第8章 幹部の策略、怠け者の覚醒
リヴァルスが去った後、僕は相変わらず寝転がっていた。アリシアは僕の顔を心配そうに覗き込みながら、周りの騎士たちに指示を出している。
「怠田様、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ。リヴァルスが去っていったし、これでしばらくは平和だろう」
それにしても、あのリヴァルスという男、あれほどまでに強力な幹部が相手だというのに、結局僕は何もせずに切り抜けてしまったのが不思議だった。リヴァルスのような人物でも、僕の「怠惰スキル」には勝てなかった。それだけ強力だということなんだろうか。
「怠田様、ですがあのリヴァルスが去った今、次に来る者は……」
アリシアの言葉が途切れた。僕も気づいた。リヴァルスが去ったからといって、魔王軍の脅威が完全に去ったわけではない。むしろ、これからが本番なのかもしれない。
そのとき、遠くから新たな足音が近づいてきた。今度はただの兵士の足音ではない。リヴァルスと同じく、強大な力を持つ者が近づいてきている。
「またか……」
僕はうんざりしたように目を開ける。すると、現れたのはまた別の魔王軍の幹部だった。身にまとっているのは薄い金色の鎧、目を細めたその顔は、どこか冷徹な雰囲気を漂わせている。
「貴様が、あの怠け者か」
彼は僕に向かって一歩を踏み出し、冷徹な視線を僕に向けてきた。リヴァルスの後に現れたこの男、名はエリゼス。魔王軍の幹部の中でも、特に知略に長けた策略家として恐れられていた。
「またか……」
僕はその場に寝転がりながら、エリゼスに話しかけた。
「お前がどうしたいのかは知らないけど、俺は動かないよ。リヴァルスもあっさり帰って行ったし、君もすぐ帰るんじゃないか?」
エリゼスは一瞬、僕の言葉に驚いたようだったが、すぐに冷笑を浮かべた。
「ふん、何も知らないようだな。お前が『怠ける』というそのスキル、我々の知略で簡単に打破できる」
その言葉に僕は少し不安を覚えた。確かに、知略に長けた者が相手なら、単純に動かないだけでは乗り越えられないかもしれない。しかし、どうしても僕は、働きたくない一心で寝転がり続ける。
「お前のスキルに対する警戒心が足りないな」
エリゼスはそう言うと、周囲に手をかざし、空間を操作し始めた。その動きには魔力の渦が絡みつき、僕の周りを囲むように強力なバリアが張られた。これまでのように、ただ動かずにいるだけでは、もう通用しないと彼は確信しているようだった。
「これでどうだ?」
エリゼスが冷たく言った。僕はそのバリアをじっと見つめ、冷静に答えた。
「なるほど、空間を封じて動けなくしようってわけか」
確かに、このバリアの中では僕の「怠惰スキル」も発動しづらくなるだろう。だが、動かないことで周囲に影響を与えるスキルが、果たしてこのバリア内でも効果を発揮するかどうか、僕には分からなかった。
「試してみるか」
僕はバリア内で、やはり寝転がり続けた。すると、次第に周囲の空気が変わり始め、バリアの内側で異変が起きた。エリゼスはその様子を見逃さなかった。
「どうした? お前のスキルが効かないのか?」
だが、そんな彼に僕は一度深呼吸をしてから、冷静に言った。
「バリアの中だろうが、無駄だよ。『怠惰スキル』はただの物理的な力じゃない。周囲の人間に影響を与える力だから、君がどんなにバリアを張ろうとも、効果は変わらない」
その言葉が終わると、エリゼスは驚愕したように目を見開き、バリア内で不安定になった。次第に、彼の動きが鈍くなり、顔に焦りが浮かんできた。
「こ、こんなはずは……」
その瞬間、エリゼスの足元が崩れ、バリアが一部崩壊した。僕の「怠惰スキル」が、やはり効果を発揮したのだ。
「お前の策略も、どうやら僕には通用しなかったようだな」
僕は、しばらく寝転がったままで静かに言い放った。エリゼスはそれを受け入れるしかなかった。彼は最後に、何かを呟くように言った。
「ならば、次はもっと……」
その言葉を残して、エリゼスは撤退した。僕はその背中を見送りながら、ふと思った。こんな形で倒すことができるなんて、僕の「怠惰スキル」は本当に異常な力だ。