表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣国の花嫁 〜月の獣王は太陽の姫をその腕に抱く〜  作者: あかつき翔
3章 燻る火種、見据える未来
35/62

未来への覚悟

「仰ることは、理解しました。ですが、事実として今のあなたは、力で成り立つ王です。それは当然、承知の上ですね?」


「……ああ」


「信頼する誰かの前だけ緩めたとしても……民はいずれ、あなたの変化に気付くでしょう。己を偽ることは困難で、だからこそあなたは今まで徹底していたのですから」


 ソフィアとの婚姻で、グレイヴァルトへの印象が変わりつつあるのも同じ話だ。本人が意識していないような些細な変化であろうと、それはほぼ確実に露呈していく。


「ましてや今は、ソフィア様のことで、国は大きく変化しようとしています。多くの国民が、その中でどうすべきか考えている。そんな中で、あなたの在り方まで変化すれば……その綻びを狙われかねない」


 それは、グレイヴァルトも理解している。

 元より彼も、全ての国民が自分に心酔しているなどと思っているわけではない。王の力が故に、従わざるを得なかった者もいる。

 だから、ソフィアや人間に反感を持つ者だけではない。この隙を利用して、グレイヴァルトを狙う月獣も動こうとするはずだ。


 しかし、小さく笑ったグレイヴァルトは、真っ直ぐにゼルニスを見た。


()()()()()……変わるなら、今なんだ。押さえ付けた反動は、その時間が長ければ長いほどに、強くなるものだろう?」


 力で全てを従わせることはできるだろう。彼にはそれだけの力がある。だが、それは問題の先送りでもあるのだ。

 だから王は、燃えないように火種を踏み続けるのではなく、炎に焼かれてでも火種を取り除く覚悟をした。


「下手をすると、争いが起きるとしてもですか?」 


「だから、お前に力を貸してほしいんだ、ゼル。誰も犠牲にせず、全てを最善の状態で終わらせられるように」


 それが甘いことを、誰よりもグレイヴァルトが知っている。

 過酷な現実に翻弄され、望まないまま戦ってきた。どんな綺麗な理想を掲げても、それを叶えるために汚れる結果となってきた。

 とっくに、無数の傷が王には刻まれていた。いつまでも消えない、国と共に背負うと決めた痛み。それでも、それは未来に傷を増やしていい理由にはならない。


「俺がこの国を生み出したのは、もう取りこぼしたくないからだ。何かを捨てる選択など、するつもりはない」


「ここに来て、理想論で押してきますか」


「今さらだな。理想を持たずに国など興せるか。そもそも、お前もその理想に乗ったひとりじゃないか?」


「……まったく、痛いところを突きますね」


 王が治めねばならないものは、どこまでも現実だ。だからこそ、己にできる全てで、より良いものを目指す。

 それが良い結果をもたらすとは限らない。それでも、理想を追う思いは、未来を良くする原動力だ。それを捨ててしまった時、国は止まるのだと、彼は思うのだ。


「俺ひとりの手では、足りないことなど分かっている。だが……最も信頼するお前の力を借りられるのならば、これほど心強いことはない」


 革命の時も、王となってからも、ゼルニスはグレイヴァルトを支えてくれた。彼の能力は、誰よりも知っている自信がある。どのような理想であっても、彼が共にあるのならば叶えられると思える。


「だが、それは俺の後ろに控えてくれという意味ではない。お前には、俺の隣で、対等な位置で……俺の親友として、一緒に進んでほしいんだ!」


 かつて、母の意志を継いで革命の指導者となった時から、グレイヴァルトがここまでやってこれたのは、親友がいたからだ。ならばこそ、彼がいれば、ここから先だって望みを掴める。そう信じられた。



 少しだけ、沈黙が続いた。それを破ったのは、小さな苦笑だった。


「ああ……まったく。なんだよ、ほんとにさ」


 呆れたように、それでいてどこか肩の荷が降りたように。力を抜いた山猫の振る舞いは、今度こそ彼本来のものに戻っていた。


「僕だって、それなりに決心して来たはずなんだけど。まさか君の方から終わらせてくるだなんて、さすがにちょっと想定外だったな」


「……ゼル」


「それにしても、僕が愛想を尽かしたなら、は後ろ向きすぎないかい? 思わず本音が出ちゃったじゃないか」


「それは、悪かったが。いや、元はと言えば、お前があんな態度を取るからだな……」


「はは。まあ、いずれにせよ……ここまで色々と突き付けられちゃったら、僕の負けだよ、グレン」


 もしも彼が、責務に耐えかねて逃げようとしていたならば、答えは違った。だが、グレイヴァルトは様々なものを見つめ直し、未来を考えていた。――耐えかねて目を逸らしていたのは、むしろ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ