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獣国の花嫁 〜月の獣王は太陽の姫をその腕に抱く〜  作者: あかつき翔
3章 燻る火種、見据える未来
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大族長

 会議室のテーブルにつくと、グレイヴァルトは箱のような装置を操作していく。中に投影の理術が刻まれたものだ。これが、最新型の通信装置である。

 外国で発展している機械技術とルナグレアの理術を融合させたもので、グレイヴァルト自らが考案したのだと言う。彼は外の知識を積極的に取り入れ、様々な応用を考え出している。

 王となるためにも何でも学んできたんだ、などと本人は語っているが、その幅広い知識と発想には、ソフィアすら未だに驚かされる。ルナグレアが短い期間で国家として安定したのは、彼の頭脳も大きな要因であろう。



 互いの投影が接続されると、大族長たちは映像の向こうで頭を垂れた。

 バルザーク以外の大族長とは、ソフィアも婚姻の儀で顔を合わせているので、全員知った顔だ。


『直接の参上をせずに申し訳ございませぬ、陛下』


「良い。こういった技術は、我らが積極的に取り入れてこその発展だ。他の者も同様である」


 まず発言したのは、〈鱗殻〉の大族長、ユージア。

 今年で70歳という高齢――彼の種族の平均寿命は100年を超えるが――の、銀鱗を持つ鰐の月獣。穏やかで、グレイヴァルトによると昔から好好爺であったらしく、幼い彼にはまさしく祖父のように接していたようだ。

 それでいて、月獣の中では最高峰の理術師でもあり、〈深山の賢者〉の異名でも呼ばれている。


 王の言葉に、全員が頭を上げる。大族長と言えども、彼の存在が絶対なのは変わらない。

 それでも、過度に怖じ気付くこともない。彼らもまた、強者揃いだ。


『息災のご様子で何よりでございますわ、陛下。本日はソフィア様も同席されているのですね?』


「彼女は政治にも深く関わっているからな。それに、今回の内容については共有すべきと判断した」


 続いて、〈羽翼〉のアンゼリカ。

 大族長の紅一点であり、最年少でもある大鷲の一族。白く美しい羽毛と女性らしい肉体を持つが、彼女も戦士、稀代の射手である。その弓が遥か彼方から的確に標的を狙撃する様から〈天の瞳〉の二つ名を持つ。

 ソフィアの印象としては落ち着いた大人の女性――なのだが、グレイヴァルト曰く「あれは相当に作っているから、素を見た時に驚くなよ」とのことだ。


『しかし、投影とは言え、こうして全員が集うのも久しぶりのことですね』


「ああ。ようやく、北の情勢が落ち着いたからな。その辺りはバルザークに後ほど報告してもらおう」


 最後に、〈海流〉のディオス。

 青い鱗を持つ長身の鮫。他の大族長とは異なり、彼は戦士ではなく、政治的な手腕で登り詰めた人物だ。大柄で強面な外見は一見すれば威圧感もあるが、上等な衣服は身なりに気を遣い文化的であることを示している。

 海流に属する部族は、月獣には珍しく、戦いには消極的な者が多い。それゆえ、上に立つのには武力より知力が優先されたのだと言う。

 年齢は間もなく40だが、プライベートな姿は飄々とした伊達男でもあるそうだ。


「早速だが、本題に入るぞ。議題については事前に共有していたが、各自、問題はないか?」


『ええ。各部族における、人間に対する感情の調査、でございましたな』


 部族の垣根はないが、大族長の領地には、それぞれの部族に属する者が中心に集っている。だからこそ、生の声を拾うために、それぞれ領地の世論を調べてもらった。


「しかし……よろしいのですか? ソフィア様がこれを聞くのは……」


 ちらりと、バルザークはソフィアを見た。その様子から、あまり良い報告ではなさそうだ。


「私は構いません。むしろ、忌憚なき現実を報告いただけると助かります」


「……承知致しました。では……」


 そして、大族長からの報告が、順番に行われていく。


 〈鱗鎧〉では、比較的友好的な意見が多かった。これは、かつてエルマが語った、王の母親の影響が大きいのだろう。

 〈海流〉は、どちらとも言えないものが多数。戦士よりも商人寄りの者が多いために、そもそも種族にこだわりがないというのが理由のようだ。

 〈羽翼〉では、賛否が半々。ソフィアとしては、あの時に襲ってきた男を思い出すところだ。


 そして、残る〈爪角〉では――否定的な意見の方が大きく目立った、とのことだ。


「爪角は他と比べて、戦いを生業としてきた者が多い。私が建国するより前は、人間がこちらに入り込み、戦う機会も多かったのだ」


「人間と戦った経験を皆さんが持っている、ということですか」


「……そうなりますな。同時に、今なお北の国境を守るのは我々が中心です。直接の戦は久しく発生しておりませぬが」


 バルザークの表情に、苦いものが混ざったように見えた。彼自身も、戦士として人間と戦う機会も多かったはずだ。もしかすると、彼も良い思いは抱いていないのかもしれない。

 北の国々とは、不可侵条約こそ締結できたそうだが、交流の目処は立っておらず、緊張が完全に解けたわけではない。小競り合いの中心に立たされている爪角からすると、人間への印象はむしろ悪化していても無理はない。


 だが、それを聞いたからと、今さらソフィアが落ち込むことはない。


「元より、そう簡単に行かないことは分かっていました。全体としては好転しているとも言えます。ならば、ここは喜んでおきましょう」


「……前向きなのですな、ソフィア様は」


「前を向くと決めましたから。今が悪ければ、先に進む余地がそれだけあるのです。私は、諦めの悪さには自信を持っていますよ?」


 大族長たちの中にあって、ソフィアの物言いに淀みはない。通信の向こうから、ユージアの穏やかな笑い声が聞こえた。


『ソフィア様は、指導者として必要なものを持っておられる。陛下は、誠に良き縁を得られましたな』


「ありがとうございます、ユージア様。ですが、私はまだ未熟者です。だからこそ、皆様にもお力添えをお願いしたいのです」


「先の調査は、単に世論を調べたかっただけではない。私は、この国にも、我ら夫婦を狙う者がいると考えている」


 婚姻前日の襲撃には、月獣の協力もあったはずだという推測を語る。大族長たちも同意件、あるいは納得したのか、それはすんなり受け入れられた。だが。


『それでは、地位を持つ者を入念に調査すべきでしょうね。()()()()()()()()()


 ディオスが放った言葉に、にわかに緊張が走る。真っ先に反応を見せたのは、バルザークだ。

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