第9章 怠け者と過剰な親切心
「うわぁ〜、やっと一息つけた……」
あれから数日が経ち、僕は平穏無事な日々を楽しんでいた。村の人々は相変わらず僕を『勇者候補』として崇めてくれているが、実際のところ、僕は寝転がっているだけで、何もしていない。
しかし、幸いなことに、周囲の人々が過剰に僕の世話を焼いてくれているおかげで、毎日快適に過ごせていた。
「怠田様、これをどうぞ!」
村の女性が持ってきたのは、手作りのスープ。思わず顔がにっこりしてしまう。こんなものを作ってくれるなんて、ありがたい。
「ありがとう! でも、どうしてこんなに持ってきてくれるの?」
「ああ、怠田様には毎日お世話になっているので、ちょっとしたお礼です!」
なんか、おかしい。僕は何もしてないのに、どうしてこんなに親切にされているのか?
さらに村人たちが次々にやって来て、僕の周りはまるでお祭りのようになった。
「怠田様、これもお試しください!」
「いや、ちょっと待ってくれ……」
持ってきたのは、今度は大量のパンと果物。次々に手を伸ばされ、僕はあっという間に「世話される怠田様」として一大イベントの主役になってしまった。
「いや、さすがにこれじゃ食べきれないよ!」
しかし、村人たちはそんな僕を見て、満面の笑みを浮かべながら言った。
「怠田様が食べてくださるなら、私たちも嬉しいです!」
その時、何かおかしな気配を感じた。どこからともなく、あのリヴァルスの顔が浮かんだ。『怠け者が食べ過ぎるとどうなるか』を考えると、ちょっと怖くなってきた。
「おい、リヴァルスのように、あんまり食べ過ぎない方がいいんじゃないか?」
その瞬間、何かが崩れ落ちる音がした。どうやら、村人たちが次々に食べ物を持ってきて、僕の周りが食べ物で埋め尽くされているようだ。
「まさか……これって、『食べ過ぎ』の呪いでもかけられているのか?」
その後、なんとか食べ物の山から抜け出した僕は、ゆっくりと深呼吸した。
「うーん、でもまあ、これだけ親切にされるのも悪くないかな」
そんな風に思っていると、また別の村人がやってきた。
「怠田様、お疲れ様です! お手伝いさせていただきます!」
「いや、もう何も手伝ってくれなくていいから! これ以上は本当に無理だってば!」
と、言いながらも、村人たちの優しさには胸が熱くなる。でも、さすがに毎回過剰な親切を受けるのも、なんだか申し訳なく思えてきた。
その時、アリシアがやってきた。
「怠田様、こちらへ! 今日も何もせずに過ごす準備を整えましたよ!」
「準備って……」
アリシアは自信満々に言うと、次々と僕の周りにクッションや毛布を並べ始めた。
「これで、今日も怠田様はゆっくりとお休みできますよ!」
その姿に、周りの村人たちも拍手を送ってくる。まるで何かのショーのようだった。
「いや、もう、なんでこうなってるんだろうな……」
その後も、僕はただ寝転がりながら、村人たちの過剰な親切に囲まれる日々を送ることになったのだった。