第十六話 忍者談義⇒そして羨ましい出会い
沙桜島の忍者の位置づけについて竜心が語ります。
武仁・賢治・浩信がそれぞれの事情を打ち明けて、遅めの昼食にした後。
くつろぎながら、まったりとしているところで、賢治が竜心に話しかけた。
「そうそう。竜心が忍者だって聞いて、いろいろ聞きたいことがあるんだけどね」
「ん? なんだ?」
と竜心は急に話を振られて問い返した。賢治が続ける。
「忍者ってどうやって今までやってこれたのかな?」
「どうやって……とは、生活の糧を得る手段は何か、ということか?」
「そうそう」
竜心はどう説明したものかと少し考えて、話し始める。
「こっちの者に分かりやすく言うと……忍者は特殊部隊とスパイを合わせたようなものかな。
戦国時代の時には傭兵として雇われたり、徳川幕府になってからは要人暗殺とか謀略の察知や撃退、明治になってからは戦争での不正規戦……ゲリラ戦・諜報・斥候などか。
そして戦後から現在は主に要人の護衛かな」
賢治は少し驚いて、
「要人暗殺……さらっと言ったけど、改めて考えると妙に生々しいというか、怖いね。
竜心は今は『主に』要人の護衛が仕事だって言ったけど、やっぱりそれ以外もあるの?」
と続けて聞く。竜心は答えた。
「うーむ。正確には俺が知っているのはそれくらい、ということかな。
俺たちは言われた任務に就くだけで、他の者が何をやっているかを知らされることはほとんどないんだ。
全てを把握しているのは沙桜一族の者だけだろうな」
賢治が少しほっとしたように言う。
「竜心は今までに護衛しかやってこなかったんだね」
「ああ。何せ、任務に就いたのは13歳から15歳の間だけだしな」
と竜心が答える。
賢治は更に質問する。
「忍者って沙桜島以外にも残ってるのかな?」
竜心はすぐに答える。
「それはわからないな。
徳川幕府の終わりまでは残っていたようだが、文書上ではそこで終わったという記録がある。
しかし、そもそも忍者が記録を残すということ自体があまりないし、沙桜島のように残っていても不思議ではないとは思う。
他の忍者とやり合ったって話も幕末くらいまでしか残っていないようだが、それも俺が知らないだけかもしれん」
「幕末までは残ってたんだ?」
「ああ、甲賀は幕府に仕えて江戸に屋敷を持っていたし、各藩でも抱えていたらしい。
岡山藩では忍者の戸籍とかも残していたらしいしな」
「忍者の戸籍? それは全然忍んでいない気がするね」
「確かにな」
二人は少し苦笑する。
ここで武仁も話に入ってくる。
「忍者同士でやり合ったって話は何かテンションが上がるなー
こう、忍術とかでやり合うのか? 『火遁の術!』とか『霧隠れの術!』とかで」
竜心は少し苦笑して、
「忍術でやり合う、といったことは聞いたことがないな。
大体、忍術のほとんどは潜伏用か逃走用のものだしな」
と答える。
武仁が拍子抜けしたように続ける。
「あれ? こう、『火遁の術』で火を操って相手を攻撃したり、『土遁の術』で土が盛り上がって攻撃したりとか、そういうのはないのか?」
竜心は少し呆れながら、
「忍者を何だと思ってるんだ。
『火遁の術』や『土遁の術』などはあるにはあるが、『遁』とついているように、遁走用、つまり逃げるための術だからな」
「そうなのか?」
「ああ。俺の知っている『火遁の術』は、爆薬や煙幕などで目をくらまして逃げる術だし、土遁の術は穴を何日もかけて掘って脱出路をつくる術だしな」
「漫画とかゲームとはだいぶ違うもんなんだなー」
武仁は少しがっかりする。
今度は賢治が聞く。
「竜心はそういった忍術は使えるの?」
「あーそういった術は教えられることは教えられるんだが、使われた時にどう対処するかの心得としてだな。
昔の名残りかわからんが、他の忍者に出会ったときに対抗する術も一通り習うんでな」
「ふーん」
次は武仁が質問する。
「そういえば、忍者って黒装束に刀に手裏剣ってイメージがあるが、任務に就く時はそーゆー格好をするのか?」
「昔はそうだったが知らんが、今はないな。今そんな格好をしたら余計に目立つだろう。
俺が任務に就いた時は、学校の制服か普段着だったな。
それに、刀や手裏剣はあるにはあるが、昔からあまり使われていなかったらしい」
「そうなのか?」
ここで竜心は少し言いにくそうにして、
「他の忍者は鍛冶や化学技術にも長けていて、いろいろ道具を作ったり、鉄砲や爆薬や毒を作ったりしていたそうなんだが……沙桜島ではそういった部分がほとんどなくてな。
基本は身一つで動くことにしていて、そういった部分を研鑽しない代わりに『逆身法』で徹底的に体術を高めたんだ」
「なんか、体力でカバーってカンジで、急に身近になった気がするな」
と武仁が笑う。
竜心はフォローするように言う。
「身一つで動くのもメリットがあってな。
他の忍者だと忍者刀を使って壁を越えたり、壁にクナイを打ち込んで城壁を登ったりしていたんだが、その辺りを道具なしでできるから怪しまれにくいということもあったんだ」
そこに賢治が疑問をはさむ。
「壁を越えるのはあの跳躍力でいけそうだけど、城壁を登るのは?」
「城壁くらいなら低ければ走って登れるし、わずかなとっかかりでもあれば何とかなるからな」
「……本当に体力でカバーだね」
賢治も笑う。
ここで浩信も話に入ってくる。
「そーいや、『くのいち』とかっているのか?
こう、エロい技で男を堕としたりよー」
浩信がクックとイイ顔をしながら聞くと、竜心は困った顔をしながら答える。
「うーむ。昔はあったという話は聞いたことがあるけどな。
どうもそれも沙桜島ではほとんどなかったらしい」
「何でだ?」
「くのいちの術ってのは先に女が妾とかで潜入して、その荷物として忍者が潜入するような術だったからな。
……その辺りも力技だったからあまり必要とされなかったんだ。
今も女の忍者もいるが、女性の護衛任務に就くためだったりとか、その辺りの違いでしかないな」
「そっか」
と浩信が残念そうにため息をつく。
武仁が「ヒロ、エロいな」とニヤリと笑いながら茶化し、浩信は「まあ健全なオトコノコだからな」とニヤリとしながら返す。
竜心は「お前らな」と呆れながらつっこみ、賢治はハハハと笑っている。
「他にはないか?」
と竜心が聞く。
浩信が疑問を口にした。
「他の忍者は幕府やら他の藩やらに仕えてきたんだろーが、沙桜島はどうなんだ?」
「沙桜島はそういう意味では特殊な立ち位置だな。
立場としては中立で、どこからも仕事を受けるという形でやってきたらしい」
浩信は少し考えてから聞いた。
「どういった経路でその仕事を取ってくるんだ?」
「沙桜一族がその経路をずっと作って維持してきたそうだ。
そして今もそれは続いているな」
「今だとどこから仕事を受けてくるんだ?」
「企業から依頼を受けて護衛、というパターンが多いかな。
国内だと対暴力団、海外だと対ゲリラといった本格的な護衛から、芸能人の護衛なんて仕事もあった。
国から仕事が入るという話も聞いたことがあるな」
「なるほどな」
ここで賢治が話に入ってくる。
「竜心が『芸能人』とか言うとこれまた違和感があるねー
ちなみに誰の護衛をやったことがあるの?」
「確か、『各務 鏡子』とか言ったかな? ストーカーからの護衛という任務だったよ」
竜心が言うやいなや、賢治と武仁が食いつく。
「本当に!? 『各務 鏡子』って『SARA』のメンバーのだよね!!」
「俺でも知ってるぞ! すげー可愛い子じゃねーか!!」
浩信も食いつくところまではいかないものの、驚いて目を見開いている。
竜心はその反応に驚き、「あ、ああ」と答える。
武仁がさらに聞いてくる。
「お前、そこで何かなかったのか?」
「何かって?」
「何かってお前、『守ってくれてありがとう、好き!』みたいなよー」
竜心は呆れて、「ないない」と首を振りながら、
「基本的に周りで張ってストーカーに対処することが仕事だったからな。話をすることもほとんどなかったよ。
捕まえた時にお礼を言われたくらいかな」
「そっか……でも芸能人と関わりがあったってだけで羨まし気がするぜー」
武仁は少し期待外れだ言うようにテンションを落としながら言う。
「そんなものか」
と竜心がノリについていけずに答える。
そこで竜心が少し思い出した風に言う。
「そういえば連絡先を聞かれたな。『そんなものはない』と答えたが」
「進展があったんじゃねーか!!!」
と武仁の声が響いた。
毎日アクセスがあって、いろんな方に読んでいただいているようで嬉しい限りです!
毎日更新とかは難しいですが、がんばって更新していきますので、
これからもたまーに読んでいただけると嬉しいです(^^)




