第7章 幹部の登場、そして試練
魔王軍の兵士たちが倒れたことで、戦場は一時的に静まり返った。しかし、その静けさの中に、何か不穏な空気が漂い始めた。
「怠田様、大丈夫ですか?」
アリシアの声が心配そうに響くが、僕はただ寝転がったまま目を閉じていた。
「うん、問題ないよ。ただ、寝転んでるだけだから」
アリシアの視線を感じるが、何もせずに目を閉じていると、遠くの森の中から迫る足音が聞こえてきた。それは、ただならぬ威圧感を伴っていた。間違いなく、魔王軍の幹部が来ている。
「やっと来たか」
僕はその足音に反応し、目を開けた。すると、巨大な影が近づいてきた。目の前に立つのは、漆黒の鎧を身にまとった一人の男だった。その男の名は、リヴァルス。魔王軍の幹部の中でも特に恐れられた存在で、彼の力は伝説的だった。
「貴様が……怠け者か?」
リヴァルスの目が鋭く、冷徹な視線を僕に向けてきた。その瞳の奥には、ただならぬ殺気が漂っている。しかし、僕はその視線に全く動じず、寝転がったまま答えた。
「そうだ、俺は怠け者だよ。働きたくないだけだ」
リヴァルスはその答えに冷笑を浮かべた。
「ふん、怠け者か。だが、そんな甘い言葉では済まされんぞ」
リヴァルスは手に持った巨大な剣を一振りし、その刃が空気を切り裂いた。周囲の気温が急激に下がり、魔力が渦巻き始めた。
「お前が本当にその怠惰な力で、この場を切り抜けられるのか、試してやる」
その言葉を合図に、リヴァルスは一気に僕に迫ってきた。だが、僕はただ寝転がって、何もせずにその動きを見守っていた。
「こいつ、全く動かない……」
リヴァルスの言葉が聞こえた。彼は僕が動かないことに驚き、さらに注意深く周囲を見回した。だが、僕が何もしない限り、この状況は変わらない。
そのとき、リヴァルスが再び剣を振りかざした。その刃は鋭く、僕に迫ってくる。だが、その刃が僕のすぐ横をかすめた瞬間、何かが変わった。
周囲の空気が一変し、リヴァルスが振るった剣が不自然に止まった。まるで何かに引き寄せられるように、彼の動きが鈍くなり、剣が空中で静止した。
「これは……?」
リヴァルスの目に驚愕が浮かぶ。それもそのはず、彼の動きが突然、何もかもに阻まれるような感覚に包まれていたからだ。僕が動かずにいるだけで、その周囲にある力が作用していることに気づいていないわけがなかった。
「怠けている者がこのような力を持つなんて……どういうことだ」
リヴァルスが剣を手に持ったまま、少し後ろに引いた。彼の動きがますます鈍くなる中、僕は軽く目を開け、ゆっくりと彼に話しかけた。
「これが、俺の『怠惰スキル』だよ。何もしないでいるだけで、周囲のものが俺に従いたくなる。お前もその一部に過ぎない」
リヴァルスはその言葉に驚き、しばらく言葉を失った。周囲の魔力がますます強まり、彼を包み込むように動き出す。
「これが……本当に、怠け者の力か」
リヴァルスは呟き、最後に僕を一瞥すると、無言で後ろに下がった。そして、再び言葉を放った。
「お前の力、確かに面白い。だが、我々がこの世界を支配するには、こんな力では足りん。覚えておけ」
リヴァルスは冷徹な視線を僕に向けると、ゆっくりと後退し、やがてその姿が森の奥に消えていった。
「……行ったか」
僕はその後ろ姿が完全に消えたのを確認し、再び目を閉じた。
「ふぅ、疲れた」
アリシアや他の騎士たちが僕の周りに集まり、無事を確認するように見守っていた。戦いが終わったが、僕はやはり何もせずにいた。
「怠田様、すごい……本当に何もせずに乗り切ってしまうなんて」
アリシアの声が嬉しそうに響く。
「まぁ、僕の仕事は動かないことだしね」
僕の怠惰スキルがどれほど強力かを知ったリヴァルスも、これで少しは警戒してくれるだろう。しかし、魔王軍が諦めたわけではない。次の戦いも、きっと予想以上に厳しくなるに違いない。