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抜け忍、普通の高校生を目指す  作者: ろん
第一章 抜け忍、高校に入学する
13/32

第十三話  合宿研修(前編)⇒そして初めての○○○

合宿研修に出発します。

合宿研修当日の朝。


竜心は、いつもの制服と違ってジャージ姿での登校に新鮮な気持ちを覚えながら、滝本駅から滝本高校まで伸びている坂を上る。


ジャージの色は学年で分かれていて、1年生は緑、2年生は赤、3年生は青だが、今日は土曜日で合宿研修に参加する1年生しか登校していないためか、周りも緑一色になっている。


今日は7時半集合で、10分前に着けばいいかと考えた竜心と同じように考えた生徒も多いらしく、割と坂は混雑している。


知っている生徒と挨拶を交わしながら竜心はのんびりと歩く。



校門を通り抜けると、バスが8台止まっている。

バスの正面には小さな旗が立っていて、1-Aから1-Hまでのクラスが書かれていて、すでに登校している学生はみな自分が乗るバスの前に集まっているようだ。



「古賀君も来たわね」


学級委員の那美が手に持っている用紙にチェックをつけながら竜心に話しかける。


「おはよう。天地さんは来た生徒をチェックしているのか。ご苦労さま」


と竜心が那美に挨拶すると、那美は「あはは」と笑いながら、


「おはよう! ホント古賀君はなんか真面目ねー


ヒロたちといつも一緒にいるのが不思議なくらいよ」


と言ってくる。竜心は「そうかな?」と最近言われ慣れてきたがいまいちピンとこない「真面目」という評価に首をかしげる。


那美はさらに笑いながら、


「ええそうよ。 古賀君はヒロたちに染まらずにそのままでいてほしいわねー」


と言ってくる。



竜心は、「ヒロたちなら先に来てるわよ」と那美に言われてそちらに向かう。


向かった先にいた浩信・武仁・賢治のいつもの3人に竜心が「おはよう」と挨拶すると、


「おっす」「よう」「やあ」といつものように挨拶を返してくる。



竜心は、「とりあえず今夜の話のことは忘れて、今日の合宿を楽しもう」と割り切って、いつものように会話に入っていった。




担任の茜が1-Hのバスのところにやってきて、いつものように「みんな、おはよー」と生徒に声をかけてから、


「天地さん、みんな揃ってる?」


と那美に聞いた。


「ええ。みんな揃っていますよ」


と那美は言いながら出欠のチェックリストを茜に渡した。


茜は「ありがとう」とにっこり笑いながら受け取って、1-Aの担任でもある学年主任のところにチェックリストを持って、ちょこちょこと走っていった。


那美は、「茜ちゃんなごむわー」と微笑みながら茜が歩いてもあまり変わらないような速さで走っていくところを見ていた。




学年主任が大きな声で、


「全員揃ったから出発するぞ! みな自分のクラスのバスに乗り込むように!」


と声をかけると、「わー」と300人以上の生徒の半分ほどが各バスの入り口に殺到する。


学年主任が「ちゃんと並ばんか!!」と声を張り上げると、「わー……」と大人しくなっていき、順調に乗り込んでいった。



茜はバスの運転手が乗り込むドアからバスの最前列当たりで、


「今日は山道を走るから、酔いやすい子は前の方に来た方がいいよー」


と声をかける。


バスに乗っている時間は3時間ほどで、その半分以上は山道なので、女子を中心とする不安に思った生徒が前に移った。



竜心たち4人は空いた後ろの方に座る。



武仁が竜心の持っているカバンを見て、


「竜心、それいつものカバンじゃないか?


泊まりだってのに何も持ってきてないのか?」


と気づいて話しかけた。


竜心は「ん?」と何を言われているかわからないという風に首をかしげ、


「下着に洗面用具にタオルくらいは持ってきているが、他に何か必要だったか?


そういえば登校する時からみな大きいバッグを持ってきてるなと思ってはいたんだが」


と逆に武仁に質問した。


「何かって、泊りなんだから遊ぶものとかお菓子とか、何も持ってきていないのか?」


と武仁が言うと、


「ああ。言われたものしか持ってこなかった。そういうものなんだな」


と納得したように言った。


武仁は「島ではこういうイベントとかなかったんだろうな」と思い当たり、


「しょーがないな。俺が持ってきたもんを分けてやるよ」


と言った。


竜心は「ありがとう」と礼を言った。



武仁だけでなく、どことなく1-Hの生徒はみなテンションが高くなっている。

竜心はなんとなくそれを感じながら、自分もどこか心が浮き立ってくるのを感じていた。



バスが発車し、前に立っていた茜も最前列の席に着き、バスに設置されたマイクでバス内のトイレなどについて説明した。


それから、


「向こうに着いたらみんなでカレーを作るからねー」

「今日の夜はバーベキューだよー」

「みんなでお泊りするのって何だかワクワクするねー」


心なしか……というかあからさまに茜のテンションも高く、「1-Hの中で一番楽しみにしていたのはこの人なんじゃないか?」と生徒たちは思いながら微笑ましげに茜を見ている。


ある意味いつもの教室と同じ光景がそこにもあった。




バスが走り出してから少し経つと、武仁がお菓子を広げ始め、それを機に他の生徒も自分のバッグからお菓子を取り出す。


車内は一際にぎやかになっていた。



そんな中で、浩信と賢治はバスが走り出してすぐに寝ていた。


疲れているのか、周りが騒がしくなっても全く目を覚ます様子がない。



武仁はポッキーの箱を開けると、「ほれ」と竜心に向けた。


「ああ、ありがとう」と礼を言いながら食べる。


「おお! うまいな!」


と意外なほど大きな反応を竜心がみせる。



「初めて食べたみたいな反応だな……ってか、初めて食べたのか?」


と武仁は途中で気付いて竜心に聞く。


ポリポリとしっかり味を確かめるように食べ、口に入れた分を飲み込んでから、


「ああ、今まで三食以外にほとんど何かを食べることはなかったしな」


と答えた。



武仁は、


「マジか! それならこれも食ってみろ」


とかっぱえびせんの袋を開けて竜心の方に向ける。


もらったポッキーを食べ終えてから、かっぱえびせんを食べると、


「おお! これはこれで……」


と心なしか幸せそうにモグモグと食べている。



近くに座っていた那美が、


「古賀君、お菓子を食べたことないの!?」


と大きな声で反応した。


周りの女子も「ええ!?」「ホント!?」と声を上げる。

1-Hの女子からすると、お菓子を食べたことがないということは信じがたいことらしい。



「これ食べてみる?」「これも!」と周りからいろいろなお菓子が差しだされ、その都度竜心が「ありがとう」と礼を言いながら食べて、大きく表情を変えはしないものの、どこか嬉しそうな様子をみせると、


「これはこれで何だか微笑ましいわね……」と那美を始めとした女子に温かい目で見守られる。




山道に入り、少し酔った生徒や、純粋に景色を眺める生徒が出てきて少し車内が静かになる。


竜心も「沙桜島ほどじゃないが、ここの林を見ていると少し思い出すな……」と外を眺めたりしている。


一番はしゃいでいた茜も「すこしきもちわるくなってきましたー……」と真っ先に酔ってしまったらしく、大人しくしている。



山道の途中で目が覚めた浩信や賢治を交えて、いつもの4人で話しているうちに、バスが少し開けたところに出た。


大人しくしていて少し酔いがマシになった茜が、「着きましたよー」とマイクで声をかけると、少しバスに疲れたようにしていた生徒も元気を取り戻して「着いた!」「あそこでもう降りてるなー」などと騒ぎ始める。



特に舗装はされていないがバスの駐車場スペース、校舎に似ている合宿施設、体育館が、滝本高校の運動場より少し狭いくらいの広場を囲むように設置されている。


施設の周りはすぐ林になっていて、いかにも山を切り拓いて作ったという風情だ。



バスが他の7台と同じように並び、他の生徒が集合している広場に茜が誘導して、300人以上の生徒全員が揃った。


みなが揃ったところで学年主任がメガホンで話し始める。


「この合宿研修は、一年生が集団生活を学ぶため、また交流を深めるために行っている!


自由時間に騒ぐのは構わんが、集団で行動するときにはちゃんとするように!


今から昼食を自分たちで作ってもらう!


その後は自由行動にするが、あまり遠くまでにはいかないように!


夕食の準備の時間になったら声をかけるので、この近くにいるようにな!」



その他注意点などを説明したのち、「それでは各クラスで昼食の準備に取り掛かるように!」と声をかけてクラスごとに行動することになった。



酔いからはすっかり復活した茜が張り切って声を上げた。


「それでは今からみんなでカレーを作りまーす!


ルーとか具はいろいろあるので、7人か8人でチームを作って5チームでそれぞれ作りましょー!


先生も参加するのでどこかで混ぜてねー!」


茜の掛け声で、わいわいとチームわけが始まる。



那美が茜を誘って、那美の友人2人と合わせて4人になっていた。



浩信が那美に、


「お手並みを拝見させてもらおーか」


と挑発し、那美は「望むところよ!」とその挑発に乗り、竜心たち4人と那美たち4人が合流して1チームになった。



料理を普段からやっている者を那美が募ると、那美の友人の内1人、竜心、それと意外にも武仁が名乗りを上げた。


ちなみに茜も自信満々で名乗りを上げたが、那美は独断で「茜ちゃんに包丁を握らせるのは不安」として、米を炊く方に追いやった。


茜は不満そうだったが、那美が「米を炊く方を指揮してください」というと意気揚々と浩信たちの方に向かった。



竜心が武仁に、


「タケも料理やってたんだな」


と声をかけると、武仁は少し苦笑しながら、


「うちは親が忙しくて仕方なしにだなー」


と返した。



竜心はカレーは滝本市にきてから何度か作った程度だと申告し、野菜を切る方に回してもらった。


那美も野菜を切る方に回り、武仁と那美の友人が他の作業をすることになった。



野菜を一緒に洗いながら、那美が竜心に話しかける。


「それにしても古賀君は本当に料理に手馴れてそうよねー


ヒロの挑発につい乗っちゃったけど、あっさり負けそうな気がするわ」


「そんなことはないと思うけどな」


と竜心は返す。



野菜を洗い終わり、那美がじゃがいもや人参の皮を剥くためにピーラーを探そうと竜心に声をかけようとすると、竜心が包丁でスルスルとなめらかに、それもかなりのスピードで剥き始める。


那美は「早速負けた気がするわ」と思いつつも、そこは乙女のプライドで口には出さず、


「それじゃ私が切っていくわね」と竜心に声をかけ、竜心が剥いた野菜を切り始める。



那美がある程度手を進めた後で竜心が剥いた皮をふと見ると、1つの野菜の皮が切れることなく繋がっているうえに透き通って見えるほど薄い。


特に人参の皮がこれほど繋がっているのを初めて見た那美は「これはもう職人技ね……」と自分との比較対象にすることをやめた。



野菜を煮込み、市販のルーにいろいろ用意されているスパイスなどを加える段階では、武仁が活躍した。


「まーウチではよくカレーにしていたからなー いろいろ試したことはあるんだよ」



那美が友人に聞くと、やはり武仁の方が料理がうまい様子だったらしい。


「なんで古賀君やタケの方が乙女力が高いのよ」と2人でこっそり文句を言いあった。



カレーが出来上がるのとちょうど同じくらいに米も炊き上がったようだった。


那美は浩信に冷やかされるかと思って構えていたが、浩信も賢治も那美の友人もぐったりしている。

そして茜がぷんぷんと膨れている。



大体何があったかを察することはできたが、一応那美が浩信に聞いてみた。


「何だか随分疲れてるわね。 何かあったの?」


そう言いつつ、目線は茜の方を向いている。



「あー 茜ちゃんハンパなかったわー


米を洗ってる時に水と一緒に流しかけるし、飯盒につまずきかけるし、炊いてる時に『もう大丈夫よね!』って10分も経ってねーのに蓋を開けかけるし、マジでガキの世話をしている気分だったぜ……」


と疲れ切った声で言う。


那美もさすがに追い打ちをかけるのは躊躇して、「それはお疲れさま」とねぎらった。



他のグループも出来上がり、他のクラスでもほとんど出来上がったようで、学年主任の「それでは各自食べてよし!」という声でそれぞれ食べ始める。


他のグループや他のクラスのカレーも食べに行ったりする者も多く、いつもの学食も賑やかだが、それとはまた違った賑やかさがある。


竜心たちのグループのカレーはかなり評判がよかった。

食べに来た生徒がみな「これはマジでうめー!」「おいしい!」と声を上げる。



1-Hのグループの一つではご飯を炊くのを失敗したところがあったようで、他のクラスではカレーの味が薄いという声も聞こえてくる。

だが、失敗したグループも含めてみんな楽しそうに食べている。


竜心は、昨日武仁が言った「外で作って食う飯がうまい」の意味がよくわかったような気がして、また自分のグループで作ったカレーも普通よりもおいしく感じられて、口元を緩めていた。




自由時間になり、周りを自由に散策していいということになった。


せっかくだから、と竜心たちは茜も含めて先ほどのグループで周りの林を散策することにした。



竜心は沙桜島とは自生している植物が若干異なるものの、ある程度知識はあったので、草木やキノコや鳥などの解説をしてみせた。


他の者は「へー」「ほー」と感心しながら竜心の話を聞いている。


去年一度来ているはずの茜も「あれは?」「あの鳥は?」とはしゃいで竜心に聞いている。



武仁が「これ食えそうだな」とキノコを取ってかじろうとすると竜心が慌てて止め、「それは毒があるぞ!」と言う。


武仁が「そんなに派手な色はしてないぞ?」と反論すると、「毒キノコのほとんどは地味な色をしている」と竜心が返す。



「キノコは見分けるのが難しいから気を付けた方がいい。俺も小さい頃に当たったことがある」としみじみと竜心が言う。


体験談からくる重みに武仁も他の者も深くうなずいた。


実際のところ、キノコは山に慣れた者でも見分けることは難しいが、島ではつい最近まで毒の耐性をつけるために毒キノコをあえて食べていた竜心は「俺なら毒のないキノコを見分けられないことはないが、そこは黙っていた方がよさそうだな」と考えていた。




夕食は昼のカレーで使わなかった食材とバーベキュー用の食材を切るだけで済むため、各クラスの料理ができるものが一度に準備した。


昼食の時に那美が驚愕した竜心の皮剥きの技術が多くの人の目にさらされ、「これは……」「すごい……」と感心の声が上がる。


浩信は那美に、


「さすがにあれに負けてどうこうは言わねーよ」


と声をかけていた。



切った具材を焼く時でも竜心は活躍していた。


「外で焼くのには慣れている」と焼く係を引き受け、


物の変化を感じ取る能力、気配を感じ取る能力などをフル活用して完璧な焼き加減を見極めていた。



浩信は何となく察し、


(忍者の技術をこんなところで活用すんなよ……)


と呆れていた。




夜になり、各クラスの男女で分かれ、16組になって合宿所の割り当てられた部屋に向かう。


武仁が大きなバッグのかなりの割合を占めていたボードゲームを取りだし、周りを呆れさせたりしながらも盛り上がったり、トランプやUNOで盛り上がったり、花札で賭けをしているものもいたりで大いに騒いでいた。


消灯時間になっても、これまた準備のいい武仁が懐中電灯を取り出して「誰が可愛い」「あいつとあいつは実は付き合っている」などの恋バナに花を咲かせ、日が変わる前に学年主任が「いい加減に寝ろよ!」と怒鳴り込んでくるまで続けられた。




そして、翌日の午前一時ごろ。



竜心は合宿所の割り当てられた部屋に向かう前に、武仁と賢治に「夜一時に合宿所を出て話がしたい」と告げてあり、竜心の真剣な雰囲気に二人は他に何も言わず「わかった」と答えていた。



竜心・浩信・武仁・賢治は、別々に合宿所を出てから予め決めてあった場所で合流し、竜心が散策の時に目星をつけていた場所まで案内する。



目的の場所に着いたとき、竜心は振り返って、告げた。




「実は俺……忍者なんだ」

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