第4章 怠惰な英雄の選択
村での生活が始まってから数日が経った。俺は「伝説の勇者」として祭り上げられ、食事も寝床もすべてが持て余すほど与えられた。全く働かなくても、俺は一応「村を救う希望の光」として、村人たちに崇められている。
「怠田様、今夜も村の祭りを開きますので、ぜひご参加を!」
「怠田様、勇者としてのお言葉を頂戴できませんか?」
「怠田様、お願いです、これを受け取ってください!」
村の広場で俺を囲んで、村人たちがひたすらに頭を下げてくる。正直、こんなに持て囃されても嬉しくないし、むしろ疲れる。だが、そんなことを言ったら「勇者様のご威光を失うわけにはいかぬ!」とまた何かしら面倒ごとが増えるのは目に見えている。
「はあ、今日はおとなしくしておくか……」
俺は祭りの準備が始まった広場の隅で、ひとりぼっちで座り込むことに決めた。今日も、誰かが俺にお膳立てをしてくれるはずだ。なにしろ「怠惰スキル」が発動するのだから。
だが、ふと気づくと、ひとりの少女が俺の前に現れた。金色の髪を束ね、青い瞳が印象的なその少女は、どう見ても貴族のような装いをしている。
「お前が、あの勇者様……?」
「え、ええ。まあ、そんな感じですけど…?」
「なら、私はあなたに頼みたいことがあるのです」
少女は俺を見つめながら、真剣な表情で言った。
「私はアリシア、王国の王女です。魔王軍に追われている身で、助けていただけませんか?」
「……は?」
突然の申し出に、俺は目を丸くした。王女? 魔王軍? なんだかすごい話が急に降ってきたな。
「いや、待てよ。王女を助けるって、俺、何もできないんだけど?」
「いいえ、あなたは勇者として、必ず私を助けられるはずです」
そう言われても、俺には『怠惰スキル』しかない。動かないことで周りの人が勝手に動いてくれるだけだ。無理だろ、こんなスキルで魔王軍に立ち向かえるわけがない。
だが、少女は諦める様子もなく続ける。
「どうか、私に力を貸してください。私は今、命を狙われていて……」
「命を狙われている?」
「はい、魔王軍が、私が持っている『聖なる遺物』を狙っているのです。ですが、私一人ではどうしようもなく……」
その瞬間、俺の脳内に一つの考えが浮かんだ。確かに、俺のスキルでは直接戦うことはできない。しかし、何もせずに待っていれば、誰かが助けてくれるはずだ。
「わかった。じゃあ、助けてくれる奴が現れるまで待つことにするよ」
アリシアは驚いた顔をして、次に何か言おうと口を開く。しかし、俺はその言葉を遮るように、ゆっくりと地面に寝転がった。
「お前がここで待っている間に、誰かが何とかしてくれるからさ。俺は寝るよ」
「えっ……!?」
そうして、俺は《怠惰スキル》を最大限に発揮し、目を閉じた。周囲のざわめきが遠ざかり、まどろみに身を任せる。さて、どうなることやら――。