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獣国の花嫁 〜月の獣王は太陽の姫をその腕に抱く〜  作者: あかつき翔
終章 いつか、すべてが交わる日まで
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すれ違いの冬空

 少しだけ、時は遡る。



 ルナグレア王城、最上階のバルコニー。

 ソフィアは、そこから城下町を見下ろしていた。


 今回、ソフィアは城の中にいることを言い付けられていた。城の警備もいつもより厳重になり、ゼルニスやエルマも少し慌ただしくしている。

 グレイヴァルトが何をしに動いたかは極秘の情報だ。ソフィアもさすがに、今回は詳細を知らされていない。ただ、反抗組織の足取りを掴んだということだけは分かっている。きっと、危険もあるのだろう。


(……力になりたいですが、それで負担を増やすわけにはいきませんよね)


 いくら理術を身に付けても、ソフィアは戦いに関して素人だ。攻撃の理術も習いはしたが、それを実戦で相手にぶつけられるかは別の話である。自分は、間違いなく躊躇うだろう。刃を向けられれば身がすくむだろう。どうやっても、足手まといにしかならない。

 ならばこそ、戦いに赴く者を信じて送り出し、不在の間を代わりに守り、帰って来た時にその身体を癒す。それが自分にできる限度だと、彼女はわきまえていた。


 バルコニーの入り口では、護衛部隊が目を光らせており、ソフィアの側には隊長であるロヴィオンも控えている。城の中であろうと、今は総動員だ。


「最近は、かなり冷えてきましたね」


「ええ。ソフィア様、お体にはお気をつけて。人間はおれ達より寒さに弱いと聞きますから」


「ありがとう。でも、大丈夫ですよ。私にあなた達のような毛皮はないですが、寒空にさらされたらすぐ凍えてしまうわけではありません」


 彼との関係は相変わらずだ。だが、あの日以来、ロヴィオンが時折ぎこちなさを見せるようになったことには、ソフィアも気付いている。

 手が触れそうになれば慌てて引っ込め、距離を詰めればそれとなく距離を離す。明らかに、物理的な距離を置こうとしている。もちろん、護衛としてすぐ動ける距離を保ってはいるのだが、とにかく接触することを徹底して避けるようになったのだ。


 恐らくは、咄嗟の動作で傷付けてしまうことを実感したからだろう。だからソフィアも、そんな彼を尊重して、程よい距離を保つことを心がけていた。――だが。


「あら?」


 ふと、彼の左手を見ると、包帯が巻かれていることに気付いた。うっすらと赤い色も滲んでいる。


「ロヴィオン、怪我をしているではないですか」


「これは……先ほど、訓練で少し。ご心配なく、護衛の任に支障はありません」


 この程度は負傷に入らない、と言うロヴィオンだが、ソフィアは咄嗟に手を伸ばした。


「とは言え、痛みはあるでしょう。少し見せてください、私が――」


「――駄目だ!」


 鋭い声で制されて、ソフィアは手を引っ込める。ロヴィオンもほとんど反射的だったのだろう、敬語すら忘れたことに気付いて苦い顔をした。


「……申し訳ございません。ですが……おれに、近付きすぎては駄目です」


「……怪我の手当てをすることも、駄目なのですか?」


「それは……」


 重い空気が漂う。ソフィアも、ここまでの拒絶をされてしまえば、流すわけにはいかなかった。


「ロヴィオンは……私の護衛であることが、辛いですか?」


 ソフィアに問われ、ロヴィオンは目を見開いた。


「私は、あなたと仲良くしていきたいと思っています。ですが……私と共にいることが辛いのならば、無理もしてほしくありません」


「そ……そうでは、ないのです! おれは……! おれは、ただ……」


 何かを否定しようとして、しかし言葉が出てこない。その反応を見て、ソフィアはここで、彼のことをはっきりさせておくことを決心した。


「あなたは人間が嫌い……いえ、()()()()()のではないですか?」


「っ……!」


 本当は、自発的に話してくれるのを待ちたかった。踏み込むことで、関係が壊れてしまうことも怖い。だが、思いを告げるのが遅れてしまえば、それで壊れる可能性もあることを彼女は知っている。



 少しだけ、互いに沈黙した。そして。


「その、通りです。おれは……人間を、恐れています」


 ごまかせないと悟ったのだろう。観念したように、ロヴィオンはそれを認めた。


「……それならば、あなたはどうして、私の護衛となることを自ら申し出たのですか?」


「それは……ご存じ、だったのですね」


「聞いたのです。そもそもバルザーク様がロヴィオンを護衛に推薦したのは、あなたの立候補が先にあった、と」


 彼が抱える人間への感情に暗いものがあると感付いて、疑問に思った。バルザークは、息子のそんな心を知らなかったのだろうかと。だから、事情を知る者に話を聞いていたのだ。

 ロヴィオンが優秀な戦士であることは疑うべくもない。しかし、人間に反意を持つ可能性が高い者を、護衛として推薦するわけにはいかないはずだ。


 当然、バルザーク自身が反意を持っていれば、話は別だろうが。


「父にも、最初は驚かれました。おれが、自ら人間と関わろうとしたことには……」


「理由を、聞いてもいいですか?」


「……陛下は、人間との融和を進めておられます。今はまだ、前途多難であっても……あなた方は、いずれ本格的な共存を成し遂げていくでしょう」


 ゆっくりと、身を縮めたまま、黒狼は語り始める。

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