第二十九話 日常に迫る危機(裏話)⇒そしてアレは再利用
第二十八話でごちゃごちゃしないようにいろいろ削って後日談に載せよう……と思っていた部分がそれなりのボリュームになってしまったので、またまた分割して裏話部分だけ先にアップします~
浩信が家族を招集したリビングに今回の作戦の話を伝えた時のこと。
浩信は叩き台となる案をまとめ、家族が待つリビングに向かった。
リビングでは父親の孝信、母親の晴美、長男の繁信、長女の久美が既にテーブルについていた。
浩信は扉を開けてすぐに頭を下げ、
「頼む! 俺に力を貸してほしい!」
と家族に告げた。
浩信の家族はみな驚いていた。
浩信が中学校に上がったころから意地になって家族に頼らず自分の力をつけようとしていたことは知っていた。
何か大きな失敗をすればフォローするし、浩信から助けを求めてくればその時に助けようと合意してはいたが、これまで浩信はそれなりにうまくやっていてフォローが必要な事態にはならなかった。
そのため、実際に浩信がここまで素直に助けを求めて頭を下げるとは誰も予想していなかった。
驚いてその場にいる者が誰も話さない中、浩信は頭を下げたままでいる。
孝信は気を取り直して、
「浩信、頭を上げてくれ。
急に家族全員に話したいことがあると連絡をよこしてきて、またいきなり頭を下げられて、みんな驚いている。
お前がそこまでしないといけないようなことがあったんだな?」
と話しかける。
浩信は頭を上げ、声を出さずにうなずく。
繁信が隣の椅子を引いて浩信に座るように促し、浩信はそこに座る。
また孝信が促し、浩信はこれまでにあった経緯を話す。
村上家の内紛の話。
沼井組の介入の話。
それらについて自分たちで手を打っていたこと。
……そして竜心の話。
竜心の話に差し掛かった時、浩信の家族はみな怪訝な顔になり、竜心の身体能力について話し始めた時には、浩信の隣に座っていた久美が「はあ!?」とはっきりと疑いの声を上げる。
「ヒロ! あんた、真面目な話をしてたんじゃないの?
いきなり何よその胡散臭い話は!」
と久美は文句を言いながら浩信に今にも掴みかかろうとする。
孝信が「まあ待て」と久美を抑える。
「俺は浩信がこんなタイミングでふざけた冗談を言うとは思わん。それに、忍者の話は他にも耳にしたことがある。
正直なところ眉唾ものだと思っていたが、本当にいるんだな? それもお前の友人だと?」
と孝信が浩信に確認する。
浩信は「ああ」と深くうなずく。
久美はまだ疑ってはいるものの、最後まで話を聞こうと椅子に深く座り直す。
繁信も半信半疑といった様子でいる。
晴美はまだ判断は保留というように表情を変えていない。
浩信が竜心の能力について一通り話し終え、続けて静と園児への直接の襲撃の話を出し、竜心が対処して今も守っていることを話す。
「そして……今から話すのがこの問題を解決するためのプランだ」
事態が深刻になっていることへの心配と、浩信が考え出した案への興味で、浩信の家族はより深く聴く体勢を整える。
「まず、愛心保育園が会長さんのネックであることは向こうにはっきりと知られている。
すでに愛心保育園に通っている園児の名簿は手に入れているから、こちらを守るために人を寄越してほしい」
と浩信は孝信に向けて言った。
「ふむ。俺が運営している警備会社を当てにしているのか?
そっちから人員を割くことはできるが、ヤクザの相手をさせることは難しいぞ?」
と孝信は試すように浩信に問いかける。
「それは分かってる。基本的な巡回だけをお願いしたい。
向こうに悟られたくないんで、普段着で見回ってほしい。
何かあればケンに作らせるメーリングリストに情報を流してもらって、それを俺が管理して、必要であれば竜心を動かす」
と浩信が答える。孝信は満足そうにうなずいて、
「分かった。元警察官の者を混ぜて配備すればなんとかうまくやれるだろう。
実際の配備区域とかは後で詰めよう。次は?」
と先を促す。
「向こうの進出状況と定めた拠点を見極めて監視できる状況にもっていきたい。
警備会社の巡回でもできれば情報を集めてほしいが、俺や兄貴や姉貴の人脈でも集めていきたい。
拠点の見極めと監視はお袋の運営している探偵会社の者でお願いしたい。
監視は途中でケンたちに作らせているシステムに切り替えるつもりだ」
と浩信は晴美に向けて言った。
晴美は少し考えて、
「監視をわざわざ途中でシステムに切り替えるのは、その忍者君のことをできるだけ他の者に知らせないためね?」
と浩信に確認する。
浩信は前に賢治にも悟られているのでそれほど驚かずに、
「その通りだ」
と答える。
浩信は左右の繁信と久美を交互に見ながら、
「兄貴と姉貴にはさっきも言ったように情報を集めてほしいのと、情報を流す方もお願いしたい。
できるだけ、向こうが警戒して滝本市に来るように、できれば武装して待ち構えるように、村井家に関わろうとする他の組の偽情報を流してほしいんだ」
久美は心配しながら浩信に話しかける。
「大丈夫なの? 後に引かないように今回で問題を根絶しようって気持ちはわかるんだけど、無理しすぎじゃない?」
「大丈夫だ」
と浩信は自信を持ってうなずく。
久美は完全に納得したわけではないものの、とりあえず引き下がる。
続けて繁信が発言する。
「沼井組にちょっかいを出しそうで村上家の利権を嗅ぎつけそうな組っていったら竹溝組かな。
情報に合わせて竹溝組を名乗って沼井組の下の方のヤツにちょっかいをかけさせたら信憑性が出るか。
その辺りは久士に任せよう」
「高山さん? そっち方面も詳しいのか?」
と浩信は久士がマジドの制服を着た姿を思い浮かべながら疑問を挟む。
「あいつはそっち方面にも結構伝手があるんだよ。任せて問題ない」
と繁信は言い切り、浩信はとりあえず納得する。
浩信は下準備についての話を一通り終え、肝心の実行計画について話し始める。
「そして、向こうの拠点が判明し、向こうの主要メンバーがその拠点に集まっている時を見計らって襲撃をかける」
話の流れでそのことは理解していた浩信の家族は大きな反応を見せない。
「その忍者君が襲撃の担当なのよね?
やっぱり正体を隠すために忍者装束になったりするの?」
と晴美がからかい気味で浩信に質問する。
浩信はニヤリと笑いながら、
「いや、襲撃するのは○ンパンマンだ」
と言い放つ。
それまでの話の流れからは全く関係のないキャラクターが出て、浩信の家族は一瞬何を言ったのかわからず目を見開いて無言になる。
「もちろん、ふざけているわけ……がないわけでもないが、ちゃんと意味はある。
竜心の正体を隠すってのももちろんあるが、奴等の心を折って、奴等のメンツも完膚なきまでに折るためにやるんだ。
この作戦完了を持って、沼井組は『○ンパンマン』にやられた組として名を残す。
そんな組が今後立ち直れるか?」
繁信と久美が呆気にとられたままでいる中、孝信と晴美は夫婦揃って笑い出す。
「アッハッハ! なるほどな! 確かにこの先立ち直れんわな!」
「ウフフフフ! どうやって根を絶つのかと思ったらそんなやり方でやるのね!」
繁信は2人に少し遅れて、
「うーむ。確かに『後に禍根を残さない』という意味では申し分ないやり方のような気がしてくるな。
ヒロも面白いやり方を考えられるようになったじゃないか」
と感心したようにうなずく。
「本当にその忍者の子を本気で当てにして計画を立てているのね。
ヒロが本気で言っているのは分かったわ。
その○ンパンマンの衣装は私に任せなさい。
そういった方面に強い子が私の周りにいるから」
と久美も少し納得したように言う。
「○ンパンマン計画」が浩信の家族に受け入れられたことを確認して、浩信は最後の頼みを孝信に向けて話す。
「最後に、親父には襲撃の時に奴等の本拠地の周りをできるだけ人が通らないようにしてほしいんだ。
親父の人脈で何とかならないか?」
孝信は笑いの余韻を抑えて、少し考えてから答える。
「ふむ。……奴等の本拠地の場所によるだろうな。
まあ、元々滝本市に根付いているわけでもなく、村上家の件で急に人を出しているのなら、こちらでの本拠地もそれほど人通りの多いところには置かないだろう。
特に今は沼井組が警戒する要因も特にない。
概ね大丈夫だと言っておこう。もし想定外の場所にあれば少々無理してでもやっておく」
「よし! これで実行の目処は立った! 後は進めるだけだ!」
浩信は自分が描いた計画に必要な要素が埋まっていき、確かな手ごたえを感じていた。
竜心は浩信から「○ンパンマン」のDVD25枚を受け取ってから、延々と見ていた。
浩信からは、
「お前は形態模写ができるんだったな。
台詞を全部憶える必要はないが、○ンパンマンの動きや行動パターンはしっかり頭の中に叩き込め。
後で簡単な台本を用意するが、『○ーンパーンチ』だけはそっくり真似できるように練習しておけよ」
と言われている。
竜心は沙桜島ではアニメなど全く観たことがなく、滝本市に来てからもたまに目にすることはあっても内容が全く分からず、通して観ることは一度もなかった。
竜心にとって初めてのアニメ鑑賞となるわけだが、「○ンパンマン」はアニメ初心者の竜心でも分かりやすく、最初は作戦のためだと考えてテレビに映る○ンパンマンの仕草などを真剣に見ていて話の内容にはあまり集中していなかったが、二周目を見る頃には一度やられそうになりながらも最後には目的を達成する○ンパンマンの姿に感動すら覚えていた。
○ンパンマンを小さい頃に観ていた静は懐かしく思いながら竜心の隣で「○ンパンマン」を観ていたが、竜心が意外と嬉しそうに観ている様子を見て、
(ウチの保育園の子たちと一緒ね。育った環境からするとこういうところでは本当に精神年齢はそうなのかも)
と思って「くすっ」と笑う。
静は竜心の住むマンションに潜伏すると聞かされて、最初は緊張していた。
だが、実際に竜心の部屋に入ってからは、竜心が本気で「そういうこと」を考えてもいないことに気付き、緊張することが馬鹿らしくなってきていた。
さらに、竜心が「○ーンパーンチ」と発声練習をしているところを見ると、緊張どころか笑いが止まらなかった。
また、静が竜心に着替えの下着を買ってきてもらう時には恥ずかしがりながらサイズを伝えたのに、淡々と聞いて購入してくる竜心に、段々と「女として意識されてないのかしら?」という苛立ちもあって、たまに竜心をからかうほどの余裕すらでてきた。
「古賀君はある程度離れていても気配や動きが分かったりするのよね?」
「はい」
「なら、私がお風呂に入っている時の動きも分かったりするのかしら?」
「……意識をすれば」
「あら、古賀君。そんなことをしてたの?」
「あ、いえ、そんなことはしてません」
「ぷっ、くく、うふふふふ。冗談よー」
「……」
時折、世間話やお互いの学校での話などをお茶をすすりながら話し合ったり、若い男女が同棲しているというより、仲のいい茶飲み友達といった風情で潜伏生活を送っていたのだった。
ちなみに、台詞をある程度憶えるほどに「○ンパンマン」のDVDを観尽くした竜心だったが、浩信に、
「下手にいろいろ台詞を話すより、ワンパターンな台詞を繰り返す方が連中の心が折れるだろ」
と大いに簡略化された台本を渡されて凹むことになった。
……なお、この時の成果は、愛心保育園の○ンパンマンイベントの時に大いに活かされることになる。
後日談も続けて書いていますので~




