第二十二話 中間テスト⇒そしてまたあの人も参戦
中間テストのお勉強編です。
GWが終わり、土日までの隙間の登校日、土日を経て、中間テストの前の週、テスト期間に入った。
滝本高校ではテスト期間中の部活や委員会活動などは禁止になる。
1-Hの担任の茜が教室に入ってきてすぐ、教卓の後ろに立ち、生徒に声をかけた。
「みなさん、おはよーございまーす!
今日からテスト期間、来週はもう中間テストだから、みんながんばってねー
……お願いだから、国語で赤点を取ったりしないでねー」
最後に自分の担当教科をアピールしつつ、発破をかけた。
GWの余韻がそれで一掃……されるにはいささか頼りないが、それでも1-Hの生徒たちは「ついにきたか」と心を引き締める。
そして武仁や千香を含む、テストに自信がない生徒が数名、机の上に突っ伏す。
茜が武仁に向かって注意する。
「ちょっとー名張くーん! 今からへこたれてたらダメよー」
武仁は突っ伏したまま「はーい」と右手を上げて答える。
竜心・浩信・賢治の3人はそれを見て、「やれやれ……」と呆れるのだった。
午前の授業は中間テストの科目の授業が多く、いつもは気が抜けている生徒もしっかりと話を聞いている。
「いつもこうならいいのにな」と皮肉を言う教師に、笑う生徒と「痛いところを突かれた!」という顔をする生徒で大きく反応が分かれる。
もちろん武仁や千香は後者だ。
昼休みの学食で、竜心・浩信・武仁・賢治のいつもの4人でテーブルを囲んでいる時、武仁が他3人の予想通り泣きついてきた。
「オラにみんなの力を分けてくれ……」
「『○気玉』かよ!」と浩信が律儀につっこむ。
賢治が笑うが、竜心はもちろん元ネタがわからず「どういう意味だ?」と3人を見回す。
武仁がパンッと手を合わせて拝むように、
「今日の放課後、勉強を教えてくれ!」
と3人に頼む。
賢治は申し訳なさそうに、「僕は今日はちょっと用事があるね……」と武仁に答える。
浩信も「俺も今日はダメだな……」と答える。
武仁が竜心に期待するような目で見ると、竜心は「俺は大丈夫だ」と答える。
そして放課後。
武仁が放課後に教科書とノートを広げているという光景にまだ帰っていない生徒たちは驚くものの、その向かいに竜心がいることで、すぐに事情を察して納得する。
竜心が武仁に尋ねる。
「それで、何が一番まずいんだ?」
「数学だ!」
武仁は即答する。
竜心も数学の教科書とノートを取り出して、試験範囲のところをパラパラッと見ながら尋ねる。
「どこがわからないんだ?」
「全部だ!」
武仁はまた即答する。
竜心は「何でそんなに自慢げに言うんだ」と呆れながら、
「全部と言われたら身も蓋もないな……とりあえずいくつか問題を出してみるから、どこでわからなくなったかを言ってくれ。
その都度ヒントを出すから」
と言って、教科書に載っている問題の数字を少しいじった問題を武仁に出す。
武仁が「わからん!」というたびに当てはめる公式などを最低限教えて先に進めさせる……というプロセスを繰り返して、何とか基本的な問題を全て解答させる。
「おお! 分かった気がする! 竜心は教えるのがうまいなー」
と武仁がニコニコしながら言ってくる。
竜心は満更でもなく口元を緩めながら「そうか」と答える。
竜心と武仁の様子を気にしながら那美と灯と雑談していた千香が、そのやり取りを聞いて、ずんずんと2人が勉強している机にやってきて、
「古賀君、私にも教えて! お願い!!」
と90度の最敬礼をしながら頼む。
竜心はその勢いに驚きながら、「あ、ああ。大丈夫だ」と答える。
「やった!」と喜びながら、千香が周りの机をガガガと勢いよく動かして武仁の机にくっつける。
那美と灯も苦笑しながらやってきて混ざる。
日が落ちて暗くなってきたので、竜心が席を立って明かりを点ける。
武仁が腕を上げて背を伸ばしながら、
「あー! 高校に入ってから始めてこんなに勉強したなー」
と言い出す。
千香も「私もー」と追随する。
竜心は苦笑しながら「いや、普段から真面目にやったほうがいいぞ」とたしなめる。
灯が感心したように、
「でも古賀君は本当に教えるのがうまいし、よく勉強してるよねー」
と竜心に話しかける。
「そうかな?」と竜心が少し照れる。
灯は竜心のノートを見ながら、
「ここだって、黒板に書いてあることだけじゃなくて、疑問に思ったこととその答えを書いてるじゃない。
これって先生に聞きに行ったりしたの?」
「ああ。分からなかったことはすぐに何とかしないと、後になって困ると思ってな」
と竜心が答えると、武仁と千香が「へへーっ」と竜心に対してお辞儀をしたフリをする。
「何だそれは?」と竜心が尋ねると、「いや、敬意をひょーして」と武仁がふざけて答える。
那美がアハハと笑いながら、
「でもこうやってみんなで勉強すると意外と捗るわねー
いつもすぐにだらける千香も真面目にやってたし」
と言うと、千香が「何それー」と文句を言うが、その隣で灯がうんうんとうなずいていて、「え、灯もそう思ってるの?」と凹む。
「明日からもこうやって勉強会しない?」
と那美が続けると、武仁と千香が「さんせー」とすぐに手を上げて答える。
竜心は「俺も構わない」と答え、灯はニコニコとうなずいている。
翌日の放課後。
武仁の机の周りに昨日のメンバーが集まる。
それに合わせて今日は浩信と賢治も混じっている。
「今日もやるぞー!」「おー!」と武仁と千香が珍しくやる気になっている。
浩信と賢治は珍しいものを見るように2人を見る。
那美と灯がそんな4人の様子を見て笑う。
浩信が周りを見回した後で提案する。
「ここだとこの人数じゃやりにくくねーか?
竜心の家でやるってのはどうだ?」
「古賀君の家! おもしろそー!!」と千香がすぐに反応する。
「千香……遊びに行くんじゃないんだからね」と灯が千香をたしなめるが、どこか楽しげだ。
「古賀君の家かー 興味あるわねー」と那美も楽しそうだ。
竜心も、「俺の家か……構わないぞ」と了承する。
7人連れだって下駄箱から校門に向かっている時、帰ろうとしている静と出会った。
「あら。みんな揃ってどうしたの?
テスト期間中なんだから遊んでいたらダメよ」
と静がたしなめるように声をかけてくる。
一緒に遊園地に遊びに行ってすっかり静に慣れた千香が、
「かいちょー! ちがいますよー
これから古賀君の家で勉強会です!!」
と胸を張って誇らしげに言う。
「なんで千香が威張るの」と灯が千香につっこむ。
「古賀君の家で!?
そう……そうなの……」
と静が羨ましそうに竜心をチラチラと見る。
「えーと……会長!
わからないところを教えていただけると助かるんですが、もし大丈夫なようでしたらお願いできませんか?」
と大分察しが良くなった竜心が静にお願いする形をとる。
浩信と武仁と賢治は「竜心が成長している……」と弟子を見守る師匠のような面持ちで竜心を見る。
静は一瞬パーッと明るい表情をして、それをすぐに抑えて澄ました顔になって、
「そう? なら私もお邪魔しようかしら」
と答える。
那美と灯と千香は「やっぱり会長かわいー」と思いながらその様子を見守る。
8人連れだって竜心が住む「ルネサス滝本」の前に到着する。
「ここに住んでたのねー」「一人暮らしならここくらいしかないかー」と女性陣は浩信たちが初めて来た時と同じ反応をする。
ドアに入り、那美・灯・千香が玄関に置かれている玄関マット・スリッパ・サンダルなどの100均グッズを見て笑う。
「本当に100均にはまってるんだー」「まじウケルー」
静だけは100均ショップ未経験者のため「そういうものなの?」といった顔をしている。
リビングに入ると更なる100均グッズの数々に千香が「マジ100均!!」と腹を抱えてさらに大笑いする。
那美と灯も口を押さえて笑っている。
浩信・武仁・賢治はリビングを見て、「前より増えてるな……」と気付く。
竜心は「なぜ笑われるのか、よくわからんなー」と思いながら、ちゃぶ台をもう一つ用意し、100均で買った座布団も追加で持ってきてちゃぶ台の周りに置く。
竜心がお茶を用意している間に女性陣がリビングや寝室をいろいろ見て回っている。
ちゃっかり静も混じっている。
竜心がお茶とお茶請けをちゃぶ台に置いて、「じゃあ始めますか」と声をかける。
千香が、
「100均グッズ以外面白いものはなかったねー」
と言いながら座布団に座る。
「ま、古賀君だものねー」と言い合いながら他の女性陣も座布団に座り、勉強会がようやくスタートした。
教え役に回れるのは日頃から真面目に勉強している竜心・賢治・静と要領のいい浩信。
教え役が必要なのは武仁と千香。
どちらでもないのが那美と灯。
教え役の4人は武仁と千香が困っていたら教え、それ以外の時間は自分の勉強を進めていた。
時折、竜心がお茶を注ぎ足して回り、「やっぱりおばあちゃんみたい」と言われて凹んだりしながらも、順調に勉強会は進んだ。
1時間半ほど経って、一息入れることになった
「ふいー 捗るけど疲れるなー」「だねー」と武仁と千香が言い合う。
浩信が苦笑しながら、
「何言ってんだ。元々お前らのためにやってんだろーが」
と2人につっこむ。
「わかってるって」と武仁が返す。
「しかしよー こんな勉強をやって、何の役に立つんだろーなーとかは考えちまうなー
竜心なんかも、よく真面目に勉強を続けられるなーって思うぜ」
と武仁が続ける。
竜心は少し口元を緩めながら、
「そうかな?
俺は元々いた島ではあまり勉強ができる環境でもなかったし、分からないところを先生に聞けるってだけでもありがたいんだけどな。
それに、わからないことがわかるようになっていくってだけでも今は楽しいしな」
と武仁の疑問に答える。
「へー」「ほー」と武仁と千香だけでなく、他の者も感心する。
浩信も自分の考えを話す。
「それにな。何の役に立つんだろーっていうが、それなりには役に立つと思うぜ。
数学も今やってる二次関数とかなら社会に出ても普通に使うだろうし、地理とか生物とかも常識として知っておいて損はねーしな。
こいつは親父の受け売りだが、情報の受け皿のために自分で知識を持っておく必要がある。
例えば海外のニュースを見ても、海外の地理の知識があって見るのと、何も知らなくて見るのは、同じニュースを見てても違うだろ?」
「おおー」と浩信の考えに他7人が感心する。
「山本君ってチャラチャラしてるように見えて、割としっかり考えてるよねー」と千香が感心して言う
「チャラチャラって……はっきり言うなーオイ」と浩信が苦笑して返す。
那美や静が吹き出して笑う。
それから休憩を終えて、休憩前よりも心なしか真面目に勉強に取り組む。
外が暗くなってきた頃を見計らって、解散となった。
那美・灯・千香は静を迎えに来た車に便乗して送ってもらい、浩信・武仁・賢治も帰って行った。
その翌日以降も参加できる者は集まって勉強会を続け、武仁と千香は毎日参加し、それなりにテストのための準備ができた。
翌週の中間テストは1日目に3教科、2日目に2教科テストがあり、1日目が終わった後も8人揃って勉強会を開催した。
そしてテスト返却の日。
「やったーーーー!!」「うおーーーー!」
テストが全て返却されて、千香と武仁の雄叫びが響き渡った。
「テストでこんなにいい点が取れたのは初めてかも!」「俺もだ!」
と竜心のところに報告に来る。
竜心は笑顔で「よかったな」と2人を迎える。
武仁が「ところで竜心はどうだったんだ?」と聞いてくる。
「ああ、俺も思ったより良かったよ」と答案を見せる。
「全部満点じゃねーかーーーー!!!」
という武仁の驚きの声が教室に響き渡ったのだった。
自分が高校生の時はテスト期間でも勉強してなかったなー・・・ということで、今回も割と妄想で書きました(笑)




