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「ごめんなさい」と、天使は言った

作者: 大川雅樹

まだ人間が生まれておらず、地上が雪におおわれていた昔々のお話です。


天国では、神様と天使たちが地上に住まわせるための動物たちを作っていました。


その天使の中に、いたずらばかりする天使がいました。


例えば、神様が長~いトカゲを作ろうとしていた時の事です。

いたずら天使は、そのトカゲの四本の足を取ってしまいました。

神様は、仕方なくその動物にヘビと名づけました。


ある時は、神様が大きなネズミを作ろうとしていたら、いたずら天使はその動物の耳を長~く伸ばしてしまいました。

神様は、仕方なくその動物にウサギと名づけました。


いたずら天使は、悪さをするたびに神様に叱られ、天国にある大きな木に縛りつけられたりしました。

「ごめんなさい。もう、しませんから許してください。」

と、その度ごとにいたずら天使は言いました。


しかし、いたずら天使は次の日になると、そんな事も忘れてまたいたずらをしでかすのでした。


ある日の事、いたずら天使は天国の花畑を、羽をはためかせて飛んでいました。

天国には色とりどりの花が咲いています。

すると、その中の一本の黄色い花が、いたずら天使に言いました。

「天使さんは、自由に色々な所を飛びまわれていいですね。私なんかは、同じ所から一歩も動けないのです。」

それを聞いた、いたずら天使はある事を思いつきました。

「お花さん、そんな事はありません。あなたも空を飛べるのですよ。」

そう言って、黄色い花を引き抜き、天国の雲のすき間から地上へと、花を放り投げました。

「ほーら、まるで空を飛んでる気分でしょう、はははは。」


その事を知って神様は、怒りました。

神様は、いたずら天使を呼んで言いました。

「天国の花を地上に投げすてるとは、とんでもない事だ。今度ばかりは、勘弁できん。お前は今から地上に行って、花をひろってくるのだ。それまでは帰ってはならん。」

「はい、今から地上におります。」

そう言って地上へ行こうとした、いたずら天使に神様は言いました。

「いいか、地上におりても決して足を地面につけてはならん。それだけは守りなさい。」

「はい、約束します。」

そうして、いたずら天使は地上へと、おりてゆきました。


地上では雪が降り続いていました。


地面は雪でおおわれ、見渡すかぎり白一色の世界でした。

いたずら天使は雪の中を飛びまわりました。

「この辺りだと思うんだけどなあ。」

あたり一面に広がる雪は、いたずら天使が初めて見るものでした。

「どんな感触なんだろう?」

いたずら天使は興味をそそられました。

そして、神様との約束も忘れて、雪の上へとおりたちました。

「ひゃあっ!」

それは、いたずら天使が初めて感じた、冷たいという感覚でした。

いたずら天使は歩いてみました。

サクッ、サクッ、サクッ。

雪の上にいたずら天使の足跡がつきました。

「これは面白いや。」

いたずら天使は雪の上を歩き回って喜びました。

しかし、歩き回っている内に、身体がだんだんと冷えてきました。

「これは、たまらない。」

いたずら天使は、初めて寒いという感覚を知りました。

花を探しに来た事を思い出したいたずら天使は、飛び上がろうとしました。

しかし、羽が凍りついて飛び上がる事が出来ません。

「大変な事になってしまった!」

それでも何とか花を探そうと、辺りを歩き回りました。

いたずら天使は雪の降るなかを、身体をふるわせながら歩きました。


どれ程長い時間を歩き回ったでしょうか。

遠くの方にかすかに黄色い光が見えます。

いたずら天使は、その光の方へと近づいていきました。

黄色い光は雪の下の方から射していました。

「ここだ。この下に花が埋っているんだ。」

いたずら天使は必死で雪をかき分けました。

しかし、掘っても掘っても花には届きません。

いたずら天使がウロウロしている間に、深くまで埋ってしまったようです。

いたずら天使は、寒さと疲れで眠くなってきました。

いたずら天使は、雪の下の花に話しかけました。

「ごめんね。君を天国へ連れていけそうにもないや。」

そして、空に向かって言いました。

「ごめんなさい、神様。僕はいたずらばかりしてきました。神様との約束も守れませんでした。本当にごめんなさい。でも、もうとても眠いのです。眠ってもいいですか?」

すると、いたずら天使の耳に、神様の声が聞こえました。

「よろしい、許しましょう。ただ、その代わりにお前の温もりをその花に与えるのだ。さあ、眠るがいい。」

「ありがとうございます。僕の温もりをこの花に与えます。」

そして、いたずら天使は雪の上で深い眠りにつきました。


いたずら天使の温もりは、雪の下の黄色い花に伝わりました。


やがてその温もりは、地上の雪を溶かしました。

地上には茶色の大地が現れました。

そして緑の草が広がり、黄色い花が咲き乱れました。

太陽が顔を見せ、暖かい風が野原を吹き渡りました。


神様はそれに“春”と名づけました。


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