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獣国の花嫁 〜月の獣王は太陽の姫をその腕に抱く〜  作者: あかつき翔
3章 燻る火種、見据える未来
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王の理

 離宮に移ってから三日後の夜。グレイヴァルトは、離宮へと報告に訪れたゼルニスを自室に招いていた。


「王都の様子はどうだ? 混乱は生じていないか」


「はい。先ほどエルマとも連絡を取りましたが、問題と呼べることは発生していません」


 それを聞き、王は安堵する。表には出さなかったが、ゼルニスはそんな内心も悟ってはいるのだろう。


「ご安心ください、陛下。この国も、次第に自立しつつあります。あなたに寄りかかるのではない強い国が、形になってきたのです」


「うむ……そうだな」


 それでも、ずっと見守っていたものから一時でも目を離すのは、やはり不安もある。そんな過保護な思考を変えねばならないのだろうな、という自覚もあったが。


「これも陛下の功績でありましょう。この数年でここまでの地盤を築けたのは、あなただからです」


「……いいや。己の功績を卑下するつもりはないが、私ひとりの力ではない。ひとえに、大族長やエルマ達、ソフィア……そしてお前の働きがあってこそだ。感謝しているぞ、ゼルニス」


 グレイヴァルトあってのルナグレアであるのは確かだ。それでも、彼ひとりではどうにもならなかった。だからこそ、王は素直に感謝を伝える。

 だが、そんな言葉に、ゼルニスはほんの少しだけ視線を落とした。


「陛下。僕は、一介の従者にすぎません。あなたから直接の感謝など、身に余るお言葉ですよ」


「何を言うか。お前が誰よりも私の側で尽力していたことは、私が知っている。お前を欠けば、多くの事柄が立ち行かなかったであろう」


「……それは、買い被りです。誰もがこの国のために力を尽くしている。僕がおらずとも、あなたは成し遂げていたでしょう」


「………………」


「では、失礼致します。陛下は、どうかしばし身体を休め、ソフィア様との親睦を深めることをお考えください」


 そう言い残し、立ち去ろうとした山猫の月獣。だが。


「待つがいい、ゼルニス」


 山猫は王の命令に、足を止めた。


「何故、私と距離を置こうとする?」


「……そのようなことは。僕は、いつも通りです」


「私から見ればそうではない。お前は、自分で思っているほどに、芝居は上手くない。そのような固い表情で、何がいつも通りだ」


 いつかの日とは、完全に立場が逆だ。立ち上がったグレイヴァルトは、山猫に一歩近付く。

 明らかに、ゼルニスはグレイヴァルトを避けようとしていた。それに気付かないほどに彼は鈍感ではない。


「お前も疲れているのではないか? 私が戻った後に、今度はお前が休暇を取るといい。それとも……もしも私が何か不快な思いをさせたのならば、謝罪しよう」


「――なりません、陛下」


 だが、その言葉には、ゼルニスは即座に指摘を返した。


「あなたは、この国の王なのです。配下である我々に謝罪をするなど、あってはならないのです」


 彼は絶対的な君主だ。彼のすることは、常に正しいと見なされなければならない。それが、この国を成り立たせる理。


「あなたがすべきは、むしろ、そのような無礼な態度を取ってしまった僕を罰することでしょう。申し訳ございません、陛下。この処罰は、如何様にも」


 突き放すための言葉。ゼルニスははっきりと、二人の関係をこの場で突き付けることに決めたのだろう。言外に、そうしないグレイヴァルトを咎めている。


 しばし、沈黙があった。それを破ったのは、王の側だ。


「それすらも、か?」


「………………?」


「感謝のひとつ……謝罪のひとつも、私には許されない、と言うのか?」


 そんな王の言葉には、色が無かった。

 あまりにも淡々とした声音に、ゼルニスも僅かに怯む。だが、真っ直ぐにグレイヴァルトの目を見て、山猫は返答した。


「その通りです。感謝も、謝罪も……あなたが僕に向けるには、ふさわしくないものです」


「………………」


「ソフィア様は例外でしょう。ですが、僕は違います。僕は、あなたの臣下なのです。我々はもう、対等な関係ではないのですから」


 今度こそはっきりと、それを言い放つ。

 ゼルニスの言うことは、正しい。それが正しいと決めたのは、グレイヴァルト自身だ。そうしなければならないと、かつての彼らが選んだ理。


 だが。


「我々、月獣に必要なのは……絶対の王者。何があろうと綻ぶことのない支配者。そうしなければ、全てをまとめることはできない。かつて、私が言ったことだったな」


「その通りです。だから、僕は……」


「ならば、ひとつ問わせてもらおう。……今でも、そうなのか?」


 思わぬ問いに、ゼルニスが目を見開いた。


「最近……考えるようになったのだ。私が望む王の姿は、本当にこうなのか。私が理想とする国に、このままで辿り着くことはできるのか、と」


「……何を。どうしたというのです、陛下。あなたの今までが、間違っていたとでも言うおつもりですか」


「そうではない。……この国が生まれた時、月獣には道標がなく、多くの者が迷っていた。だからこそ私は、誰にとっても絶対的な君主として振る舞うことを決めた。私の先にあるものを、唯一の道だと定めた。それが間違っていたとは思わない」


「ならば……」


「だが、あれから数年だ。お前が先ほど言った通り、この国は自立しつつある。……多くのものが、変わりつつある」


 困惑するゼルニスに、グレイヴァルトは言葉を続ける。今まで溜め込んでいたものを、投げ掛ける。

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