家族にできそこないと縁を切られた俺は幼馴染と結婚して専業主夫になったのだが
俺は三人兄弟の次男だ。
兄は二歳年上で弟は十歳年下の男ばかりの兄弟。
勉学が優秀な兄と俺はよく親に比べられていた。
父母の口癖は「お兄ちゃんはできるのになぜあなたはできないの?」だ。
幼いうちは俺も親の期待に応えようと自分なりに勉強を頑張った。
しかし兄貴はいつも学年トップの成績のためたとえ俺がテストで90点を取って親に見せても親はこれぐらいできて当たり前という態度だ。
それどころかこんな問題も間違ったのかと満点を取れない俺を怒る。
そんな俺が十歳の時に弟が産まれた。
さすがに十歳も年上なら俺が弟に負けることはない。
なのに親は歳を取ってからできた子供が可愛いのか今度は「お兄ちゃんなんだから弟に譲ってあげなさい」と俺の遊び道具も親の愛情も弟に取られてしまった。
俺は今日もひとり寂しく公園でブランコで遊ぶしかない。
「光輝くん。今日もひとりなの? 私もひとりだから一緒に遊ぼ」
ブランコに乗ってる俺に声をかけてきたのは俺と同じ幼稚園からの幼馴染の優花里ちゃんだ。
「優花里ちゃんのお母さんは今日も仕事なの?」
「うん。私はお父さんがいないからお母さんがその分働かないとだからね。お父さんやお母さんや兄弟がいる光輝くんが羨ましいな」
「俺はお父さんもお母さんもいない方がいい。ついでに兄貴も弟もいらない。俺の家族は俺なんかいらないだろうから死にたいよ」
「光輝くん! ダメよ、そんなこと言っちゃ! 光輝くんのこと必要な人はちゃんといるんだから!」
その時の優花里ちゃんの目が真剣だったから俺はそれ以上家族のことは話さないで優花里ちゃんと遊んだ。
そして夕方になりそろそろ家に帰らないといけなくなった時に優花里ちゃんが俺の顔を見た。
「あ、あのね、光輝くん。私のお母さんが再婚するの。それで私、この町から引っ越すことになったからもう明日からこの公園に来れないんだ」
「え?」
俺は頭の中が真っ白になる。
自分の存在を認めてくれていた優花里ちゃんがいなくなったら誰が俺の存在を認めてくれるのだろうか。
「そんな! 優花里ちゃんがいなくなったら俺は生きていけないよ!」
「大丈夫よ、光輝くん。大人になったら私が光輝くんを迎えに来るから。だからどんなに大変なことがあっても生きてて。そして再会できたら私を光輝くんのお嫁さんにしてね」
そう言って優花里ちゃんは俺の両手を自分の両手で包むように握った。
俺は涙が出そうになったが堪える。
「うん、分かった。再会したら結婚しようね、優花里ちゃん」
優花里ちゃんともう一度会うまで何があっても生きていよう。
そう心に誓い、俺は優花里ちゃんと別れた。
それから15年の歳月が過ぎる。
俺は27歳になっていたがまともな会社に就職することなく警備員のバイトをして毎日を食いつないでいた。
俺の兄貴は高校も大学も一流学校を出て大手の会社に就職し僅か29歳で課長に昇進したエリート街道を進んでいる。
弟は17歳だが運動能力に秀でていて高校生ながら将来有望なサッカー選手としてマスコミの取材を受けることもある。
優秀な兄と弟に挟まれた俺の人生は公立の高校卒業後に大学受験に失敗して就職した。
最初の会社はブラック企業で僅か半年で退職。その後はいろんなバイトをして生活し今の警備員生活に至る。
そんな俺に両親は兄と弟の将来のためにならないから家族としての縁を切ると言ってきた。
俺も自分の家族に未練はないから自分の方から連絡を絶ってやった。
それでも俺は絶望しない。
もう一度優花里ちゃんと再会するまで。
そして今日も俺は警備員としてある施設の警備をしていた。
すると施設の客と思われる女性が俺に声をかけてくる。
「あの……」
「はい、何か御用ですか?」
「あなた、光輝くんでしょ。私のこと分かる?」
「え?」
俺はその女性の顔を見る。
化粧をして大人の顔になっているがその顔は間違いなく優花里ちゃんだった。
「もしかして……優花里ちゃん……?」
「そうよ。久しぶりね、光輝くん。ここで仕事してたんだね」
「う、うん……」
優花里ちゃんと再会するまで頑張ると生きてきた俺だが、いざ再会してみると自分の今の姿が惨めに思えてしまう。
警備員なんて給料は安いし安定した仕事とは言えないよな。
こんな俺は優花里ちゃんには相応しくない。
思わず顔を俯かせてしまう俺に優花里ちゃんの明るい声が聞こえる。
「ようやく再会できたね、光輝くん。昔の約束覚えてる?」
「え? 約束?」
「大人になったら私が光輝くんを迎えに来るってこと。そして再会したら私を光輝くんのお嫁さんにしてくれるって約束よ」
「…っ! お、覚えてるよ! で、でも、俺、見ての通り仕事は警備員だし、給料安いし、安定した仕事とは言えないし、兄貴や弟みたいに優秀じゃないし、両親とも縁を切られてるし、と、とても優花里ちゃんに結婚してくれなんて言えないよ……」
自分で言っていて情けなくなってくるが俺は自分の今の境遇をありのままに優花里ちゃんに説明した。
優花里ちゃんは黙って俺の話を聞いていたが俺が話し終わるとニコリと微笑んだ。
「事情は分かったわ。でも大事なことはひとつだけよ。光輝くんは私のこと好き? 嫌い?」
「も、もちろん、好きだよ! ずっとずっと優花里ちゃんと再会するのを夢見てたんだ! 昔も今も優花里ちゃんだけを愛してる!」
「フフフッ、ありがとう、光輝くん。光輝くんがいろんな事情で私のことお嫁さんにできないなら私が光輝くんをお婿さんにしてあげるわ」
「え? お婿さん?」
「ええ、私はある会社を父から引き継いで経営してるの。だから光輝くんのお嫁さんになっても家事をするのは難しいのよ。光輝くんがお婿さんになって専業主夫をしてくれるととても助かるんだけどな」
「せ、専業主夫……? でもそんな優花里ちゃんを働かせて俺が主夫なんて悪いよ」
「何を言ってるのよ。専業主夫をなめちゃいけないわ。それとも私との結婚は諦める?」
「…っ! わ、分かった! 優花里ちゃんと一緒にいられるなら俺は専業主夫になる!」
優花里ちゃんと結婚できるなら男としてのプライドなど捨ててもいい。
立派な専業主夫になって優花里ちゃんを支えよう。
そう決意した俺は優花里ちゃんとその後すぐに結婚した。
結婚後、俺は専業主夫になり家事全般を全てやっている。
優花里ちゃんが何の会社を経営してるかは知らないがいつも忙しそうな優花里ちゃんが自宅に帰って来た時にくつろげるように俺なりに頑張っているつもりだ。
「さて、洗濯は終わったし少しお茶でも飲むか」
洗濯物を干した俺はリビングでテレビを見ながらしばし休憩を取る。
すると俺の携帯電話が鳴った。
相手はもう何年も連絡していない母親からだ。
俺は優花里ちゃんと結婚したことを家族には報せていない。
無視しても良かったが着信音が鳴り続けるので俺は仕方なく電話に出た。
「もしもし」
『光輝! 大変なのよ! お父さんがリストラにあって無職になっちゃったのよ! それに和輝も取引先に損をさせた責任を取らされて平社員に降格された挙句に田舎の支社に左遷されちゃったのよ!』
親父がリストラにあって兄貴が平社員に降格して左遷させられただって!?
いい気味じゃねえか! 俺と同じ底辺の暮らしをしてみろってんだ!
「それが俺と何か関係あるのかよ?」
『お父さんと和輝がそんなことになっちゃったからお金がないのよ! でも晴輝がサッカーを続けていくには今のサッカーの強豪高校にいる必要があるんだけどその学費が出せなくて! あんたに弟の将来のためにお金を出してもらいたいのよ!』
なるほど。弟の学費を俺に出して欲しいってことか。
誰がそんなことしてやるかよ! 俺から全てを奪った弟の将来なんか知らねえよ!
サッカー選手になれなくたって生きていくことはできるだろうが!
てめえらみんなざまあだぜ! アハハハハハハッ!!
「俺には関係ねえな。俺の家族はあんたたちじゃなくてちゃんと別にいるんでな」
『え? ど、どういうこと! こ、光輝……』
俺は携帯電話を切り着信拒否設定をした。
優花里ちゃんだけが俺の家族だ。今夜は優花里ちゃんの好きなシチューにしようかな。
夕食の支度をするために俺はキッチンに向かった。
「社長。あの会社の買収と共に進めていた買収後の人員削減の件が終了しました。これが資料です」
秘書から資料を受け取った優花里は人員削減の対象となった人物たちの名前のリストの中に目的の名前を見つけ満足する。
その人物は光輝の父親だ。
「それとН商社との取引きで出た損益についてH商社からどう対応するか返事は来たの?」
「はい。H商社からは我が社への賠償金の支払いの承諾と担当していた課長に責任を取らせて降格の上、支社に異動させたとの返事が来ました。ハッキリ言えば左遷したってことですね」
「そう。それは良かったわ」
そこで優花里の携帯電話に愛する夫の光輝から「今夜はシチューだよ」とメッセージが来た。
そのメッセージに返信しながら優花里は微笑む。
「光輝くんを必要としない家族なんていらないわ。光輝くんの家族は私だけでいいの。邪魔な家族は消えてちょうだい。それにもし光輝くんを返してと言ってきたとしてももう返すつもりはないわ。光輝くんは永遠に私だけのモノなんだから。愛してるわ、光輝くん」
「社長。次の商談の時間です」
「分かったわ。光輝くんを養うためにも私が日本最大の財閥グループをもっと繁栄させていかないといけないわね、フフフッ」




