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獣国の花嫁 〜月の獣王は太陽の姫をその腕に抱く〜  作者: あかつき翔
終章 いつか、すべてが交わる日まで
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故郷と、

 そして、その数日後。

 グレイヴァルトはルナグレア西方、ユージアの拠点であるデオフォートの街を訪れていた。


「よくぞいらっしゃいました、陛下。御身に足を運ばせてしまい、申し訳ございませぬ」


「良い。私も、久方ぶりにこの地の様子を見るつもりだったからな」


 そしてここは、元々ユージアが治めていた集落を中心とした街。つまり、義母に拾われたグレイヴァルトが幼い日々を過ごした場所でもあった。

 このユージアの屋敷は、大族長となってから改築されたものだが、本人の好みを反映して、伝統的な部族の建築をベースにしたものだ。


「おおよそ一年ぶり、でございますか。ほっほ、懐かしかったのではありませぬか?」


「そうだな。私にとって、ここは第二の故郷でもあるからな」


 王に礼儀を尽くしてはいるが、ユージアはグレイヴァルトの性格をよく知っている。だからこそ、必要以上に物怖じをすることはない。他の大族長も似たようなものであるが、王の昔を誰よりも知っているのは、間違いなくユージアだ。


「急速に発展こそしているが……特にこの屋敷の近くは、あまり変わらんな」


「儂は古い月獣ですからな。この方が落ち着くのですよ。望ましくありませんかな?」


「いいや。伝統を重んじることも大事だ。それに、変わっていないからこそ……私もここに来るまでに、幼き日々へと思いを馳せることができた」


「そうですな。陛下が初めて、マゴット殿に連れてこられたあの日のことも、よく覚えております」


 間もなく、それから19年が経つ。グレイヴァルトが本格的に指導者となってからは、あまりこの場所に戻ってくる機会も無くなったが、今でも彼にとってこの地には特別な思い入れがある。


 ルナグレアの領地の中でも、ここは特に穏やかな生活が行われている場所のひとつだろう。それも、ユージアの平和主義が民に根付いていることの表れだ。

 彼はどの大族長よりも、平和の尊さを知っている。長く生きているということは、多くの戦いを見てきたということでもあるからだ。


「あの時の陛下は、まだ7歳でしたな。最初は大人しく、マゴット殿の背中に隠れておられましたが」


「故郷が滅びたばかりで、心を閉ざしていたからな」


「そうでしたな……失礼致しました」


「構わない。そんな私に、貴公や母は根気強く接してくれたものだ」


 母はもちろん、ユージアもまた、傷付いたグレイヴァルトのために力を尽くしてくれた。本当の祖父のように、穏やかで優しく。立ち直ってからは、時に厳しく。王が苦しい境遇の中でも曲がらずに成長したのは、ユージアの存在も大きいだろう。


「マゴット殿も、こうして己の行いが受け継がれ、形となったことを喜んでおられるでしょう」


「……そうだと良いがな。まだ、母の目指した世界は程遠いだろう」


「ほほ……これを言うと天から怒られてしまいそうですが、あの方は本当に陛下を大事に、誇りに思っておられた。それは儂が保証しますぞ」


「…………。そうか」


 豪快で、女傑という言葉が相応しい人物だった。

 マゴットという名前すら、とある月獣から「人間などウジのようなもの」と罵倒された際に「ウジ虫、上等じゃないかい。じゃあ、あたしは腐ったもんを食い付くしてやるよ」と痛烈に返し、それから名乗り始めたのだという。本当の名前を知るのは、グレイヴァルトとゼルニス、ユージア程度だろう。



 そのまま、大族長の間へと足を運ぶ。普段はユージアへの謁見などに用いられる部屋で、王城の広間に劣らないほどのスペースがある。大族長の威厳を示すと共に、ユージアにとっては護身のための備えだ。彼の理術を妨げるものがないこの空間では、どのような刺客でも彼の元に辿り着くのは至難の業だ。


「………………」


「陛下?」


「ユージア、ひとつ問わせてもらおう」


「ふむ。いかがなされた?」


 そんな彼を真っ直ぐに見据えて、グレイヴァルトは告げた。






「以前、騎士たちの襲撃を手引きしたのは、貴公だな」

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