第5章 寝ている間に救世主が現れる
「いや、ほんとに寝てるだけでいいのか?」
アリシアの困惑した声が耳に届く。だが、俺は一切気にせず、目を閉じてリラックスした姿勢で横たわる。周りの状況なんてお構いなしだ。これが俺の生き方だ。
アリシアはしばらく黙って立ち尽くしていたが、やがて小さなため息をつくと、手を合わせて祈るように空を見上げた。
「神よ……」
その瞳の先には、どこか遠くを見つめるような神妙な表情が浮かんでいた。まさか、こんな状況でも彼女は真剣に祈っているのか。
しばらくそのままでいると、アリシアがついに僕の隣に座り込んできた。そのまましばらく、何も言わずに俺が寝転がっている場所に佇んでいた。
「あんた、ほんとに動かないんだな」
アリシアがぽつりと呟く。僕は目を開けずに返事をした。
「うん、動かない」
そして、しばらくして――
「おい、そこのお前! 何している!」
突然、どこからともなく大きな声が響いた。俺は目を開けてその声の方向を確認する。鎧を着た二人の男が、我々に向かって歩いてくるのが見えた。どうやら、俺たちを見かけてきたらしい。
「おお、アリシア姫か……! 何故ここに?」
男たちはアリシアを見て驚愕し、すぐに立ち止まった。
「まさか、この勇者様と一緒にいるとは!」
「姫の命を狙う魔王軍の追っ手がいるはずだ!」
その言葉に、アリシアは一瞬顔を曇らせたが、すぐに気を取り直して答える。
「ええ、その通りです。ですが、今は少し、休む必要があるのです。これ以上は戦いたくない」
アリシアの発言に、男たちは何かを察したのか、顔を見合わせてから俺を見た。
「それで、どうしたというのだ?」
「どうすれば助かるんだ?」
俺は寝転がったままで答えることにした。
「……助けてくれる奴が来るまで待つしかないよ。俺は動かないし、どうせ誰かが何とかしてくれる」
男たちは驚きと困惑の表情を浮かべながら、俺を見つめていた。もちろん、誰もが思うことだろう。「こんな状況で本当に動かないのか?」と。
そして、次の瞬間――
「こんな怠け者に何ができるのか!?」
突然、村の外から強烈な足音が響き、遠くから数人の騎士たちが駆けつけてきた。彼らの鎧は輝きを放ち、その姿勢からもどこかしっかりとした強さを感じさせる。
「アリシア姫! あなたを守るために参りました!」
その騎士たちの中に、顔見知りの顔があった。あの村で俺を追い払おうとしていた斧を持った屈強な男だ。
「あれ……?」
驚きながらも、俺はその男に視線を向けた。
「お前……あの時の?」
「ふっ、まだ働けと言われても動く気はないようだな」
屈強な男はにやりと笑うと、俺のそばに跪き、周囲の騎士たちに指示を出す。
「こいつは我々が守る!」
その一言で、騎士たちが俺を取り囲むようにして立ち上がった。
「おお、なんだか本当に守ってくれるんだ……」
俺はその状況に驚きつつも、ただ寝転がっているだけだ。
「なんだか俺、すごいことになってないか?」
そんなことを思いながらも、俺はゆっくりと目を閉じ、再び寝転がった。
その後、村には何も起きず、アリシアを守るための準備が整う。俺の「怠惰スキル」のおかげで、村人たちも、騎士たちも、まるで俺を守るために全力を尽くすように動き出した。気づけば、周囲の人々が僕のために一生懸命働いている光景が、まるで一大イベントのように広がっていた。
「楽して生きるのも、案外悪くないかもな……」
俺は再び、心地よい眠りの中へと落ちていった――。