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抜け忍、普通の高校生を目指す  作者: ろん
第一章 抜け忍、高校に入学する
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第十八話  初めての遊園地(前編)⇒そして裏では……

竜心、遊園地デビューです。

5月4日。竜心・浩信・武仁・賢治の男子4人と、那美・灯・千香・静の女子4人の合計8人で遊園地に行く日。


その朝。


竜心は初めての遊園地への期待に胸を膨らませながら、せっせと弁当を作っていた。


現状の食材の状態と、食べるまでの時間による経過の予測を、忍者としての察知能力をフルに使って料理していく。



弁当を作ってくるのは、竜心・武仁・那美・灯・静の5人。


1人当たり、2人分よりちょっと少ないくらいで作ってこようという話になっていた。


(2人分……と言っても、男子はケン以外は結構食べるだろうし、女子はやはりあまり食べないだろうし、分量が難しいな。


天地さんは仰天亭の娘だけに結構食べるものとして考えといた方が無難か?)


などと、若干、那美に失礼なことを考えつつ、竜心はどこか楽しげにおにぎりを握っていく。




待ち合わせは滝本駅前に朝10時。


竜心は「早い分には特に問題はないか」と考えて9時に家を出る。



家族連れの人たちが竜心と同じ方向に歩いているところを何度も見かける。


「もしかしたら同じ遊園地に行くのかもしれないなー」とのんびり考えながら、挨拶を交わしたり、子供が手を振ってくるのに合わせて竜心も手を振ったりしていた。




9時15分頃に「少し早すぎたかな?」と思いながら滝本駅に着いた竜心だが、駅の前に既に1人で待っているのが見えた。


生徒会長の静だ。


いつもの制服で毅然としながらゆったりとした仕草でいる姿とは違い、薄手のカーディガンとロングスカート姿で、遠目にもわかるように前に組んだ手に持ったカバンを揺らしながら、そわそわしている。


目をつむって今日がどんな日になるのかを想像しているのか、口元が明らかに緩み、そして竜心が近づくのに気付かない。



「会長、おはようございます」


「きゃっ!」


竜心は驚かせないようにそっと挨拶をしたつもりだったが、静にはそれでも不意打ちになったようで、普段よりも高い声で驚きを表した。


「……古賀君、おはよう。


来るのが早いのね」


と遅れて静が澄ました顔で竜心に挨拶する。


竜心は「会長ほどでは……」と言いたくなるところをぐっとこらえて、「はい」と答えた。


微妙に竜心も成長している。



「私、実は学校の行事以外で遊園地に行くのは初めてなの。


古賀君ほどではないと思うけれど、私も楽しみにしていたのよ」


と嬉しそうな素振りを隠すのをやめて静が話しかけてくる。


静が自分でも気付かずにかかとを上げ下げしていて、待ち遠しいことを隠せていない。


竜心は「いや、会長ほどでは……」と言いたくなるところをぐっとこらえて、「そうだったんですか」と答えた。


二度のツッコミ衝動に耐えることができるまでに竜心は成長している。




静が前もって調べた下川山市の遊園地「リバマンパーク」にどんな施設があるかを竜心に熱心に伝え、それを竜心が素直に聞いている内に、那美・灯・千香の3人が連れ立ってやってきた。


「おはようございまーす!」「おはよう」


と挨拶を交わし合う。


那美が静に話しかける。


「2人とも早いんですね! いつから来てたんですか?」


「え……ええ、私たちもついさっき来たところよ。ねえ古賀君?」


静は浮かれてかなり早めに来てしまったことを知られることが恥ずかしく、竜心に「話を合わせて!」というプレッシャーをかけながら振る。


竜心は先ほどのやり取りから「何か譲れないものがあるのだろうな……」と理解し、「ええ、そうでしたね」と同意する。



那美はそのやり取りで何となく察知して、「何か会長も可愛いなー」と思いながら温かい目で見守っていたが、若干空気が読めないところがある千香が、


「ええーっ! だいぶ前から待ってたんじゃないですかー?


何か会長から待ち遠しかったオーラが出まくってますよー」


と静に突っ込む。


静は「うふふっ そんなことないわよー」と千香にもプレッシャーをかけるが、千香は気付かない。


灯が小声で「ちょっと千香!」とポンと叩きながらたしなめると、千香はやっと気付いて「あれ? 何か私マズイこと言った?」というようにキョロキョロした後で「アハハ」と笑って誤魔化す。




そうこうしているうちに、武仁、賢治、浩信の順で集まり、メンバー8人が揃った。


時間は9時50分。


浩信が提案する。


「9時55分に1時間ちょいで下川山駅に着く特急がくる。


もう一本遅らせたら10時10分発の1時間40分で下川山駅に着く急行がある。


特急だと相当混んでるだろーが、どうする?」



竜心はこういう場合はどちらがいいのか判断がつかずに黙っている。


武仁・賢治・那美・灯・千香の5人は「うーん」と考えている。



静はすぐに発言した。


「特急でいいんじゃないかしら。


到着時間が1時間近く遅れるのはもったいないと思うわ」


先に来て静の浮かれっぷりを知っている那美・灯・千香は「まあそう言うだろうなー」と思いながら温かい目で静を見る。



特に他に意見はないようで、8人は静を先頭に特急が来るホームへ向かう。


同じように下川山市方面に向かう人は多いようで、ホームですでに混んでいる。



武仁が、


「これはだいぶ混みそうだなー」


と少し心配げに言うと、静は思った以上に混みそうな予感に少し怯みながらも、


「まあ、後の急行でも混んでいたでしょうし、乗る時間が短いだけマシじゃないかしら」


と澄まして言う。


ちなみに静は満員電車に乗った経験がないため想像で言っている。



特急がホームに到着する。すでにかなりの人が乗っているようだ。


なんとか8人乗ることができたが、乗った側とは反対側のドアのところまで押しやられ、かなりの圧力がかかっている。


小柄な灯や慣れていない静にはかなり辛そうだ。


竜心は女性陣ができるだけ楽にできるように圧力が分散されるような位置に立ち、浩信・武仁・賢治もそれを察して壁になれるように移動する。


那美は「なかなかやるじゃない」と感心し、千香は「あ、なんか楽になったー」と気軽に考え、静と灯は「ありがとう」と口に出して感謝した。


滝本駅から下川山駅までの間に停車駅は3駅。


降りる人はほとんどなく、駅に着くたびに人が乗り込んできてさらに圧力が高まる。



何とか耐えきって下川山駅に到着すると、今度はほとんどの人が降りるため、人の波に流されそうになる。


竜心が8人の先頭に立って、他の人の妨げにならない程度に流れを捌き、無事にホームの広いスペースまで出る。



「ふあー すごかったねー」


と千香が息をつきながら言う。


「ほんとだなー」「だねー」とみんな同意する。


静が凹んで、


「みんなごめんなさいね。満員電車を甘く見ていたわ」


と謝る。



「いや、俺も初めてでしたが、なかなかない体験でした」


と竜心がフォローしようとして発言し、浩信が、


「まー苦労した分だけ楽しむとしますか!」


とみんなに声をかけ、静は救われたように微笑む。




滝本市は人口5万人くらいの地方都市だが、下川山市は人口70万人規模の中核都市である。


滝本市の住民からすると、大きな買い物や遊びに行くなら下川山市で、となる。


滝本市から下川山市に通勤する者も多く、滝本市は下川山市の衛星都市ともいえる。



竜心たちが行こうとしている遊園地「リバマンパーク」は直通のシャトルバスが下川山駅から出ている。


本数が多いため、それなりには混むが先ほどの特急ほどではない。


静ほどでなくとも、他の7人もリバマンパークが近づくにつれテンションが上がって会話が弾む。




ついにリバマンパークに到着した。


10個ほどのゲートがある大きな入場門を見て「おー」と竜心が感嘆の声を上げる。


賢治がその入場門の脇にあるかなりの人が並んでいるチケット売り場を見て、


「まずはあそこに並ばないとねー」


とその労力を考えてうんざりしたように言う。



そこで浩信が「ふっふっふ」とわざとらしい笑い声を出す。


他の7人が「何?」と浩信に注目する。


浩信がカバンから何かを取り出す。


「これを見よ!」


と浩信が芝居がかった声と共にみんなの前に取り出したものをみせる。



那美が最初に気付いて、


「これ、リバマンパークのチケットじゃない!」


と驚きながら指摘する。


「おお!」「本当に!」と他の6人からも声が上がる。



浩信がわざとらしく自慢げに、


「兄貴の伝手でこいつを手に入れてなー


これでタダであのチケット売り場に並ばずに入れるぜ!」


と言い放つ。


武仁・賢治・那美はノリよく、


「おー!」「よ!大将!」「ヒロかっこいい!」


と合いの手を入れる。


灯と千香はそのやり取りを見て笑っている。


竜心と静はそのノリがわからず、とりあえずパチパチと拍手する。




リバマンパークの入場門はそれなりに並んでいたが、ゲートの数が多く、手続きが手早いためか、すんなりと通過できた。


門から入って見えた光景に、竜心は「おおー」と感動して辺りを見回す。


見える範囲だけでもいろいろな施設があり、敷地全体だとかなりの数がありそうだ。


ゲートでもらった園内パンフレットと見える施設を照合して、頭を上げ下げしている。


それを見て、静以外の6人は「小学生みたいだなー」と微笑ましく見守っている。


静は竜心ほど露骨ではないものの、こっそり園内パンフレットを見入っている。



浩信が「さて」と声を出して7人の注目を集める。


「今は11時半。


今から少し遊んでから飯にするか、それとも先に飯を食ってから遊ぶか、どっちにする?


人も多いし、先に場所を確保して飯を食いながらどう回るか考える方がいいかもなー」


と浩信が案を挙げ、先に昼食をとる案を推す。


竜心と静はすぐにでも遊びたいと思ったが、慣れていないのでちゃんと考えてからの方が要領よく遊べると考え、他の5人はどちらでもいいかと考えていたので、先に昼食をとる案に決定する。



リバマンパークにはレストランコーナーと屋台コーナー、それに屋台で購入した物や弁当を食べるための広場が用意されている。


料理担当以外の浩信・賢治・千香が持ってきたピクニックシートをまだ空いている広場で広げ、飲み物を取り出す。


料理担当の竜心・武仁・那美・灯・静が持ってきた弁当をシートの上に広げる。



全部出揃うとかなりボリュームがあり、また種類も多くてなかなか贅沢な弁当になり、みんなテンションが上がってくる。


静以外は少し前の合宿研修で同じように外で食べたものの、弁当を持ち寄るとまた違った雰囲気だと感じ、静はほとんど初めての感覚で、遊園地の施設で遊ぶこととはまた別口の楽しさを感じていた。


誰ともなく何となくかしこまって、みんな両手を合わせて「いただきます」と唱和してから食べ始める。


いろんなおかずを食べ比べて意見を言い合ったりもする。


特に竜心と静の弁当が話題に出る。


竜心はから揚げ・卵焼き・焼き鮭などのスタンダードな弁当で、静はかなり手の込んだ和食の煮物系を詰めた弁当。



静は竜心の作ったものを食べて「おいしい!」と驚いていた。


「なんていうか、熟練のおばあちゃんの味って風格よね」


という静のコメントに、「またおばあちゃん……」と竜心が少し凹む。



静の弁当は「これが会長の……」「イメージ通り……」と声が上がる


浩信が那美の弁当と比べて「これはお前の完敗だな」と那美に言って、「わかってるわよ!」といつもより強めに肩を叩かれる。


「今のはヒロが悪いよ」と賢治がつっこむ。



弁当があらかた8人のお腹に収められたところで、どこから回ろうかという話になる。


武仁・賢治・灯・千香がそれぞれ目配せして、武仁が、


「混んでるし、あんまり人数が多くても大変だから2手にわかれよーぜ」


と言う。それを受けてすぐに灯が、


「そうねー それじゃあ、こっちの4人とあっちの4人で別れましょうか」


と座っている位置で竜心・浩信・那美・静と武仁・賢治・灯・千香を分ける。



浩信が4人の様子を見て「あん?」と疑問の声を上げる。


賢治はそれをスルーして、


「それじゃ、片付けて今度は遊園地の方を楽しもうか!」


とみんなに声をかける。


竜心と静は「待ってました!」とばかりに同時にうなずく。


浩信は疑問をはさむ前に場が決してしまって何も言えない。




実は、前日。


千香から灯・武仁・賢治にメールが飛んでいた。


「FROM千香:明日のことなんだけど、那美と山本君を2人にさせない?」


それを受けて、相談が始まった。



「FROM武仁:そいつはいいな! あの2人もそろそろ進展があっていいだろ」


「FROM灯:私もいいと思うけど、どうやるかだよね」


「FROM賢治:うーん とりあえず4人ずつに分けて、それから2人ずつに分けるのがいいかな」


「FROM武仁:なんかまどろっこしいな」


「FROM灯:それなら古賀君と会長を那美と山本君とセットにすればいいんじゃないかな?」


「FROM千香:あーそれいいそれいい! 古賀君と会長もなんだかいいカンジだもんねー」


「FROM賢治:その4人に分けたとして、あとは竜心か会長が気を遣うかだけど……竜心には期待できないから会長に期待かな?」


「FROM千香:確かにあの2人はそーゆーのニブそー(笑) でも確かに会長は古賀君よりはマシよねー」


「FROM武仁:じゃーその4人に分ける方向は決まりだな?」


「FROM賢治:だね。じゃあどうやって分けるかを考えていこう」


……


……


「FROM賢治:じゃあ、お弁当を食べる時はこの4人で固まって、タケが切り出して宝田さんが続ける形で決定だね。それじゃあ明日はみんなよろしく!」


遊園地エピソードが長くなりそうだったので分割しました(^^;


後編に続きます~

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