第二十五話 誤解と勝負(後編)⇒そして遊び人疑惑?
遅くなりましたが、後編をアップします!
小山 誠は悩んでいた。
誠は滝本高校に入学してすぐに空手部に入り、1年生の夏には全国大会でベスト4という結果を勝ち取った。
すぐに結果を出せたのは、誠の家が空手の道場を開いており、小さいころから空手に親しんできたという理由があった。
結果を出せなかった上級生の嫉妬や嫌がらせなどを受けながらも、誠実な態度を示し続けることで部内での信頼を勝ち取り、2年生の時には主将に指名された。
誠の適切な指導もあって、部内でも結果を出せるものが増え、空手部は順風満帆で今では全国でも強豪校の一つとして挙げられることもあった。
ただ、誠は大会では毎回それなりのところまでいくものの、一度も優勝することができていなかった。
誠自身、理由は分かっているつもりだった。
誠の家は、金的と投げと引っ掻くなどの行為以外はほとんど何でもありという流派であり、安全を重視する高校空手とはルールが大きく異なる。
誠は決して高校空手を甘く見ているわけではないが、今でも稽古の量は家での方が多く、ルールで縛られた試合ではうまく力を出すことができていないという自覚があった。
それはそれで仕方がないと自分を納得させながら続けてきたが、誠は最上級生になり、自分を尊敬してくれる後輩たちが期待してくれていることもあって、卒業する前に何か結果を出してやりたいと考えるようになった。
だが、家の道場をいずれ継ぐと目されている中で、家の稽古を疎かにして高校空手ルールの稽古を増やすということも難しかった。
誠がそういった葛藤の中で日々悩んでいる中、廊下を歩いていて、誠にとって聞き捨てならない会話が聞こえてきた。
「生徒会長、一年の古賀ってヤツにすっかり参ってるって話だぜ」
「マジで!」
「いつも凛としてる会長さんが楽しそうに話してるのは俺も見たなー」
「でも古賀ってヤツは他の女とも遊んでるって聞いたぜ?」
「おいおいどんなモテメンだよ!」
「見た目は真面目そうなヤツなんだが、なかなかヤリ手らしいな」
「俺も同級生とかもっと年上の女ともいるのを見たって聞いたぜ」
「おーなんかネタじゃなくてマジっぽいなー」
「ってことは会長さんはその古賀ってヤツに弄ばれてるってことか?」
「マジかよー」
「おい!!!」
誠はその会話をしていた4人の男子に声をかけた。
自分でも出そうと思っていなかったような大きな声になっている。
声をかけられた4人はビクッと同時に背筋を伸ばし、声がした方を見る。
「うおっ! 小山先輩!」
「俺たち、何かしましたか?」
と男子たちはかなりビビリながら誠に話かける。
誠は自分の出した声に自分で戸惑いながら、
「あ……いや、大声を出して済まない。
それより、今君たちが話していたことは本当か?」
と尋ねた。
4人は誠の声に驚き過ぎて一瞬自分たちが何を話していたのかを忘れてしまっていたが、すぐに思い出して、
「ああ、古賀ってヤツのことですか?」
「俺たちだけじゃなくて、他のヤツも結構話してますよ」
「目撃情報も多いし、結構ガチだと思います」
と答える。
誠は心の底で煮えたぎるような怒りを抑えながら、
「そうか、ありがとう」
と4人に礼を言って立ち去った。
竜心と静は保育園の遠足を引率した週末明けの放課後、廊下で出会って話していた。
「古賀君、すっかり梢さんに気に入られたみたいよ。
昨日も『また呼んで!』ってメールがきたもの」
「そうですか」
竜心は一昨日のことを思い出しながら嬉しそうに答える。
「梢さんは仕事に対しては本当に真剣にやってくれるのだけど、いつも私をからかったりしてくるの。
ひどいと思わない?」
「下川さんも会長のことが好きだってことじゃないですか?」
竜心は普通に答えただけで、静もそれを分かってはいるものの、捉えようによっては「俺も好きです」と間接的に言っているような言葉に静は顔を赤くする。
「どうしました?」
「何でもないわよ! もう!」
素で尋ねる竜心に、静は馬鹿らしくなって竜心の腕を叩きながら文句を言う。
実態はともかく、傍目にはいちゃついているようにしか見えないやり取りを、誠は遠くから見ていた。
誠は3月に静に告白してから、自分の中での静への思いが更に高まって、ふとした時に同じ教室の静を見るようになった。
3年生になって同じクラスだと分かった時は胸が躍るほど嬉しく、「これが恋というものなのか」と思い、またそんな自分に違和感や恥ずかしさを覚えていた。
誠は3年生になってから静の雰囲気が柔らかくなったように感じていた。
それは自分の見る目が変わったからだろうかと考えていた。
(……それが、あの古賀という男に弄ばれているからだった?)
誠は腸が煮えくり返るような思いを必死で抑えながら立っていた。
誠は竜心と静が別れたところを見計らって、竜心のところに歩いていく。
竜心は先ほどから感じていた殺気の主が、自分が滝本市に来るきっかけになった、ある意味憧れの存在である誠だったことに気付いて戸惑っていた。
「君が、古賀か?」
誠は感情を抑えながら竜心に話しかける。
竜心はなぜ誠に殺気を当てられなければならないのか見当もつかずに、ただ「はい」と答える。
「君は村上さんのことが好きなのか?」
「はい」
これは竜心にとって自明のことなのですぐに答えた。
「他にも好きな子がいるのか?」
「はい。こちらに来てから何人かできました」
竜心はこれも自明のことなのですぐに答えた。
誠の怒りがこれまで以上に達し、顔が赤くなっている。
竜心は「俺が友人のことを好きと答えただけで、なぜこの人が怒るのだろう?」と思い、戸惑いを隠せない。
「君は古武術をやっているそうだね?」
誠は感情を抑えるために機械のような不自然なトーンになりながら、竜心に部活勧誘の時に人伝に聞いた話を確かめる。
「はい」
「道場で俺と立ち会ってもらえないか?」
疑問形ながら有無を言わさないというような口調で誠が言う。
竜心は話の流れがよくわからないが、自分にとって、ある意味恩人でもある人からの頼みだということで、
「わかりました」
と答えた。
誠は竜心をつれて体育館に隣接されて立っている道場に向かった。
2人のただ事ではない雰囲気に、生徒たちは道を譲り、注目する。
2人が道場に入ると、先に来て練習していた空手部の部員たちが誠に声をかけようとするが、その異様な雰囲気に思いとどまる。
「これを使ってくれ」
誠は道場の脇にある空手部の部室から予備の道着を持ってきて竜心に渡す。
他に誰もいない男子更衣室で、2人は無言で着替えはじめる。
誠は着替えながら竜心の体つきを見て、
(かなり鍛え上げられているな……だが、体は鍛えられても心までは鍛えられなかったということか)
と、同じ武術に打ち込んだものとしての共感までもが憎む理由の一つになっている。
着替え終わり、誠は部員に向けて、
「すまんがここを使わせてくれ。
今から俺と古賀が立ち会う」
と宣言した。
厳しいがいつも正しく、丁寧に部員に教える誠の姿からは考えられない、決闘に臨むような雰囲気に、空手部の部員たちは驚きながら場所を空ける。
道場の中心で2人は対峙する。
「ルールは君に合わせよう。古武術であればルール自体がないかな?」
と誠が聞き、竜心は古武術とはおそらくそのようなものだろうと考えながら「はい」と答えた。
(相手の土俵で完膚なきまでに叩きのめしてやる)
竜心への憎しみで目が曇ってしまった誠は「では始めよう」と宣言し、竜心が動かないため、誠から打ってかかる。
竜心はここにきてもまだ話の流れがわからず、この立ち会いの落としどころもわからないため、とりあえず防ぐことに専念する。
左ジャブ、右ストレート、左下段回し蹴り、右上段回し蹴り、全て相手の勢いに逆らわずに捌いていく。
誠は業を煮やして竜心に近づき、右膝蹴り、右肘打ち下ろし、左フックなどを近い距離で当てようとするが、竜心はすぐに距離を離してかわす。
離れ際の前蹴りも竜心に捌かれた。
空手部の部員たちは、普段の自分たちとの組手では見せない誠の実戦空手の迫力と、それを捌き、かわし続ける竜心に驚いている。
それから何度も誠が打ちかかるが、竜心は防ぎ続けて手を出さない。
また距離が離れた時、誠は吠えた。
「貴様! いくらでも反撃できただろうが!
なぜ手加減をする! 俺に真剣に向き合ってはくれないのか!!」
誠は打ち合っているうちに、憎しみだけでなく、遠慮せずに技を揮える心地よさのようなものを感じ始めていた。
目の前の男は自分が全力を出しても相手ができる男なのだと。
それどころか自分が全力を出してもおそらく敵わない男なのだと。
それだけに、手を抜いて相対している竜心に対して苛立ちを感じていた。
相手がその気になってくれなければ自分の全力も出し切れない。
立ち会いの動機が、不埒な相手を叩きのめすというものから、全力を較べ合いたいというものに変わっていった。
竜心は誠の殺気がどろどろと濁ったものから澄んだものになっていっていることを感じていた。
自分の恩人である誠の気持ちに応えたい。
しかし、竜心が本気になれば相手を殺してしまいかねない。
迷いながら、今の自分に考えられる一番良いと思える考えに従うことにした。
「わかりました。
真剣に立ち会いますので、15分ほど待ってもらえませんか」
竜心は誠の目を見据えながら伝えた。
誠は竜心の目を見て「信じられる」と感じ、
「わかった」
と答えた。
竜心は踵を返し、道場の出入り口に向けて歩いて行った。
試合場を囲むようにして見ていた空手部の部員たちは道を開けた。
竜心は裸足のまま道場を出て、道場の外から中の様子をのぞいていた人たちから見えない場所まで移動し、誰も見ていないことを確認して校舎の屋上に跳んだ。
誰もいない屋上で、屋上の扉に映った自分の目を見据えながら暗示をかけていく。
暗示を深めながら、少しずつ筋肉の動きを逆方向にも動かしていく。
逆方向の動きを45%にしたところで暗示を止めた。
これで逆身法は10倍に設定できた。
いつも朝の訓練でやっている20倍だと常人以下になる上に体の制御にも支障が出る。
訓練する分にはいいが、「真剣に」挑むなら体の制御も問題なく可能な10倍がちょうどいいと竜心は判断した。
逆身法をかけ終えて、屋上から道場へ向かう。
まだ校舎に残っている生徒は道着に裸足姿の竜心を見てギョッとして振り返る。
静がそんな竜心を目にして、慌てて声をかけてくる。
「古賀君、どうしたの!?
何、その格好は?」
竜心はどう説明すればいいか迷ったが、結局素直に、
「小山先輩と立ち会います」
と答えた。
「小山君と!? どうしてそんなことに?
いくら古賀君が強いっていっても無茶よ!
小山君は全国トップクラスの人なのよ!!」
正直なところ、竜心自身もどうしてこんなことになったのかよく分かっていないが、誠の「真剣に立ち会ってほしい」という望みには応えたいと思った。
しかし、それをどう静かに伝えていいかわからず、
「小山先輩に挑まれ、俺が応えた。
それだけです」
と告げて、静を置いて道場に向かった。
静は理解できず、しばらくぼーっと立ちつくし、それから気を取り直して竜心が向かった先に向かった。
竜心が道場に戻ると、道場を取り巻く見物人がさらに増えていた。
構わず竜心は道場の中に入る。
道場で待っていた空手部の部員たちは一斉に竜心の方を見て、また道を開けた。
誠はずっと立ったまま呼吸を整え続けて待っていた。
また2人が対峙する。
今度は誠は濁った感情に囚われておらず、竜心は戸惑いから晴れ、周りから見てもある種の清々しい雰囲気が感じられた。
「やろうか」
「はい」
声をかけ合い、お互いに自然に礼をして、すぐに動き始めた。
今度は竜心からいきなり右上段回し蹴りを放つ。
先ほどの誠のそれより数段速いその蹴りを誠は上段受けで止めて流す。
すぐに竜心の左中段後ろ回し蹴りが飛んでくる。
誠はそのまま手の受けと左膝を上げた足の受けで止めようとするが、竜心の蹴りが上段に跳ね上がる。
誠は頭を下げながら何とか上段受けでガードし、後ろに下がる。
そして今度は誠が飛び込みながらの右前蹴りを放つ。
竜心は右の外払い受けで誠の蹴りを右側に逸らし、誠の空いた右側へ左フックを決める。
「ぐっ」と誠はうめきながらも左フックを竜心のボディめがけて放つが竜心が下げた右肘で打ち落とされる。
(こいつ……)
誠は打ち合ってすぐに、竜心が先ほど誠が見せた空手の枠内で動いていることに気付いた。
先ほどの憎しみに囚われた状態であれば舐められたと思っていたかもしれないが、
(俺の心の底に沈めていた望みを汲み取ってくれたのか)
と今の誠には理解できる。
静は止めようと思って道場にきたが、立ち会っている2人を見て、それは無粋だと思って見守ることにした。
誠は静が見ていることに気付かず、目の前の相手と思う存分やり合えることを喜んでいた。
しばらく打ち合いが続くが、双方とも大きなダメージが残るような一撃が入らない。
特に竜心は遠距離でも近距離でも攻撃を見事に防ぎ切っている。
誠はこのままでは一発もクリーンヒットさせることができないと考え、下段に攻撃を集め始めた。
誠の攻撃パターンが絞られることで、周りで見ている空手部員は竜心の足を殺しにいったのだと判断した。
しばらく応酬が続いた。
そして、誠が左下段回し蹴りを放ち、竜心にガードさせ、視線を下に向けさせた後、竜心の頭より高く跳んで前方に回転し、胴回し回転蹴りを放つ。
竜心は防がずに左に避け、誠の右足はその直前まで竜心がいた場所を上下に縦断する。
誠の右足が床についた時点ですぐにその足で床を蹴って、その右足で跳び後ろ回し蹴りを放つ。
竜心が避けた方向に右足が追尾するような形で襲う。
その場にいた誰もがこれは当たると思った。
しかし、竜心は右肘を上げてその蹴りの軌道を上に変えてからその下に潜り込み、誠の右足が通り過ぎて誠の正面が竜心の前に来たところで左手の追い突きを宙に浮いた状態の誠の腹に決めた。
誠は何とか着地するが、腹を押さえながら、
「俺の負けだ」
と宣言する。
周りで見ていた空手部員も静も、外で観戦していた生徒も、みな拍手で2人の健闘を称えた。
誠は勝負には負けたものの、初めて見せた自分の流派の奥義「十字連脚」まで防いだ竜心に素直に感動し、「本当にすごいヤツだ」と認めていた。
誠には、手合せをして竜心が何かの形で自分の力を抑えていることはわかったが、竜心なりに誠実に自分と立ち会おうとした上でのことだろうと感覚的に理解していた。
竜心が手を差し伸べて、誠がそれを握って立ち上がる。
そして、竜心に向かって頭を下げ、
「すまん!」
と謝った。
竜心がどういうことか分からずに戸惑っていると、頭を下げたまま誠は理由を話し始めた。
「君が村上さんを弄んでいて、他の女とも遊び歩いているという噂を聞いて、それで俺は勝手に怒りを覚えていたんだ。
それで『君は村上さんのことが好きなのか?』『他にも好きな子がいるのか?』と聞いて、君が平然と肯定したから余計に怒りが止まらなくなってしまった。
それで、不埒なヤツを叩きのめしてやろうと考えて、立ち会わせてもらったんだが……君がそんな不誠実な人間ではないということがよく分かったよ。
俺の勝手な誤解で君には本当に迷惑をかけた。
本当に申し訳ない」
竜心は「何でそんな噂が広まったんだろう?」と見当がつかないものの、誠が怒っていた理由がわかり、またそれが誤解だとわかってもらえたことを嬉しく思いながら、
「お願いですから頭を上げてください」
と誠に頼んだ。
竜心は、今こそ誠にお礼を言う時だと思い、頭を上げた誠に話し始める。
「実は俺が今ここにいるのは、小山先輩のおかげなんです。
2年前の夏、小山先輩を取材したテレビの番組を俺がたまたま見て、それでこの滝本高校が映っていて、俺は島を出てここに来たいと思ったんです。
小山先輩がまだ高校におられるということは知らなかったので、部活紹介の時に見かけてからずっとお礼を言いたいと思っていました。
島でははぐれ者だった俺が、今この滝本市で大切な人たちがいっぱいできました。
そのきっかけになった小山先輩には本当に感謝しています」
誠は竜心の話を聞いて「そうか……」と人の縁の不思議さを思い、そしてふと思い当たった。
「もしかして、『村上さんのことが好き』『他にも好きな子がいる』っていうのは、その大切な人ができたってことだったのか?」
「はい」
竜心としては、それ以外に誤解のしようがない自明のものだと思っていたので即答した。
誠は自分の勘違いぶりと竜心のずれっぷりにおかしくなり、誠にしては珍しく腹を抱えて笑い出した。
空手部の部員たちに混じって話を聞いていた静は、自分が竜心にとって大切な人と考えられていたことに喜びつつ、大切な人「たち」でまとめられていることに複雑な思いをしていた。
誠はしばらく笑い続けた後でようやく収まり、笑い過ぎて出ていた涙をぬぐいながら、竜心に話しかけた。
「こんなに笑ったのは本当に久しぶりだな。
君は本当に面白い。君がいろんな人に囲まれているのも分かる気がするよ。
経緯にはいろいろ問題があったが、俺は君と手合せできて楽しかったよ。
自分が到底敵わない同年代の存在と相対することで、いろいろ吹っ切れるものもあった。
よければまた手合せをしてくれないか?」
そして誠は改めて右手を差し出した。
竜心はにっこりと笑いながら、
「喜んで」
とその手を握った。
それから空手部は練習を始め、そこで誠は初めて静が道場に来ていることに気付き、またその複雑そうな表情を見て、何となく静の考えていることが分かった気がした。
ゆっくりと静のところへ歩いて行って話しかける。
「やあ。見ていたんだね」
「ええ。話を聞いて止めようと思ってきたのだけれど、あなたたちを見ていたらその気が無くなってしまったわ」
「そうか」
「ええ。特にあなたはとても楽しそうに見えたもの。
古賀君も真剣にあなたとの立会いに臨んでいたしね」
誠は立ち会っていた自分と竜心の様子を思い返しながら、
「確かにそうだったな」
と嬉しそうに返した。
そして誠は続けた。
「しかし、君も大変だな。ヤツにはてこずっているんだろう?」
静は表情を取り繕って、
「何のことかしら?」
ととぼけた。
誠は、竜心が静を弄んでいることは完全に誤解だったとしても、静が恋とまではいかなくてもある程度竜心に対して好意を持っている、と感じたことは間違っていなかったのだろうと思った。
誠が静に惚れていることには変わりはないが、なぜか余裕を持ってそのことを受け止めることができていた。
(何なんだろうな。これも古賀の人徳というやつなのかな)
不思議に楽しい気分でそんなことを考えていた。
小山 誠は悩んでいた。
家の道場の空手と高校空手のルールの違い、そのせいで高校空手では結果を出せていなかったことを。
しかし、竜心との立会いで、ある程度吹っ切れたものがあった。
竜心はあえて誠と同じ空手という土俵の上で戦い、そして誠を圧倒した。
竜心は狭めた枠の中でも力を出せるという見本を誠に見せることになった。
それを見て誠は、高校空手でうまく力を発揮できないということについて、心のどこかでルールの縛りを言い訳にしている自分に気付くことができた。
誠はもう悩むだけでなく、前に進むことができるようになっていた。
それから数日経ったある日の夜、竜心の電話に浩信から連絡があった。
「会長さんの周りがきな臭くなってきた」
次が第一章最後の話になります。
おそらく前後編に分かれると思いますが。。。
次回「日常の危機」
※2/2 2:31 決着後の内容を大幅加筆




