愛していると言ってくれ
青司と二人、私は部屋に取り残された。
先ほど、青司の交際の申し出を受けてから、皆の態度がどこかおかしい。
なぜ、あんなに大騒ぎするのだろう。
男女交際の知識がまるでない私には、皆の態度は不可解以外の何物でもなかった。
ふと、青司のほうを見やると、照れたような、困ったような顔をして頭を掻いていた。
振り向いた私と青司の視線が重なる。
その表情のまま青司は曖昧に笑い、
「照れくさいな……」
とつぶやいた。
そう言われると、こちらもなんだか意識してしまい、顔が紅潮していく。
「う……うむ。まったく、あんなに大騒ぎしなくても良かろうに。二人きりで残されたのは、あれか。今後の事を話し合えということか」
妙に照れくさい空気を押し流すかのように、私は早口でまくし立てた。
青司はそんな私を見て苦笑し、
「かもね」
と曖昧な返事をよこした。
「でも、嬉しいな。OKしてくれて」
そう言って、私の手を取った。
ふと、頭に浮かんだ疑問を、そのまま投げかけてみる。
「ところで、何故私に交際の申し出を?
私よりも魅力的な異性はたくさんいると思うが」
青司は驚いた表情をしたが、それは一瞬だけで、意地悪な笑みを浮かべてこう返した。
「絵理さんこそ、どうしてOKしたの?」
改めて尋ねられ、言葉に詰まる。
一番大きな理由は『別に嫌じゃなかったから』なのだが、だとしたら、私は何故そう思ったのだろう?
「異性として好きかどうかは解らない。そもそも、異性を好きになるという感覚が解らない。それでも、そなたの申し出を受けたのは……」
私はそこで言葉を区切った。
一つ呼吸を置き、青司を見上げる。
「一緒にいたいと思った。そなたとこれからももっと話がしたいと思った。断って、徐々に疎遠になりたくなかった。……離れてしまいたくなかった」
青司は黙って私の話を聞いていた。言い終わったとたん、不意に抱きしめられた。
「それ、殺し文句」
「む?」
他人とこれほどまでに密着したのは初めてで、どうすればよいか戸惑った。鼓動が早くなり、体温が上がるのが自分でも解る。だが、不思議と心地いい。
「どうしよう、めちゃめちゃ嬉しい。ちなみに、俺も同じだから」
「同じ?」
「絵理さんとね、一緒にいたい」
それから、いたずらっぽく笑った。
「だって、絵理さんがいないと退屈だしね」
そうして、私の体に絡めていた腕を解く。
「あー恥ずかし。やっぱりこういうの柄じゃないや」
そう言って、顔を真っ赤にしたままリモコンを取り、テレビをつけた。
国会議事堂の様子が映し出され、スーツを着た議員達が議論を繰り返している。
一通りチャンネルを回したが、青司の好みの番組はやっていなかったようで、最初の画面に戻った時に溜息をついてリモコンを置いた。
ふと、私の目に誰かが持って来た将棋盤が止まった。
「将棋でもするか?」
「いいね。手加減しないよ?」
「望むところだ」
私たちは互いに笑いあい、盤に駒を並べ始めた。