬の念をもった。




空手部の紹介が終わり、静が話し始める。


「それでは以上をもちまして、部活動の紹介を終わります! 先ほどのオリエンテーションでも話があったと思いますが、来週までは仮入部期間となっていますので、いろんな部活をのぞいて、楽しそうだなと思ったら体験してみてくださいね」


部活動を紹介した上級生が拍手し、それに続いて1年生も拍手を始め、静が微笑みながら続けた。


「ありがとう。あと、最後に連絡事項があります。


新入生のみなさんは体育館の外で教科書と生徒手帳を受け取ってから、そのままみんなお昼にしてね。


昼からは学級委員を決めていきますが、いろんな役目をこなすことで学校生活が充実することもあるわ。


良く考えて決めてくださいね」


礼をして壇上から降り、合せて他の上級生も体育館から去って行った。




少し体育館で待つと、制服に着替え終えた武仁が戻ってくる。


「どうだった?」


と武仁が聞くと、近くにいたクラスメイトは「カッケー!」「ダンクとか生で初めて見た!」などと喝采を浴びせる。


竜心・浩信・賢治に向けて、改めて「どうよ?」と聞くと、


「ああ」「まあまあだな」「いつものとおりだよね」


と気のない返事をする。


「なんだよ、張り合いがねーなあ……2人はまだわかるけど竜心までかよー」


と武仁が文句を言うと、浩信が、


「こいつは後の空手部の方に見入ってたからなー」


とちゃかす。



武仁は、


「あー、まああっちの方がお前がやってたことに近いもんなー」


と自分で納得する。



4人が体育館を出ると、クラスごとに列ができていて、生徒手帳と教科書を配っている。

受け取った生徒ごとにチェックしているせいで、進みが遅いようだ。



高校からはもちろん中学までと違って教科書も有償だが、滝本高校では入学金とともに払うことで一括購入している。

高校に入る前に予習する真面目な生徒もいるので、そういった生徒は先に購入して対象外になっている。

……もちろん、この4人が対象外になることはない。



4人は順に並んで教科書を受けとって教室に戻り、誰も弁当を持ってきていないことを確認して学食に向かった。

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