~告白~
ずっとライバルだと思っていた相手に告白された――
色々と思うことはあったけれど、俺は結局何の返事もしなかった。最低なことに、相手からの告白にだんまりを決め込み、相手が苦笑してその場を引き上げるまでその状態を粘ったのだ。
相手からの告白の後に考えたのは、これからは普通に話すこともなくなるんだろうな……ということ。相手を唯一のライバルだと考えていたからこそ、これからはそんな関係でもいられなくなることに言い表せない悲しさと虚しさを感じる。同時に、胸が痛くなり、自分にもそんな感情があったのかと唇端だけをあげて笑ってしまった。笑ったまま空を見上げ、自分の感情とはあまりにも不釣り合いな絵に描いたような青空に鬱々としたことを考える自分が馬鹿らしくなった。
だって、告白してきたのは相手だし。
それがOKされようがされまいが、それは相手がどう思われてたかによって変わる返事であって、今回OKされなかったアイツの今までの行動はそれ相応のモノだったってことだし……。などと言い訳じみたことを考え、自分が暗いことばかり考える必要はないだろうとそれまで心を巣食っていた感情を振り払い、一度、強く空を睨みつけてから歩き出す。
このとき、自分の本当の気持ちに耳を貸さなかった自分。まだ、その決断の重要性をこれっぽちも理解していなかった――
「おはよ、三橋!!」
元気に挨拶してくる菊池。そこからは、昨日告白してきて、その告白を俺が無視で断った相手だとはとてもとても想像出来やしない。
ただ、いつもどおりなのだ。本当に、いつもどおり。告白前となんら変わらない向こうの対応に、逆にこちらが昨日の出来事は夢だったのではないかと困惑する。
「菊池?」
当然のことながら当惑し、確認するように相手の名を呼ぶ俺に、当の本人はさっぱりとした笑みを返してくる。
「ちゃんと振ってもらってないからね。そりゃあ、三橋は知らないだろうけどね、私は何年も思い続けてきたんだよ? 三橋のことを。返事無しなんて納得できるわけないでしょう。ちゃんと振ってくれるまで、諦めないから」
俺を見据え、そう宣う小学生の頃から寸分も変わらぬ、驚くほど根が真っ直ぐな相手の姿に、俺は目を見開いたのも僅かの間。ただ、顔を崩して笑った。
皆が成長し変わりゆく今。高校生だなんて尚更だろう。環境によって簡単に容姿や性格までもが変わる時期に、少しも変わらない真っ直ぐすぎる性格にはただ感心し、と同時に上手く言い表せない安堵と心地よさを覚えた。
結局、俺は返事を催促してこない菊池と過ごす今までと変わらない穏やかで心地よい時間と雰囲気に身を委ねていた。当然のことながら、告白の返事はなしのまま……。ここまでなら、俺は最低なことをしているわけでもなかったかもしれないのに、それだけでは終わらなかったのだ……。
俺は、持ち前の容姿で以前から行っていた菊池以外の、アフロディテに好かれたのだろうと思わせる容姿の女らとの女遊びをやめやしなかった。
『決して振らない。しかし、勝手に期待はさせておいても、目の前でだって構ったりしない女遊びをやめることもしない』
そんな自分の曖昧な態度が、どれほど菊池を傷つけているのかなど、俺は微塵も考えなかったのだ。君が傷つき、一人で泣いてる姿なんて想像しなかった。君が、浮かべることが当然となっていた向日葵の笑顔の下の苦悩や涙など考えようともしなかった。
俺はまだまだ餓鬼で、そして、最低な野郎だった。
気付いた時には、すべてが終わっていたように思える。
菊池は、俺の前に姿に現さなくなった――