第二十話 遊園地からの帰り道(前編)⇒そして小話その1
遊園地からの帰り道での雑談です。
遊園地からの帰り道。
18時45分発の特急に8人は乗り込んだ。
帰る時間は分散するのか、行きの電車ほどは混んでおらず、座席に座れはしないものの、落ち着いて話せるくらいのスペースがある。
8人は、思い切り遊んだ後の余韻に包まれながら電車の中で揺られていた。
「そういえば……『特急』の割に、特急料金を取られたりしないんだな。指定席もないようだし」
と竜心が行きの時から思っていた疑問を口にする。
「あーそれか。『特急』ができたのは割と最近だけどな。
『急行』よりも早く着くってことで、それより速そうな名前の『特急』ってつけただけらしーぜ」
浩信がすぐに答える。
「ヒロ、あんたどーでもいいこともよく知ってるわよねー」
と感心したようなしていないような感想を那美が述べる。
那美の言い方が面白かったのか、静が「ふふっ」と笑う。
浩信は仕返しというわけではないが、「ちょうどいいや」とばかりに静のネタを話し出す。
「そーいや、今日の会長には笑わせてもらったなー
学校でのピシッとした面しか知らなかったもんで、結構新鮮でしたぜ。へっへっへ」
わざとらしい笑い声をあげた浩信に静が反論する。
「それは学校と外では違うわよ。私は久しぶりの遊園地だったしね。
そういう山本君こそ、あんなに意地悪だとは思わなかったわ!」
そんな浩信と静のやりとりに、竜心はそれが本気なのかふざけているのか判断できず、フォローを試みる。
「まあ、会長もヒロもそれだけ打ち解けたってことですよね」
浩信は竜心の方を向き、ニヤリと笑いながら、
「お前はその打ち解けたことで役得があったしなー」
と言った。那美も思い出して「あははっ! そうだったわねー」と笑いながらあいづちを打つ。
千香がぴょんと竜心たちの方に一歩近づいて、
「ちょっと! 役得って何! 気になるー」
と詳しい説明を催促する。
話に入ってこない武仁・賢治・灯も何気に聞きたそうにしている。
「実はな……」と浩信が続けると、「ちょっと山本君!」と静が止めようとするが、「まあまあ、いいじゃないですかー」と千香が静を押さえて話を促す。
浩信は遊園地のお化け屋敷での話を語り始めた。
……
竜心・浩信・那美・静の4人で行動していた時。
ジェットコースター、フリーフォール、バイキングと激しいアトラクションを連続に乗り、慣れている浩信と那美、元々頑丈な竜心と違い、久しぶりに遊園地に来て、しかもジェットコースターなどは今日が初体験の静はフラフラになっていた。
「いやー、最初から飛ばし過ぎちまったかなー
会長、大丈夫っすかー?」
と浩信が静に聞く。
「大丈夫よ! まだまだいけるわ!」
と静がなぜかファイティングポーズを取って強がる。
浩信は「ははは」と苦笑し、
「まーちょいと趣向を変えて、あーゆーところにしますか」
と指差した先には、「お化け屋敷」とおどろおどろしい字体で書かれた看板があった。
静はお化け屋敷もまだ行ったことはないが、どういうものかは聞き知っている。
資産家の家に生まれた静はそれなりに大きい家に住んでおり、小さい頃は住込みの使用人に夜のトイレについてきてもらったりしていたが、
(私の家と同じようなところなら、さすがにもう慣れているわ)
とタカをくくって、「ええ、行きましょう」と澄まし顔で先頭を切ってお化け屋敷に向かった。
浩信は「ありゃ、今度はハズレかな?」と少しがっかりしながら静についていき、竜心と那美も続いた。
入り口の前のお化け屋敷の係員に「4名様ですか?」と聞かれ、「はい!」と勢いよく答えて静は入り口に入っていく。
静は明るいところから急に暗いところに入ったことで、目が慣れず、お決まりの「ひゅーどろどろどろ」という音や首筋をなでる冷たい風にびくっとする。
静の家の夜になった時の静寂や暗さによる怖さとはまた違い、怖がらせることを目的とした施設の怖さを静は甘くみていた。
静は「これは想像以上に……」とひるむが、後ろにいる浩信や他の2人にそれをバレないように強がる。
……しかし3人にはバレバレである。
浩信が那美にしか聞こえないように「ここも期待できそうだな」とささやく。
那美は「もう」と叱るような口調でたしなめてみるが、浩信に負けずに面白がっている。
竜心は静の様子と、浩信と那美の様子を交互に見ながら、「大丈夫かな……」と心配になる。
リバマンパークのお化け屋敷は、機械の仕掛けと脅かし役の係員の両方で客を驚かせるようになっている。
通路は狭く、2人までしか横に並ぶことはできない。
竜心は浩信につつかれて静の横に並び、前列に竜心と静、後列に浩信と那美という体制になって、待機場所で待っている。
時折、「キャー!」という女性客の声が奥から聞こえてきて、その都度静がびくっと反応する。
竜心は静に声をかけようか迷うが、気を遣われると余計に強がりそうだなと思ってやめておく。
待機場所の前の扉がすーっと開いた。
入り口の係員が「前に進んでくださーい」と低めの雰囲気の出る声で言う。
どうも静のような素直に怖がってくれる客が嬉しくて悪ノリしているようだ。
静はもちろんびくっとしながら、すぐに気を取り直して「行きましょう」と3人に声をかけて進む。
静本人はいつもと同じ声、同じ動作のつもりだが、やはり3人にはバレバレである。
薄暗い灯が先の方を照らしているだけの暗い道を進んでいく。
待機場所で聞こえていた「ひゅーどろどろどろ」の音が無くなり、防音が効いているのか4人の足音しか聞こえない状態で、不安が高まっていく。
静だけでなく、那美もそれなりに怖いと思い始めてきた。
浩信は「なかなかうまい演出だなー」と考え、竜心は単に「どんな施設なんだろう」とワクワクしている。
急に両脇の壁のライトが点き、左右に2体ずつ、ガラスの向こうで今にも襲いかかろうとしているゾンビが照らし出された。
「ヒッ!」「キャッ!」と静と那美が悲鳴を上げる。
静は本気で驚いてひきつった顔をしていて、竜心は「正直、会長の顔の方が怖いな」と失礼なことを考えていた。
静の足が震え、進むスピードが遅くなりながら、ゾンビが照らされている壁を過ぎて先に進む。
薄暗く照らされた扉があり、その前に近づくと「ギギギ……」ときしむ音を立てながらひとりでに奥に開く。
扉が開くだけで静が「!」と悲鳴を上げそうになりながらも何とか抑える。
扉をくぐって先に進むと墓場のような場所になっており、通路が石畳になっている。
先ほどよりは明るいが、薄暗いことには変わりがない。
待機場所で聞こえていた「ひゅーどろどろどろ」の音がまた聞こえてくる。
静は「うー」とうなりながら、竜心の左腕の袖を無意識に摘まんでいる。
那美はそれなりに怖さを感じていたが、自分よりあからさまに怖がっている静を見ていて落ち着いてきて、「今の会長、かわいー」と楽しむ余裕もできている。
先に見えている扉まで中ほどというところまで来た。
急に火の玉が10個ほど4人を囲むように落ちてきて目線の辺りに浮いている。
ゆらゆらと上下に揺れながら、ゆっくり反時計回りに4人の周りを回り出す。
静が「ヒッ!」と驚いて竜心の腕にしがみつく。
浩信が「ヒュー!」と口笛を吹き、静はハッと自分の姿に気が付いて竜心からパッと離れる。
周りを回っていた火の玉がふっと消えて、明るさに慣れていたせいで、先ほどより暗く思える中、先の扉まで向かう。
また扉が「ギギギ……」と開き、暗い道へ踏み出した。
……その途端に両脇から手が20本ずつ壁からバサッと飛び出てきた。
静は「ヒヤアッ!」と悲鳴を上げながら竜心に抱きついた。
竜心はどうすればいいかわからず、静のなすがままに立ち尽くす。
浩信がまた「ヒュー!」と口笛を吹くが、今度は竜心の腕に頭を押し付けてカタカタ震えて反応しない。
那美も正直なところかなり驚いたが、静に驚きを先取りされてそれほど驚かずに済んだ。
そこで静は怖さへの耐久力が切れたのか、何かあるたびに竜心にしがみつき、竜心が棒立ちになるというパターンが続いた。
もうそろそろ終わりかという頃、扉の前に係員が立っていて、にこやかに「お疲れ様でした」と声をかけてくる。
「やっと終わり……」と静が気を抜いた瞬間、係員の頭がポロッと落ちる。
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
と今日最大の悲鳴を上げて、静が膝から崩れ落ちる。
他の3人は係員に驚くよりも静の悲鳴に驚く。
係員の首の辺りから、
「いやー 驚いてもらえると嬉しいんですが、やり過ぎましたかねー」
と声が聞こえてくる。
頭がとれた係員よく見てみると、首のメイクをした顔が喋っている。
浩信は素直に感心して「おー」と拍手している。
那美は「会長がいなかったら私が悲鳴を上げてたかも……」とほっとしている。
竜心は落ちた顔が不自然だったことに最初から気付いていたため、そこに驚きはしなかったが、静の反応にオロオロしている。
係員が扉をガチャッと開き、「ここが出口になりますー」と促す。
竜心・浩信・那美はそちらに進もうとするが、静がしゃがみこんだまま動かないことに気付く。
静が「ううう……」とうめいている。
竜心が「大丈夫ですか?」と声をかけると、
「……腰が抜けたの」
と泣きそうな、というかほとんど泣いている声で静が答えた。
……
「そんで、竜心が会長をお姫様抱っこでベンチまで運んだんだよなー」
と浩信が締めくくる。
「うー」と静が恨めしそうに浩信をにらむ。
千香がうずうずと何かを我慢するような仕草をして、我慢できなくなって、
「会長、かっわいーー!!」
と静に抱きついた。
静は「キャッ!」と驚きの声を上げながら、同年代の者に抱きつかれるという慣れない体験に戸惑う。
その様子を見て、竜心・浩信・武仁・賢治・那美・灯は微笑ましいものを感じて温かく見守るのだった。
8人を乗せた特急は、下川山駅を出て2駅目の停車駅に到着した。
小話をいくつか続けるつもりだったんですが、お化け屋敷の話だけでそれなりのボリュームになったので分割しました(^^;
小学生の時に行って以来、お化け屋敷にはずっと行ったことがなかったので、100%妄想ですが、考えてたら楽しくなってきて長くなってしまいました・・・ああ無計画(T-T)




