ふたりの国王
その後、少しばかりの協議が二国の王で行われたが、式は予定通りに開催することが決まった。危険を考慮するからこそ、婚姻は堂々と行った方が今後のためという判断だ。
明日のことをひととおり決めてから、改めて先ほどの件について言葉を交わすことにした。
「此度は記念すべき儀式に、余計な傷を残してしまった。改めて、詫びさせてくれ」
「案ずることはない。こういった事態が起こることは予想していた」
事態を軽視すべきではないが、ソルファリアという国そのものに責を求めるのもまた違う。むしろ協力して解決しなければならないだろう。
「それよりも、彼らについての情報を聞かせてほしい」
「承知した。集団をまとめていた男は、カルロという騎士だ。彼が月獣に対して良い感情を持っていないことは分かっていた。ゆえに、今回の護衛部隊からは外していたのだが……」
「それが、いつの間にかこの国に紛れ込んでいた、と?」
「ああ。あの場にいた集団は、そのような騎士たちだ。護衛の兵に紛れさせることで、入国審査を偽装したらしくてな」
今回、月獣の領地での挙式について、人間の側でも警戒する意見が多く挙がった。そのため、来賓にはかなりの人数が護衛として同行している。
人数が増えれば増えるほど、管理が難しくなるのは自明だ。それにしても、この王や騎士団長が気付かなかったのならば、入念に仕込みがされていたのだろう。
「ならば、何者かが手引きしたと考えるべきであるか」
「私も同意見だ、グレイヴァルト王。それも、この規模の隠蔽ができる程度の力を持つ者ということになる」
反月獣派か、あるいは、王家の失脚を狙うものか。いずれにせよ、簡単に済む相手ではなさそうだ。
「いずれにせよ、我らにも防げなかった責任はある。この件について互いの責を問うのは、不毛だとは思わないか」
「それで良いのか? 負傷する危険は、貴殿の方が大きかったはずだ。元より連中は貴殿を狙っていたのだから」
「危険の話をするならば……我らとて、先月の事件を不問とされたばかりだ。こちらのみが責を問うのは、不誠実だろう」
街中でソフィアが襲われたことについて、ルキウスへの報告はグレイヴァルト自ら行った。縁談の破棄を持ち出されることも覚悟していたのだが、彼は責任を追及することはせず、むしろ誠実な報告であったと評価してきた。
「寛大な処置に感謝を、グレイヴァルト王。この件については、総力を上げての調査を行わせてもらう」
「承知した。我々も協力は惜しまないと約束しよう。……今日はそれよりも、式典の後についての話をしておきたい」
襲撃については、後は情報が集まってからだ。
本来すべき話に戻すため、グレイヴァルトが切り出すと、ルキウスも静かに頷いた。
「娘が貴殿に嫁ぎ、両国が名実共に友好国となる。ここに至るまで、長かったな」
「うむ……さすがに、このような形となるのは想定外だったが」
「このぐらいの大きな節目は必須だったさ。これを期に、国交も活性化させていきたいところだな」
「私もそれには力を注ぐつもりだ。まずは厳密な審査が必要だろうが……我が国民にも、他国を学ばせていきたい」
「ああ。我々としても、月獣の文化は興味深い。良い関係を築いていくとしよう」
焦ってはいけないが、得られたきっかけは活かしていくべきだろう。人間の国と正常に交流がなされていけば、ソルファリア以外との国交もそのうち広げられるはずだ。――そんなことを、獣王が考えていた時。
「と、ここまでが、王としての視点だが……」
唐突に、ルキウス王はそう口にした。
「グレイヴァルト王。明日から、君は晴れて私の息子になるわけだ」
「…………なに?」
それは明らかに、先ほどまでの口調とは異なっていた。言ってしまえば、どこかからかってきているような、茶目っ気のある声音。
「娘からの手紙には、君の愉快な……おっと失敬、意外な一面についても記されていてな」
「な……?」
何を書いたんだソフィアは、と心の中で動揺しつつ。突然の態度の変化に、さすがのグレイヴァルトもやや面食らっていた。
――この王がそういう人物であることは知っている。彼の国民からの評価は、とても気さくで親しみやすい王、というものだ。実際に獣王も、彼のそういう姿を見たこと自体はある。
だが、他国の王という関係がゆえに、その態度が自身に向けられたことは、今までなかった。そして、今後もないと思っていた、のだが。
「ふふ、要するに……君とは親しい関係を築きたいという話さ。王という立場への愚痴を言い合える相手など、そう見付かるものではないしな」
「……王としての責務は、己で背負うべきものだろう。私は、愚痴など言うつもりはない」
「言葉のあやだ、真に受けずともいい。――王は確かに責務を背負う者だ。だが、背負い続けて潰れてしまうのも問題だ。気を抜ける相手は、ある程度いた方が良いぞ?」
「…………!」
「おっと、少しお節介だったか。まあ、これでも長く国王をやってきているのでな。年寄りのちょっとした小言ぐらいに思ってくれ」
軽い口調に反して、それが心からの忠告であることは、グレイヴァルトにも理解できた。恐らく、ソフィアが何かしら相談したのだろう。
ルキウスに対しては、王としての信頼も、尊敬もある。当然、彼の統治の全てがルナグレアでもそのまま活かせるわけではないだろう。それでも、その言葉は何故かとても重く聞こえた。




